例会速報 2006/09/24 県立港北高校


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授業研究:中3で運動方程式を導入する 黒瀬さんの発表
  「中3で運動方程式を導入する」というテーマで、授業報告が行われた。なお、この報告は科教協の神奈川大会でも報告されたものである。
 神奈川大会では、小学校段階できちんと単位を理解していない生徒が多いことを指摘する意見や、ニュートンという単位を体感させて感覚的に慣れさせるべきといった意見が出たが、この例会では次のような意見が出た。

・運動方程式を教えるよりも圧力や中学で扱われなくなった浮力をまずしっかり教えるべきなのではないか。
・運動方程式を扱う意味は、質量と重さの違いをきちんと区別できるようになることなのではないか。
・kgwは地球ローカルな単位だが、Nはユニバーサルな単位というような言い方を授業ではしている。
・単位を教えるにあたっては、基本単位と組立単位をしっかりと区別する必要がある。

「トンデモ吸盤」応用編 高橋さんの発表
 前回試作品を紹介した「トンでも吸盤」の製品版の紹介と、いろいろな大気圧実験への応用が披露された。
 「トンでも吸盤」は平面にくっつくだけでなく、ガラスビンも持ち上がる。口の狭いビンはそのままでは持ち上がらない。ところが、そこでビンに水を入れてからやってみると、アラ不思議、水が入って重くなっているのに、今度は持ち上がるのである。容器内の空気が減ったために吸盤の変形で体積が増えた時の気圧の減少の割合が大きくなったためだが、意外性がある。
 ペットボトルは炭酸用のしっかりしたものは持ち上がるが、耐圧でないものはダメ。容器が変形して圧力差が生じにくいのだ。
 

 Oリングを使って吸盤の有効面積を広くする「吸盤ブースター」。空気漏れが少なくなり、有効面積を拡大することで、つり上げる重量を飛躍的に増大させることができる。

 真空プラスチック容器の底を抜いて、Oリングをとりつける。ポンプで空気を抜くと、容器がテーブルに吸い付いてしまう・・・いや、大気圧が容器を押さえつけてしまうと言うべきなのだ。中には真空度を視覚的に表現するため風船と、鈴木式気圧計(一端を閉じたチューブに水滴を入れたもの)が入れてある。

 高橋さんは、大気圧実験の小ネタがいろいろつまった「吸盤のなぞ」的小冊子の執筆を計画中。


ゴム板の逆さコップ 上田さんの発表
 初参加の上田さんも大気圧ネタで勝負。グラスに水を満たして、ゴム板でふたをし、逆さコップ状態にする。さらに、この逆さコップで水入りバケツをつり上げてみせるのである。計算上そうなることは理解できるが、驚きの演出である。なお、ゴム板をプラスチック板に変えるとうまくいかない。なぜだか考えてみよう。

 広口ビンでも同じように「逆さビン」を演じた後、ゴム板を取り去ってしまう。それでも水はこぼれない。ええ〜っという演出だが、実はYPCの面々なら誰もが知っているネタ。ビンの口にはストッキング状のネットがはりつけてある。表面張力の助けを借りて空気の侵入を防ぎ、大気圧で水を保持するのである。計算上は水柱10mまで支えられる。つまり、10m以内の長さのビンなら同じことができる。

アルキメデスの揚水ポンプ 上田さんの発表
 「アルキメデスのポンプ」と呼ばれる螺旋式の揚水機。軸のまわりに回転させると螺旋状に巻いたホースの下側にたまった水が回転によって上方に移動する。
 上田さんはペットボトルを使って螺旋ポンプと水溜めを一体化し、写真のような装置を作った。全体を回すと、下の水がしだいに上の部屋に移る。

簡単ラジオ 市江さんの発表
 前回、アンテナ不備でうまく受信できなかった簡単ラジオを再紹介。港北高校物理実験室には、無線用のアンテナが引き込まれていて、それにつないだところ、感度抜群。NHK、FEN、ニッポン放送など選局もスムースにできた。コンデンサーはアルミはくとチャックつきビニル袋でつくり、コイルはビニルホースにリード線を巻いてつくった。端子には厚紙に挟み込んだバネを代用している。ゲルマニウムダイオードは容易に入手できるものの、コイルの芯に使っているフェライトバーは入手困難かも。

簡単だるま落とし 小河原さんの発表
 2002年夏に参加した、AAPT夏季大会のワークショップで紹介されていた実験。米国にもだるま落としがあり、それは「WoodenNickel」(Nickelは5セント硬貨の別称)と呼ばれる木製のコインで行われていた。この木製コインは記念品で、希少価値の高いものは、コレクターが高値で取引をしているらしい。
 日本のだるま落としのおもちゃでは、一番上に乗っているだるまを真下に落とすのはなかなか難しいが、この木製コインなら誰でもかんたんに上のコインの静慣性を演示することができる。
 

 こんな風にWoodenNickelを積み重ねておき、定規のようなもので左右に水平に打ち分ける。すると最後の一枚は見事にその場にとどまるのである。

  しかし、すたさんの発案により、10円玉で試してみたところ、それでもかなり静慣性を示せることがわかった。生徒実験ならば、硬貨で十分かもということになって、小河原さんはちょっとがっかり(^^)。でもWoodenNickelの滑りの感触はとてもよいので、効果的な演示になりそうだ。

弦定常波の線密度を変える実験 小河原さんの発表
 弦の定常波について、張力を変化させる実験器具はNY校にもあったが、線密度を変化させる器具がなかったので、自作したというのが写真のもの。よくある、偏心モーターにタコ糸をつないだものをヒントに、色糸をよりわけて1本にしたものと、それを奥さんに4つ編みしてもらった糸を両方結びつけた。1本ずつ試せば、1本で腹がひとつできる長さに、4本なら腹がふたつできることがわかる。
 さらに、斜めに同じ角度で両方の糸を持てば、張力が等しくなるので、同時にひとつの腹とふたつの腹を観察することができる。なかなかの工夫だが、4つ編みは難しそうだなー。
 

 こちらは港北高校にあった既製品の実験器具。同時に二つの弦を同じ振動数で振ることができる。このセットでは同じ糸を使って長さの違いで異なる倍振動を見せるようになっているが、小河原さんのアイデアで4倍密度の糸を作れば同じ実験が可能だ。

テクニカル・ロープ・レスキュー 山本の発表
 消防本部にお勤めの方から、消防が新たに導入を検討しているアメリカ流の救助用ロープワークのお話をうかがった。中でも興味深かったのは、強靱な強化ロープと滑車を使って力を増幅する技だ。例えば滑車を4個使って(カラビナなどで結合・固定して動滑車としても、定滑車としても使える)、ロープの端を引く力を、9倍、11倍という大きさにすることができる。
 ポイントは動滑車の軸を短い別のロープで、メインロープの先に結索することである。結び目は、引くと締まり、たるませれば緩む結び方で、小刻みに移動しながら使う。こうすることで、動滑車で倍増した力を次々に足し込んで行くことができる。
 なかなか高級な力学パズルなのだが、例会で出題したところ、多くの参加者が正解した。さすがはYPCである。

力と運動の概念評価テストと新しい学習会の提案 宮崎さんの発表
 夏の物理教育国際会議で紹介されていたPhysics Education Researchの一環で、Foece and Motion Conceptural Evaluation という調査用紙を、京都女子の笠潤平先生が和訳した。簡単な問いだが、伝統的な力学講義のみでは、事前も事後も驚くほど正答率が低いという。みなさんの学校でも是非やってみては?ということで和訳プリントが配られた。宮崎さんにお寄せいただければ、結果を集計していきたいとのこと。

 一方、Advancing Physicsの学習会が長らく続いて先ごろ完結したが、宮崎さんから次の学習会の提案があった。写真に示されている本、Five Easy Lessons(英文の概念形成の参考書)を有志で輪読しようという誘いである。みなさんで勉強会をしませんか?

壁を登るカエル 小河原さんの即売会
 7月例会で紹介された、米国製物理おもちゃの即売会。個人輸入した結果、3000円での販売となった。もうすでに製造中止となっているようなので、じゃんけんに負けたけど、どうしてもほしいという方は、少々高めだが、中村理科またはケニスの取引先での購入をおすすめするとのこと。それにしても、どこかで類似品を作れば、売れるのでは?

掘出物のプラズマライト 鈴木さんの即売会
 「プラズマライト」は、原理はともかくとして、物理室の展示品としては重宝するものだ。生徒は喜んで遊ぶ。小型のものが数年前に東急ハンズ等で入手できるようになり、YPCでも紹介された。3000円ほどだったか。先日、勤務校から帰る途中の商店街で、倒産品の格安セールをしている期間限定の店に「プラズマライト」があった。東急ハンズのものよりやや質は落ちるようだが、手を添えるときれいに電気が流れる。値段は東急ハンズの数分の1(ここでは具体的な値段は控えるが)という。
 すたさんはもっと買い占めたかったが、荷物になるのでここにある数しか確保できなかった。まだ大量に売れ残っているようだったというので、次にまたその店が出たら、もっと買い占めてほしい。こういう出物で実験室をにぎやかに飾ろう。

おもちゃ二点 竹内さんの発表
 竹内さんが見せてくれたのは、万華鏡とMagneticSculpture(磁石の彫刻)。万華鏡の方はクロスした筒に色の違うチップが入っていて、それぞれ異なる向きに流れるので非常に複雑なパターンが現れる。MagneticSculptureも銀色の鉄片を積み上げるものはよく見かけるが、これは蝶のデザイン。蝶が磁力線に沿って群舞しているようなオブジェが作れる。ありきたりのものでもちょっとした工夫でより面白くできる。
 

GEMINIのCD-R 車田さんの発表
 ハワイ島のマウナケア山頂にあるGEMINI天文台のCD-ROMに「波面補償光学」AO(Adaptive Optics)のアニメーションが収録されている。すばる天文台の見学前に国立天文台の臼田久美子先生が「非常に分かりやすいので利用させてもらっています」と紹介されたものだそうだ。

 大気のゆらぎのため乱された波面をポテトチップのように視覚化している。それをアクチュエータのついた可変鏡で反射させる。その波面を波面センサーと呼ばれる装置で分析し、その情報を可変鏡に送って補償する。大気の揺らぎがほぼ完全に克服され、ほとんど完全なイメージを形成するのである。

 このアニメはGemini Observatory 、AO アニメーションのサイトで見ることができる。

YPCニュースPDF化計画 市江さんの提案
 例会参加者からのリクエストをきっかけに水面下で検討を重ねてきたYPCニュースPDF化計画。賛否両論の紆余曲折を経て、以下のような原案ができた。

1.PDF版はWebからダウンロードできるようにし、URL(一般には非公開)とパスワードをPDF通信会員に毎月メールで知らせる。

2.PDF版のみの配布はせず、毎月のPDF版ニュースの通知とYPCニュース集(毎年夏発行の保存版冊子)の郵送をセットにして、PDF通信費を郵送費込みで年2500円とする。

3.通信費年2000円で紙版は今までどおり郵送する。

 今後、PDFでの配布をメインにし、紙版は通信環境のない方を対象にしたいと考えている。申込み方法等、詳細が決まり次第、次回or次々回のYPCニュースに掲載するので、そちらをご覧いただきたい。会員の方はご協力を。

二次会 大倉山駅前「養老乃瀧」にて
 12名が集まって、カンパーイ!大倉山ではすっかりなじみになったこの店で、さらに遅くまで盛り上がる。本の出版の相談なども行われる中身の濃い飲み会なのだ。


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