例会速報 2004/09/23 鎌倉学園中・高等学校
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授業研究:物理的センスを問う試験問題 山本の発表
前任校時代から、定期試験の冒頭に、10点分ぐらい、「物理的センスを問う問題」を出題している。ほとんどは計算を伴わない問題で、正誤訂正式。文章が正しければ○を、まちがっていれば下線部と置きかえると正しい文章になる語句や文を回答欄に記入させる。
例えば「質量が同じ物体では加える力が大きいほど速度が大きい。」→加速度
という具合。法則や現象の物理的要点がおさえられているかを問う。
「真上に投げた物体が達する最高点の高さは初速度に比例する。」→初速度の二乗に比例
のように、若干の計算力を要するが、エネルギーの概念に達していれば、直観的に回答できる問題もある。
通過率は5〜6割で、面白いことに数学的な計算力との相関はないように見える。つまり、他の問題がよくできていてもこの問題の正答率が低い場合や、その逆があり得るということである。
ボウリング球は水に浮く? 高杉さんの発表
ボウリングの球は水に浮くか沈むか。高杉さんが紹介してくれたのは、インターネット上で見つけた2枚の写真。
http://jchemed.chem.wisc.edu/Journal/Issues/2004/Sep/Images/JCE2004p1312Afig2.gif
http://www.dcn.ne.jp/~bakaichi/gif/submerged.gif
一方は浮いて一方は沈んでいる。どっちが本当なの?
詳しくは次号、YPCニュース本文をごらんいただきたい。
物理チャレンジ2005 江尻さんの発表
2005年はアインシュタインの有名な3論文が発表された「奇跡の年」から百年目にあたり、「世界物理年」の記念イベントがグローバルに展開される。わが国でも日本物理学会など関係学会の主催で、高校生等を対象とした日本で初めての物理学に関するコンテストがおこなわれる。
参加者を合宿形式で一堂に集め,物理学の理論問題と実験課題を課してその成果を競う。国際物理オリンピックのスタイルに準じたものだ。
詳しい情報は、ここ→http://www.wyp2005.jp/jp/challenge/index.html
野菜電球 山本の発表
右近さんがAJPの記事から発掘してきた実験を追試、発展させてみた。もともとはelectric
pickleすなわち「電気ピクルス」とでも言うべき実験で、欧米では割と有名な電気実験らしい。キュウリのピクルスに電極を差し込んで、商用交流を加えると電球のように発光するというのである。
ピクルスが光るならわが国のキューリ漬けやラッキョウやタクアンも光るだろうということで、例会の席で試してみることになった。
仕入れた材料は、ピクルスのビン詰め、ラッキョウのビン詰め、キュウリの浅漬け、タクアン、明太子である。塩分濃度による違いを見るためにキュウリとタクアンは飽和食塩水に4時間ほどつけ込んだものも用意した。
まずは元祖「電気ピクルス」である。フルーツフォーク2本を両端付近に深くさし、スライダック経由で交流電源に接続。次第に電圧を上げていくと、70V付近から顕著な発熱があり、フォークをさした付近で組織液が沸騰して、湯気が出るのが観察される。ピクルス全体も膨張する。さらに電圧を90Vから100Vに上げると、一方のフォークの付近がパチパチという音と供に断続的に光るようになり、次第に連続した光方に変わっていく。
光の色はオレンジ色で、直視分光器による観察で、ナトリウムのD線に対応する線スペクトルが観測された。
お次はラッキョウである。小さくて電極の間隔が狭いので、比較的低い電圧で発光が始まり、フォーク付近から短時間のうちに炭化が進んで、最後にはショート状態に近くなり、やや危険だった。
発光はやはりオレンジ色で、ナトリウムのスペクトルだと思われる。
続いてキュウリの浅漬け。やはり一方の電極付近がオレンジ色に発光する。特に塩分濃度を高めなくても、浅漬けのままで十分発光することがわかった。
圧巻はタクアンだった。フォークを深くさして100Vを加えると、非常に明るく輝く。太いので明るくてなかなか見事である。まるで電球のようだ。直視分光器でナトリウムの輝線を確認した。実験後、タクアンを切断してみると、右の写真のように光っていた方が炭化が進んでいることがわかる。以上のことから、野菜電球の発光のしくみを以下のように推定した。
ピクルス・タクアンにフォークなどをさして電流を通じると、電流密度はフォークの近傍で高く、熱の発生は電極付近に集中する。組織液の沸騰が起こり、水分が蒸発して炭化するのも、電極付近が早い。炭化が進むと電極との接触が不良となり、アーク放電が起き始める。炭化した組織の中に析出している塩化ナトリウムのナトリウムが、アークのプラズマ中で励起されて光る。アーク放電は場所を交替しながら間欠的に起こる。ナトリウムは消費されないので、発光は持続する。
電気明太子 山本の発表
野菜ではないが、明太子も塩漬けで水分が多いので同じように光らないかと実験してみた。予想通り電極付近が焦げると、アーク放電を生じ、オレンジ色に輝いたが、野菜に比べ導電率が低く、あまり景気よくはない。電極間が熱で水分を失い、白っぽく焼き上がると、もはや発光は見られなくなった。タンパク質が焦げるにおいもきついので、あまりおすすめしない。
授業用パワーポイント教材 水上さんの発表
水上さんが学校の波動の授業で実際に使っているパワーポイント教材を披露してくれた。流れるようなアニメに見えるが、実はパワーポイントのスライドショーを早送りしているだけ。したがって、任意の場所で止めたりコマ送りも自由自在。要所要所で止めて解説を加えながら、必要なときに動かすことで、効果的に授業を進めることができる。素朴だが実用的なアイデアだ。
RC回路 山田さんの発表
RC直列回路での過渡的応答は、コンデンサーの電気的特性を示す実験として、特に大容量コンデンサーとデジタルマルチメーターの組み合わせで、実施されることが多いが、山田さんは二現象オシロスコープとファンクションジェネレータを使って直接観察する生徒実験を実施した。参考にしたテキストは名古屋工業大学物理学教室編「物理学実験第5版」。
使用したファンクションジェネレータAD-8623は、秋葉原で2万円弱で購入できるという。多機能ながら意外と安い。
クーロンメーターと紫外線灯の謎 益田さんの発表
チャージしていないクーロンメーターに、殺菌灯を近づけると、メーターが反応する。光電効果?と思いきや、電荷が負になるのは変だぞ。光電子がたたき出されるなら、正の数値を示すはずだ。
蛍光灯の点灯のためのインバータ回路から出るノイズが、クーロンメーターの入力段のコンデンサーをパスして、回路に影響を与えるのではないかという議論になったが、真相はどうなのだろう。その場では結論が出ず、宿題となった。
イオンのシートと電子配置の教材 徳永眞由美さんの発表
徳永さんが中学の授業(中高一貫なので、中学で高一相当の化学を学習する)で使用している教材。マグネット式のイオンのシートは大きくて見やすい。電気分解の電子の授受の説明や酸、アルカリの中和反応の説明の時などに黒板に貼って使う。
右は原子番号1から20番までの元素の電子配置をパソコンで描き、厚手の光沢紙に印刷したもの。マグネットで黒板に貼れるようにしてある。何クラスも教える時には筋肉痛にならない為に必需品だという。これも大きくて見やすい。見やすさ、わかりやすさへのこだわりが感じられる。
キック・ディス 関さんの発表
モーターでファンを回して下方に空気を吹きだし、ホバークラフトのようにわずかに浮上して床の上を滑る滑走体。足で蹴ってサッカーのようにして遊ぶらしい。バッテリーはNi-Cdの充電式。乱暴に扱うとすぐ壊れてしまいそうだが、エアパックのような運動教材になるかもしれない。
岩塩 関さんの即売会
ドイツ産の天然岩塩。カミソリの刃をあてて金槌で軽く叩くと、劈開面にそってきれいに割れる。断口は磨いたように滑らかだ。関さんは、授業で生徒に実際に割らせるという。きれいに直方体に割れていくので感動的だ。
ガリレオ温度計 平松さんの即売会
背の高い大型のガリレオ温度計。浮沈コマの数も多く、立派である。平松さんが某ショップに格安で出ていたのを例によって買い占めてきてくれた。希望者によるジャンケン争奪戦で、あっという間に完売した。
不思議なサイコロ 竹内さんの発表
反転遠近法による有名な錯視立体。小さなものだと片目で見ないと反転立体感を生じにくいが、このぐらい大きくすると両眼視していても錯視が起こる。展示用にはとにかく大きなものを作るのがよい。
シャボン玉?のビデオ 右近さんの紹介
毎日放送MBSで8月29日にオンエアされた『情熱大陸』という番組にで米村傳次郎さんが披露した実験の中に、これまで見たこともないシャボン玉の実験があった。シャボン玉をふくらませるときに静電気で帯電させるらしい。はじめのうちは帯電したシャボン玉を手をかざして空中で操るのだが、やがて膜が薄くなって穴があくと、写真のような麦わら帽子状の奇妙な形になる。電荷が割れたシャボン玉のヘリの部分に集中するため開いてしまうようである。だとすると、丸い部分が残ることがむしろ不思議かもしれない。
例会でも皆で当該シーンを鑑賞したが、一堂驚くばかり。まだ誰も追試に成功していない。シャボン玉のレシピがむずかしいようだ。
ガリレイ変換とエネルギー保存の法則 右近さんの発表
右近さんから、例会出席者にこんな宿題が出された。力学の「よくある問題」をめぐるパラドックスである。以下、右近さんによるコメントを紹介する。
17世紀のイタリアの物理学者ガリレオは,等速度で運動する船のマストの上から石を落下させる実験について考察している。船が等速度で運動する限り,船上の観測者は,自分が地上に静止していて同じ実験をしている場合との違いを見出すことはできない。これはガリレオの相対性原理とも言われている。もしこれが正しければ,運動量保存の法則や力学的エネルギー保存の法則は,観測者が静止していても,等速度運動していても,どちらにとっても成立しているはずである。
さて,よく見かける高校物理の問題に,高さhの斜面を転がり落ちた後のボールの速さvを求める問題がある。これはエネルギー保存の法則を用いて簡単に求めることが出来る。しかし斜面の置かれている床に対してvの向きに一定速度uで運動する座標系において,同じようにエネルギー保存の法則を適用すると,ボールの速さはv−uとはならずに,別の答えが得られる。いったいこれはどうしたことか・・・。
例会時,隣に座っていた鈴木亨さんに話したら,いとも簡単にネタがばれてしまった。しかし回りを見ると,何人かの人は配布資料をにらみながらせっせと計算されている・・・。物理教師にとっては日常出会う問題であるが,うっかりはまってしまうとなかなか抜け出せないかもしれない。
レンチキュラー・ポストカード 加藤俊さんの発表
ポストカードを傾けると描かれた円形図形が一斉に回転するように見える。(動画でお見せできないのが残念。)シート表面はカマボコ状のレンチキュラーレンズをつけたもの。1インチに80本のレンズがついていた(80LPI)。ドイツ製。
詳しい情報はここ→http://www.lm-karten.de/
サーカスがやってきた 渡辺さんの書籍紹介
こちらは絵が動く本だ。よくある縦縞スリットではなく、方眼のマスクシートがついている。シートを絵にかぶせてゆっくり動かすと、絵が動いて見える。3〜4ポーズが交替するようだ。
よぐちたかお作「サーカスがやってきた」福音館書店\1100。
任意の点P 渡辺さんの書籍紹介
こちらは立体視の絵本。大人向けだろう。本の裏表紙の折り込みを引き出すと、レンズがついていて、そのままビュワーになるというしゃれた本だ。慶應義塾大学佐藤雅彦研究室・中村至男著「任意の点P」美術出版社。
GEMSの教師用ガイドとワークショップ 大谷さんの発表
大谷さんが「GEMS(ジェムズ)」(Great Explorations in Math and Science)という科学の体験学習プログラムのワークショップに参加して、その時に購入した教師用ガイド。対象は、子供〜高校2年。授業に、討論を取り入れたくて、受講したという。プログラムは、実験や観察と、生徒の話し合いが主体で、教師用ガイドには、実験の準備する物、準備のしかた、すすめ方、話しあいのコツ、ワークシート、資料など、詳しく載っている。
受けたプログラムは、
(1)リーダー養成ワークショップ(2日間)…「土と生き物のすみか」「酸性雨」「犯罪化学調査室」「文化遺産調査」「紫外線の実験」「ウーブレック(科学者は何をするの)」。(数学)十中八九、競馬。(アイスブレーク)
(2)アソシエイト・ワークショップ(2日間)…「色解析」「環境探偵」「校庭の生物」、ウーブレックの作り方企画書の作成。(数学)世界の数学(ゲーム)、他
例えば「環境探偵」の内容はこんな具合だ。‥‥‥君たちの住む「グレイエリア」地区で、過去5年間に、魚が大量に死に、「シンクロニー市」に打ち上げられた。この謎を解くために、この地区の地図を見ながら、考えられる原因を、1つずつ調べていく。プール排水、酸性雨、上流の森林破壊、牧場や農場からのし尿・化学肥料、都市からのカーオイル廃棄などの原因に対し、塩素検査、川の水のPH値、リン酸の検査、データ値やグラフを見ながら、話し合い、判断していく。川の水などは、予め、決められたPH値に作っておく。
GEMS:http://www.lhs.berkeley.edu/gems/gemsworkshops.html
教師用ガイド購入先:発行:ジャパンGEMSセンター http://www.jeef.or.jp/GEMS/gems.html 左記Webサイトの「ティーチャーズ・ガイド」を参照。
GEMSで使用する教材の販売会社:Educational Innovations Inc. http://www.teachersource.com/
全面スパンコールの服 大谷さんの発表
金色の直径5mm円形のスパンコールが全面に張られたパーティ用タンクトップ。部屋を暗くして、ライトをあてると、各スパンコール(光を反射する小片の飾り)が、いろいろな方向へ光を反射し、まるでミラーボールのように壁面に光の斑点をつくる。
中学1年の「光」の授業で、「どの方向からでも、物体が見える」説明に良いのでは。物体の表面を拡大すると、実際はでこぼこしているので、光源からの光を乱反射する、というイメージを持ってもらう時、視覚化に役立つ。
購入元は、大谷さんの自宅近くの洋服屋。わずか\1000だそうだ。たぶん、この手の安いパーティ用服を置く店は、結構あるのでは、ということだった。ギャラリーからは 「実際に着てみてよ」という声しきり。
二次元ガウス加速器 山口さんのアイデアの右近さんによる代理発表
右近さんが紹介して一躍全国に知れ渡った「ガウス加速器」。その二次元版を都立大学の山口素夫さんが思いついた。正三角形に並べたスチールボールの頂点をネオジムボール磁石にしておき、そこへ別のスチールボールを衝突させると右のように3個のボールがはじき出される。原子核分裂の連鎖反応のモデルとして使えないだろうか。
まつぼっくりのビン詰め 加藤俊さんの発表
加藤さんのパズル仲間(植松さん)が軽井沢で拾ってきた松ぼっくり。ガラスのビン詰めで不可能パズル風のオブジェクトを作ってくれたもの。口よりも大きいのにどうやって詰めたのだろうか?またこれは外に出すこともできるという。どうやって?
ヒントは「湿気」。しくみを知れば簡単に作れるのでお部屋のアクセサリーにいかが?
二次会 大船駅前「甘太郎」にて
20人が集まってカンパーイ!今日は曜日が違うせいか、参加者が多かった。二次会の参加者も久しぶりに20人の大台。神谷さんのハワイすばる見学ツアーの土産話などを聞きながら、今夜も物理談義に花が咲く。
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