例会速報 2009/06/21 電気通信大学
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授業研究:等加速度運動の導入 小沢さんの発表
等加速度運動の導入段階の授業について、教材や発問、その配列が紹介された。小沢さんの授業は具体的な事例の観察・測定を重視し、地下鉄のスピードメーターを記録したビデオからグラフを作ることや、ストロボ写真に定規をあて実際に測って運動の規則性を考察することを中心に組み立てられている。
写真は「インチキ反射神経測定器」。目盛りが等間隔なので正しい測定ができない。生徒にわざとこれを与えて、その誤りに気づかせるという問題提起のための教材だ。
討論では、さらなる工夫の提案や、参加者の授業での見せ方など、情報交換した。
ダイナビー 山本の発表
日本標準社の「理科教室」から原稿依頼があり6月号に掲載された記事の紹介と解説。YPCで話題になったのは9年前のことなので、若い人たちは知らないと思い、実物や回し方もあらためて披露した。詳しくはダイナビーの力学Part1・Part2を参照のこと。
現れるビー玉 倉田さんの発表
透明なポリエチレンのシェーカー。下の水中にはビー玉が1個沈んでいる。えいっとひっくり返すと、一瞬にして中ほどの網の上にビー玉がたくさん現れる。YPCではおなじみのプランツボールを使った科学マジックだが、見せ方を工夫し、道具として展示に耐えるものにした。
四季説明器 倉田さんの発表
支点と重心が一致しているコマ(マクスウェルのコマ)は回し始めの軸の方向を維持しながら回り続ける。プラのボウルで作ったこのコマの回転を地球の自転に見立てて、自分の頭を太陽と見て、ぐるりと一周する。地軸がいつも空間の一定方向を向いているため、陽の当たり方が変わり、四季の変化が生じることを、わかりやすく演示できる。動画はここ。
リードスイッチごま(再) 石井さんの発表
石井さんのリードスイッチを使ったタイミングモーター(石井さんは「リーごま」という呼び名を提唱している)は07年3月例会でも紹介されているが、今回はその発展型だ。まずは原理の説明から。左の写真で石井さんが磁石を近づけている部分がリードスイッチという素子。磁界によりスイッチが閉じる。回路の途中に120回巻きの電磁石を置き、リードスイッチをそのそばに配置する。LEDと並列にスピーカーを入れると回路の動作を音で実感することができる(写真右)。
左は上野の科学博物館で子供達に作らせたキット。これでも十分シンプルだが、石井さんは鉄心はいらないと判断。100円ショップで入手できる直径1mmのアルミ線を束のまま使ってコイルにした。これでもちゃんとコマは回る。巻き数を減らしていくと14ターンまでは回ることを確認。
円形コイルが作る磁場の磁束密度は半径に反比例する。コイルを小さく巻くと巻き数を減らすことができる。左の写真はト音記号型のコイル。右の写真は「N・N磁石」(S極どうしを無理矢理接着して作った両極ともN極の棒磁石)を回しているところ。
ε変調? d変調? 田代さんの発表
市販のFMワイヤレスマイク回路の製作キットはコルピッツ発振回路だという。コルピッツ発振回路ならば共振回路用にコンデンサーは2個のはずなのに1個しかない。これはどうもトランジスタのEB間が潜在的に持っている静電容量を使っているようである。EとBに小さいアルミ箔をつけてコンデンサーにすると周波数がが下がり、ラジオの同調を変えると受信できる。
田代さんの実験では追加したコンデンサーの極板間に消しゴムを入れると更に周波数が下がった。これはC=εS/d のεを変える簡単な実験になる。極板間にU字型のアルミホイルを入れれても周波数が下がった。これはC=εS/d
のdを小さくしたためだろう。理論だけで済ませがちな分野で応用回路や簡単な実験として使えそうだ。
ところで、極板間に指を入れても周波数が下がった。さて指を誘電体とみるか?導体とみるか?空中浮遊容量もあるので原理は単純ではなさそうだ。
μ楽器 田代さんの発表
田代さんはさらにコルピッツ回路にこだわり、電磁石と電解コンデンサーで忠実にコルピッツ発振回路を作った。すると、高周波ならぬ低周波つまり音の振動数になった。コイルとトランジスターのCの間にスピーカーを入れると音が出る。しかも電磁石のコイルをその鉄芯から出し入れすると周波数が変わり楽器のようになる。透磁率を制御して演奏するから「μ楽器」というわけだ。ただし、予備のためにコイルから中間タップを出しておいたのだが、装置の上でその中間タップのリード線の位置を変えると、音が出たり出なかったり…そのわけはまだ解明されていない。
ダニエル電池 徳永さんの発表
ダニエル電池は最近の教科書では、半透膜を用いる事が多いが生徒実験をすると破れたりして失敗が多い。素焼きのコップを使うと失敗はないが、入手しにくい。また素焼きのきめが細かすぎると、浸透に時間がかかり準備が大変。徳永さんは知り合いの陶芸家に頼んで、粘土や焼き加減を工夫してもらい、電解液を注げばすぐに反応するダニエル電池専用素焼きコップを比較的安く作ってもらうことができた(¥1000)。注文生産してもらえるという。
力の矢印マグネット 徳永さんの発表
徳永さんは、実家の鉄工所の設備を活用して、マグネットの指示棒を加工し、長さが調節できる矢印を作った。磁石で黒板に付けられるので力の合成や分解の説明に使いやすい。その場でさっそく注文が殺到した。
この他、当日は徳永式「ボイルの実験装置」の生産再開も報じられた。体積と圧力の関係を簡単に定量演示したり、分圧の法則を示したりできる装置がまた購入できるようになった。
ジャンピングフィッシュの真実 越さんの発表
マジックジャンピングフィッシュの口の淵にコインを乗せておくと(写真左)、飛び上がる時にコインを食べる時と、食べない時がある。肉眼で見ていると、コインが跳ね上がり、それに魚が飛びついて行くように思われるが、ハイスピードカメラ(EX-F1)で撮影すると、意外な事がわかった。
コインの重心が魚の口の淵より外側ぎりぎりにある場合は、コインを食べる。これをスローモーションで見ると、魚が口を閉じ始めるとすぐに口の淵からコインが落ち、それを魚が飛び上がりながら食いつくという感じである。
コインの重心が口の淵より魚側にある時は、コインを食べない。スローモーションで見ると、コインは口の淵の上に乗ったまま、魚よりも速く投げ上げられ、魚は決して追いつけず、食べられない。魚は口の内側の輪ゴムが縮むことにより口を閉じるが、その際魚は口の下側の部分が床を押すことにより初速を得る。一方コインは口が閉じる際、口の上側に乗っているため、魚の重心のほぼ2倍近くの速さで投げ上げられる。単純なおもちゃだが、スローモーションで見ると、よくわからなかった動きが確認できる。EX-F1の威力は絶大だ。
ところで越さんは、科学の祭典にジャンピングフィッシュのペーパークラフト(写真上左)を出展した。この際参考にしたのが写真下の本「カミカラ 紙のからくり」
中村開己著 インフォレスト 1900円+税 ISBN978-4-86190-805-7。イワトビペンギン、かみつく封筒など、平べったいペーパークラフトを落とすと一瞬にして立体になる。作って楽しい、遊べるペーパークラフト本である。
エクスプロラトリアムグッズ 竹内さんの発表
例会会場の後ろには、本日幹事役の竹内さんの最近のコレクションが展示してあった。アメリカはサンノゼの体験型博物館の草分け「エクスプロラトリアム」で購入してきたアイテムだという。
日食メガネとソーラーフィルター 山本の発表
7月22日の日食が近づくにつれ、観察グッズとしての日食メガネが飛ぶように売れ、品切れが相次いでいる。とはいえ、裸眼ではもちろん、黒い下敷きやカラースライドの黒い部分、CDやDVD、日常生活用サングラス、すすガラスなど、日食メガネの代用品は「日食性網膜炎」の危険があり、日食観察用としては不適である。可視光線はさえぎっても多くは赤外線を通してしまうからだ。やはり、左の写真のような信頼できる遮光具を使うか、直接太陽を見上げないピンホールカメラ法、投影法などによるべきである。指導者は十分注意されたい。例会ではバーダープラネタリウム社のアストロソーラーフィルター眼視用ND-5の紹介と実費頒布を行った。なお、右の写真の冊子「日食観測マニュアル」アストロアーツ¥980は日食メガネが付録についており、各種フィルターの性能比較データも載っていて役に立つ。
土肥さんの実験紹介 武捨さんの発表
岐阜物理サークルの土肥さんが考案された実像を目で直接見るアイデアを試してみた。100円ショップに売っている大きめの拡大鏡を3枚重ねたものを筒(ガムテープの芯)につなぎ、真上から見ると筒の底に置いた500円硬貨が浮かび上がって見える。発光ダイオードで筒の底を照らすのも土肥さんのアイデアである。
浮かんで見える500円玉の像は、右上の写真と比べると、倒立していることがわかる。つまり虫眼鏡のように正立虚像を見ているわけではない。これは実像なのである。そこにスクリーンを置けば実際に像がうつる。
下は、おたまじゃくしを球面鏡として使った、凹面鏡による実像の観察器。箱のふたの裏にさかさに取り付けられているドラエモンが、ふたの上に立っているっように見える。
ヤングの実験のパワーポイント 水上さんの発表
水上さんが授業で使用しているパワーポイントの実演だ。まず、ヤングの実験の現象を確認し、二つのスリットからの光路差≒dsinθ≒dx/lとなることを説明する。スクリーン上の輝点だけなく、大型の煙箱を使用し、節線と腹線を意識させる途中経路の光線も実写の写真で示している。
次に、問題練習の際解答を実感させる写真を提示した。右はスリット間隔dが大きいと干渉縞の間隔Δxが小さくなる様子。
左は水(屈折率n=1.33≒4/3)の中の干渉縞が空気中の1/n=3/4倍になる様子である。光路に水を満たした雨樋を置いて実際に実験し撮影した。同じ幅の中の明部の数が6個から8個に変化している様子がわかる。
ビースピV登場! 渡辺さんの発表
ナリカの新製品の紹介。安価で簡易な速度測定器としてブームを呼んだあのビースピが生まれ変わった。ユーザーから要望の多かった「m/s」単位を追加して、全部で3つの単位で測定可能 (km/h、m/s、cm/sの3パターン)。測定したデータも5つまでメモリーできる。さらに、可能な限り動作の安定性を見直した。S77-1321 「ビースピv」 \2,800。詳しくはナリカのWebページへ。
虹が見える本 渡辺さんの発表
「RAINBOW IN YOUR HAND」(川村真司著)という本。
真っ黒なページに7色の四角形を印刷し、本をぱらぱらめくると残像の効果でアーチ状の虹が浮かんで見える。動画はここ。実際の虹とは違うが、残像効果をうまく利用したのはアイディアだと思う。
購入サイト:ユトレヒト http://www.utrecht.jp/person/?p=316
ジャンピングトイ 加藤さんの発表
以前から、ジャンピングトイを利用した実験は、多くのところで発表されている。加藤さんは、そのジャンピングトイの類似品を、100円ショップのダイソーで発見したので、購入してみた。実際に使ってみると、安全のためか元祖ジャンピングトイ程の跳躍力は無く、あまりインパクトのある実験はできない感じがする。それでも例会では、持参した12個が定価(105円)で完売。今後、YPCのメンバーが使い方を工夫してくれることを期待したい。
生物と無生物のあいだ・など 越さんの書籍紹介
「生物と無生物のあいだ」(写真左下)福岡伸一著 講談社現代新書 740円+税。2年ほど前のベストセラー。とても文学的な分子生物学の本。特に遺伝子発見にまつわる人間ドラマは、ヘタなミステリーより面白い。キーワードは「自己複製」と「動的平衡」。
「見てわかるDNAのしくみ」(写真左上)工藤光子/中村桂子著 講談社ブルーバックス 自己複製するDNAのCGの動画DVD付。
「子供は理系にせよ!」(写真中下)大槻義彦著 NHK出版生活人新書 700円+税。理工系学生へのアンケートによれば、進路を決めたきっかけは、(1)家庭での理科的雰囲気(本やモノ)、(2)学校の先生の影響、(3)NHKスペシャルなどの科学番組の影響。子供は、1度科学館に行ったくらいでは すぐに忘れてしまう。子供を理科好きにするには、日常的に理科的なものに触れ続けることが、ポイントである。理科室に面白いモノを自由に触れる状態で置き、ミニ科学館にすべきだと、氏は述べる。そういえば、YPCのメンバーの物理室は、以前から楽しい。
「できそこないの男たち」(写真中上)福岡伸一著 光文社新書 820円+税。<生命の基本仕様>----それは女である。本来、すべての生物はまずメスとして発生する。メスは太くて強い縦糸であり、オスは、メスの系譜を時々橋渡しし、細い横糸の役割を果たす「使い走り」に過ぎない...(本文より)
「月を目指した二人の科学者〜アポロとスプートニクの軌跡」(写真右下) 的川泰宣著 中公新書 860円+税。フォン・ブラウンと セルゲイ・コリョリョフ、米ソ冷戦期、宇宙開発競争の中心となった天才科学技術者2人の生涯が史実に基づいて語られている。フォン・ブラウンが如何に優れた科学者であり、リーダーであったかがよくわかる。また、粛清で7年間強制収容所に送られながらも、後に共産党本部を恫喝しながら、世界初の人工衛星スプートニクを打ち上げたコリョリョフの強かさにも驚かされる。
「神様のパズル」(写真右上)機本伸司著(文庫版) 680円+税。天才女子学生穂瑞沙羅華と留年寸前の「僕」が、ひょんなことから大学のゼミでチームを組み、「(無から宇宙が生まれたのなら、人間が)宇宙を作ることはできるのか?」というテーマで卒論を書く破目になる。ゼミでのディベートの内容が、「対称性の破れ」など、専門用語が飛び交い、ディープな物理で興味深い。第3回 小松左京賞受賞。映画では、(「ROOKIES」でお馴染み)市原隼人と谷村美月が出演、8の字型の加速器「無限」の映像も面白い。後半は、アクションエンターテイメント。映画「コンタクト」を思わせる。映画「神様のパズル」公式サイト。
二次会 調布駅前天神通「海南記」にて
16人が参加してカンパーイ!東京の会場だといつもとまたちがった顔ぶれが集まって楽しい。初参加の人でも気軽に二次会まで参加できるフランクなムードがYPCのよいところ。
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