例会速報 2012/10/14 東洋英和女学院中学部高等部


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授業研究:力学的エネルギー保存の実験 市原さんの発表
 1年生の物理2単位(物理基礎に相当)で行った、力学的エネルギー保存の生徒実験の報告。以下、市原さん自身のコメント。
 まず、APEJの基礎実験講習会でやった実験を行う。V字になるように糸で金属球をつるし、ビースピの間を通過させて、位置エネルギーが運動エネルギーに変わることを計算で確認する(写真左)。APEJでは糸の長さ調節をつまようじで行っていたが、そこまで準備できなかったので金属棒に糸を結ばせている。狙ってはいなかったが、生徒が糸を結ぶことに苦労するので、経験としてはやらせてよかったと思う。
 次に、L字に曲げた針金を使って金属球を水平投射し、到達距離からエネルギー保存を確認する(写真右)。学芸大学附属の研究紀要「高等学校理科の基本実験10の研究」を基にした。金属球の落下地点には、紙を3~4枚ほど重ねておき、落下すると跡がつくのでそこを記録する。初めはカーボン紙を考えていたが、バウンドした跡と区別するのが難しいので、直接落下の跡だけがわかるこの形式にした。
 

 金属球を水平投射した高さとL字の針金を持ち上げた高さから、水平到達距離の理論値を求め、実際にとんだ距離と比較する。5%前後の精度におさまった。生徒のレポートの中にも、実験精度を上げる工夫を考えてくれるものもあり、マイナーチェンジを繰り返して、より良いものにしていけたらと思う。
 

浮き上がりの写真 水上さんの発表
 水上さんは、屈折率nの液体中の深さhにある物体を真上から見ると見かけの深さがh´≒h/nになることを学習する際に使おうと、これらの写真をパワーポイントに貼ってコメントを書き加えた。
(左)容器の底とその脇の台上に切断した巻き尺10cmを置いて真上から見ると台上の方がカメラに近いので大きく写る。
(右)2つの巻き尺が同じ長さに見えるまで水を入れる。
 

 水面と台の高さを測定し,水中の深さh=20cmにある巻き尺を真上から見ると、見かけの深さがh´=15cmになっていることを確認する。なお、授業は「写真を見せる→h´≒h/nを導く→式の検証(水の屈折率n=1.33≒4/3なのでh´=20cm÷4/3=15cm)」 の順に進めている。

上昇中の気球からの「自由落下」 水上さんの発表
 「速度υ0で上昇中の気球から静かに手ばなされた物体の運動が初速度υ0の鉛直投射である」ことを理解しがたい、あるいは頭ではわかっても実感がわかないという生徒が少なからずいるようだ。水上さんはこの解消に役立てようと,毎秒300コマの映像を撮影した。
 電磁石に鉄球をつけ、上昇中にスイッチを切ると鉄球は電磁石から離れる(写真左)が、その運動は鉛直投射になっている(写真右)。例会では「鉄球が離れる瞬間が手前のアームの陰になって分かりにくい」の意見が出たので、水上さんは手持ちの棒を伸ばして撮り直すことにした。
 

波の練習問題を映像で解説する 水上さんの発表
 水上さんは波の授業や問題解答の際に、ウェーブマシンを伝わる横波の普通速映像や糸で吊るした巻ばねを伝わる疎密波の毎秒300コマ映像を用いており、生徒の反応も良い。たとえば左の写真のように映像を静止させると、山や谷は「点」に写り、y=0のところは被写体ブレで棒状に写っていることから、「波の媒質の速度が0なのは山と谷、最も速いのは変位y=0のところである」ことが一目でわかる。動画→静止画で観察→プリントでまとめ、というプロセスで授業を進めていく。
 

 下の例では疎密波の模式図と実態(映像)を比較している。「縦波で媒質の速度が右向き最大なのは密のところ」→映像を静止させ、密部では糸が鉛直になっているので振動の中心(最速)であり、さらに少しコマ送りするとこの糸が右に傾くことで速度は右向きであると確認できる。ハイスピード撮影の映像を良く味わえば様々な場面での使用法を思いつく。
 

鉛直投げ上げの速度をブレで解析 高橋さんの発表
 水上さんの発表の関連で、高橋さんも自分の実践を紹介してくれた。鉛直投射されたボールの運動をムービーにとって、コマ送り再生すると、ボールの速さに比例した被写体ブレが生じて、運動の各過程でのボールの速さが一目でわかる。左は投げ上げ直後、右は最高点付近。
 

 左は同じく最高点を過ぎてからの落下途中、右はキャッチする直前。同じ高さでは同じ速さになっていることも読み取れる。

チューインガムのラトルバック 加藤さんの発表
 チューンガムの板を銀紙ごと緩く変形させて簡単なラトルバックを作ることができる。舟形の凹面の軸がちょっと斜めになるように作る。特定の方向にはじいて回すと、止まった後に逆回転に転じる。movファイル(1.3MB)はここ

振動で動くおもちゃ 市原さんの発表
 東京工業大学の岩附信行教授が、高校生向けのイベント用に考えたもので、振動で動く。2010年の8月例会9月例会で越さんが発表したものと原理は同じ。電気モーターではなく、ぜんまいで動く。足は針金で自由に曲げられるので、うまく前に進むように調整する。movファイル(1.5MB)はここ

えのすいのしんかい2000 山本の紹介
 「しんかい2000」は1982年1月の就航以来、2002年11月までの間に1,411回の潜航を行ってわが国の深海研究のフロンティアとして活躍してきた。その成果はより大深度の潜航能力を持つ「しんかい6500」へと引き継がれた。退役した「しんかい2000」の実機が今年7月14日から神奈川県藤沢市の新江ノ島水族館で常設展示されることになった。新たな展示エリア「深海Ⅱ~しんかい2000~」で現役時代さながらの姿で公開されている(写真左)。
 右の写真は深海コーナーのお土産売場で販売されているキャンデーボックス。中に入っているキャンデーよりもペーパークラフトの箱の方が値打ち物。


 同じ売り場にある「しんかい2000プリントクッキー」(左)と「深海まんじゅう」(右)。クッキーの方は中箱を引き抜くにつれ、しんかい2000が深海へと潜航していくしゃれたデザイン。これも箱が値打ち物だ。いずれも、入口近くの大きな売店にはなく、イルカプールに向かう途中のゲームコーナーの一画の小さな売店に置いてある。


全反射の議論について 山本の発表
 前回の例会で田代さんの発表内容をめぐって、若干の議論があった。ポリ袋にカードを入れてコップの水に鉛直に差し入れると水中部分が見えなくなる科学あそびで、銀色に光って見える水中の部分からの光は透過光を含んでいるかという議論だった。この議論に決着をつけるためにきちんと計算してみた。結論から言えば、問題の部分が全反射の条件を満たしているときは、透過光は一切ない。まさに全部反射光になっているのである。
 一方、水面を見込む角を浅くしていくと、全反射の条件が成り立たなくなり、右の写真のように反射光と透過光が混ざった状態も見えてくる。
 

 この考察は上記の科学あそびのほか、水族館の巨大水槽を側面から見上げる場合や、互いに直角に交わる側面を持つ水槽の向こう側を観察する場合などに共通する。水面の法線からの角度が61°の範囲内ではそれと直角をなす境界の「向こう側」は見えない。この全反射の領域をはずして、下の写真のように水面に対して浅い角度で水面を見込むと、「向こう側」の世界が全部圧縮された状態でそこに見えてくる。右の写真はその部分の拡大だが、画面中央の部分に、水上部分の反射像と、水中部分のひどくゆがんだ屈折像と、さらに水底からの反射光が混じり合って見えている。詳しくは「水槽の向こう側(PDF版)」を参照のこと。
 

平行電流がおよぼし合う力の相対論的理解 山本の発表
 平行に同じ向きに流れる2つの電流は互いに引力をおよぼし合う。高等学校の物理IIでは、一方の電流がその周りに作る磁場によって他方の電流が力を受けると説明する。それでは電流を担う自由電子と共に、等速運動する観測者が見たらこの現象はどう見えるのだろう。
 静止している電荷は磁場から力を受けないから、この観測者から見ると電子が受けるのは電場による力だけだ。つまり、この観測者は相対論的効果によってローレンツ収縮し、電荷密度が変化した世界を見ていて、電子は正に帯電した相手の導線から引力を受けると解釈するのだ。電場と磁場は観測者の運動状態により互いに入り交じって姿を変える。
 PDF版の解説記事はここ

CDとDVDの電顕写真 喜多さんの発表
 喜多さんは過日、慶應大学理工学部にある走査型電子顕微鏡を使用する機会を得て、CDやDVDの表面を撮影した。下の写真左は、使用した電子顕微鏡内部の様子である。写真右は顕微鏡内に入れた試料である。大きさの比較のために一円玉を並べてある。試料全体を10mm四方に収めた。直径13mmのステージに載せ、表面にオスミウムを塗布したものが右下で、見た目少し黒くなっている。
 

 下の写真は左がCD、右がCD-Rで、倍率は10,000倍で、白の縦線の長さが2μmである。CDが1.6μmのトラックピッチを持っていることが分かる。試料のCD-Rは650Mバイトのものなので、1.6μmだが、現在流通しているものは700Mバイトが多く、その場合のトラックピッチは1.5μmになるそうだ。

 

 さらに下の写真は左がDVD、右がDVD-Rである。倍率は上の写真と同じ。DVDがのトラックピッチは0.74μmである。ピットも高密度に並んでいるのがわかる。喜多さんは、次に使用する機会があったらCD-RやDVD-Rの記録された部分がどのように変化したかを撮りたいと考えている。

片目の立体視など 竹内さんの発表
 視覚的に立体感を生むには両眼視差を用いる以外にも色々な手段がある。右のような画面は片目で見るだけで立体感を生じる。
 

 竹内さんは企業に勤務していた時代に3Dカメラの研究開発を行っていた。写真はその成果物の一例。
 

韓国科学の祝典 中村さんの発表
 8月14日~19日の日程で、韓国科学創意財団主催の「科学の祝典」が韓国・イルサンで開かれた。中村さんはYPCの車田さんと共にOnsenチームの一員として参加した。右の写真中央が檀上さん。毎年のことながら熱気にあふれる会場の様子がレポートされた。Onsenニュースのページに報告が載っている。マスコミでは「竹島問題で揺れる日韓関係」などと報じられているが、会場は友好的ムードに包まれており、険悪な空気は全く感じられないという。
 

岩波「科学」の特集 鈴木さんの書籍紹介
 岩波の「科学」の10月号で「放射線副読本をどう考えるか」が特集されている。岩波「科学」は以前から原発に批判的ではあったが、ここで反原発路線にはっきりと舵を切ったようだ。

文部省学術用語集・物理学編 越さんの書籍紹介
 旧文部省が編集した「学術用語集・物理学編」。物理の専門用語の「和英」、「英和」辞書にあたるもので、公認された正式な用語を調べる時に有効である。培風館から出版された書籍版は絶版だが、中古ならアマゾンなどで入手可能である。
 現在では「オンライン学術用語集」 http://sciterm.nii.ac.jp/cgi-bin/reference.cgi で用は足りる。

月面でのプライベートな青空 越さんの発表
 MIT(マサチューセッツ工科大学)のウォルター・ルーウィン先生は、MIT OPEN CURSEWARE のVideo Lectures で話題の名誉教授だ。
 この写真は、ルーウィン先生の光の授業の中で紹介にされているもので、月面上の宇宙飛行士の生命維持装置からの廃熱(ベント?)のために微粒子が放出され、太陽光のレイリー散乱により青っぽく見られるという。おそらく微小な水滴が放出され、蒸発する段階で、光を散乱させているのではないかと思われる。
 例会では、「月面上で不純物を放出していたのか?」とか、「ハレーションではないか」「いや、宇宙服に取り付けられているハッセルブラッドカメラで撮影した写真だからハレーションは考えられない」、などの意見が飛び交った。Eテレで2013年1月に放送予定の「白熱教室」で、ルーウィン先生の授業を日本語吹き替えで見る事ができる。
 また、ルーウィン先生の近著「これが物理学だ!」http://hon.bunshun.jp/articles/-/1156 も評判である。

二次会 六本木駅前たん丸にて
 14人が参加してカンパーイ!六本木駅のすぐ近くにある路地裏の目立たない店だが、東洋英和の先生方の御用達。日曜は定休日だが、YPCのために特別に貸し切りで店を開けていただいた。さすがは六本木の洗練された味と、六本木らしからぬリーズナブルなお値段に一同感激。


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