例会速報 2007/05/20 慶應義塾高校


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授業研究:静力学の授業 小沢さんの発表
 小沢さんは、「はかりに載せた、水を入れたビーカーの中に、糸でつるしたおもりを入れると、はかりの値はどうなるか?」のような課題を出してから、考えをノートに書かせ、発言させて、実験で決着をつけるという形式の授業を繰り返している。
 今年度からは、座席のレイアウトを工夫し、教室の前半分は後ろを向いて座らせて、向かい合う形にした。生徒は自分の考えを、教員ではなく、友達に向かって述べるのだということ明確にするためだ。例会では、この授業をビデオで見て検討した。

渦電流 石井さんの発表
 「渦電流の実験はダイナミックにやりたいものです。」石井さんはそう言って、立て続けに実験を披露してくれた。
 渦電流で非鉄金属を動かす実験では、1.2kgの銅のブロックを、滑らかな面に置いた時計皿に乗せて、ネオジム磁石で回転させる。摩擦を少なくすれば、どのような非鉄金属でも動かせる。右はホルマル線のコイルを時計皿の上に並べたもの。やはり回転する。渦電流のイメージがつかみやすい。
 

 一円玉を同じように並べる。コイルの実験と同時に見せることで、渦電流の流れ方が印象づけられる。右はアルミ缶の底の部分を切りぬいた回転子。これなら時計皿はいらない。

 次は渦電流でLEDを点灯させる実験。渦電流で相互誘導させて、近くのコイルに誘導電流を流そうというのだ。
 強いネオジム磁石の上に、EI型電源トランス( 鉄芯がEとIをくっつけた形をしているもの)の I の部分の鉄片を取り除いたもの(石井さんはこれを「半トランス」と呼ぶ)を乗せ、トランスの高圧側を3段アンプにつないでおく。そのそばで1円硬貨20枚を重ねたのブンブンごまを回すと、LEDが点灯した。1円硬貨のブンブンごまは、ストロボによると、100Hz程度の回転をしているようだ。
 さらに、もっと早く非鉄金属を動かそうと、仏様のお鈴(リン)の振動を使ってみた。トランスの近くでお鈴を鳴らすと、LEDが点灯した。後日、近くのお寺の梵鐘の前で実験したところ見事に点灯したという。

 この実験では、3段アンプの電池が気になるところだ。そこで石井さんは、3段アンプや電池を使わないことにした。LEDで閉じた、0.12mmφ、2300T のコイルをネオジム磁石の上に置いて、その上で1円硬貨のブンブンごまを回すと、LEDが点灯した。圧電ブザーも鳴らせる。
 この実験で重要なことは、磁石とコイルは動かさないことだ。動かすのは、渦電流を起こさせる非鉄金属だけである。

(非)同時落下実験器 喜多さんの発表
 S社製の「同時落下実験器」 説明書通りに設定して、ビデオ撮りしコマ送りで再生すると、10コマ目で6cmくらいの差が生じる。どう見ても「非同時」である。
玉を支える4mmの穴が斜方投射になる原因であった。いろいろ試行錯誤して、水平に飛び出す台のところに粘着力の弱い両面テープを使い、打ち出し部分に1円玉を2枚付けて解決した。同じものを所有されている学校の方、一度お試しを。
 

Figuring Physicsから 小河原さんの発表
 ニューヨーク校赴任中、雑誌The Physics Teacherを購読しはじめた小河原さんが、お気に入りの記事Figuring Physicsを紹介してくれた。

 虹についての次の選択肢のうち、誤りはどれかという問題である。
(a) It has the shape of a circular arc.
(b) It is a 3-dimensional cone extending through the water-drop region.
(c) It results from diffraction(回折) and interference(干渉) of light by the water drops.
(d) It results from refraction(屈折) and total internal reflection(全反射) in the water drops.
(e) But all are true.

 正解は(c)となっているが、(d)の内部での「全反射」もおかしいだろうということで、Excelで計算してみたところ、水滴への入射角が89度のときでも、反射角はわずかに臨界角を下回ることがわかった。赤と紫の波長で計算して、どちらでもこの結果となったそうだ。
 左の写真のように実験してみれば一目瞭然。右から入射した光のほとんどは、屈折して左へ抜けていく。虹を作る原因となる反射光はわずかだ。
 この内部反射を「全反射」だと誤解している人は非常に多い。光線の逆進の原理と、円という図形の対称性を考えれば、外部の光源からの光で、球内に全反射を生じることは決してないのである。
 ちなみに、The Physics Teacher誌にも読者から指摘があり、翌号で(d)も誤りだときちんと訂正があったという。有名なHewittさんでも、たまには間違えるということだ。

 小河原さんはついでに、入射光軸から42度のところに赤が見えるとよく言われるが、そのときの水滴への入射角はいくらなのかを調べてみた。参加者の予想はバラバラだったが、正解は55.5度あたりと63.5度あたりとのこと。入射角60度のとき、42.4度となり、そこで折り返すため、当該の角度は2つある。このことは過剰虹(干渉虹)として知られる現象の原因となる。

「パコホバー」の紹介 越さんの発表
 エレキットの「はこ工作シリーズ」の「ぱこホバー」は、モーター1個で浮上・推進するホバークラフト。06年7月の例会で越さんが紹介してくれた「簡単自走式ホバークラフトV2」 と比べると、本体はふたまわりほど大きく、質量が約180gと大きい。税込み1980円。
 

 ファンがやや小さく、摩擦も大きいので、ほぼ等速で運動する。段ボールの本体は、はめ込め式で簡単に組み立てられる。スカートが厚めに膨らむので、圧力が高まり本体が持ち上げられている事が分かりやすい。
 

シャボン玉の色 水上さんの発表
 シャボン玉の色について説明する実験である。コップの口に中性洗剤を薄めた液の膜を作り,赤,青,緑のセロファン紙と白紙を通した光を当て,その反射光を撮影した。右の写真は,赤色が弱め合って暗くなる厚さの所ではその補色(緑+青)のシアンになることを説明している。青色が暗くなる厚さでは黄色(赤+緑),緑色が暗くなる厚さではマゼンタ(青+赤)の色が見えます。
 こうして、シャボン玉の独特の色は薄膜干渉により弱め合って抜けた色の補色が見えているものとして説明することができる。
 

ブレ球 越さんの発表
 TV朝日系列のサッカー番組、「やべっちFC」で以前紹介されていた「ブレ球」は、無回転のフリーキックで、名古屋グランパスエイトの本田選手が得意としている。無回転のため途中で失速し、変化するのでゴールキーパーはセーブしにくいという。ハイスピードカメラによるインパクトの瞬間の映像も紹介されていたが、ボールの中心を押し出すように蹴るのだという。番組で紹介された筑波大学での実験の映像では、サッカーボールの後方にカルマン渦も見られた。
 また、野球のフォークボールの場合は(小さい割に重いため、サッカーボールに比べ空気抵抗の影響が少なく)、実は失速して落下するというよりは、重力により落下するのだということが、「物理のウンチクがたちまち身につく本」にも書かれている。

レンズのはたらきについての認識 今吉さんの発表
 出版社に勤める今吉さんは、22才から26才の社員19名対象の研修会で,「天井の蛍光灯の光は虫眼鏡を通すとどのような像として映るか」を質問した。その質問に対して,蛍光灯がそのまま像として映るという正解者は半分以下で,丸く明るいものが映るという不正解も半数近くに達した。正解と間違いの割合が,理系,文系関係なかったことも注目に値する。
 丸く明るいものが映るという間違いが半数近くに達したということは,小学校での太陽の光を虫眼鏡で集める実験の印象が,非常に強く子どもたちの頭の中に残っているのではないかと考えられる。サンプル数が少ないので安易に結論を出せないが,指導の上で注意を要する結果だと思う。

電磁界 平野さんの発表
 4月26日の朝日新聞朝刊第1面記事の,「電磁界」についてのキーワード解説に,「スイッチの入っていないテレビをコンセントに差し込むとコードに電圧がかかり,電界が発生する」とあった。平野さんはどのような状態を想像すればよいのかがわからなかったので,例会参加者に意見を求めた。朝日新聞の解説は、どうやら東北電力のWebサイトの記事と同じことを言っているらしいが、はたしてこの説明で正しいのか、というのが平野さんの疑問だ。
 

二次会 日吉駅前浜銀通り「龍行酒家」にて
 10名が集まって、カンパーイ!日吉では行きつけの店だが、久しぶりだ。もはや常連となった千葉の石井さんを囲んで盛り上がる。例会に出られなくても、二次会にだけは駆けつける人もいる(^^;)。

 YPC有志が、秀和システムから「図解・物理のウンチクがたちまち身につく本」を出版した。知っているようで案外知らない身近な物理を、わかりやすい図でやさしく解説した教養本だ。B5版、¥1050(税込)。現在書店で平積み販売中である。


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