例会速報 2008/07/13 鎌倉学園高校


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授業研究:光の干渉 平野さんの発表
 今回の授業研究は平野さんの授業風景を記録したDVD映像を解説する形で行われた。以下、平野さん自身のコメントから。

 神奈川県の県立高校では,管理職による授業観察がある。観察後に行われる面接で,より良い授業にするための管理職からのアドバイスがもらえる(ことになっている)。例会では,授業観察の実際と,授業中の生徒のようすを紹介した。
(1)授業の内容
 光の干渉現象のまとめの授業を紹介した。授業の前半では,スライドガラスを使った「動く虹」の製作をした。これは,2枚のスライドガラスを重ね,一端にアルミホイルをはさみ,両端を輪ゴムでかしめて,空隙を作ったものである。指でスライドガラスに力を加えると干渉縞が動く。クサビ型空隙とニュートンリングの干渉縞の違いに注目して,スライドガラスの実際の形状と干渉縞のようすとの関係を考察した。
 後半では,鉛直面内の薄膜(シャボン液)に単色光を当てたときの干渉縞のようすを予想し,生徒同士で議論した。その後,白色光を当てたときの干渉縞のようすや干渉縞の間隔が時間の経過とともにどのように変化していくかについて考察した。
 授業観察にきた校長(地歴),副校長(数学),教頭(商業),初任教諭(英語)も,生徒に促された効果もあって,しだいに積極的に授業に参加していた。

(2)授業中の生徒のようす
 昨年度の後半までは授業中の生徒は消極的で発言もほとんどなかった。しかし,数ヶ月前からようやく積極性のある言動をとる生徒が現れてきた。これは,「ねこシステム(→2005年11月YPC例会速報参照)」の効果だと思っている。写真は,2008年版の「ねこはずシート」である。

自由落下の導入 水上さんの発表
 水上さんは自由落下の授業における一連の演示実験を紹介してくれた。
(1)空気抵抗が無ければ,質量によらず同時に落下する: 弁当のおかず用アルミカップとスーパーボールを一緒に手放し,前者がゆっくり落ちることを示す。次にアルミカップをボール状に固く丸めて空気抵抗を小さくしてから一緒に手放すと,両者は同時に落ちる(写真左)。
(2)自由落下は初速度0の等加速度直線運動である:まず目盛り付きの斜面上で鉄球を初速0で転がし,1,4,9・・・番目の目盛りを通過するたびに拍手すると,拍手が等間隔になることで等加速度直線運動であることを示す。傾きを増しても等加速度直線運動。直立させれば,レールが無くてもボールは等加速度直線運動する。これが自由落下だと誘導する(写真右)。
 

(3)公式υ^2=2gyを検証する:ビースピ(速度測定器)を用いて,落下距離y=4.9cm,19.6cm,44.1cmのときの速さを測定し,公式から求めた値と比較する。(1〜3%の範囲で一致) 。ビースピの裏側にはマグネットシートを貼り付け,黒板につくようにした。

燃料電池 石井さんの発表
 石井さんは、アルケミストの野曾原友行さんの開発した燃料電池の実験を紹介してくれた。
 かつては、ニッケルのネットにパラジウムをメッキした電極を使っていたが、ニッケルのネットが高価なのが欠点だった。野曾原さんは、この代わりにステンレスのネットを使えるようにした。これで、燃料電池の実験が高校の化学の現場で行えるようになった。
 プラスチックの容器(10×7×5cm)の蓋の周囲を幅1cmほど残して切り捨て、2枚の電極をクッキングペーパーを挟んで、この蓋の内側にセットする(写真左)。電極を0.5mol/Lの水酸化ナトリウムで浸し、容器の中に水素ガスを導入すれば、ソーラー・モーターが回転し、数時間も反応が継続する(写真右)。
 

 石井さんが次に披露してくれたのは、水素ガスの代わりにメタノールを使用した実験。この場合は起電力が弱いので、2個の電池を直列にして使う。
 現在、野曾原さんは、水溶性有機物の燃料としての適不適を、「総点検」しているところだという。


いまさらライデン瓶 黒瀬さんの発表
 プラスチックのコップとアルミ箔でおなじみの米村式ライデン瓶を作り、帯電させる。次に、帯電させたままアルミ箔に手を触れないように注意しつつ一度解体し、アルミ箔だけを接地させ、再度組み立てる。このライ デン瓶には電気が溜まっているか、という話題である。
 

 溜まっているが正解。授業でコンデンサーを扱うときは、充電された電荷は金属板にしかないと考えるが、実際には複雑である。ライデン瓶を解体するときにプラスチックコップが剥離帯電するのではといった意見もあった。解体したコップだけを箔検電気に近づけると確かに帯電していた。
 なお、この話題は川崎の仮説サークルの由良さんに教えてもらったもの。由良さんも横浜の(仮説?)サークルで知ったとのこと。

電気小物3点の共通点 喜多さんの発表
 喜多さんが取り出したのは電気小物3点。左から順に、ドアアラーム(磁石から離れるとアラームが鳴る)、シャカシャカライト(振ると内蔵磁石による電磁誘導で発電する懐中電灯)、百均の万歩計である。さて、この3点の共通点は何だろう。「磁石を使っている。」「電磁誘導かな?」などと、参加者から声が上がる。
 

 正解は「リードスイッチ」だった。ごく基本的な回路素子で、1個百円以下で手に入る。ガラスに封入された二つの電極が外部の磁気によって接触したり離れたりする。上右のドアアラームはドアに取り付けた磁石が離れるとリードスイッチにより回路が起動する。下左のシャカシャカライトはスイッチ部分に磁石が仕込まれていて本体内のリードスイッチにより回路を閉じて点灯する。非常灯なので防水構造とするための工夫だろう。スイッチノブと機械的に切り離すことで水漏れしない気密構造を作ることができる。下右の万歩計は磁石の振り子の揺れをリードスイッチで検出して歩数をカウントしている。振り子には復元のための細いひげばねがついていた。このようにできるだけ簡単な回路で安く目的を達しようとするとき、リードスイッチは有効なパーツなのだ。

白色LEDを使った夕焼け青空モデル 鈴木さんの発表
 鈴木さんは07年10月例会で、グルーボンドを使った夕焼けモデルを紹介した。兵庫の森本さんのアイデアである。今回の発表は、その光源についてである。
 白熱電球(豆電球)を光源として使うと、夕焼けの赤ははっきりとわかるが、青空に相当する横に散乱する青い光が弱い(写真奥)。白色LEDを用いると、スペクトルが青側に偏っているため、散乱光が見事に青く見える(写真手前)。その代り、向かい側の断面で見る透過した光は赤味が弱くなる。写真では本体の色が飛んでいるが、机の表面に反射した像でその様子がよくわかる。
 LED照明推進協議会(JLEDS)ウェブサイトでスペクトル特性を見ると、白色LEDは470nmあたりと570nmにピークがある。青紫と緑の混色なのである。普通の白熱電灯は、波長が長くなるに従い強度が増すが、白色LEDは逆に黄色より長波長側のスペクトルが弱い。だから見た目でも青っぽく見えるのだ。
 このモデル実験では夕焼けだけを強調して授業するなら、懐中電灯や豆電球でかまわないが、青空と夕焼けを同時に説明するなら、この白色LEDが適しているだろう。
 ちなみに、この白色LEDライトは、100円ショップ「シルク」で入手できる。他の100円ショップでは、白色のライトは見あたらないようだ。(シルクと同系列のセリアなどではあるかもしれない。)特に、円筒型になっているものは、グルーボンドがぴったりとはまり、実験にうってつけである。

スコットランドの自然と近代地質学の成立 萩谷さんの発表
 武蔵工業大学は来年度から東京都市大学と改称する。その知識工学部自然科学科の宣伝かたがた例会に参加してくれた準教授の萩谷さんは、スコットランド実習のようすも交えながら、近代地質学の歴史を紹介してくれた。地質時代の時間尺度をつなぎ合わせる作業は物理学的であって興味深い。
 

 18世紀、英国の地質学者ジェームズ・ハットンは近代地質学の父と謳われる。ハットンはスコットランド、エディンバラに近いシッカーポイントと呼ばれる海食崖の露頭を見て「不整合」の概念を思いついたといわれる。
 萩谷さんが見せてくれたのは、そのシッカーポイントの不整合の上下の岩石だ。赤い方が、約3億4500万年前のデボン紀の砂漠成砂岩で、灰色の方は通称グレイワッケと呼ばれる約4億2500万年前のシルル紀の海成砂岩である。

ホイートストンブリッジで何が起こっているか 市江さんの発表
 ホイートストンブリッジは検流計Gに流れる電流が0になるように可変抵抗R3の値を調節し、R1、R2、R3の値から未知抵抗の値を求めるための回路であるが、その状況は、実際には
(1)AB間を導線でつなぐ前
(2)AB間を導線でつないだだけのとき
(3)AB間をつなぎ、かつそこを流れる電流IGが0になるようにR3を調整したとき
の3つの段階を経てはじめて実現できると市江さんは考えた。この各段階において各抵抗の電流、電圧、およびA点、B点の電位がどのように振る舞うかを市江さんは「導線はどこも等電位とみなせる(これ自体理想化したものであるが・・)」ということを原理として考察した。
 発表後、参加者からは「検流計の内部抵抗を考えなくてよいのか。」「どこかに誤解があるのでは?」などと疑問が投げかけられたが、時間切れで十分な議論ができなかった。今後も引き続き例会の場で議論を煮詰めていき、生徒が電気回路を考えるとき、何をよりどころにしたらよいかを考えていきたい。
 

百均回転台の比較 伊藤さんの発表
 百円ショップで「テレビ回転台」として売られている同寸の似たような商品2点についての比較レポートである。左がダイソー右がキャンドゥだが、なぜかダイソーの方が滑りがよい。伊藤さんはその滑り具合の違いに疑問を感じて分解して調べてみた。構造は写真の通り。
 

 キャンドゥのものはベアリングボールの数が多いが滑りが悪い。耐荷重を増すために滑りが犠牲になっているのだろうか。摩擦による負のトルクの大きい外周部に多数のボールを配置したのも敗因だったかもしれない。

幸せの葉っぱ 伊藤さんの発表
 「幸せの葉っぱ」などの商品名でお土産としても売られているセイロンベンケイソウ。葉っぱを水に浸したり濡れた土の上に置いておくだけで、縁のギザギザの付け根や、切れ込みから不定芽が子吹きして、無性生殖でどんどん増える。葉から芽吹きするので通称「ハカラメ」。熱帯の植物だが小笠原諸島などにも自生する。成長すると1mほどの高さになりてっぺんに花をつける。花の形から灯篭草(トウロウソウ)の和名もある。例会参加者に無料配付された。
 

大江戸えころじー事情 越さんの書籍紹介
 越さんは、現代環境問題を考える上でヒントになりそうな本、「大江戸えころじー事情」石川英輔著 講談社文庫 ISBN-06-273904-6を紹介してくれた。
 「現代のいわゆる先進諸国の中で、最後まで太陽エネルギーだけで生き続けたのが日本であり、われわれの先祖は、その期間を通じて、せいぜい1、2年間の太陽エネルギーと、太陽エネルギーによって生育した植物を利用するだけで独自の江戸文化を築き上げたのである。」(本文より)
 恵まれた気候風土にあるとは言え、江戸時代は3000万人の人口を比較的豊かな状況で、ほぼ太陽エネルギーのみでささえていた。その生活様式は、脱化石エネルギーを目指さねばならない現代の我々にとって、大いに参考になる。また、江戸時代の庶民の生活に焦点を当てた内容は興味深く、多数引用された図版も大変面白い。

 同氏の著書は、他に「大江戸えねるぎー事情」講談社文庫 ISBN-06-185431-3、「大江戸リサイクル事情」同ISBN4-06-263612-3、「2050年は江戸時代」PHP研究所 ISBN4-569-54624-2などがある。

なるほど!体験出前教室 竹内さんの発表
 神奈川県は3セクの神奈川科学技術アカデミー(KAST)と共同で、研究者・技術者等を小中学校や特別支援学校に派遣する事業「なるほど!体験出前教室」を推進している。竹内さんも講師登録して活躍中。本年度の講師募集と希望校募集はすでに終了しているが、体験教室のようすはKASTの「りかすとんのサイエンスであそぼう!」のコーナーなどに報告されている。

二次会 大船駅前「あじたろう」にて
 20人が参加してカンパーイ!暑気払いをしながら、8月の科教協石川大会参加の打合せなど話が弾む。越さんからはUFOキャッチャーの必勝法の解説があり、戦利品の二足歩行コリラックマが女性参加者らにプレゼントされた。


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