例会速報 2012/11/11 慶應義塾高校


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授業研究:運動の法則の授業 鈴木健夫さんの発表
 運動の法則の授業で、質量の違いにより加速度が変わることを認識させる実践報告。力学台車をゴムひもで引くとき、1台の場合と2台重ねた場合(質量二倍)とで、どちらが早く(速く)動くかという課題である。鈴木さんはこの課題を20年以上、力学の授業の大きな柱に据えてきた。教室演示も、少しずつ改良して今に至っている。(下段の写真は教卓に据えた実験装置。)
 

  授業はノートやプリントに予想を書かせ、机間巡視で把握、予想分布を取ったあとに指名で理由をあげて論点を浮き彫りにし、さらに討論や2度目の集計などをして実験で確認、わかったことや考えたことを書かせるという手順(到達目標学習課題方式)でやってきた。小沢さんの実践などを参考にして、3人のグループごとに一つずつ100均の小さなホワイトボード(A4サイズ)を渡して、グループ内で討論して意見をまとめて理由とともに書き、黒板に掲示して見せ合うという手法を取り、生徒の主体性や参加率が向上した。
 例会では、このやり方は学校によっては他教科でも実施しているという報告もあった。教材の中身としては、慣性質量の概念や、質量と重さの違いを獲得させるのは、運動の法則の導入段階ではなく、もっと後で良いのではないかという意見も出たが、鈴木さんは、例会の議論を経た今でも、この段階で慣性質量の概念をとらえるようにすべきだと思っている。このあたりは、これからも議論を続けたい課題である。

PUPPY 加藤さんの発表
 加藤さんは今年度「センサーの利用」という項目でSPPをとっていた。その事後学習に使ったセグウェイを思わせる二輪の直立走行ロボット、PUPPY。加速度センサ(傾きセンサ)とタイヤの回転を読むセンサがあり、それらの値をフィードバックさせて倒れないように動く。例会では、附属のサンプルプログラムで動かしたが、多少の衝撃があっても倒れずに姿勢制御する。例会参加者は指で突っついたり、坂道を登らせたり、板を横に傾けたりして意地悪をしていた。動画(movファイル3.4MB)はここ
 

 付属のマニュアルには姿勢制御の力学について丁寧な解説があるので、大学で物理を学んだた人にはわかりやすい。写真右はキットのパッケージの様子。授業では生徒に、センサの読みに対するフィードバックの値を設定させて、「倒れないように値を決める」実習をさせたが、誰も適切な値を出すことができなかったそうだ。
 

CD虹の観察 喜多さんの発表
 喜多さんはIf(順方向電流)20mA、Vf(順方向電圧降下)が3.0~3.4Vの白色LEDが入手できたので、これでCD虹を観察することにした。
 上下伸縮架台(ラボラトリージャッキ)に固定することにより、CDとLEDの距離を精密に変えられるので、簡単かつ確実に観察できる。一次の虹から二次の虹への変化などを簡単に見ることができるようになった。さらに、フレキシブル教材提示装置(スワネック)を使うと視点も固定でき、スクリーンに投影して大勢で同時に観察できる。
 使用した白色LEDはOptoSupply OSW5DK5111A、40,000~45,000mCd 指向角15°、「千石電商」で、1個100円、10個で400円だった(2012年10月購入時)。
 

 左は教材提示装置で撮影し、スクリーンに投影した虹の画像。ラボラトリージャッキにのせた光源をCDの中心軸に沿って次第に持ち上げていくと、CDの中心から円形の虹がわき出すように広がってくる。外側が赤、内側が青だ。青の内側は暗帯である。さらに光源を上げていくと暗帯の内側からまた鮮やかな赤の輪が現れる。左の写真で一番外の青い輪は3次のスペクトル、その内側の赤緑青が2次のスペクトルで、一番内側の赤が1次のスペクトルである。次数の低いスペクトルほど鮮やかで明るい。右の写真は直接デジカメで撮影したもので、やはり肉眼での直接観察が一番美しい。
 

静電ベル 渡辺さんの発表
 静電誘導を利用してベルを鳴らす、一種の検電器。片方のベルに帯電体を近づけると、2つのベルの間につるした金属小球の振り子が左右に振れて、かわいらしい音でベルが鳴る。どのような理由でなるのか考えてみたり、色々な静電気の実験に応用できる面白い教材だ。
 ベルに帯電体を近づけた後に触れずに離した場合、近づけたときも離したときも振り子が往復してベルが鳴る。動画(movファイル3.4MB)はここ。しかし、ベルに帯電体をこすりつけてから離した場合は、こすりつけた時だけベルが鳴り、離したときは鳴らない。
 ベルの下にはそれぞれ端子がついているため、はく検電器や簡易クーロンメーターなどを接続して、電荷の量や符号を調べることができる。
B10-1172 静電ベル:http://www.rika.com/product/prod_detail1.php?catalog_no=B10-1172
 

光電効果 渡辺さんの発表
 簡易クーロンメーターを使用して光電効果を数値的に見ようという試み。亜鉛板などを簡易クーロンメーターの皿の上にに置いて負に帯電させる。この亜鉛板に殺菌灯の光(紫外線)を当てて、帯電量がどのように変化するのかを調べた。実際にやってみると、人体など周囲の環境の影響か、数値がふらついたり、ドリフトしてしまうため、明確な変化を捉えるのは難しかったが、次第に減少していく傾向はとらえられる。
 B10-1206 簡易クーロンメーター:http://www.rika.com/product/prod_detail1.php?catalog_no=B10-1206
 

 実験に使用した小型の殺菌灯は旅行先などで便座などを除菌する用途の携帯タイプ。1000円台で販売されている。

ダミーヘッド実験報告 市原さんの発表
 9月例会で報告したダミーヘッドに関して、厚木のNTT先端技術総合研究所の無響室を借りて実験を行ってきた。無響室は、部屋全体が音の反響を吸収してしまう素材で囲まれている(写真左)。無響室の隣にある部屋で、スピーカーの操作や中の様子のモニタリングができる(写真右)。
 

 部屋は全体が宙づりになっている構造で、外部の振動音などもシャットアウトでき、バックグラウンドノイズレベルは非常に低く、人間には感知できない程度である(写真左)。この部屋で正中面上にスピーカーを7つ配置し(正面から0°,30°,60°,90°,120°,150°,180°)ホワイトノイズをランダムで流す。被験者は、どこの位置から聞こえてきたように感じるかを答える(写真右)。
 人間の頭の位置と同じ位置にダミーヘッドを配置し、同様の実験を行った(写真上左)。ダミーヘッドの持つ耳介を通して聴く音と、自分の耳介で聞く音にどのような違いが生じるかを調べる。ダミーヘッドには無指向性コンデンサマイクが使われている。また、個人個人の耳にマイクを取り付けてもらい、聞こえる音を録音した(バイノーラル録音)。ダミーヘッドを通して聞こえる音と個人個人が聞いている音をスペクトル比較する。YSFHの生徒が協力してくれて、19人分のサンプルデータをとることができた。
 

飯舘村の除染現場を訪ねて 山本の発表
 8/22~25に埼玉大学・JSTが主催したサイエンスリーダーズキャンプ「放射線・放射能除染等の科学的理解を深める理科教員合宿研修」に同行した。その2日目の野外研修で福島県の被災地を訪ね、除染作業の実際や、地震・津波被害の実態を見学した。
 最初の訪問地、飯舘村はいまだに居住制限区域である。菅野村長が直々に案内、解説してくれた。除染作業は表土をはぎ取って袋詰めにし、仮置き場に並べてブルーシートで覆うという地道な作業だ。気の遠くなるような工程だが村を取り戻すためにがんばっている。
 菅野村長の英断は、村内最大の産業である菊池製作所の金型製造工場敷地内をいち早く集中的に除染して工場を稼働させ、村内の若者の雇用を確保したことだ。村民は近隣市町に避難しているが、車で通勤して昼だけここではたらいている。これなら年間許容線量を超えないというわけだ。こうして飯舘村は村民の離散を防いだ。それでも農業が復活するにはまだ時間がかかる。
 

 菊池製作所近くの除染現場では日立のガンマカメラ(写真左)が活躍していた。ピンホールカメラの原理で面状の半導体検出器によりγ線の来る方向と強度を検出し、イメージ化して可視光の画像に重ねて表示する。どの場所がどの程度汚染されているかが一目瞭然である。
 南相馬市の原町第一小学校では教頭先生が説明してくれた(写真右)。グラウンドの土をすべてはぎ取って川砂をいれた。空間線量は下がったが砂のグラウンドでは思うように走れないので十分な体育ができないとのこと。太陽電池で動作するモニタリングポストが各学校に設置されている。0.185μSv/hを示していた。敷地周辺の樹木のあたりは倍ぐらいの線量になる。
 このあと原町高校を経て、20km圏内の小高区に入った。小高区の空間線量は0.1μSv/hのオーダーで決して高くないのだが、コンパスで機械的に引かれた20kmの円内に入っているというだけの理由で住民の立ち入りは禁止され、津波や地震で壊れた家屋は放置されたままだ。今年の夏からようやく「避難指示解除準備区域」になったものの、復旧が大きく遅れている。国の対応が万事に後手に回っている実態を目の当たりにしてもどかしく思った。
 

原子力は相対論の応用ではない 鈴木亨さんの発表
 鈴木さんが物理教育通信Vol.150に載せた自身の論文の解説をしてくれた。
 E=mc2という有名な公式をあげて、「原子爆弾や原子力発電はアインシュタインの相対性理論の応用である」とする記述が通俗書にはよく見られるが、それは物理的にも数学的にも正しくない俗説である。エネルギーの出入りがあれば、どんな現象であってもE=mc2に見合う質量変化が伴う。しかし、それは核反応に限ったことではない。
 

 Weizsacker-Betheの質量公式によれば、原子核の結合エネルギーは、(1)体積エネルギー項、(2)表面エネルギー項、(3)クーロンエネルギー項、(4)対称エネルギー項、(5)対エネルギー項の和で表される。全エネルギーは質量数56の鉄で極小となる。これらのうち、核分裂で放出されるのは主にクーロンエネルギーの差額である。さらに元をたどるなら、そのエネルギーを原子核内に閉じこめたのは超新星爆発時のエネルギーであり、そのまた元は恒星ができる前に存在した重力ポテンシャルであるということになる。われわれは超新星の残骸からエネルギーを取り出しているのだ。
 

 人間はとかく因果関係による説明を求めがちであるが、この場合「質量が減少するのでエネルギーが放出される」という因果関係で捉えるのではなく、「核分裂では質量が減少するのでエネルギーが放出されたことがわかる」という相関関係として捉えるのが正しい。
 

磁界の説明用小物 水上さんの発表
 ここ15年ほど、平面図から立体的な様子をイメージするのが苦手な生徒が増えている。複数の直線電流による磁界の合成、直線電流と円電流による磁界の合成、電流が磁界から受ける力の向きなどに関する問題の理解が難しいようだ。授業では写真のような、電流を模した棒を黒板に貼り付け、磁力線や力を描いて説明している。

重心を見せる動画 水上さんの発表
 ワインスタンド(2004年11月のYPC例会で購入)に酒瓶をセットして片足だけで立たせると生徒は興味を示すが、「面白い」だけで終えてしまう。この演示で「全体の重心は人形の足の上にある」ことを実感させるには至らない。そこで、足を次第にずらしていくと、やがて重心がはずれて倒れる様子を撮影し、写真のように黒板に投影したものに説明を書き込んだところ、すんなり納得してもらえるようになった。

力積の演示映像 水上さんの発表
 上皿秤の上から落としたスーパーボールがはねかえるとき上皿が受ける力積の大きさは、|FΔt|=|mυ´-mυ|である。そして、指針の最大値は力積の大きさに比例する。指針の振れを緩やかにするために、上皿に瀬戸物の皿をのせて質量を増した。
 次に皿に衝撃吸収シートを敷いてはねかえらないようにすると(υ´=0)、力積の大きさは|FΔt|=|m×0-mυ|となり、指針の最大値は小さくなる。
 これを毎秒300コマで高速度撮影し、演示の後にコマ送りで提示している。ただし、はねかえる場合は上皿+皿の慣性のため、ボールが皿から離れた後も上皿は下がり続け、指針が最大値を示すのははねかえりのやや後になってしまう。

 物体が面と衝突してはねかえる問題を解く際に使おうと、スーパーボールが机やいすの座面に衝突してはねかえる様子を毎秒300コマで高速度撮影した。
 授業の流れは次のとおりである。映像を黒板に投影⇒コマ送りで衝突直前と直後の1/30秒(10コマ)間の変位をチョークで記録(写真左)⇔これらを速度ベクトルυ、υ´とし、(υ´ベクトル)-(υベクトル)を描く(写真右)⇒ボールが受ける力積の向きはこれと同じになることを説明し、力積が面と垂直になっていないことを確認する。⇒衝突の際、ボールは面と垂直な力と面と平行な摩擦力も受けるので実際の力積の向きはこのように斜めになる。⇒「問題では面が『なめらか』なので面と垂直な力のみになり、力積や運動量変化の向きも面と垂直になる。」ことを説明する。⇒問題解答
 

 スーパーボールは回転のつけ方によってはね返りの様子が大きく変わる。ボールに回転を与えないようにするには、斜めの面に真上からボールを自由落下させればよい。この場合も摩擦の効果で力積ベクトルは面の法線に一致しない。より摩擦が少ない場合を演じたければピンポン球などを使うとよいだろう。 

日本賞 佐々木さんの発表
 「日本賞」は教育向け映像コンテンツの国際コンクールとして、毎年、NHKの渋谷放送センターで最終選考・受賞作品発表が行われる。今年の受賞作品は、科学や医療分野の作品が占めており、教材として参考にになるものもありそうだ。
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 佐々木さんから、部門別の受賞作品と放送予定日の案内をいただいたのでここに紹介する。いずれもEテレでの放送。
12月16日(日)16:00~ Eテレ・「2012年日本賞presents世界のとっておきテレビ」(ダイジェストによる全受賞作品紹介)
12月17日(月)1:25~(16日深夜)・「WRINKLES(しわ)」グランプリ日本賞、福祉教育カテゴリー最優秀賞:痴呆症老人の終末期までの施設生活を描いた90分アニメーション。
12月18日(火)1:25~(17日深夜)・「Tord's Garage(トードと小さな仲間たち)」幼児向けカテゴリー最優秀賞:少年がガレージで飼育している生物について解説する5分番組。・「MY FARM-MY CLASSROOM(農場が私の教室)」児童向けカテゴリー最優秀賞:少女が祖母の農場の取材を通じて地球環境について学ぶ17分番組。 ・「The Cosmic Shore(宇宙の渚)」生涯教育カテゴリー最優秀賞:古川宇宙飛行士がISSから撮影したスプライトの映像など学術価値の高い60分番組。
12月19日(水)1:55~(18日深夜)・「Deaf Jam~聴いて!私の手話の詩(うた)~」青少年向けカテゴリー最優秀賞:全身で表現するアメリカ手話を知った少女が詩の朗読ライブを企画する70分番組。
※「The Alzheimer Experience(アルツハイマー病を知る)」イノベイティブ・メディアカテゴリー最優秀賞 は、16日のダイジェストでの紹介のみ
 

二次会 日吉駅前居酒屋「くりの木」にて
 13人が参加してカンパーイ!。例会の後の二次会はYPCの恒例だ。なごやかに科学を語り合う。例会の話題が続くことも。初めての人でも気楽に参加できるムードが今日のYPCを築いてきた。ちなみに学生は無料の特典もある。


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