例会速報 2013/05/19 慶応義塾高校
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授業研究:中2の電気回路の授業 武捨さんの発表
武捨さんは、中学2年生の電気回路の授業、10時間分の報告を行った。授業の流れは、「学び合い高め合う中学理科の授業(大月書店)」を参考に構成した。
中高一貫ということもあり、電位を「回路の中での電気的な高さ」という説明で導入し、実験を通じて、その概念を身につけさせることを試みた。写真は実験装置の一例。このような画面で配線の解説をする。
2013年2月例会で慶應高校の喜多さんも実践報告した、電球を3つ用いた電気回路の分野ではおなじみの課題を扱った。最終回の10時間目の授業だったが、期待に反して電位で考える生徒はほとんどなく、電流がどう流れるかで考えたり、回路を変形して考えたりする生徒がほとんどだったそうだ。
例会では、電位という言葉だけなら水流モデルと同じではないか、どうせなら電流の導入を後回しにしてもっと電位を前面に押し出してはどうか、電位の考え方の利点を感じられる課題を配置してはどうか、後半の授業に時間をかけて丁寧に扱ったほうがいいのではないか、実験に用いるものを精度の観点で精選したほうがいいのではないか、などの意見がかわされた。
自作軍鶏ロボット 風間さんの発表
大学生の風間さんたちは、福島県で8月末に行われる「川俣シャモまつり」を盛り上げようと、シャモをかたどったロボットを参加者に工作させて、競技大会を開くことを企画している。写真はその試作品。2つの車輪と、首の上げ下げ、尾羽の開閉の4箇所にモーターが使われており、2人のオペレーターが協力して2個ずつのモーターを制御して操縦する。この先、競技ルールを決めたり、部品点数を減らして安価で短時間で作れるようにしたり、コードがからまないようにする工夫など、課題は多数あるが、2人の意欲に応援の声が寄せられた。
オビ・クリップ・ワゴム(引き算編) 車田さんの発表
2本のゼムクリップをはさんだ紙帯の両端を引くと一瞬にしてゼムクリップが結合する・・・前回例会の「足し算編」に続き、今回は「引き算編」。
まず、前回紹介の「足し算」を実行する。この際、足し算には2通りある。紙帯を綴じるとき、クリップの二重の輪の長い方と短い方の間に挟むわけだが、左の写真で上の紙帯は同じ方向(すなわちクリップの長い方を揃える)、下は左右対称(クリップ長い方が対称位置)になっており、帯を引っ張ると、右の写真のように二通りのつながり方ができる。
次に、引き算である。上のようにしてつながったクリップを、下左の写真のように、S字にくねらせた帯につながったままうまく挟み込む。この状態から帯を引っ張ると、クリップの境目を帯が入りこみ、みごとクリップが外れる(写真下右)。引き算時のクリップのはめ込みは、無理がないようにつながったクリップを重ねながら、写真のようにはめ込むのがコツです。無理なひねりを加えないこと。百聞は一見にしかず。言葉での表現はむすかしいが、うまくいかない人はYPC例会に足を運んで、車田さんに直伝を請おう。
Solar Motion Demonstrator 車田さんの発表
太陽の日周運動と太陽高度の季節変化や観測地の緯度による南中高度の違いが理解できるスグレモノのペーパークラフトの紹介。
操作法は、まず、外側の青いリングにある太陽位置を示すクリップを、観測月に合わせる(写真左)。次に緑色の地平ディスク(観測地の地面を表す)を動かして真北を示すNの位置を観測地の緯度の目盛りに合わせる。これで準備完了。地平ディスクを水平に保ち、その中央に自分が立っている様子をイメージしながら青いリングを東側からゆっくりと西に向かって動かす。太陽を示す金色のクリップがその日の太陽の動きを示している。日の出方向、南中高度、日の入り方向が非常に分かりやすい。
製造元はTheScienceSource社、販売代理店は理科ハウス(http://licahouse.com/)、日本語マニュアル付で価格は300円。理科ハウスでは、地平ディスクの観測ポイントにマチ針を立てて観測者に見立て、太陽のクリップをLEDに替えて影のシミュレーションも見せているそうだ。地学分野の必須アイテムだ。
秋月のファンクションジェネレータ 山本の発表
秋月電子からキットとして販売されているminiDDSファンクションジェネレータ(FG085)の紹介(写真左)。
正確な波形の正弦波、三角波、矩形波、ノコギリ波、階段波を、1Hz刻みで0~200kHz(正弦波以外は10kHzまで)の自由な周波数で出力できる。周波数を自動的に連続変化させる周波数掃引モードも装備。出力振幅0~10VP-P、オフセット電圧-5~+5Vもデジタルで正確に指定できる。音波や交流回路の実験の信号発生源として最適である。
キットながらしゃれたフロントパネルがついていて、仕上がりはなかなかカッコイイ。数値の指定はテンキーパッドとロータリーエンコーダで行う。
左は三角波の波形。DDS(Direct Digital Synthesizer)は波形メモリー上に波形を作って、指定周期でくり返し読み出す方式なので、出力波形はとてもきれいだ。
完成品のファンクションジェネレータは安くても数万円するので、キットながら4400円は格安で、性能は完成品に見劣りしない。小型で使い勝手もよい。これは「買い」だと思う。
ただし製作にはハンダ付けの技術が必要で、ランドのピッチが狭いので注意が必要である。20Wの先細ハンダごてと太さ0.8mmの細めのハンダを用意することをおすすめする。
秋月電子のカタログページはここ→http://akizukidenshi.com/catalog/g/gK-06298/
素粒子ギジンカ物理学 加藤竜一さんの書籍紹介
ヒッグス粒子の報道があった頃に、生徒の質問に備えていろいろ調べているときに検索に引っかかった同人誌。絵については、賛否があるかもしれないが、解説ページはすごくよくできている。
授業の合間の休み時間に生徒に見せたところ、すごく興味を示す生徒もいれば、冷たい目で見てくる生徒もいたそうだ。ただ、最近はこのような同人誌に興味を持っている生徒がいるのも事実。そういう生徒たちが物理に興味を持つきっかけになればいいと思う。
iPod miniの活用 鈴木亮太郎さんの発表
鈴木さんは今年は週1回、系列他校での出講があり、最小限の荷物で、そこの教室に設置されているプロジェクターで
1. スライドを見せる(Keynote)
2. あらかじめ用意した動画を見せる(含むYoutube)
3. その場で実験した内容を録画し、スロー・コマ送り再生して確かめる
ためにiPad miniを活用している。(下の写真)
3.については、例えば、iPad mini内蔵のカメラで、同時落下器による水平投射の実験や慣性実験器による斜方投射の実験を「その場で」撮影し、それを動画再生アプリ(「ウゴトル」「T.T.Video」など)で超スローもしくはコマ送り再生することができた(下の写真)。シャッタースピードは高速度撮影ができるものに比べれば落ちるが、上記の実験程度であれば必要十分だ。
今後は以前、武捨さんが発表されていた Apple TV の活用事例を参考に、プロジェクターとワイヤレスで接続することで生徒実験にも活用できないか模索してみたいと考えている。
連合大会報告 市原さんの発表
3月例会の「たたら製鉄報告」をまとめて、日本地球惑星科学連合2013年大会の高校生セッションでサイエンスフロンティア高校の生徒が発表したのを見学した記録。
連合大会(合同大会とも言う)は、地震学会や地質学会、気象学会などなど、50近い学会が一同に会する。6日間に渡って行われるのだが、高校生セッションだけは無料で参加できる。高校生セッションには、年々参加校が増えてきており、今年は67チームが参加し、かなり活気のある発表会になっている。また企業や大学がブースを出しており、先端技術や教材・アイディアを得る意味でも、行ってみると面白い。
上右の写真は、3Dで地球の内部をのぞけるシステムを体験できる様子。下の写真は地震のアスペリティーをモデル化したもの。偏光板を通して光弾性効果を見ることで歪みがたまっている部分を可視化し、地震発生時の様子がわかるようになっている。SSH校ではない普通の高校生も多く発表しており、市原さんは生徒に「自分たちの同学年がやっている研究を見てきてごらん」と紹介しているそうだ。
ミラクルドルチェ 益田さんの発表
舌先で数分間なめるだけで、レモンなどの酸っぱい味を、甘く感じさせる魔法の実、ミラクルフルーツ。生の実は長期保存ができないのが教材としてのネックだったが、有効成分ミラクリンを抽出し、タブレット(錠剤)化した製品がある。これならストックしておいていつでも授業に使える。
放射線ってなあに 山本の書籍紹介
科学技術振興機構(JST)のサイエンスウィンドウ編集部がこのたび出版した子ども(小中学校)向けの解説本。一般に官制解説書は原発事故に踏み込まないなど、事実隠蔽しているようでとかく評判の悪いものが多いが、この冊子は福島の原発事故や広島長崎の原爆の歴史にも触れながら、はからずも日本人にとって身近な存在になってしまった放射線について、わかりやすく解説している。臭い物にふたをするでもなく、いたずらに恐怖心をあおるでもなく、比較的ニュートラルなスタンスで書かれているのが好感が持てる。
欲を言えば、アンリ・ベクレルやマリー・キュリーが、知らず知らすに放射線障害で命を縮めたことも歴史的事実として伝記マンガに書き添えてほしかった。
この冊子は全国の学校に1冊ずつ無料送付されているので、まだご覧になっていない教員の方は校内を捜索してみてほしい。なお、JSTの下記のサイトでは、電子ブックとして無料閲覧できるほか、PDFもダウンロードできる。紙版冊子も500円で販売すると書いてある。
http://sciencewindow.jp/kids/
「自炊」のススメ 山本の発表
手持ちの書籍の背綴じを裁断処理して、ドキュメントスキャナで全ページを読み取ってPDF化し、自分で電子書籍に加工することを「自炊」と呼ぶ。タブレット端末の普及に後押しされて、巷では今「自炊」が秘かなブームになっている。YPCでは2年ほど前に鈴木健夫さんが先陣を切ってYPCニュース集(年鑑)のバックナンバーを一気にPDF化した。
現時点で「自炊」を開始するなら、イチオシのおすすめアイテムは、PFU(富士通の子会社)のScanSnap iX500(写真左)だ。自動紙送りA4原稿両面同時読み取りで毎分25枚の速度。OCRも連続で自動的に行い、テキスト検索可能なPDFファイルにしてくれる。価格相場は変動するが、現在38000円程度で推移中。
合わせて本の背綴じを一気に裁断するのに大型裁断機もあると能率がよい。写真右の裁断機は中国製で7000円程度から。これらのアイテムをそろえれば本棚いっぱいの書籍をmicroSDカード一枚に詰め込んで常時持ち歩くことも可能になる。ただし、自炊した電子ファイルを他人に譲渡したり、再配布することは著作権法違反になる。自分の蔵書を自分で利用する範囲にとどめること。
二次会 日吉駅前「くりの木」にて
16人が参加してカンパーイ!常連も久しぶりの方もうちとけて和やかに科学を語る。例会では聞けなかった裏話も語られ、貴重な情報入手の機会である。初めての人、若い人も大歓迎。この二次会を例会本体よりも楽しみにしている人もいる!?
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