例会速報 2020/06/14 Zoomによるオンラインミーティング


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授業研究:レンズ・球面鏡の授業 市江さんの発表
 市江さんは、例年、この単元は夏休み前後の5時間程度で終わらせている。コロナ禍の遠隔授業でヤングの実験などを扱っても、なかなか生徒に伝わらないとの懸念から、急遽、レンズ・球面鏡の遠隔授業を行うことにした。生徒の持っている知識で、観察、作図、計算の関係が見通せるので、物理的なものの考え方、とらえ方を体系的に生徒に伝えるには格好の単元といえる。はじめに虫眼鏡やスプーンなど身の回りのもので、像の見え方を(今回は動画で)しっかり観察させる。ここでは、理由は後回しにして、レンズ、鏡が1つのときは倒立像なら実像、正立像なら虚像とだけ伝え観察に入る。

 特に凸レンズでは、ちょっとした工夫で、実像と虚像を同時に見ることができる(赤枠の部分)。実像である景色の倒立像だけがスクリーンに映り、虚像である指の正立像は映らないことが簡単に確認できる。これには生徒も非常に興味を持ってくれる。レンズで光の進み方がどのように変わっているのか投げかけ、その後の作図につなげる。最後にこれらの観察で、凸レンズと凹面鏡、凹レンズと凸面鏡がそれぞれよく似ていることを確認しておく。

作図の際に必要となる下のような光の道すじのルールを実際に実験で光束線をつくり確認することはしなかった。こうした光束線は,普段生徒は目にすることはなく,ここに時間をかけるよりも,先述の像の観察に時間をかけるべきではないだろうか。むしろ,レーザー光線などで光線が目の前を横切っても,目には見えず,塵や煙などで散乱され目に光がとどいてはじめて見えることを印象付けたい。光束線の確認実験を行う代わりに直射日光を凸レンズに透して,ライトコーンを直接観察させた方が効果的である。作図の際は,実際に光が通る部分には実線,通らない部分には点線を用いてしっかりと区別させると,実像,虚像の区別や写像公式の符号の理解も容易になる。

 球面鏡には近似が入っているため、物体を大きくし過ぎて、物体の位置が光軸から離れすぎると。3つの光線が1点で交わらなくなる。生徒に作図の課題を出すときは、物体の位置や大きさをあらかじめ決めておく配慮が必要である。 レンズや球面鏡を扱っているにもかかわらず、ある教科書の同じ紙面に、右図のような図が掲載されていた。赤矢印は市江が加えたもの。鏡像が鏡面に関して線対称であることは平面鏡のときだけにあてはまる結果であって。これを確認することにどれほどの意味があるだろうか?せめて高校生には(できれば中学生にも)赤矢印のような光が目にとどくことで、鏡像(虚像)の位置が決まることを伝えたい。問題解法テクニックよりも普遍性を追求する力を育みたい。

飛行石を使った凹面鏡の実像の実験 市江さんの発表
 凸レンズの実像は容易にスクリーンに映すことができる。市江さんは、同じ実像なら凹面鏡でもスクリーンに映せるはずだと挑戦してみた。凸レンズの場合とちがい、球面鏡の中に物体を配置し、スクリーンを外からかぶせると、当然物体が受ける光も弱まり、実像もほとんど映らない。中に光源を別に用意するのもよいが、一手間かかるので、自ら発光する手頃な物体を探したところ、天空の城ラピュタの「飛行石」が大きさ光量ともにばっちりであることがわかった。

偏光板3枚で体験する「量子コンピュータの『量子ビット』」 夏目さんの発表
 夏目さんは、量子コンピュータの「量子ビット」の概念を、偏光板の実験でやさしく、わかりやすく解説してくれた。2018年8月例会で舩田さんが見せてくれた「半分、暗い」の実験には、量子力学的な意味が秘められていたのだ。以下、夏目さんによる解説を掲載する。
 最近、「量子コンピュータ」が話題になっている。イベントなどでのトークを頼まれることも増えてきた。このテーマの導入にはまず「量子的基本単位」である「量子ピット」を実感できる実験が適している。その例として、簡単な偏光板実験をあげる。偏光板を3枚セットで用意する。なお、液晶画面は既に偏光しているので、それを使えば2セットですむ。 光は電磁波という電場の波であり、電場は波の進行方向(z)に垂直である。そのため、左から右へ(横方向zへ)進む波は水平方向(奥行き手前方向x上の)振動状態と、鉛直方向(上下方向y上の)振動状態の二つを持つ。これを偏光という。
 そのため、1枚目の図の上図のように、水平方向xの偏光を持った光を通す偏光板(フィルター)を通した後、鉛直方向yの偏光を持った光を通す偏光板(フィルター)を通そうとしても通らない。真っ暗になる。これは、よく「すだれ模型」で説明されている。いったん水平方向に振動させると鉛直方向の隙間へ入れないというわけだ。でも「すだれ」で本当にすべて説明できるのだろうか? ここで、3枚目の偏光板を使う新実験を行う。これを前の2枚の偏光板の前とか後ろに第3の偏光板を付けても光は通らない。これは当然である。2枚で光を通さない状態を作ったのだから、枚数を増やして光が通るはずはない。 ところが、1枚目の図の下図のように2枚の板の中間に第3の板を挟むと、方向によっては光を通す。実際、斜め45度方向では強度では光が通ってきてかなり明るくなる。
 右の図が実際の実験の様子である。この現象はすだれ模型では説明出来ない。 ここれは偏光が古典的な量ではなく「量子的な量」であることを示している。水平方向x偏光は反時計回りに斜め(左へ45度方向)の偏光と時計回りに斜め(右へ45度方向)の偏光の両方を含んでいる。そのため、反時計回りに斜め偏光板でも光は強度にして半分通ってしまう。そのようにして、反時計回りに斜めの偏光板を通った光は、今度は水平方向x偏光と鉛直方向y偏光の両方を含む。そのため、次の鉛直方向y偏光板では光を通す。ただしここでも強度はさらに半分になる。

 これは、偏光方向というものが、本当は決まっているが、人間がわかっていないだけという「隠れたパラメータ」ではなく、そもそも、人間が偏光板をある方向にあてるという「観測」によって初めて決まるものであることを明解に示している。このあたりの概念を左下の3枚目の図に描いてある。「観測」する前は、量子力学的に「重なり合っている」と言う。この「重ね合わせの原理」は、各偏光方向にある情報を格納すれば、1つの構成単位で2つの基本情報を格納出来ることを意味している。この構成単位を「量子ビット」という。同図の右に模式的に表現してある。さらに、この「量子ビット」を3個にした系のモデルを右の4枚目の図に描いてある。8個の基本情報(二進法で表したゼロから8まで)が格納されている。これをn個作れば2のn乗の情報が格納できる。現在、量子ビットは20個ほど作って動作させることに成功している。2の20乗は100万を越える。これらの量子ビットの量子性(重ね合わせの原理)を保ちつつ計算をすすめるには、まだまだ、理論的に不明な点もあり、実験的にも多くの障害があるが、解くべき問題によっては、極めて有力な方法になる場合がある。偏光板3枚の実験をして「量子ビット」を体験しながら、量子コンピュータへの大きな期待を描きたい。
参考;夏目雄平「やさしく物理」(朝倉書店)第10章『光の世界に住んでいる私たち』。1枚目の図はp.80から引用した。
偏光が持つ数学的特質は、夏目雄平(分担執筆)「現代数理科学事典<第2版>」(丸善)物理の数理~群論p.58-66に、『特殊ユニタリ群SU(2)』として説明されている。

タブレット虫メガネで偏光アート 寺田さんの発表
 寺田さんは、前回に続きダイソーなどで手に入るスマホ用接写レンズをタブレットのインカメラにつけた低倍率顕微鏡で、セロテープやグラニュー糖や浜砂の偏光色を観察した。このタブレット虫メガネは生物の観察以外にもさまざまな分野の観察に使えそうだ。小学校での活用も考えられる。

 寺田さんがYoutubeに公開している動画はこちら。
■セロテープの偏光色観察 https://youtu.be/oL3S1jDtG0I
■グラニュー糖の偏光色観察1 https://youtu.be/0yyQrQquz1s
■グラニュー糖の偏光色観察2 https://youtu.be/sTGb6NUQWMA
■海浜の砂の偏光色観察 https://youtu.be/9zbPl-S_WTE

葉の表面構造と水滴ができる関係 永田さんの発表
 永田さんは自宅に走査型電子顕微鏡(SEM)を設備している。SEMでいろいろなものを観察するのが趣味だ。
 雨上がりの朝、庭に出たとき、カタバミの葉に水滴が付いていた。よく見ると水滴が付いている葉と付いていない葉があった。その理由を調べた。
 水滴を拭うと、水滴があった場所に傷があった。

 傷部をSEMで拡大して観察した。細胞膜が破れていた。損傷が少ない場所でも・・・

カサブタのような傷が認められた。水滴が付いていない若い葉の表面と比較してみた。

 永田さんはこの理由を考察した。その結果、右の図のような水滴成長のメカニズムがあると結論した。

 永田さんが管理しているWebサイト、「タイニー・カフェテラス」には、興味深い電顕画像が多数紹介されている。
URLはこちら→http://www.technex.co.jp/tinycafe/index.html


朝日新聞の血液型分布グラフ入りの記事をめぐって 鈴木健夫さんの発表
 12月31日の朝日新聞に、宝くじを題材にした記事が載った。宝くじはどんな人が買い、どんな夢を見ているのかという内容の記事だった。記事自体は面白く読めたが、そのイラスト欄に、唐突に血液型の分布のグラフが載っていた。宝くじの高額当選者の性別や年代が円グラフになっている横に、血液型の分布のグラフが載っていたのだ。鈴木さんはここに反応した。なお、記事の本文中には、血液型に関する事は何も書かれていない。
 鈴木さんは、直ちに行動を起こした。朝日新聞デジタルの問い合わせメールに、どういう意図なのかわからない、こういう記事は不適切である、という主旨のコメントを書いた。その後正月になってしまったせいか、しばらく音沙汰がなかったが、正月明けの1月7日に朝日の記者(らしき人)から、鈴木さん宅に直接電話があった。興味を喚起するつもりで載せたが本文中には紙面の都合で載せられなかった、というコメントだった。鈴木さんは「こういう非科学的なことは記事にすべきではない。」との思いを伝えて電話を終えた。今から思えば、もっと強く抗議すべきだったと後悔しているそうだ。ただ、直接記者(と思われる人)が電話をしてくる、ということには誠意を感じた。
 記事そのものや当該のグラフは、著作権に配慮してここには掲載しないが、下の表はそのグラフから読み取った血液型分布と、鈴木さんがWikipediaで調べた日本人全体の血液型分布を比較した結果だ。有意な差はない、というのが統計的な結論である。そういう記事になっていたなら、鈴木さんも何も苦情は言わなかった。
 なおこの発表は、1月例会で発表をしようとしていた話題で、毎回時間切れで次回送りになっていて、今回のZoom例会でやっと発表の機会を得たものである。

Github Pages を使った教材作成 幾何光学 長倉さんの発表
 長倉さんは、高校2年生を対象に幾何光学を教えている。臨時休業中ということもあり、細かい使い方の説明をしなくても直感的に触れる幾何光学の教材があればいいなあと思って探していたが、レンズのアニメーションはたくさんあるが、生徒が気軽にスマホで触れるものを見つけることができなかった。ちょうど、授業用のパワーポイントのためだけにいちいち図を作るのもめんどくさいなあと思っていたところだったので、長倉さんはブラウザ上で動く幾何光学のアニメーションを作ることにした。
 ウェブサイトの公開には、Githubというコード共有サイトの、GithubPagesの機能を利用した。2020年2月例会での長倉さんの発表にもあったが、生徒が教室にスマートフォンを持ってきてくれるのだから、これを出来る限り有効活用したい。ブラウザ上で動くようにすれば、端末の種類(Androidやiphoneなど)によらず画面上に表示することもできるし、QRコードで簡単に共有できる。

 例会では、光源の大きさやレンズの大きさについてのアドバイスがあり、長倉さんは早速修正をした。レンズの大きさについては、レンズの大きさを変更するようなアニメーションも公開することにした。昨年のブラックホール撮影の話題とも関連づけることができる。
 長倉さんが作成したサイトはこちら→https://phys-ken.github.io/Optics/README.html。レンズのプリント印刷などもできる。
 長倉さんは「使えるコンテンツがあれば自由に使っていただいて、ぜひ感想や改善点を教えていただきたい。」と述べている。

「力」について 水野さんの発表
 水野さんは、小学生への力学指導について、「力」は「力を出す『もの』」でなく「力を受ける『もの』」に注目を、と呼びかける。以下、水野さんからのコメント。

 無料塾「かみのき塾」に来ている小学生が解いていた国語の問題文に、下のような気になる一文があった。
「大きなものほど、大きな引力をもっています。たとえば、ボールの場合でいうと、地面というのは地球の表面ですから、小さなボールが大きな地球へと引きよせられていくというわけです。」
 この文章にあるように、力は「もの」が持っている、という表現がよく使われる。例えば、「あの人は力持ち」「あの星は重いので強い力で引く力を持っている」など。
 どんな力持ちの人でも、その力をはたらかせる相手の「もの」がなければ力ははたらかない(生じない)。また、「力」の本質は「相互作用」で、一方的に力がはたらくことは「絶対」にない。つまり「作用反作用」の法則が及ばない力のはたらき方は「絶対」にない。
 このことを、どう教えるか、どう子どもたちに身につけさせるかという問題意識が私にはある。そこで提案。「力」は、「力を出す『もの』」でなく、「力を受ける『もの』」に注目すること。
 力は「もの」から「もの」にはたらく。こう言うと、力をはたらかせる「もの」が能動的に力を「及ぼしている」という誤解を生む。「力」は、能動的に「及ぼす」のでなく、ものがあれば「及ぼし合ってしまう」という特徴がある。だから、「力を及ぼす『もの』」に視点を置くのでなく、「力を及ぼされる『もの』」に視点を置くといいのではないか。

 例会の中では、力を「相互作用」=「作用反作用」で教えることは小学生には難しいのではないかという意見と、やり方によっては小学生でも理解できるという意見があった。この点については、実践を通して認識を深めていきたいと思う。

実データを使った万有引力の式の利用 市原さんの発表
 川勝先生の物理授業の中巻に、「ハレー彗星のデータを元にケプラーの法則を演習する」という授業があり、市原さんは最近のデータでこれをやってみたいと思っていた。調べてみると、話題性のあったものの中で、2017年と2020年に地球に接近した小天体のデータに関して、NASAのWebサイト等から場所と速度の情報が得られたので、市原さんはそれを題材に以下のような授業をした。

  このコロナ対応で、授業は動画配信のため、スライドで説明をして、youtubeに投下。それを元に、他の天体を解析することを課題にした。
 授業そのものではないが、少し差し替えた動画が、https://youtu.be/TTv2lE4furw にアップしてある。

授業で参考にしたサイト
・オウムアムアの軌道のyoutube動画はここ
・小惑星52768 (1998 OR2) の軌道データはここ

二次会Zoomによるオンライン二次会
 例会で話し足りない皆さんは、夕食タイムをはさんで、20時からのオンライン二次会に参加。17名が参加して盛り上がった。本日初参加で、インパクトの強い電子顕微鏡の発表をされた永田さんも参加され、例会では聞けなかった細かい質問にも答えていただけた。学校現場からは、難局を乗り切ろうと奮闘されている様子の報告もあった。緊急事態宣言は解除され、6月から学校もおそるおそる動き出しているが、状況はまだ予断を許さない。こんなときだからこそ、仲間同士つながって、情報交換し、支え合うことが大切だと感じた。


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