2010年2月20日(土)愛知工業高校での例会の記録です。


 2010年最初の例会は、PDエアロスペース(株)社長 緒川 修治 さんに講演していただきました。
 緒川さんは、名古屋生まれで、現在、名古屋市緑区有松にPDエアロスペース株式会社を起こして社長を勤められています。パルスジェットエンジンの開発など独自の技術開発に取り組んでおられ、有人宇宙ロケットの開発も目指しています。
 愛知の企業家として、新しい技術開発の技術者として、自身が宇宙開発を目指すに至った歴史や、会社の将来計画、そして、現在の学校教育に対して抱いている思い、要望などについて話していただきました。
 エンジンの模型や映像等で、わかりやすくかつ大変楽しい講演でした。 例会にも最後まで参加いただき、大変意義深い交流ができたことを深く感謝いたします。

 PDエアロスペース株式会社のホームページ:
    http://www.pdas.co.jp/
   
 民間宇宙ベンチャーの取り組み (緒川さん  

 宇宙開発といいますが、どこからを宇宙というのでしょう。
 一応の目安として高度100km以上を宇宙といいます。
 宇宙開発といえば、国家レベルと考えてしまいますが、民間で宇宙開発を推し進めるための契機になったのが X Prize でした。 これは、民間による最初の有人弾道宇宙飛行を競うコンテストの名称です。
 1. 民間資金で宇宙船を建造
 2. 14日間以内に同じ宇宙船で2回飛行を行うこと
 3. それぞれの飛行で、3人を高度100kmに運ぶこと
 4. 地球に安全に帰還すること
 5. 事前に設定した着地点の5km以内に着陸すること 
 これらの条件をクリアーした会社に賞金1,000万ドル(約10億円)が与えられるというものです。
 
 2004年にアメリカのスケールド・コンポジット社開発の宇宙船スペースシップワンが先の規定をクリアーし賞金を獲得しました。
 ( スペースシップワンはジェット機で高高度まで飛び、そこからロケットを打ち出すペア型のロケットです。それぞれの機にパイロットがいます。)

 ここで、宇宙への旅行ビジネスの技術的基礎が確立しました。
 宇宙旅行といっても、3分ぐらいの無重量飛行なのですが、それでもすでに多くの予約が入っています。ちなみにお値段は約1800万円ぐらいです。日本人も3人の予約が確定しています。
 
 2021年ごろには宇宙旅行の市場は、世界で1600億程度になるだろうという予測があります。

 JTBも宇宙旅行を販売しており、すでに予約がたくさん入っているようです。
 また、日本でも宇宙葬などもこれから需要が増してくると思われています。
 (宇宙葬は遺灰をロケットで打ち上げ軌道上に載せるというもの)

 宇宙飛行は、旅行のようなサービス産業だけでなく、微小重力環境を利用した半導体や薬の開発、正確な天気予報などのための大気観測、地球環境に関する調査など多岐にわたっての需要があります。
 しかし、市場規模はまだ大きくはありません。大手の企業は利益にならないので手を出しにくいのです。ベンチャー企業が活躍する素地がここにあります。
 ところで、従来型のロケットは燃料と酸化剤を積み込んで打ち上げます。燃料を宇宙に運んでいるといってもいいぐらいです。といってジェットエンジンでは空気がないところは飛べません。
 スペースシップワンのようなペア型は2つの機体とエンジン、パイロットが必要になります。
この複雑さはビジネス面ではコスト高の要因になります。

 そこで、空気のあるところではジェットエンジンモード、空気のないところではロケットエンジンモードで動く、単一エンジンができれば、輸送コストを大きく削減できます。
  今研究中なのがこのエンジン「燃焼モード切り替え型PDE」です。
  パルスデトネーションエンジン(PDE)は、タービン方式に取って代わる航空宇宙推進用エンジンとして現在日欧米で極めて大きな注目を集めています。デトネーション波(爆轟波)は、伝搬する媒質からエネルギーを取り出す速度が極めて大きいので、このようなデトネーション波を利用すると、これまでのエンジンシステムを超小型化することが可能となり、また熱効率が格段に向上します。パルス状にデトネーション波を発生させ、反作用で推力を得ることができます。

 パルスジェットは出力コントロールができないといわれていますが、燃料供給量を変えることで少しのコントロールが可能です。 
   2007年5月に設立したPDエアロスペース社は研究開発だけでなく、これまでの成果を製品化し販売しています。
 2009年には小型パルスジェットエンジン(教育用)も販売開始しています。
  その成果の上に企業として第2ステージに入ろうとしています。

 将来的には、低コスト有人ロケットを開発し、旅客用2点間飛行ロケット、人工衛星投入ロケットなども手がけていきたいと考えています。

  
 
 将来なりたかった職業の一覧です。
 最終的に宇宙飛行士になりたかったのですが、日本では狭すぎる門でした。
 そこで、自分でロケットを作って飛ぼうという夢がわいてきました。
 ( 父がエンジンの研究をしていて小さいころから手伝っていました)
 その夢が現在につながっています。

 その父から言われてきたことは
 将来の計画を立てよ。  
 困難にぶち当たったら、山の下を掘っていけ(一番困難なやり方を選べ)。
 やりたいことがあるなら、それは一人でもやりたいことなのかよく考えよ。
   等です。
 
 現在、起業し、会社の社長として企業理念を語る立場にあります。
 企業理念は
  一、技術をもって社会に貢献する。
   一、宇宙、地球、自然、人類との調和を保つ。
   一、存在を期待される企業を目指し、その活動の中で自己の存在意義を明らかにする。

 
会社の社訓は
   一、不屈のチャレンジスピリットこそ、原点とせよ。
    一、道が無ければ己で作れ。
    一、改良ではなく、Innovate(創造)せよ。
    一、時間、空間は有限であることを理解し、行動せよ。
 です。
 
  学生さんたちと話をしていると、自分のやりたいことがない人が多すぎるように思います。 学生の間に自分の人生についてしっかり考え、失敗を恐れず歩んでほしいと思っています。
 パルスジェットエンジンです。本体は、細長い容器に、点火プラグと燃料注入ノズルがついているだけのシンプルな構造です。
 少し細くなったテールパイプの長さや中心部の容積などがマッチすることで効率の良い燃焼が持続するようです。
 理論化できていない部分もあり、最適化に向けては試行錯誤の連続だそうです。
<質問>
 パルスジェットエンジンは騒音が大きいのではないですか。
   150dBぐらいの音が出ます。バイクが目の前でエンジンをうならせているぐらいの音です。
 ただ、製品化したものは60dBぐらいに低減化してあり、問題ありません。
 このエンジンでは、音の問題は永遠の課題ともいえます。
 
<質問>
パルス燃焼だと効率がよい理由はなんですか。
 流体が流れるときに、容器の壁に境界層ができ、これが動きを妨げます。爆発的な燃焼が繰り返されるパルスジェットではこの境界層をはがして流れるので動作効率を上げます。
<質問>
 エンジン内はかなりの高温になりますが、NOxの発生は大丈夫ですか。
 パルスジェットエンジンは排気ガスを一部吸引する形になるので、排気ガス再循環(EGR)が起こり、燃焼が緩慢になり、NOx の発生が抑制されます。発生量は普通のエンジンの1/50ぐらいです。
<質問>
 大気圧中でのエンジンの効率はどのくらいですか。
 パルスジェットエンジン(PJ)の内圧は2気圧、パルスデトネーションエンジン(PDE)は30気圧程度です。内圧が高いほど大きい推力が得られます。
 
<質問>
 設計段階からテスト飛行、実用化の経過の中で、想定外のことがたくさんありますか。
 その通り。失敗の連続といっていいです。現れる現象の一部は先人の知恵を借りて解決したり、専門家の知恵を借りたり、自分たちで試行錯誤を繰り返して最適値を求めたり、様々な方法で乗り越えます。
 大事なことは、失敗してもめげないことです。失敗から得ることも多いからです。
<質問>
 エンジンの燃焼の共鳴振動数などは理論化できているのでしょうか。
 
 原理的にはヘルムホルツの共鳴理論ですが、実際には試行錯誤で決めることが多いです。
<質問>
 学校に望むもの、理科教員に望むものは何ですか。
 生徒が、失敗できる環境を学校の中に作る必要があるのではないでしょうか。

 エネルギー変換効率 (前田さん  
 手回し発電機を使って、力学的エネルギーから電気エネルギーへの変換効率を求めてみました。

 手回し発電機の手回し部分をとりはずし、そこにプーリーをつけます。丈夫な糸に1kgの重りをつけてプーリーにつなぎます。重りを手放すとほぼ等速度で落下していき、出力につないだ電流計と電圧計は一定値を示します。

 実験前は、最初重りは加速度運動をするので、電流と電圧の値は変化してうまく測れないのでは、と予想していましたが、やってみると、重りは最初からほぼ等速運動で落下するではありませんか。これならうまく測定できますね。
 測定値は、1.0kgの重りが1.0m落下するのに9.0秒。
 電流計、電圧計の値は260mA,1.2V。
 重りの落下による仕事率は、1.1W、発電の電力は0.31W,
 ∴変換効率は約28%になります。

 発電効率としてはマアマアの値といえるのでしょうか??
 プーリーの径を変えると、効率が変化するような気がしますがどうでしょう。

 何でもやってみるというのは大事ですね。
 

 質点の落下と剛体の落下 (前田さん  
重りに触らずに、容器の中に入れよ! が問題です。

 答は、板を適度に傾けてから板を離す、です。

 写真から適度な角度の意味がわかりますよね。
 
 次は、1本の棒の各所にコインを置きます。
 棒の端を回転軸として回るようにしておき、水平にした棒から手を離すと、どこまでのコインが棒を離れるでしょうか。
 問題を別の言い方で表現すると、「棒の各点は回転軸からの距離に比例する加速度で落下しはじめます。重力加速度を超える加速度で落下すればコインと棒は離れることになります。重力加速度と同じ加速度で落下する棒の点はどこでしょう」ということになります。

 やってみると、肉眼では差がはっきりしません。正確に測定するなら、高速ビデオで撮影してスローモーション映像で確認する必要がありそうです。
 
 石川さんが、理論的な答えを出してくれました。

 左端を回転軸とする一様な棒の慣性モーメントは 1/3・ml2 です。
 棒が受けるトルクから角加速度βが出ます。

 重力加速度と同じ加速度になる点は、左端から 2/3l ということがわかります。


 リニア運動型コンパクト静電発電機 (林さん  
 塩ビパイプと不織布の摩擦電気を、アルミ板で作った円筒形の胴体部にためる静電発電機です。原理はバンデグラフと同じです。
 胴内部には金網がいれてあり、塩ビ表面の電荷をあつめて胴体部にためるようになっています。
 乾燥した日なら3,4ストロークで5万V発生できます。

 不織布でアルミ箔をつつみ、本体下のアルミシートにつなぎます。

  中心に金網がいれてあります。
 本体の下には胴部と絶縁してアルミシートが引いてあります。シートにつないだ電極を胴に近づけると、5cm程度の距離で放電が起こります。
 なべを使ってさらに大型化したものがこちら。
 不織布などの部分は、塩ビの継ぎ管に入れ込んで、装置をくみ上げればすぐ動作可能な形態にしてあります。

 こちらは10万Vの発生も可能です。

ためた電荷を、中空コイル(1500回巻)を通して放電すると、内部に置いた鉄を磁化できます。
 瞬間的に、かなりの電流が流れているのでしょうね。 
 筒の内部が空洞になっていて、鉄棒を入れることができます。  針金がくっつきます。鉄が磁化されたことがわかります。
     
 それにしても、こんな大型装置を作ってしまうのはすごい。小型のほうはストローク中に手にビリビリ来るそうですから、コンデンサに電荷をためなくても百人脅しができるかもしれませんね。

 <参考> 人力高圧発生装置

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