例会速報 2018/04/15 慶応義塾高等学校
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授業研究:中2の電流、電位差、オームの法則 長舩さんの発表
長舩さんは、中学2年を対象に実施した電流からオームの法則までの授業内容を報告した。授業案は特に『学び合い高め合う中学理科の授業2学年1分野』(大月図書)を参考にした。長舩さんが例会で一番相談したかった点は、電位・電位差の導入として用意した課題で、生徒が正しくもがける内容になっているかどうかだった。
生徒はとかく「電池から流れ出る電流は一定」という誤概念にとりつかれがちである。いわゆる「電池の定電流説」だ。電池から流れ出る電流は、抵抗の接続の仕方で変わることに気づかせ、最終的には、電池が持つ物理量として電位差があることをこちらで説明して進んでいく授業展開だった。結果として、電池から流れる電流は一定ではないことにも気づかせたかった。発表後に挙げられた主な反省は次の通りだった。
・目的、ねらいをもっとしぼる必要がある。
・ショート回路はここでは不要。最後に時間があればやる程度でよい。
・電流測定の段階で、直列接続の電池どうしの間や、電池3個で1つを+-を逆にするなどして基本的な電流測定を入れるとよい。
・電流と電位差の分化をねらうときに豆電球を使うのは、目的をしっかり意識して使い分ける必要がある。
・生徒の間違いをどう間違えているのか正しく認識する必要がある。
続いて、電位差測定の実験では、「電池、電源装置に直接、電圧計をつないで測定させたい」「負極側だけでなく、すべての導線上の電位差を測定するとよい」という意見があった。
さらに、オームの法則の実験では、「日常生活にある例を取り上げて、比例の本当の意味を認識させたい。一次関数とも区別したい」「実験は電位差0を測定したなら、グラフに必ずプロットさせたい」ことが挙げられた。中2レベルで悩ましいのは、測定結果のグラフ(電圧が横軸、電流が縦軸)では傾きが抵抗の逆数になることである。
発表を終えて長舩さん談:「目的を絞って課題設定をしたつもりでいたが、まだまだ詰め込み過ぎていていることがよくわかった。自分の中での認識も整理された。目的をはっきりさせた展開が生徒の深い理解につながっていくと思うので、再構築したい。間違え方もこちらが正しく認識していく重要性を改めて感じた。」
簡易ホログラム? 古谷さんの発表
古谷さんは「3D映像」で検索していたところ、「3Dホログラム映像を簡単にスマホで見られる方法」がネットで話題となっていることを知り、やってみた。これは本来のホログラムではないので「簡易ホログラム」とでも呼ぶのが適当だろう。
スマホでYouTubeに提供されている映像を再生し、逆ピラミッド状の板を4面貼り合わせて作成した反射板をのせるとあら不思議、中央に立体的な(感じのする)映像が浮き出る、という仕組み。4面とも同じ映像が映っているだけなので立体像ではないのだが、宙に浮いて見えるのでそれっぽい感じがする。
最初にスマホで再生、次に8インチのタブレット端末で再生した。周囲を暗くして見ることが前提だが、画面が大きく、明るいほどホログラムらしく見えるようだ。また、バックミュージックがあった方がより雰囲気が出る。
立体視ビューアー 古谷さんの発表
前回の例会でレンズの代わりにプラスチック製フレネルレンズを使用したビューアーの紹介があった。製作単価を低く押さえることができる、軽量化できるという点の良さを認め「理科サークル」で紹介ところ、レンズ製の方が映像の質が良い、視界が明るい。という意見が出された。その後、両者を比較したところ、YPC例会での意見の通りで納得した。
次に、対象となる写真がより明るい環境下になり3D効果が高まることを考えると、透明なプラスティック容器の使用がより適当と考え、味噌の容器でビューアーを作成したところ予想通りの効果が得られた。ただし、レンズの焦点距離を考え、容器の蓋から底までの距離が最適な商品を探し出さなければならない。
最後に、「ビューアーで何を見るか」が重要であることに気付いた。つまり、「立体が強調されて見える驚きや美しさ」を知って以降を考えたい、ということ。例えば、見かけない、得体の知れない虫(昆虫)の実物は敬遠される傾向がある。しかし、拡大3D映像でじっくりと見ることにより見えたもの(生物)への興味付けが期待される。立体視した後のこうした二次的な効果を狙うことも必要だろう。
三門式棒起電器の材料 武捨さんの発表
武捨さんは、以前から三門式棒起電器を作りたいと思っていた。その改良版を3月例会で山本さんが紹介してくれたので、さっそく作ってみた。前回、YPC恒例争奪じゃんけんでは負けてしまった武捨さんは、自力で材料を調達。セリア(他の100円ショップでも扱っている)でポリエチレン製の「ぶつかり防止クッション」をたまたま見つけたので、「ライトチューブ」(水道管の凍結防止用カバー)のかわりに使ってみることにした。完成した起電器を使って電気振り子をやってみると、ちゃんと動いたが、帯電がいまいち弱い感じがするので、今度はライトチューブを使ったものもつくって、比較してみたいとのこと。
人間電圧計 武捨さんの発表
武捨さんは「いきいき物理わくわく実験」に載っている人間電圧計を授業で演示している。プラスチックのバット(トレー)に水を張り、アルミホイルでつくった電極にスライダックで電圧をかければ電極間に一様な電場をつくることができる。漏電による感電防止のため、電磁誘導実験用のコイルをかませて、アースから浮かせてある。LEDの足を水に浸けると、向きによって光り方が変わることから、電場方向には電位差があり、電場と垂直な方向には電位差がないことを示すことができる。LEDのかわりに2本指で水に触れるとビリビリくる。指の間隔を広げるほど、よりビリビリくることから、電位差が大きくなることがわかる。
点電荷のまわりの電場をつくるために、「いきいきわくわく」では子ども用の円形のビニールプールを使う方法が紹介されていたが、武捨さんはプラスチックの寿司桶を使うことを思いついた。点電荷として金属製のおもり、他方の電極(無限遠側)には円形につないだ薄いアルミ板を使った。点電荷からの距離によってLEDの明るさが異なることから、電場が一様ではないことを示すことができる。今回用いた寿司桶は直径45cmほどで、10枚2000円程度で入手できる(これとかこれとか)。寿司桶は手軽だが、やっぱりもう少し大きいと良い。鉢受皿ならもっと大きなものがあるというので、探してみたい。
実験上の注意:実験するときはくれぐれも感電事故に注意すること。上でも触れたように、トランスなどを使って商用交流のアースから浮かせる。スライダックを直接つなぐのは構造上大変危険である。指を入れる実験では、必ず片手だけを使い、指からとなりの指に電流が流れるようにすること。
ズームLEDライトの使いみち 天野さんの発表
LEDズームライトによる、光の三原色実験器の改良版。天野さんは3月例会でゼラチンフィルムを使わなくても、ダイソーの色セロハン赤・緑・青の三色を貼るだけで事足りることを報告した。このときのフィルターの形は、ベンツのマーク型だったが(左の写真の左側)、直径6mmの穴3つでもよいことがわかった(左の写真の右側)。手間はどちらもそれほど変わらないそうだが、とにかく簡単につくることができる。
ダイソーの<おもしろライト>は、1~3mの所に「お茶しませんか」などのメッセージが投影されるおもしろグッズだが、入手困難になってきた。そこで天野さんは、LEDズームライトを使って同じようなものを作った。レンズをはずして枠の前にもっていき、レンズの焦点を光源から離す。ダイソーの、熱すると1/4になるプラ板に字などを書いて熱で収縮させたセルをつくり、LED光源の直前に設置すれば出来上がり。
「30周年」の文字が壁に投影された。この投影器を耳の脇に添え、頭といっしょに動かすと、目で見ているところに投影されるが、距離により文字の大きさが変化しても、目で見る視角は同じであることに気がつく。この観察のしかたは面白い。
光通信・相互誘導(A4収納版) 喜多さんの発表
2014年12月の例会で報告があった実験装置の改良版が喜多さんから紹介された。可視光での光通信と相互誘導の実験ができる。今回の改良点は、実験セットがA4版の書類ケースにすっぽりと収納できるようにしたことだ。
送信側はメロディICの出力をLEDに接続、受信側は太陽電池を入力としてスピーカ付きアンプで音声化する。これにより、光通信の実験ができる。レンズで平行光線にするとかなり遠くでも受信できる。
参加者みんなで実験台を囲んでワイワイ。YPCのいつもの光景だ。YPCの例会では遠慮は無用。特に促されなくても、みんな前に出てきてさわり始める。理科教員はまず自分自身が好奇心旺盛でなければいけない。
同じ実験装置で、LEDの代わりにコイルを、太陽電池の代わりにもコイルをつなぐことにより相互誘導の実験もできる。出力側のコイルの代わりに、模型用モータや、マイクロコンダクターを使っても、磁場を介して同じように通信ができる。右の写真はモーターを出力側に使っているところ。
このキットは大好評で、夏の合宿例会のときにこれを作る工作会をやろうということになった。
授業報告 車田さんの発表
車田さんは、学校設定科目「サイエンス」2単位を担当している。2時間続きの週1回の授業だ。物理・化学・生物で実験をしていないので、初めて実験室に入る生徒がほとんどである。授業の内容は、毎回実験室で身の回りの題材で実験をするという授業だ。
第1回目の授業は、実験の班を決め、班ごとに「紙でクレーンを作成する」というミッションを与えた。今までもストロークレーンを作らせていたが、セロテープの制限がうまくいかなくて、今回はストローの代わりに紙をつかい、接着はセロテープではなくホチキスにした。準備が簡単で台座のボール紙にもホチキスで固定できるのでセロテープよりも簡単だった。
ノーヒントで作らせたが、クレーンの強度やバランスを考えない班がほとんどで、高さで点数を稼ぐ班やせり出しで点数を稼ぐ班は、バランスを考慮せず、100gの分銅をつるしたらひっくり返ったり、倒れたりして、そこからやっと物理的なことを考え始めた。
車田さん提供の資料(PDFファイル679KB)はここ。
Dscovr 越さんの紹介
先月の例会で紹介のあった「不都合な真実2」では、アメリカ元副大統領アル・ゴア氏の提案で打ち上げられた地球観測衛星Dscovr(Deep Space
Climate Observatory) が紹介されていた。Dscovrは、1990年代にスペースシャトルにより打ち上げられる計画だったが、コロンビア号の事故と政権交代により打ち上げは中止され、衛星は倉庫に保管されることになった。2008年の政権交代後、ゴア氏がオバマ大統領に進言し、ようやく2015年に民間のスペースX社のファルコン9により打ち上げられた。太陽周回軌道のL1ポイントで、常時地球を観測し、半面全部が太陽に照らされた状態の地球を観測することができることができるようになった。これは、1968年にアポロ8号が撮影した「ブルーマーブル」と呼ばれる写真以来のことになる。地球から約150万km離れた点から常時、地球を観測すると、自転軸の傾きによる季節の変化の動画(連続写真)が見られる。つまり、北半球の夏では北極側が見られ、冬では南極側が見られる。
また、時に月の影が地球上を通過したり(写真左。地球上の月の影の中では日食が観測される)、月がその裏側を見せながら地球の手前を通過する動画(連続写真。写真右)も観られる。関連の動画はここ。
太陽観測衛星SOHO(同じ太陽周回軌道のL1ポイント)などと同じように太陽活動も観測している。
電車で作用反作用 越さんの紹介
フェイスブックで見つけた物理ネタ。物理を勉強していると、日常生活の中でもちゃんと役に立つ、ということを生徒に伝えるのにちょうどいい話。
https://grapee.jp/484995
YPC発足30周年記念祝賀パーティ慶応大学・ファカルティラウンジにて
34名が参加して、カンパーイ!今日の二次会は慶応グループのお骨折りにより、30周年記念のパーティとして行うことになった。30周年記念パーティの詳細報告はこちらの特別ページで。記念写真でご覧の通り、30年選手もまだまだ元気だが、若手会員もずいぶん増えてきた。この年齢層の厚さがYPCの強みだ。
株式会社ナリカ様からは、世界にひとつのオリジナルラベル付き「カスタムメイドの菊水純米吟醸」(写真左)の差し入れを頂戴し、会場にてご披露の上、皆でおいしくいただいた。また、会員の児玉照男さんが、「岐阜物理サークル・のらねこ学会」に参加のおり作っていただいた、岐阜物理の皆さんの寄せ書き色紙(写真右)を届けてくださった。会場で披露の上、皆さんにコピーが配布された。温かい心遣いに一同感謝感激!本当にありがとうございました。
参加者全員に受付で配布された、成見知恵さん作の記念品。オリジナル消しゴムスタンプのマグネットのデザインは、桃屋の「ごはんですよ」のCMのパロディ。誰が段取りをするでもなく、それぞれのメンバーの気配りと善意で成り立っている会である。
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