例会速報 2004/05/22 県立中央農業高校


前の月の例会例会アルバム目次次の月の例会


YPCホームページ(本館)へすたのページ(別館)へ天神のページ(別館)へ次回例会のご案内


授業研究:生徒自身による取り組みの姿勢と授業の評価 高杉さんの発表
 生徒による授業評価が県の指導の元で実施されようとしているが、YPCには以前から自主的に授業評価を実施してきた人が何人もいる。高杉さんもその一人だが、生徒自身にも自らの学習姿勢もふり返らせる取り組みが参考になる。以下、高杉さん自身によるコメントを掲載する。

 定期試験の答案返却・確認の際の半端に余った時間(10〜15分)で、生徒に試験結果の自己分析、それまでの授業での自身の取り組み姿勢、テスト前勉強の実態、授業の内容や難易度・進める速さ、それらに対する感想、以後の授業への自身の抱負、教科担任への意見・質問・要望などを、B5版1枚(場合によっては両面)に書かせ、記名回収していました。各設問の語は生徒に親しみやすいよう平易なものとし、また書き込みやすいよう「(テスト前勉強について)1週間前ぐらいから、『やろう!』と思っていたんだけれど、その前にちょっとだけ...と、ついファミコンに手が伸びてしまい、気がついたら前日だった。」など、ありがちな内容と言葉遣いで記入例をつけました。テスト前勉強の項では、「教科書をひととおり通読したか」「ノートを見直し、解らないところを無くすようにしたか」「基礎ノート(各自に購入させている基本問題集)を繰り返し解き、完璧に理解したか。」など細かに問いを設定し、どこが不足していたかを気づかせるようにしました。
 答案返却直後に行うことで、自己評価することへの動機付けが高く、率直で充実した記載が多く集まることを期待しました。年度の早い時期に実施する際には「やっぱり試験前だけがんばってやろうとしても無理だよね。毎時間の授業でできるだけ頭に入れてしまうよう、集中して聞くのが大切だよね。」とか「教担への意見欄には、特定の薬品に対するアレルギーがある人や、色が見分けにくい人で、授業や実験のときに配慮して欲しい人はこの欄に書いてね。文字で書き残したくない人はあとで言いに来てもいいよ。」など口頭で付け加えました。また年度末には、生徒自身による教科担任の数値評価を記入させたこともありました。
 回収後はひととおり目を通し、配慮の必要な者等を書き出し、余裕があれば特に目を引く記述に赤線を入れるなどしますが、たいていはそのまま保存して、次の定期試験の2週間ほど前の授業で各自に返却し、自分自身の書いたものを読ませ、意欲を高めさせることを狙いました。

リメディアル・フィジックス 江尻さんの発表
 大学生の基礎学力が問題になっている。江尻さんらは、独立行政法人・メディア教育開発センター製作の学部学生のための高校物理補修DVD教材「リメディアル・フィジックス」を監修した。教材はDVD4枚組で、\10000程度で実費頒布される予定だという。

サークルローラー 加藤俊さんの発表
 加藤さんは、自作の転がるおもちゃ2点を披露してくれた。まず、音楽CDを用いたTwo circle Roller(左)。不要になった音楽CDシングル2枚にノコギリで切り込みを入れてCD板の中心間距離を√2xR(半径)になるように直角に交差して接着する。そうすると、重心の上下動がなくなり、クネクネとおもしろいころがりを楽しめる。
 右は、半円板2個を使ったHemi circle Roller。円柱より板厚が√3/2xR(半径)になるように円板2枚を切り出し、ちょうど半円が残るように半分に切断する。できた半円2個をちょうど板厚分だけ回転させて、木工ボンドで接着する。このおもちゃも重心の上下動がなく、千鳥足のようなおもしろい転がり方が楽しめる。これはHexa-sphericonというものをみて半円板でアレンジしたものだそうだ。

参考URL:西原さんの幾何学おもちゃのページ http://www1.ttcn.ne.jp/~a-nishi/g_toy.html

 

ヤングの実験 山本の発表
 ヤングの干渉実験の単元でいつも生徒全員にやらせている実験の紹介。黒画用紙を3〜4センチ角ぐらいに切り、さらにその中央に写真のようにカッターナイフで一筋の切れ目を入れる。切れ目の端を1ミリぐらい広げてセロテープで止め、さらに、自分の髪の毛を一本抜いて、くさび形のすきまの中央を分断するように、張り渡してテープで固定する。これを瞳の直前に置いて、隙間から直線フィラメント電球をのぞくと、右の写真のように虹色のしま模様が左右に広がるのが見られる。髪の毛をはさんで左右の隙間がバイスリットとなり、光の干渉を生じたものだ。写真では中心部が明るくつぶれてしまっているが、フィラメントの近くには明瞭な暗線が観察される。
 この実験はオリジナルではなく、以前どこかの本で読んだものだと思うが、出典が思い出せない。ご存知の方はご一報いただきたい。
 

凸レンズによる実像 山本の発表
 東急ハンズで購入したA4サイズのフレネルレンズで、実物の実像を作る、100W程度の明るい光源で物体(顔をおくとウケる)を照らし、フレネルレンズをついたてのように立てて、反対側のスクリーンとの距離を調節すると、明瞭な倒立実像が得られる。スクリーンとして百円ショップ「キャンドゥ」で売っている、A4書類ケースを用いると、ほどよいスモーク加工がされていて、反射光でも透過光でもよく見える。
 写真の状態で、透過光で実像を観察しながら、スクリーンを取り去ると、はっきりとした空中の実像を直接肉眼でとらえることができる。
 これらの実験は以前、岩下さんが巨大な装置で見せていたものだが、フレネルレンズと書類ケースの組み合わせがちょっとオシャレだったのであえて紹介した。

うわさのフォグマシン 越さんの発表
 越さんは、ノラネコ物理や岐阜物理サークルで話題になっていた噂の「フォグマシン」を入手した。価格は4800円とお手ごろ。専用フォグリキッド5リットル3000円は、少々高い気がする。説明書よると、火気には近づけないこと、直接霧を人に向けないようにと注意があった。フォグリキッドの安全性についてメーカーに問い合わせたところ、誤飲しなければ大丈夫とのこと。成分についてはメーカーに問い合わせれば資料を送ってくれる。霧は多少甘い匂いがする。 レーザー光源によるチンダル現象、空気砲の煙源としてなど、また、文化祭のステージ発表など、学校でも色々使い道がありそうだ。また、ドライアイスによる霧とは違い、空気よりは少し軽いようである。
 本来はライブハウスや(ダンス)クラブなどで演出効果のために霧を発生させる装置。問い合わせはサウンドハウスまで。
http://www.soundhouse.co.jp/shop/search_list.asp

二足歩行ロボット 越さんの発表
  日本科学未来館のショップで購入したという「CAM-10」という、高さわずか10cmの2速歩行ロボットのおもちゃ。足首をひねることによりからだを傾け、重心を左右に移動させることにより2速歩行を行う。タイミングよく足首をひねるカムシステムが見事。デザインがもうちょっとカワイイと、一般受けするかもしれない。価格は1575円。前作の「CAM-8」(高さ20cm)が15000円であったことを考えると超お買い得。詳しくは株式会社キューブのHPまで。「PROTO-1」から「CAM-8」までの開発の歴史が面白い。
http://www.cube-works.co.jp/index2.html

 例会では大人気で、さっそく注文をとりまとめ、買いだし部隊を送ることになった。この記事がアップロードされる頃にはYPCによる買い占めで品切れになっている可能性がある。

ブタの綱引き 鈴木さんの発表
 1998年5月例会で右近さんが発表した「トラクターの綱引き」は、摩擦力や作用反作用の演示として、効果的かつ魅力的だ。鈴木さんそれをぜひやりたいと思っていたが、トラクターのおもちゃを二つ買わなければならず、なかなか買うまでには至らなかった。しかし、ダイソーを歩いていて恰好のものを発見!ぜんまいで歩く動物のおもちゃだ。豚やヤギやいろいろなものがあるが、一番かわいく歩きそうな豚を2匹買った。
 首輪代わりにカードリングをかぶせ、ひもを結んで引っ張り合いをさせる。一直線を保つために、ひもをお尻の上あたりでテープで固定するとよい。背中に荷物(使い古しの乾電池2個を背負わせます)を載せると、垂直抗力が増えて摩擦力が増える。ぜんまいの巻き方に差をつけて足の力を弱くしても、やはり背中に荷を背負っているほうが勝つ。
 たった200円+αでできるので、摩擦力の単元ではたくさん用意して生徒の机でやらせたい。ダイソーの「ぶた」は買い占めだ!

レインボウスティック 山本の発表
 東急ハンズで買い求めたLED光源のファンシーライト。RGB3色のLEDが仕込んであり、ボタンスイッチを押すごとに、発光の組み合わせが変わり、発色が七色に変化する。光の三原色の演示教材にもってこいだ。
 写真のものはハンズで¥660もしたのだが、例会の翌日、とある百円ショップで、もっといいのが100円で出ているのを発見してしまった。フラッシュスティック&ファイバーライトという商品名で中国製。発売元は株式会社セリアとなっていた。写真のものと同じ3色LEDのライトと、アクリルスティック、結束光ファイバー、そしてなぜか笛がセットになって100円だ。もちろん電池つき。ライトのアクションはレインボウスティックと同じ七色変化と、もう一つボタンがあってランダム変色のモードがあった。
 

真空ポンプが壊れたときは 鈴木さんの発表
 鈴木さんは、落体の運動の単元で、真空落下を見せようとしたが、本番を前に肝心の真空ポンプが故障してしまった。そこで、もしかしたら、YPC特製簡易真空ポンプでできないかと思いつき、挑戦してみた。簡易真空ポンプと真空落下実験装置の接続は、ゴムチューブを何種類かジョイントする。引く回数は100回程度。すると、完璧ではないにしても、ある程度のレベルで羽がストンと落ちるのを見せることができる。真空ポンプがあればこんなことをする必要はないのだが、簡易真空ポンプがこれだけの真空度を実現しているということを、あらためて実感した。
 

検風器 平野さんの発表
 箔検電器を正に帯電させ、上皿(金属板)のドライヤーの風を当ててみる。普通のドライヤー(左)の風には箔は反応しないが、「マイナスイオンドライヤー」と銘打つドライヤー(下)から出た風を上皿に当てると、箔はすぐに閉じ、さらに風を当て続けるにつれ再び開いていった。

 「マイナスイオン」なんてうそっぽい・・・と思っている人の多いYPCの面々は、「へー、本当に負電荷が放出されているんだ。」と驚きを隠さない。「じゃあプラスはどこに行くの?」などとひとしきり議論が盛り上がった。負電荷が放出されているのは確かだが、それが髪や身体にいいという結論ではないので念のため。

 

浮力再考 右近さんの発表
 水中の物体は,その物体が押しのけた水の重さだけの浮力を受ける,というのが,アルキメデスの原理である。しかし,もし水中物体が水槽の底に沈んでいたとしたら,その物体に浮力は働くのか。いままでこうした「浮力問題」を巡って多くの議論がなされてきた。
 現在高等学校では,浮力はその物体の受ける水圧の合力であると教えている。物体の形を直方体とすれば,上面が受ける水圧と下面が受ける水圧の合力は,上向きとなり,これが浮力である。大気圧を引いた水圧は水深に比例して増加するからである。
 もしこの直方体が水底に置かれれば,底面は直接底に接するので,当然上向きの水圧を受けない。これは2000年3月のYPC例会で高杉さんが水槽の中に発泡スチロールの物体を底まで沈め,浮き上がってこないことを実験で示された通りである。
 それでは,アルキメデスの原理を述べているアルキメデス自身は何と言っているのだろうか。彼は物体が着底している場合は浮力は働かない,と言っているのだろうか。それともアルキメデスの原理は条件設定が不十分なまま,長い間信じられてきたのだろうか。
 驚くべきことに,アルキメデスの著作「浮体ついて 第一巻」(世界の名著「ギリシャの科学」中央公論,ただしこれは命題の訳のみを掲載している。アルキメデスによる命題の証明はT.L. Heath, ed. The Works of Archimedes (Dover, 2002)で読むことができる)には,水中物体の密度が水の密度よりも大きい場合をちゃんと分けて,次のように書かれている。
 「命題7 液体よりも(比重の)重い立体は,液体の中に落とされると,底に沈み,そして液体の中における立体の重さは,立体の容量に等しい容量の液体の重さだけ,ほんとうの重さよりも軽くなるであろう。」
 もし,水槽内に台はかりを置き,そのはかりの上にこうした立体を密着させて置いたとしたら,台はかりの示す目盛は確かにその立体の受ける重力から,立体の容量に等しい容量の液体に働く重力を引いたものになる。アルキメデスは浮力が働くとは言わず,液体の重さを引いた分だけ軽くなると言っていたのである。もし,「重さ」という言葉を,物体を手に持ったとき,手が物体から受ける力であると解するのならば,彼の表現は適切であった言わねばならない。一方,水中物体の密度が水の密度よりも小さな場合には,アルキメデスは浮力が働くと述べている(命題6)。【参考文献】THE PHYSICS TEACHERVol. 42, May 2004

3D影絵ドーム 岩下さんの発表
 金沢の工房ヒゲキタの北村さんが科学の祭典に出展した3Dプラネタリウム(赤青の二個の豆電球で立体物の影をドームやスクリーンに投影し、これを赤青セロファンのメガネで両眼視する)に衝撃を受けた人は越さんばかりではなかった。岩下さんも、さっそく自作にチャレンジした。40人の授業で使えるように、あえて開放型のオープンドームとし、部屋全体を暗幕で暗くする方式をとった。
 苦労したのはフレームパイプを束ねる天頂部分の構造。PTAに板金加工ができる人がいて、特製のジョイント金具を作ってもらったという(写真下左)。写真下右は光源部の赤青電球。


 

巨大な虹をつくる 岩下さんの発表
 雨滴が太陽光を屈折反射して虹ができることをダイナミックに演示しようと、岩下さんは10リットルほど入りそうな巨大な水入りフラスコに、下から1kWプロジェクターで光を当て、教室の壁いっぱいに虹の輪を描かせる。一つの水滴が作る虹円錐の存在がよくわかる。フラスコは科学の祭典の出展者から譲り受けたものだという。

 なお、われわれが見る虹は、遠方の空中に浮かぶ無数の水滴が、それぞれ反射する光のうち、角度の条件を満たす色だけを見る結果、その集合体として認められる光の帯であって、左の写真のように投影されたものではないので誤解のないように。

巨大な空気望遠鏡 岩下さんの発表
 何でも巨大な実験器具が好きな岩下さん。写真は屈折式望遠鏡の原理を示す演示器具だ。大型フレネルレンズ2枚の組み合わせで両眼視できる望遠鏡だ。望遠鏡の向きはアーチ状のパイプで作った脚部でシーソーのようにして変える。こういったアイデアもさることながら、工作が実に手慣れている。それにしても、これが全部自腹とは・・・。なお、今回ご紹介しているのは岩下コレクションのごく一部に過ぎない。
 

光るTシャツ 高杉さんの発表
 今月のYPCニュースの巻頭言で高杉さんも話題にしていたが、一般の人にとっては、月の位置と形と時刻の関係は身近なようでいて、案外理解されていなかったりする。生徒に説明する機会があるときには、こんなTシャツを身につけているとより興味を惹くことができるかもしれない。月の位相変化が蓄光塗料で印刷されていて、暗い場所で光るようになっているのだ。MADE IN HONDURASで\2,900−(写真左)。アウトドア用品を多く扱っている衣料品店などで見つけることができる。
 一方、右の写真は、北アメリカ大陸の哺乳動物の足跡が光るインキでプリントされている。横浜ズーラシア動物園のミュージアムショップで入手。USA製 \3600−。インキの成分などは調べがついていないが、繰り返し洗濯すると剥がれ落ちてきてしまう。
 


 製造国も購入店も異なる2枚のTシャツだが、写真左のような同じステッカーが貼ってあった。探すときの目安になるかもしれない。インキの化学成分をはじめ、この他の「光るTシャツ」などに関する情報をお持ちの方は、高杉さんまで知らせてほしいとのこと。

磁場中で導体棒が受ける力について 平野さんの発表
 教科書は「電気ブランコ」の実験を,「電流の担い手である自由電子がローレンツ力を受け,この力の合力が導体棒を動かす」と説明している。しかし,なぜ自由電子にはたらいた力によって導体棒が動くのであろうか。

 平野さんは、『本当は,「自由電子にはたらくローレンツ力が,ホール効果によって導体棒にはたらく力に変換される」ので,磁場中に置かれた電流が流れている導体棒は動くのである。』と主張する。


H高の量子力学講座 平野さんの発表
 某H高校で、英語Iの授業で生徒に配布され、職員にまで配られたという資料。配布したのは同校の教頭(英語科)だという。

 曰く、シュレディンガーの猫について「…箱を開けて見るまでは猫の生死は決定されません。これは「不確定性原理」と呼ばれ、この世のすべての物は人間に知覚され意識されてはじめて現象として存在するようになると言われています」とか,ヤングの実験の紹介の部分で「その窓(スリット)の一方を意識的に閉じると、両方を開放したときよりもたくさんの縞模様が形成され…」などなど、けっこうトンデモな内容。

 誠実な理科教育の姿勢を土足で踏みつけられたような気がして、「これはもはや暴力だ。」と平野さんは憤る。

二次会 海老名駅前「魚民」にて
 11名が参加してカンパーイ。会場校の周辺には二次会のできる施設がないため、一時間に二本というバスにみんなで飛び乗って、海老名駅へでた。石灯籠の見える落ち着いた和室で静かに語り合うことができ、全員満足。


前の月の例会例会アルバム目次次の月の例会


YPCホームページ(本館)へすたのページ(別館)へ天神のページ(別館)へ次回例会のご案内