例会速報 2008/06/22 県立横浜桜陽高校
YPCホームページ(本館)へ| すたのページ(別館)へ| 天神のページ(別館)へ| 次回例会のご案内
例会風景 自己紹介
あいにくの悪天候にもかかわらず、横浜桜陽高校の物理実験室に集まった参加者は30名を越えた。例会に先立って各自簡単な自己紹介をするのが通例となっている。常連はもとより、初めての人、久しぶりの人、誰でも気軽に参加できる和やかな雰囲気だ。
授業研究:波動の干渉 右近さんの発表
今回の授業研究は会場校の右近さんと大和田さんによる発表である。まず、右近さん自身のコメント。
ここのところ、「実験・観察」から入る物理の授業を心がけている。
いままでの展開では、導入の後に定義が続き、次に解説、例題、検証実験、場合により探求実験、まとめ、という流れが、要するに教科書の流れが通常であった。例えば「運動量」では、ボーリングなどの例を出しながら運動量の定義を与える、数値を与えて計算させる、力学台車の演示などを見せながら力積と運動量の関係を導く、・・・運動量保存の検証実験、といった流れだ。いきなり現象を観察させても、生徒が何を見ればよいのかわからなくては、あまり意味がないだろう、という考え方がこちらにあったからである。まず、現象の見方をしっかりと与えておき、そのあとで観察させる、というやり方である。
しかし、一概にはいえないが、まず先に「実験・観察」から入ってもよいのではないか、と思うようになった。今回はヤングの干渉がテーマである。まず音の干渉実験をいきなり取り上げている。いきなり、というのは生徒には装置の説明はするが、それが音の干渉の実験であるとは言わない。まず観察し、この現象が干渉によるものであることに気づいてもらう。続いて、もしこれが干渉であれば、どのような方法で、その考えをよりいっそう確かなものとすることができるのかを、さらに問う。話し合いの後に解説、続いて光の干渉へと進む。音と光の干渉のアナロジーをうまく使いながら、光は色により波長が異なることを学習する。
写真、上左は音波の干渉実験を一人ひとりスピーカーの前を歩きながら体験させているところ。上右は波動の干渉の条件を示すための演示具。百均のコンベックスメジャーを着色して使用している。よいアイデアと参加者に好評だった。
写真左は光波の干渉実験で使用した緑色半導体レーザー。秋月電子のキットだそうだ。赤のレーザーとの比較で干渉縞間隔が波長に比例することを示す。
授業研究:フックの法則 大和田さんの発表
新採用の大和田さんの授業ビデオ。つるまきばねを使ったフックの法則の生徒実験だ。二つのばねのばね定数を測定で決定した後、ばねの直列接続の合成公式の確認に進む。さらに、左の写真の右下に示されている、片方と両方におもりをつるしたばねの伸びの問題へと発展させる。もちろん、予測を立てたのち、実験で検証するのである。生徒は思惑通り両方にばねをつるせば伸びは二倍になると期待し、実験によってそれを打ち砕かれる。力のつり合いや作用反作用にも強くこだわったポイントの明確な授業展開は高く評価された。
武蔵工大の研究室紹介 門多さんの発表
武蔵工大は来年度から「東京都市大学」と改名の予定である。門多顕司さんは、同大学リテラシー学群物理科学コースの講師で、大学と研究室の紹介をしてくれた。
門多さんは超高エネルギーの宇宙線を観測してその到来方向を決める観測計画に取り組んでいる。エネルギーが高くなるほど,磁場での曲がり具合が少なくなり,宇宙線はほぼ直進するとみなせるのだ。しかし,エネルギーが高くなるほど宇宙線の到来頻度は少なくなり,観測には長時間と広大な観測面積が必要になる。日米の共同研究グループTAでは,シンチレーション検出器と大気蛍光望遠鏡によって,空気シャワー(宇宙線が大気と衝突して多数の2次粒子を生成する現象)を同時観測することによって,超高エネルギー宇宙線のエネルギーと化学組成,到来方向を測定しようとしている。
詳しい資料はここ。
合成速度と相対速度の授業例 水上さんの発表
水上さんが披露してくれたのは、お得意の黒板演示器具。合成速度や相対速度をわかりやすく作図する動くゲージだ。
戸車をつけた穴あき板を移動させながら、長い穴に沿ってチョークを動かすと黒板上に合成速度が描かれていく。下の写真は同じ器具を使って相対速度を作図している様子。
固定した長い穴に沿ってチョークを動かしながら戸車をつけた記録用の板を動かすと,記録板上に相対速度が描かれていく。この演示により,生徒は「合成速度と相対速度の式は単なる約束ごとではなく,実際の現象を表す式」と感じるようになる。
いまさらガウス加速器 右近さんの発表
鉄球二つとネオジムボール磁石をこの順でレール上に置き、磁石側からもう一個の鉄球をそっとぶつけてやると、反対側の鉄球がものすごい勢いで飛び出す。おなじみとなった「ガウス加速器」の実験は、2004年1月の例会で右近さんがわが国で初めて紹介して全国に広まった。出典はThe PHYSICS TEACHER ,January 2004 ,Vol.42 ,
No.1。
一見、運動量保存が成り立っていないのでは?と思いたくなる現象だが、磁場による位置エネルギーを含めたエネルギー保存の法則と合わせて、運動量の保存もちゃんと成り立っている。
さて、射出される鉄球の速度をビースピをたくさん並べて測定してみると、右のグラフのように遠ざかるほど摩擦でスピードが落ちるが、途中にグラフの段差が見られる。これは何だろう、というのが今回の右近さんの問題提起だ。
右近さんはその答えもちゃんと実験で検証していた。4月例会でも紹介されたCASIOの超高速連写カメラEXILIM PRO EX-F1で高速ムービー撮影すると、飛び出した鉄球ははじめはレール上を滑っているが、あるところから転がりはじめる。運動エネルギーの一部が回転のエネルギーに取られて遅くなったのだ。このカメラはこうした高速現象の解明に威力を発揮しそうだ。
変成器の物理 右近さんの発表
YPCで以前に発表があったように、開口端による音の反射は超音波距離計(写真左)を使えば、容易に示すことができる。普通の管の開口部では、音のインピーダンスが大きく変化しているので、大きな反射が生じ、管の長さをちゃんと測ることができる(右)。
しかし開口部がテーパー、すなわちラッパ状に少しずつ大きくなっていけば反射は生じない。これも超音波距離計で容易に示すことができる。これを変成器という。メガホンは口に取り付けた変成器だ。
Space Spin KOMAで遊ぶ 石井さんの発表
石井さんは、5月例会で喜多さんから譲り受けたSpace Spin Koma(SSK)をさっそく料理した。
SSKのステイターの上に置いたアルミ缶の底を床にしてローターを回すと、回転は続くが、LEDは消える(右)。2種類の場があると推測できる。
そこで、LEDをつけた100回巻きのコイルをステイターの上に置いてみると明るく点灯した。フェライト磁石にコイルを巻くと、SSKもどきが自作できる。
さらに、コイルだけにして巻数を少なくしていくと、なんと3ターンでも点灯した。ステイターの変動磁場はよほどの高周波のようだ。そこで、周波数を調べるために、スピーカーにつないでみたが音は聞こえない。左の写真のようにコマの回転周波数ならサイレンのような音が聞こえるのだが、それよりはるかに高周波だということだ。オッシロスコープでチェックすると約1MHzだった。1MHzといえばAMラジオの周波数帯に近い。はたせるかな、うまくチューニングすると、ステイターの発する電磁波と、ラジオの局部発振器とのビート音を聞くことができた。
石井さんのインスピレーションはよどみなくわいてくる。次は使い捨てカメラのストロボ回路の電源を発振器に使ったみた。周波数は1.5kHz で、スピーカーは高音で鳴る。SSKほどではないが少ない巻数のコイルでLEDが点灯する。石井さんはそのうちに、蛍光灯のインバーター回路(40kHz)の電源を使ってみたいと考えているそうだ。
次はこまの回転の測定だ。このこまは数十ヘルツの回転数で回り続ける。メガ級、キロ級の振動数では同調できない。何らかの方法で回転磁界ができているに違いないが、装置の中は複雑なIC回路でわからなかったという。しかし、マグネットクリップ(下左)や磁石の回転子(下右)はよく回る。
ステンレスは磁石につくか 山本の発表
鉄は強磁性体なのでもちろん磁石につくが、鉄を基質にクロムなどを固溶した合金である「ステンレス」は磁石につくだろうか。百均のスプーンなどで試してみよう。
実はステンレスには固溶成分によりたくさんの種類がある。よくスプーン曲げのマジックに使う安いスプーン(写真の右端)はクロムを18%含んだだけの軟らかいステンレス(StainlessSteelとだけ表示がある)でできている。このタイプは「フェライト系」ステンレスと呼ばれ、比較的強い磁性を示す。下左の写真のようにネオジム磁石のマグネットピンで楽に持ち上げることができる。
クロムを18%、ニッケルを8%含むもの(18-8StainlessSteelと表示されている)は比較的硬いのでスプーン曲げには向かない(左の写真の中央)。これは「オーステナイト系」と呼ばれ、結晶構造が異なるため本来は磁石につかない。ステンレス製品としてはこちらの方がより高級である。
しかし、ダイソーで求めた2本セットで百円のデザートスプーンは18-8の表示がされているのに、磁石で持ち上げることができた(右)。あれー、成分が違うのでは?しかし、くっつく手応えは左の安物とは明らかに違う。
同じダイソーの18-10StainlessSteelと表示されている(18Cr-10Ni)グレープスプーン(右)はネオジム磁石にも全くつかなかった。これこそ「オーステナイト系」である。
しかし、同じ成分表示のデザートフォーク(左)は、柄の部分は磁石につかないのに、先の部分がわずかに反応する。磁石でフォークを持ち上げることはできないが、写真のように磁石がつく。
実は、「オーステナイト系」は強い曲げ加工などを施すと組織が「マルテンサイト」と呼ばれる変形した結晶構造になり、磁性を示すようになることがある。フォークの先の部分は曲げ加工が施されているため「マルテンサイト」に変化していたのだ。これを応力誘起マルテンサイトまたは加工誘起マルテンサイトと呼ぶ。
それなら、先程磁石につかなかったフォークの柄の部分を強く曲げてみたらどうだろう。ご覧の通り磁性を帯びるように変化した(左)。同じくダイソーのマグカップ(右)は底面や側面は磁石につかないが、柄や縁のきつい曲げ加工が施してある部分だけ磁石につく。台所のシンクも平らなところには磁石がつかないが、曲がった角の部分にはつく。プレス加工によりオーステナイトがマルテンサイトに変化したためだ。平らなところでも磁石がつくようならそれは安物ということだ。大切なことは、磁性は原子固有の性質ではなく、結晶構造に関連して集団的に発現する物性だということだ。単純に「鉄を含むから磁石につく」などと思ってはいけない。
マジックライトペン 山本の発表
百円ショップ「ダイソー」でこのごろ見かける「マジックライトペン」(左)。インクは見た目に透明で、紙に字を書いてもわからない(右)。
キャップにはLEDライトが仕込まれている。これで照らすと、あーら不思議!見えなかった文字が光って見える。
もちろんタネは紫外線による蛍光なのだが、驚くべきはこれが百円ということだ。紫外LED単体でも一個200円以上するのに、電池とペンがついて百円なのだ。YPCならぜひ手元に置きたい「買い占め」アイテムだと思う。
ちなみにボディカラーは3色あるが、インクはみな同じ色だ。
二次会 戸塚駅前「北海道」にて
22名が参加して、カンパーイ!あいにくの悪天候にもかかわらず例会も盛会だったし、二次会にもこの通り部屋を埋め尽くす参加があった。大学の先生も交えて科学談義に花が咲く。それにしても桜陽高校でやるときはどうして毎回天気にたたられるんだろう。
例会で時間切れのため、二次会に持ち込まれた益田さんの発表ネタ。マクドナルドでキャンペーンの景品として配付されているアイテム。いわゆる「ミラージュ」のポケット版である。二つの放物面鏡を向かい合わせた構造で、穴の部分にポケモンのキャラクターの実像が浮き上がる。本体は穴の底にある。期間限定なのでいまのうちにゲットだぜ!
越さんは、「ジャンボかみつきヘビ」のちょっと変わった使い方を披露した。ビール瓶にすっぽりかぶせヘビの上端を持つと、締まって摩擦が増えるので、ビール瓶を持ち上げる事ができる。2重にし、ビール瓶にかぶせておくと、ある程度の保冷効果が期待できる。ビン類を持ち運ぶときのエアークッションの代わりにもなる。他にも、使い道は色々ありそうだ。
越さんのかみつきヘビに対抗して、金沢の北村さん(ヒゲキタさん)が持ち出したのは、シデヒモ(四手紐:包装用の平紐)で編んだカタツムリとカエルとヘビ。これで三すくみ? 三すくみはナメクジだったっけ?かみつきヘビの作り方とシデヒモの入手先はここ。
会場の部屋の前に展示されていた「なわない機」。ハンドルを回すと自動的に藁縄がなわれてリールに巻き取られる。原理むき出しの構造とどっしりとした重量感がよい。
YPCホームページ(本館)へ| すたのページ(別館)へ| 天神のページ(別館)へ| 次回例会のご案内