例会速報 2014/10/19 電気通信大学
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授業研究:静電気の授業 小沢さんの発表
小沢さんから「物理基礎」静電気の授業報告があった。すべてのものは原子からできていて、原子は電気をもっている。つまり、すべてのものは電気をもっている、という実感をもたせることをねらいとした授業構成だ。
帯電していない金属棒を糸で吊し、帯電棒を近づけるとどうなるか予想させた。引かれることを実験で示してから、電気を帯びていないものにも静電気力が働く理由を、金属の場合について説明した。その際、接している2個の金属球(実際は発泡スチロール球をアルミ箔で包んだもの)に帯電棒を近づけたとき、球から球に自由電子が移動して、球と球を離したあともそれぞれ電気を帯びていることを実験で示しながら説明した。
次に帯電していないガラス棒を吊して、帯電棒を近づけるとどうなるかを問う。金属と違って自由電子が無いから動かないという意見と、金属でなくても静電気力は働く、という経験からの意見に分かれる。上の金属球に代えて、小さなガラスビンで同じように実験する。自由電子がないので静電誘導が起こらないことを示したいのだが、実際は帯電棒を近づけすぎると失敗する。電荷の移動が起きてしまうのだ。ガラスビンの表面が清浄でないためだろうか。
最後にネギを吊して同様に行なうとどうなるかと問う。食べ物は別物で、引かれないと答える生徒もいる。実際に行なうと、もちろん帯電棒に引かれていく。なお例会では、「最後の発問はネギだろう」と、発問自体を予想してしまう参加者もいて、YPCの仲間はみんな同じように教材研究に励んでいるのだろうと感じた。
右の写真はもはや静電気実験の定番となった、山田善春さん考案のストロー検電器の実験。ストローは紙袋やティッシュでこすると負に帯電し、ケシゴム(塩ビ)でこすると正に帯電する。これを使って帯電体の正負が判定できる。
右の写真は二枚の金属板にはさまれた空間の電界の有無を示す実験。上下の金属板を導線で結ばないときははくが開くが、両者を導線で結ぶと金属板の間は等電位となり電界がなくなる。
このことから金網ではく検電器の周りを囲うと静電遮蔽が起きることを理解させ(写真左)、アルミホイルで包んだ携帯電話は外部の電波を受信できないことを示して、日常の体験との接点へと導く(写真右)。次から次へと繰り出す実験が有機的に結びついて、生徒を誘導していく組み立てになっている。
定電流抵抗器の提案 山本の発表
小学校の理科にもコンデンサーが登場するようになった。抵抗、コイル、コンデンサーはいずれも重要な電気回路素子で、身近にもたくさん見かけるのに、これまでコンデンサーだけがのけ者にされてきて、高校の物理の後半になってやっと登場するのはなぜだったのか。それは主にコンデンサーが蓄える静電エネルギーが、電球を光らせたりモーターを回したりという、子どもにもわかる顕著な現象を起こせないほど小さかった時代の教育課程が踏襲されていたからなのだろう。大容量電気二重層コンデンサー(写真左)の登場により、コンデンサーは二次電池に代わり、短時間に充放電できる電源、文字通りの「蓄電器」として活躍の場を広げており、小学生にもわかる実験ができるようになった。
ところで、高校でコンデンサーの定量的実験を行うときにぜひほしいアイテムは「高入力抵抗電圧計」と「定電流装置」だが、前者はデジタルマルチメータ(テスター)の普及で解決されたものの、後者はこれまで高等学校でもあまり普及していなかった(写真右)。これを普及させようというのが本発表の趣旨である。
定電流回路自体はFET(電界効果トランジスタ)の基本応用回路であり比較的簡単に作れる。見慣れない装置としての敷居を低くするために、一円玉用のコインケースに実装して、写真のような形状とし、「抵抗器」と同じように回路の途中に直列にはさむだけという取り扱いの手軽さと低価格を狙った。電源は普通の電池や直流電源でよい。内部の半固定抵抗で電流値を設定することができる。
左のグラフが今回製作した定電流回路の電流特性である。低電圧側での立ち上がりのよいFET、2SK30A-GRを使用した。約3V以上の電圧があれば、およそ0.4~4mAの範囲で安定して電流を一定に保つ。コンデンサーの充電実験は上の写真のようにテスターに配線するだけで手軽に行える。右のグラフは1Fの電気二重層コンデンサーの充電曲線である。試料のコンデンサーは内部抵抗が30Ωもある廉価品だが、電流値をmAオーダーに抑えれば内部抵抗による電圧降下はさほど気にならない。詳しい発表資料はここ。キットの入手情報はここ。
珍しい電池 山本の発表
家で普通に使っていた単三アルカリ電池が放電したので交換した。捨てる前に念のためバッテリチェッカーにかけたときに、「ん?!」と思った。この電池は珍しい。改めてテスターで測ってみる。リードの極性は間違っていない。さて、何が珍しいのかわかるだろうか。そう、マイナスサインがともっている。つまり、わずかだが起電力の極性が逆転しているのだ。なぜこんな事が起こるのかは全く不明。皆、初めて見た現象で、説明できる人はその場にはいなかった。
ホイートストンブリッジの双方向型授業 勝田さんの発表
ホイートストンブリッジ関連の実験と言えば、1mものさしにニクロム線を張った「メートルブリッジ」が定番だが、勝田さんは生徒がブリッジ回路における抵抗の比の式だけを暗記しているような気がしてならない。そこで、あえて演示実験を軸に、生徒間で議論をする形式を取ってみた。議論の課題は
(1) 可変抵抗の値を非常に小さくしたとき、検流計を流れる電流の向きは?
(2) 可変抵抗の値を非常に大きくしたとき、検流計を流れる電流の向きは?
がメインである。(1)と(2)で電流の向きが逆であることからどこかに「電流がゼロになる可変抵抗の値」があることに気づかせ、そこからブリッジ回路によって未知抵抗を求めるというアプローチを取った。
勝田さん自身、授業はまずまずだったと自己評価したが、写真にも示したアプローチ段階の課題では、もっと基本的な素朴概念(電流消費説、電池が定電流発生装置、などの誤解)につまづいている生徒(高校生)もまだまだ多く、中学段階で定性的な課題で徹底的に予想と実験を繰り返すということが必要だと感じた。
水平投射・斜方投射の飛距離予想 森脇さんの発表
水平投射で高さを同じにして、初速度の大きさを2倍にすれば、飛距離は2倍になる。それでは斜方投射で初速度の大きさを2倍にしたら飛距離(水平到達距離)は何倍になるだろう。
生徒に予想させ、実験で確かめる。そんなわくわくする授業を森脇さんは展開している。左の写真はその実験装置。射出時の速さはビースピで実測している。
力学的エネルギー保存の法則 森脇さんの発表
なめらかな斜面を下っても、自由落下しても、落差が同じなら速さは同じになる。力学的エネルギー保存の法則が教えるところだ。森脇さんはこれを黒板実験でダイナミックに示す。下の写真がその実験装置だ。
左端に自由落下用のパイプがある。ここに鉄球を落下させ、ビースピで速さを測る。一方、斜面は力学台車を滑走させる。金属球を転がすのでは回転運動にエネルギーが分配されてしまうからだ。最下点での速さはやはりビースピで測る。黒板に貼り付ける台車滑走レーンの工作に一堂の注目が集まった。
光の三原色の実験 車田さんの発表
ノーベル物理学賞発表後の10月8日の理科選択授業「サイエンス」での生徒実験の報告。最初に赤と緑のLEDの足にリチウムコイン電池を挟むだけで光らせて、合成色を作らせた。次に青色LEDが登場!これがノーベル賞のLEDだということはどの生徒も分かった。赤・緑・青の三色の組み合わせでいろんな色ができることを確認し、最後に白色を作る実験を「ノーベル賞実験」として行った。青色LEDができたことで、信号機や蛍光灯に代わる消費電力が少ない照明などとして私たちの身の回りに普及したことを理解してくれたようだ。
最後に数人が集まり写真のようにきれいな白色光を作って楽しんでいた。
光の三原色ボール 車田さんの発表
2012年12月の第12回全国科学教育ボランティア研究大会in愛知で、愛知の奥谷和彦さんが紹介したアメリカ輸入の教材である。ボールの中に赤・緑・青のLEDが点滅している。見た目には、点滅は分からないが、ボールを動かすと色が分かれて見えるようになる。商品名は「mysterious
glowing ball」。理科ハウス(http://licahouse.com/)で1500円で販売している。
水中エレベータ・その後 越さんの発表
越さんは2014年8月の例会で紹介した水中エレベータ(北野貴久さん・村田直之さん考案)を自作してみた。ワインのペットボトルを用いたが、普通のペットボトルに比べ首の部分が長く、チューブが肩の部分で斜めになって引っ掛かることもなく具合が良い(写真左)。チューブに取り付けるネットは、ダイソーの三角コーナー用の水切りネットを用いた。このネットは多少伸びるので、大きくなった網目から気泡が漏れてしまう事がある。チューブの下側に巻き付けるおもりはハンダを用いた(写真右)。
フタには2つ穴を開け、片方にL字型に曲げたモールを引っ掛けた(写真左)。ただし、モールだと芯の細い針金がやがて錆びてしまう。穴にはガーゼなどを巻いたものを詰めた方が良いようだ。穴の径も2~4mmの間で試したが、詰め物との組み合わせにより水滴が落ちる時間間隔が変わり、チューブの上下動のインターバルも変わる。モールの場合は小さめ、ガーゼなどの場合は大きめの穴の方が、水のしたたり具合が丁度良いようだ。
「間違いだらけの物理学」の間違い? 山本の発表
神戸大学名誉教授松田卓也氏の新刊、学研科学選書「間違いだらけの物理学」(学研教育出版)を読んだ。物理の世界でまことしやかにまかり通っている俗説を歯に衣着せずに暴いていく痛快な書だ。曰く「驚くべきは、専門の教授さえも間違っていることです!」。しかし、いくつか気になる記述もあった。
ニュートンの運動の法則について、「第一法則(慣性の法則)は第二法則に含まれます。」「第三法則も第二法則から導かれます。」などの記述はいただけないし、自由落下するエレベータ内の慣性力に関する記述、「地上の人はこうも解釈できます。『エレベーターは下に向かって加速運動をしている。だから上向きに見かけの力が働く。重力とみかけの力がちょうど釣り合って、無重力みたいに見えるのだ』」は、明らかに観測者の立場を取り違えている。松田氏はジャパン・スケプティクスの会長でもあるだけに残念だった。
てこの原理 水野さんの発表
「朝日小学生新聞」10月6日号の「ひろがる理科」という記事で「てこの原理」を取り上げている。その中で「手こぎボートのポール」を例に挙げ、支点、力点、作用点がどこかを問題にしている。水野さんはその答えに疑問をいだいた。
記事では支点がオールの先、力点がオールを持つ点、作用点がボートとオールが接している点としていた。その説明では、漕ぐときオールの先は水中で固定されている、としていた。はたしてこれでいいのだろうか?オールの先が固定されているならボートは弧を描いて水面から出て進むことになる。実際にはボートはこんな進み方はしない。
水野さんが出版元の朝日学生新聞社に電話で問い合わせたところ「参考書でも同じような解説をしている」という返答だったそうだ。その時紹介された文英堂の中学受験参考書「受験理科の裏ワザテクニック」を購入してみると、なるほど「朝日小学生新聞」と同じ問題と解説が記載されていた。「さて、みなさんはどう考えますか?」という水野さんの問題提起だった。
いちえふ 車田さんの書籍紹介
「いちえふ(=1F)」とは福島第一原子力発電所の現地での通称で、「F」は福島を指す。「モーニング」に連載されている、福島第一原発作業員が描く渾身の原発ルポルタージュ漫画だ。2巻も最近出版された。これまでYPCでは、「いちえふ」が全く話題にならなかったので紹介した。除染の苦労が事細かに描写されている。
竜田 一人「いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(1) (モーニング KC) 」講談社¥626
電通大のミニ・エクスプロラトリアム 竹内さんの発表
例会の最後に今回の会場となった電通大の80周年記念館の2階に竹内さんが開設しているミニ・エクスプロラトリアムを見学した。以前の例会で画像で紹介のあった立体ゾートロープの実物(左)が展示されていた。右は両手でアルミと銅の電極に触れると起電力が発生する人間電池の実験。
国内外のおもちゃも展示物に含まれている。素朴だが科学の原理が目に見える形になっている。原理の見えない電子ゲームなどではなく、こんなおもちゃで子どもに原体験を積ませたいものだ。
左はハーフミラーが作る無限鏡像が奥行きを感じさせるミラクルトンネル。右は、古いブラウン管式テレビの画面に磁石を近づけると電子線がローレンツ力で曲げられてゆがみや色ずれが起きる実験。液晶テレビの時代になって廃棄された古テレビやモニターも実験材料としてはまだ活用できるのだ。
二次会 調布駅前天神通り「海南記」にて
20名が参加してカンパーイ!電通大例会の時はいつもお世話になっている天神通りの中華料理店で、常連さんに加えて久しぶりの人、初めての参加者もまじって親しく飲み交わした。このアットホームさ、敷居の低さがYPCのウリである。
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