例会速報 2007/03/18 県立新城高校


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授業研究:剛体力学の扱い 小沢さんの発表
 小沢さんから力のモーメントと重心の授業の報告があった。かつて剛体は指導要領から外れていた時期もあり、高校物理では、何をどこまでどうやって教えるかについて未整理な面もある。小沢さん自身も高校時代には教わらなかったという。例会ではこの単元を教える意義について議論された。
 小沢さんの授業では、まず導入として、1mの直定規の端を手に持ち水平に支え、その定規の上におもりを置く。おもりを置く位置を変えると手にかかる負担が変わることを確認する。次に、この定規の端を台はかりに固定して同じことをすると、台はかりの指す値はどうなるかを問う。こうして、「力のモーメント」と「力」の違いを気付かせていく。その後も、課題を提示し、予想、討論を経て、実際に実験してみるというスタイルで、力のモーメントの性質を徐々に理解させるように進めていく。
 そのために有効な実験器具も紹介された。写真は百円のホワイトボードの中央上部に穴を開け「面天秤」としたもの。マグネットクリップを分銅として力のモーメントのつり合いを実演しながら考えさせていく。右の写真で、「右側のクリップの位置を真下に移動させたらつり合いはどうなるか」を問うと、生徒は大いに迷うという。そこで議論させて、力のモーメントの正しい求め方に導く。すぐれた教授法だ。
 

光の感度の個人差 例会前のひとときから
 例会の開始を待つひととき、会場には午後の日差しがさし込んでいた。「たまたま」窓辺にプリズムが置いてあり、分散光がちょうど黒板の右の壁に映じた。これを見て自然発生的にYPCの研修会が始まった。平野さんから、音と同様に色の感度には個人差があるとの指摘があり、それぞれで赤と紫の「見える限界」を測定し合った。太陽の動きにつれて、スペクトルの位置もかなりのスピードで移動するため詳細な比較は難しかったが、「見える、見えない」を楽しく論じた。なお、教室で行う場合は、色覚障害者がいるかもしれないことに十分配慮して取り扱いたいものだ。
 

全反射二重コップの大量生産 鈴木さんの発表
 全反射二重コップとは、透明なプラコップを内側にして、その外側に内側に魚の絵などを貼った紙コップを重ねておくと、水を入れたとき魚の絵が全く見えなくなるというもの。科教協全国大会のお楽しみ広場で、広島の土肥健二さん(岐阜物理サークル)に教わった。
 鈴木さんはこれをもっと簡単に大量生産できないかと思い、以下のようにした。タックシールの余りに、「水を入れると消える?」と書く。それを紙コップの内側に貼る。透明プラコップの外側に逆さ文字で「消えない!」と書く。できれば、この2つの字が同じくらいの高さになるようにした方が見栄えがよい。そして、このコップを重ねて、水を入れていくと、紙コップ側の字だけ見えなくなるので、「消える?」という字は消え、「消えない!」という字は消えない!!
 ポイントは、透明プラコップに溝がないこと。溝があると、角度が臨界角を超えなくなってしまうため、「消える?」という字の一部が見えてしまう。100円ショップキャンドゥのプラコップで、10数個100円というものがあった。溝のないプラコップを見つけたら、買っておこう。溝ありコップでも溝の部分より上の方で行なえば問題はない。鈴木さんは、これを生徒の人数分作って、ペットボトルに水を入れておき、各机で各自にやらせ、好評だったそうだ。

 

液晶キーホルダー 車田さんの発表
 車田さんが見せてくれたのは、電池なしで自動点滅する液晶キーホルダー。日本科学未来館のイベント用のものを分けてもらったという。秋葉原の雑貨屋もで800円位で売られているらしい。Web情報はここ(一番左のもの)JAXAグッズでも紹介されている。
 接着部分をカッターでこじ開け分解してみると、液晶の裏に写真の挿入口があり、ある程度の明るさになると太陽電池で発電し液晶シャッターが点滅する。写真に偏光板を重ねるようなものなので写真は明るいものでないと見えづらい。
 

塩ビパイプでピンポンキャノン 市江さんと木村君の発表
 2006年11月例会で小河原さんから紹介されたピンポンキャノンを、鎌倉学園の中学1年生、木村君(すでに例会常連メンバーとなっている)を中心にクラブでもつくってみた。3mのアクリルパイプは安いものでも1万円以上するので、塩ビパイプを利用した。外径48mm、内径44mmの薄手の塩ビパイプが直径44mmのシニア用ピンポン球にぴったり合い、長さ1mのパイプでも勢い良く飛ばすことができた。飛ばすだけなら30cm程度のものでも可能だ。また、球を分子模型などで使われる30mmや20mm程度の発泡スチロール球に換えてもパイプの径をあわせればうまく飛ばすことができる。ただし、パイプの両端をふさぐセロテープはニチバンの産業用セロテープ405 50mm×50m でないとうまくいかない。このセロテープと真空ポンプさえあれば非常に安価につくることができる。
 
写真上左:1mの塩ビ管を真空に排気している様子。左手の椅子にかけた古カーテンが標的である。
写真上右:非常に危険なキャノンの正面からのアングルで決死の撮影・・・実は恐る恐るカメラだけを差し出して撮っている。ここから高速のピンポン球が膜を突き破って飛び出してくるのである。実は大変危険なので絶対に正面に立ってはいけない。

写真下左:発射の瞬間。轟音と共に弾丸が飛び出す。的に当たって跳ね返ったオレンジ色のピンポン球が左上に写っている。
写真下右:短い30cmの砲身での球速をビースピで測定しようとしているところ。残念ながら、この場での測定はうまくいかなかった。

化学映像教材 たかすぎさんの発表
 先月の例会で、時間切れで積み残しになっていたネタ。
 鎌倉学園高で1年の化学を持っている たかすぎさんは、冬休み明けの“酸化還元”の単元で、派手な燃焼〜爆発反応を集めて演示し、生徒の正月ボケを吹き飛ばす作戦に出た。
 普段は上の学年が使っている“化学講義室”だが、この時期3年は居なくなり、2年生は修学旅行でこれまた不在で「都合がよかった。」とのこと。 演目は、お得意の黒色火薬(線香花火)から水素-酸素爆鳴気・粉塵爆発・テルミット。あがる喚声から生徒の反応も上々だったことが解る。同僚の先生が撮影した動画のハイライトがCDムービーの形で希望者に頒布された。現象は見せたいが自分でやるのはちょっと...という時には便利な教材映像だ。タイトルと反応の要点のキャプションも入って、さしずめ求職中(?!)の「たかすぎ先生のプロモーションビデオ」という感じ。
 

 例会で上映された映像から、粉塵爆発の瞬間。よく乾燥させた小麦粉を漏斗から大型ゴミ袋内に吹き出し、ロウソクから引火させる。爆発的な火炎と共にゴミ袋が舞い上がり、教室は歓声に包まれる。

 下はさらに過激な「テルミット反応」。酸化鉄(V)とアルミニウム粉末を反応させて、鉄を得る。ビーカーの水の中に落ちてもなお輝き続ける融けた鉄の塊が印象的だ。たかすぎさん提供の動画はここ。(約1MB)
 他にテルミット溶接の“貴重な資料映像”も紹介された。

 

夕焼けストラップ 鈴木さんの発表
 香港土産に、写真のようなヒョウタン型の携帯ストラップをもらった。角度によって青く見えたり赤く見えたりする。光源からの光を通してみると、赤(オレンジ)に見え、光源に垂直方向で見ると、青く見える。ペンライトの光を当ててみると、その効果はさらに明確に。傘袋に水を入れて、そこに牛乳を数滴入れるのと同じ状況が作られているようだ。何らかの鉱石なのかと思ったが、どうやらガラスに乳剤(エマルジョン)が入れられているようだ。これが、班に1個くらいあれば、光の分散(夕焼けと青い空)の学習に最適だ。どこかで入手できないだろうか?
 

リードスイッチごま 石井さんの発表
 左の写真は基本的なリードスイッチモーターである。回転子の磁気によりリードスイッチが動作して電磁石をON、OFFし、回転子の磁石と相互作用して回転力を生む。同様の原理で永久回転するコマを作ることができる。トランジスタ仕掛けの磁力ゴマのリードスイッチ版というわけだ。
 細い鉄芯に太さ0.4mm程度のエナメル線を200〜300回巻き、小型のリードスイッチ(100円以内)と単3乾電池をを直列につないで、重ねてセットする。これだけで、時計皿の上の左右NSの磁石ごまは回り続ける。
 

 石井さん自身からご提供いただいた写真。こんな遊び方もできる。回路が作動しているのを確認するには、LEDをコイルの両端につなぐとよい。ただし、誘導で点滅するので、LEDの向きは電池に対して逆つなぎになっている。

 電池自身を鉄心にしたコイルに、リードスイッチ、LEDをコンパクトにセットしてそれ自体を回転子とした究極のモーター。釘を軸に、磁石で吊るようにして、リードスイッチの近くに別の磁石を近づけると回転し始める。

 ステーターを軽く作って時計皿に乗せて、その上でロ−ターを回すようにすると、両者は同時に互いに逆向きに回転を始める。石井さんはこの種の回転子を<作用反作用ごま>と呼ぶことにした。
 左は、回転における作用反作用(角運動量の保存)を演示する実験。プロペラが回転すると、水面に浮かべた発泡スチロールの台は逆回りに回転し始める。

 石井さんは、千葉県で清水高校、千葉高校などで物理を教えておられ、「物理の授業100時間」上下巻の著者でもある。退職後10年を経てもなお精力的にサークル活動されている。われわれも見習わなければいけない。
 最近HPも立ち上げられたとの事。例会で発表された「リードスイッチごま」も詳しく紹介されている。そのほかのテーマも深く追求されていて興味深い。「3段アンプ」などもおすすめ。

ニュートンの3D地形図 越さんの発表
 ニュートンムック「立体で見たい 地球の必見スポット」ISBN4-315-51779-8  2415円 (株)ニュートンプレス、赤青3Dメガネ付。
 この本はタイトル通り、世界各地、日本各地の地理的、地学的に有名な地域の赤青3D写真(ステレオアナグリフ)が数多く掲載されている。グランドキャニオン、東アフリカ大地溝帯、富士山火口、秋吉台、中央構造線、などなど。
 デジカメで撮影してプロジェクターで投影し、手製の赤青3Dメガネを用い、大勢で見ることもできる。ただし、普通入手できるセロファン紙を用いたのでは、多少色合いが異なるため、少し見にくいようだ。また、ニュートン、2006年5月号でも、同様の写真が特集されている。関連して、3D写真のHP「STEREOeYe」では、多くの3D写真が見られると共に、専用の赤青3Dメガネを購入する事ができる。
 

火星の絶景ポイント 山本の書籍紹介
 同じ傾向の本で、火星を扱ったタイムリーな本がこれ。ニュートンムック「3Dで見る 火星の絶景ポイント」ISBN978-4-315-51790-3 \2300(赤青メガネ付き)。
 マリナー、バイキング時代からの選りすぐりの火星写真を収録しているが、なんと言っても興味深いのは、現在も火星表面で観測中の二台のマーズ・ローバー(NASA/JPL)と、軌道周回機マーズ・エクスプレス(ESA)による立体写真である。
 マーズ・グローバル・サーベイヤーやマーズ・リコネッサンス・オービターによる高解像度写真も加えて、火星探査の最前線を余すところ無く紹介したおすすめの写真集である。

センターの「磁束漏れ」問題に関して 宮田さんのアンケート調査
 センター試験物理の二重コイルの問題は、選択肢に正答がないということで物議を醸したが、このような棒状鉄心の二重コイルでは「磁束漏れ」が生じて、変圧器の式は成立しないことをどれだけの物理教師が認識していたかというアンケート調査を宮田さんがおこなった。
 「磁束漏れ」は必ずしも「教育業界の常識」ではないのではないかというのが宮田さんの主張である。例会参加者の挙手ではこの問題がおかしいと直感した人は数名で、後の大多数は当初疑問に思わなかったというアンケート結果だった。

高校入試問題への疑問 平松さんの発表
 平松さんはこの春の神奈川県の後期選抜学力検査理科で出題された問題に疑問を持った。
 問題は金属粉を空気中で充分に加熱する前後の質量変化を何通りかの質量で比較し、金属と酸素の化合比を求めるというもの。正答は金属:酸素=5:1だという。
 それ自体、一見何ら問題がない。しかしよくよく考えると、高校化学(総合A)の基本問題として考えても、そんな原子量の金属は存在しない。無論、中学生にそれを問うことはないのだが・・・。
 可能性があるとすれば、銅+酸素→酸化銅(II)であれば4:1だが、未反応の銅が、銅粉末の中心部分に残りやすく、実際の実験では5:1程度になることが多い。この事実をもとにした出題だとすると「実験事実として比例しているからそれでいいのだ」で、再現性や厳密性を担保しなくてよいのかという新たな疑問がわく。
 「そのような問題が今後入試問題に出てこないことを望むべく、話題にしてみました・・・」とは平松さんの弁。

二次会 武蔵中原駅近くの「うどん喜多郎」にて
 17名が集まって、カンパーイ!座席が3ブロックに分かれて若干話が遠かったが、それぞれの話題で盛り上がった。飲み放題はもとより、当店自慢の「手打ちうどん食べ放題」がなによりうれしい。
 


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