例会速報 2014/11/24 慶応義塾高校


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授業研究:ピア・インストラクション型「仕事とエネルギー」の授業 平本さんの発表
 今年度、新採用で任地に赴いた平本さんは、さっそく4月からPI型授業を実践してきた。例会では仕事とエネルギーの単元について、授業展開とPIの問題を議論した。
 現任校にはクリッカーの設備はないので、右の写真のような色紙を配って、回答番号に対応する紙を一斉にあげる方式をとっている。
 

 一連の報告について、参加者からは、
・「教えるべき箇所」と、「議論を通して概念を獲得させる箇所」の区別を明確にして、PI問題を選定した方が良い。
・「どういう議論をして意見が変容したか」に注目した方が良い
・答えを提示したあとにディスカッションがあってもよい。
・問題が難しいときは、細かく議論ができるように、ステップを踏ませる。
・選択肢中には、正解だけでなく理由を混ぜても良い。
・実物をできるだけ見せた方が良い。
などの助言があった。
 

 以下は例会後の平本さん自身のコメント。若い力に大いに期待したい。
 これらの助言を受けて「議論が活発に進められる工夫」、「(問題によっては)解説前の議論の導入」、「議論の様子の記録」など、問題を大切に扱う工夫をしていきたいと思います。また、初学者に対して物理を教えるという事情を踏まえ、実物を見せたり、議論前の知識を定着させることを意識しながら、授業改善をしていきたいです。
 

続・定電流抵抗器の提案 山本の発表
 前回例会では2SK30A-GRというFETを使用した定電流装置を提案した。その電流範囲はおよそ0.4~4mAだった。これを「定電流抵抗器・Aタイプ」と呼ぶことにする。これに加えて、今回は電流値10倍化計画で、6~60mAをカバーする「定電流抵抗器・Bタイプ」を開発した(写真左)。使用したのは可変形3端子レギュレータIC、LM317Tである。右のグラフの通り、電源電圧3V以上で安定したよい電流特性を示す。
 

 A,B両タイプをどのように使い分けるかも考えた。コンデンサーの充電実験を例に取ると、内部抵抗が大きい(安い)電気二重層コンデンサーでは、充電電流を大きくすると、内部抵抗による電圧降下が無視できなくなり、生徒にとってはグラフの解釈がむずかしくなる。その点、電流値が小さいAタイプなら、内部抵抗はほとんど気にしなくてよい。測定もゆっくり時間をかけて行える。一方、内部抵抗が小さい(3Ω以下)電気二重層コンデンサーが試料として使える場合は、Bタイプでも左のグラフのように電圧降下はさほど気にならない。この電流値なら、生徒用のアナログ電流計・電圧計でも実験ができる。ただし、たちまち耐電圧に達するので、測定は10秒ごとなどと慌ただしいものになる。
 別の用途として、LEDを光らせるための制限抵抗として使用するには20mA前後をカバーできるBタイプが適当である。電源電圧をほとんど気にせずに、一定の光量でLEDを発光させることができる。詳しい発表資料はここ。キットの入手についてはここ
 

ソラール・寺田さんのタブレット顕微鏡 市原さんの発表
 所用で防府に行く機会を得た市原さんは、YPCメンバーの寺田さんがいらっしゃる「青少年科学館ソラール」を訪ねた。館長の寺田さんに、最近はまっているというスマホ(タブレット)顕微鏡を紹介してもらった。直径2mmのガラス球を、スマホまたはタブレットのカメラレンズ(インカメラ側)に取り付けるとレーウェンフックの顕微鏡と同じ仕組みになる。ガラス球をカメラに取り付ける方法は色々あるが、簡易的にはセロハンテープでもよい。テープのしわが気にならないようにうまく貼る。ボールペンの先端などを観察すると、ボールペンのボールの形もよくわかる。既製品でスマホ顕微鏡のLeyeもあるが、価格はこちらの方が圧倒的に安くつく。詳しくは「ソラール館長ブログ」を参照されたい。
 

ARSデータ分析ソフトの紹介 西村さんの発表
 西村さんは、共同研究者の秋山教諭と、いわゆるクリッカーのようなARS(Audience Response System, 聴衆応答システム)を活用しての授業改善に取り組んでいる。具体的には、生徒個別の学習状況をARSデータで把握し、それに基づいた形で形成的評価を行おうというものである。ARS回答データは、付属のソフトウェアのレポート機能により、Excelデータにすることができる。このデータを上記の分析を行いやすくするために構造化するソフトを秋山教諭が開発し、例会で西村qさんから紹介があった。ソフトは、ExcelのVBAマクロでプログラムが組まれており、「クラス全体の回答状況」や「個別の生徒の選択肢別回答時間」などを視覚的に表現するような仕様になっている。参加者からは「回答時間」を分析の視点とすることやARSでのデータの取り方についてなど、様々な意見が出た。西村さんは「頂いた意見を今後の授業改善に生かしていきたいと思う。そして、公開授業&研究協議会の場で良い報告ができるよう、努力していきたい。」とのコメントを寄せてくれた。今後の研究成果に期待したい。
 

ばねの実験 武捨さんの発表
 武捨さんは中学1年生の生徒実験としてばねの実験を行った。フックの法則を確かめる実験といえば、「おもりの個数(吊るす物体のおもさ)」を決めて、そのときの「ばねの伸び」を測定するのがふつうだが、グラフの横軸(自分で決めるもの)に「ばねの伸び」を、縦軸(測定するもの)に「物体がばねから受ける力の大きさ」をとらせるために、「ばねの伸び」を決めて(指定して)、その伸びになるような「おもりのおもさ」を測定させた。
 

 例会では、「やはりおもりの個数を先に決める方が自然だろう」、「従来のやり方で、グラフの縦軸と横軸だけ入れ替えたらいけないのか」、「実験で は比例することだけを確認させて、ばね定数のことは後でもいいのではないか」などの意見が出された。一方、「制御変数を横軸に取っているのだから方法として間違ってはいない」との意見もあった。
 使用したばねは初張力があり、グラフは直線になるが、原点を通らない(写真左)。そこであらかじめ弾性限界を少しだけ超えるように手で伸ばしてばねの巻いて いる部分にすき間を作った。すると原点を通る直線が得られた(写真右)。例会では、肯定的な意見が多かったが、「職人技的なところがあるので、すべてのばねを同じ状態に合わせるのは難しいだろう」という意見が出された。
 

フレミングの左手について 田代さんの問題提起
 フレミングの左手の法則…対応させる指は「力」が力強い親指になるように「電・磁・力」の順とする。多くの現場ではこのような扱いをしているだろう。最もポピュラーな覚え方だが、この方法の難点は電流と磁場の向きによっては左腕の筋がつりそうになることだ。左手の中指を独自の向きに向けようとするから無理が出るのである。
 左手の4本指を平行にそろえ親指だけを直角に立てて、中指を突き出す代わりに手のひらの向きを電流の向きとする方法なら無理が軽減される。他にも右手をパーの形に広げて、親指が電流、4本指が磁力線の向き、手のひらの向きが力、と対応させる方法もある。これは直線電流が電流を中心につくる同心円の磁力線を示す「右手親指の関係」で使った指をそのまま使えるのが便利だ。
 ベクトルの外積の手法だけを借りて、電流の向きから磁力線の向きへ90°向きを変えるその回転で右ねじが進む向き(右手を握って親指の向き)が力の向きとしてもよい。
 さてこのように色々な方法があるのだが、フレミングの左手の法則はどう扱うべきなのだろうか。フレミングの左手の法則を扱わずに教える側が各自好き勝手に教えていては生徒はその後混乱するだろう。他の便利な方法を教えるにしても、スタンダードの位置を占め、教科書にも載っている「フレミングの左手の法則」は一応扱っておくべきだという意見が出された。

二次会 日吉駅前浜銀通り「小青蓮」にて
 17名が参加してカンパーイ!いつもの中華料理屋で多数が参加。科学談義はここでも続く。毎度のことながら、おいしい中華をたらふくいただいて、飲み放題付き3000円は安い!


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