例会速報 2018/03/18 多摩大学附属聖ヶ丘中学・高等学校


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授業研究:授業開き みんなの発表
 例年は4月に授業開きの報告をしていたが、今年は新機軸で3月に「授業開きの予定」を披露し合い、4月にさっそくまねしよう、というキャンペーンを行う事になった。
 小沢さんは、 授業開きだから特別なことをするのではなく、「課題方式」の授業の進め方を説明するためには、早速やってみるのが一番と、いつもと同じように<課題>を出す。
 最初の<課題>は「装置A(緑のレーザーポインター)から出る「何か」と、装置B(中の気体が緑に光る放電管)の中に見える「何か」は同じものか違うものか?」というもの。ただし、レーザーポインターや放電管という名称は使わず、装置A、装置Bで通す。
 「違うもの」という意見が多いので、それぞれの「何か」は何か?、どうすればそれを確かめられるか?と問う。ノートに「磁石を使う」ことを書いている生徒を指名して、どういう実験をすればどうなることが予想されるのか説明してもらう。次に、実際に教師がそれをやってみせ、<実験して明らかになったこと>を書かせる。
 観察して仮説を立て、実験方法を考案して、やってみて、考察するという「科学の手法」にのっとって、クラス集団の力で解決していく楽しさを、初回の授業で印象づけることをねらった授業開きである。

 武捨さんは、ふだんの授業で使うプリントを紹介した。
 昨年は、〈自分の考え〉〈ひとの考えを聞いて〉の欄だけだったが、〈ひとの考えを聞いて〉の欄を、結果や付け足しの説明の記録につかう生徒がいるため、今年は、〈結果を見て、説明を聞いて〉の欄をつくることにした。〈ひとの考えを聞いて〉の記述を充実させてくれることを期待している。

 竹部さんは、岡山大学付属中学校での実践にならって、「光をより多く吸収する木をつくる」を授業開きにする。モデル実験を行いながら、植物が光をより多く吸収するためには、どのように葉を付ければよいのか考えさせる。手順は以下のとおり。
①ソーラーパネルに光源を当てデジタルマルチメーターで電流値を読み取る。
②木の幹に見立てたオアシスに葉を刺して影を作り、ソーラーパネルの上に置き、電流値を読み取る。
③②を繰り返し、電流値がより小さくなるよう試行錯誤させる。
 写真ではソーラーパネルが窓辺に置かれているが、教卓に置く方がいい。真上から光を当てた時に電流値が小さくなるような葉の付き方を考えさせる。
 

 鈴木さんは、これまでもYPCで発表したことのある、スプーン曲げを紹介した。毎年最初の授業はスプーン曲げを披露して、科学的に考えるとはどういうことか、という投げかけをすることから始める。スプーン曲げの極意をここで伝授する。スプーンは、100円ショップで2本セットで売っている安価なものを用意する。「18-8」や「18-10」と表示されているスプーンは、硬くて曲がらないが、stainless steelとだけ表示されているものは「13-0ステンレス」と呼ばれるもので、柔らかく磁石にもつく。これをおもむろに出して、柄の一番細い部分を右手でつかみ、念を入れるようにさすったあとに、スプーンの柄の部分の全体を右手でつかんだ状態にして(この動作は素早く)スプーンの上部を左手で手前に引くと、簡単に曲がる。これだけで超能力を使っているように見えてしまう。
 さらには「スプーン切断」も実演したが(写真右)、このタネについてはここでは載せないことにする。知りたい方は鈴木健夫「sutaypc14アットジーメールドットコム」にご連絡を、とのこと。
 

 成見さんは、波動と幾何光学のみを教えている1校の授業開きは、ストローウェーブマシン作りから入る予定。
 物理基礎を担当して6年目になるもう1校の女学校では、板書を写す時間を減らすために「書き込み式のプリント」を年間を通じて多用して「考える時間に時間を費やしてもらおう」と考えている。女生徒たちはノート作りが大変上手なため、板書を丁寧に写すことに力を注いでしまい、授業を聞いていないことが多い気がするからだ。
 そのために、年間授業用のB5の40枚分の課題シートを用意してみた。また、生徒が英語のミニテストなどに慣れていることを逆手にとって(?)、物理基礎ミニテストと称するB6サイズの年間プリントも40枚準備してみた。このミニテストの問題に何を選ぶかはなかなか範囲ごとに難儀だったが、そのときに非常に便利に使わせていただいたのが3人のYPCメンバーの著になる「高校物理の解き方をひとつひとつわかりやすく。」(学研)という本だ。大変おすすめだという。
 

 喜多さんは、高3の物理と、大学理工学部での理科教育法の授業開きを紹介してくれた。
(1)2年生で物理3単位を履修後、3年生で物理3単位の科目の授業開きの展開
  ノート二面に、アルファベットを記し、復習する形で、2年生で学んだ物理量と、その単位を 思い出すようにして、復習した。
(2)理科教育法の授業の最初の時間(授業開き)に使う一つの映画
  1999年制作のアメリカ映画 原題 "October Sky" (原作 "Rocket Boys")邦題「遠い空の向こうに」
  この中の重要なシーンで、「重力加速度が32m/s^2と誤訳されている」ことを取り上げている。
  本題とは関係ないが、なぜ「十月の空」なんだろうとずっと不思議に思っていたが、喜多さんから"Rocket Boys"のアナグラムだと聞いて、初めて知った人も多かっただろう。(写真右)
 

トリタン棒 阿部さんの試料提供
 2月例会で放射線の飛跡を観察する霧箱実験の発表で、α線源としてよく利用されていたキャンプ用ランタンマントルが、このごろトリウムを含まないものになっている、との報告があった。今回、阿部さんが紹介してくれたのは「TIG溶接用タングステン電極棒2%トリウム入り」(通称「トリタン棒」)である。アーク溶接用のタングステン棒で、若干のトリウムを含んでいる。異校種体験研修で中学校へいったときに教えてもらったという。
 

 線量を実際に測ってみるとそれほど高くはない。教材としても問題ないレベルだ。霧箱での観察用線源としては十分で、棒を切断すれば個数も増やせる。
 ランタンマントルは開放線源だったから、雑に扱うとトリウムを吸引する恐れがあったが、金属棒ならその恐れもない。もちろん、本来用途のアーク溶接時にはトリウムも蒸発してくるので、吸引しないように注意しなければならないが、単独で使う分には心配しなくていいだろう。

プランク定数 鈴木さんの発表
 会場校で生徒実験分の道具があったので、鈴木さんの生徒実験「プランク定数測定」を、皆でやらせてもらった。
 6種類の色のLEDを用意し、その光り始める電圧を測る。E=hνの関係から、与える電圧からエネルギーを計算し、LEDの波長から振動数を求め、hを求める、というもの。教科書にも掲載され、島津やナリカでも実験装置が販売されている。市販されている装置は高価だが、波長のわかっているLEDを用意すれば実現できるので、鈴木さんは昨年度から実施している。
 

 問題は、LEDの波長である。入手できるLEDは波長がわかるものが少ない。秋葉原のLED専門店で波長の明示されているものを購入し、昨年度はそれで実施したが、きれいなグラフにならなかった。本年度は、勤務校のパソコン用スペクトロメーターを用いて波長を測定し、そのデータでグラフを書いた。それが右のグラフだ。かなりいい結果が出た。購入した時の規格として書かれている波長と、実測した波長にはかなりずれがあった。
 実は、生徒実験を行った後、NaランプやCdやHg光源でこのスペクトロメーターの較正をしたが、精度はよくなく、10%程度の誤差があった。しかし、電圧の測定も目で見て発光するかどうかの判定をしているので、この誤差はやむを得ない範囲だと判断する。グラフの傾きがプランク定数になるはずだが、有効数字1桁程度で一致する班と全く一致しない班とがあった。失敗した班は、目視での発光の立ち上がりが誤認されていると思われる。例会で実験した各班のデータは、おおむね有効数字1桁程度の結果が出ているので、その範囲で十分生徒実験が可能だと考える。
 なお、そもそもなぜこのグラフがリニアになるのか、と、縦軸の切片がなぜマイナスになるのか、の2点については、我々も十分理解できていない。例会での議論である程度の理解が進んだが、まだ今後の議論が必要だ。
 

三門式棒起電器の改良 山本の発表
 藤沢市科学少年団の2月活動の企画担当になった山本は、時節柄「静電気」をテーマにすることに決め、千葉県の三門正吾さんが開発した通称「三門式棒起電器」の改良に取り組んだ。部品点数と材料費を極力減らし、小学生でも確実に作れ、ある程度耐久性を持たせることが目標である。主な改良点は次の通り。
・子どもが扱うと皮脂で汚れ起電性能が落ちるので、塩ビを摩擦する相手はティッシュペーパーとして、頻繁に交換できるようにする。
・スライダー兼グリップとして水道管の凍結防止用カバー「ライトチューブ」を使用する。(写真左)
・正の集電極にはダイソーの「アルミテープ」を用いる。(このテープは静電気実験では極めて重宝である。)
・負の集電極はダイソーの「アルミワイヤー」を用いる。安価で柔軟ではさみでも切れるので、子どもでも扱いやすい。
・塩ビ棒の抜け止めに輪ゴムを巻く。
 

 塩ビ棒とティッシュの摩擦で、ティッシュは正、塩ビは負に帯電し、それぞれの電荷は集電極から赤黒のリード線に導かれる。これを、電気振り子やフランクリンモーター(写真左)、ムーアのモーター(写真右)に接続すると、非常によく動く。静電気の実験でも「回路」を意識させたい。その点、この棒起電器は電池や発電機と同様、正負の極や電荷の通り道がはっきりとわかるので大変教育的である。
 科学少年団員用製作マニュアル・実験ワークシート「静電気で遊ぼう」(PDFファイル436KB)はここ
 

ジャイロ・ボウル 高橋さんの発表
 いくら傾けても中身がこぼれない「ボウル」。2つの軸で自由に回転できるようになっているので常に水平を保つ。単純なしくみだが逆さまにしてもこぼれない様子は圧巻。Universal Gyro Bowl という商品名で、子供の食事用として売られているが実用性は疑問。アメリカの通販で入手。
 

小さなプロジェクター 高橋さんの発表
 なんと、1辺5.5cmの立方体型の超小型液晶プロジェクター。Wi-Fiでスマホなどと接続して投射する。立方体なので天井に向けて写すこともできる(写真右)。部屋が明るいと見にくいが暗くすれば十分実用になる。充電式でバッテリー持続時間は2時間程度とのこと。商品名:Smart Beam Laser、価格は3万8800円(2017年7月購入)。
 

バンジーチャイム 阿部さんの発表
 2月例会で古谷さんが「アルミ棒楽器」を披露したが、阿部さんも同様の楽器を作っていた。こちらは真鍮製。音符の順に並べておいて、順番に床に投げ落としながら演奏する。演奏の動画(movファイル10MB)はここ。正確な音程で澄んだ音が鳴り響く。なかなかのスグレモノで、会場は拍手喝采。真鍮は英語で"Brass"、金管バンドをブラスバンドというので音がきれいに聞こえるのではないのかと考え、結果、納得のいく音色となったそうだ。ネット情報では振動数が棒の長さの平方根に反比例するということまでしかわからず、文献をあさった結果、フレッチャー、ロッシング著「楽器の物理学」(丸善)に載っている、両端自由棒の固有周波数の理論式に従って真鍮パイプの長さを定めた。
 

3Dレンズと3Dビューワー 越さんの発表
 越さんは、阿部さんに教えてもらった3Dビューワーを改良し、紹介した。左の写真は一眼レフ用のLOREOの3Dレンズをカメラに取り付けたところ。このレンズはネットで7300円程度で入手出来るが、マウントやカメラによって異なるので注意が必要である。
 写真右は、組立て前の3Dビューワーで、A4版の写真用紙に印刷し、本体と余った部分に石膏像や花の3D写真を印刷してある。
 

 下左は組立て途中で、焦点距離80㎜のフレネルレンズ(東急ハンズで1シート(レンズ42枚分で)850円)を使用、φ14㎜の丸穴はダイソーの200円の穴空けパンチを使用した。組み立てができたら右の写真のようにのぞくと、3D写真が見られる。箱の上下を押してピント調節をする。

 この3Dビューワーにスマホを差し込めば、2015年10月例会で紹介したBozNewのように、3D動画も見られる(写真下左)。また写真にはないが、スマホ用の3Dレンズもネットで700円程度で入手できる。製品版のスマホ用の簡易3Dビューワー(165円)もある。(写真下右)
 

小中学校学習指導要領改定史上のある出来事 山本の発表
 「理科教室」2018年2月号の依頼原稿を執筆するにあたり、小中学校の学習指導要領上の力学教材の変遷を調べたら、興味深いことがわかった。
 中学校ではかつて「作用反作用」が「内容」に明記されていたが、昭和52年告示の指導要領には記述がない(左の表)。この後、10年間はブランク期間となる。この年は「ゆとり」に向かって舵を切った年で、内容精選のためかと思いきや、次の平成元年には、「内容の取扱い」という注意書きの中に格下げされた形ながらも復活して現在に至るところをみると、どうもそうではないらしい。
 実は「作用反作用」が中学校から消える前の、昭和43年告示の小学校学習指導要領で、文部省(当時)は痛恨のミスを犯している(右の表)。それがもとで、ばねに関して、作用反作用と力のつり合いを混同した誤った記述が小学校教科書にあふれた。当時の混乱ぶりは以下の文献に詳しく報告・批判されている。当時小学生で、誤った力学をすり込まれた世代は、まだ50歳前後(45~53歳)で現役である。
 ・三井伸雄(1971)「教科書の「力学教材」の問題点(1)」『理科教室』1971年1月号(国土社)
 ・三井伸雄(1971)「教科書の「力学教材」の問題点(2)」『理科教室』1971年5月号(国土社)
 批判を浴びて、文部省は以後、小学校でのばねの取扱いをやめ、てこだけにした。このとき中学校からも作用反作用が一時消えたのである。
 詳しくは、次の論文を参照のこと。
初等力学教育における作用反作用と抗力の誤概念~学習指導要領上の変遷をたどりながら~」(北里大学教職課程センター教育研究No.3)
 なお、下の画像をクリックすると、それぞれの表のPDFが拡大表示される。
 

不都合な真実2・脱炭素社会の衝撃 越さんの書籍・映画紹介
 「不都合な真実2」は、2017年に公開されたドキュメンタリー映画で、左の写真はその書籍、右の写真は映画のパンフレット。映画では、2006年公開の「不都合な真実」後の地球温暖化の影響と、アル・ゴア元アメリカ副大統領の活動や2015年のCOP21、パリ協定締結の舞台裏も描かれている。2018年4月にDVDが発売される予定である。
 なお、パリ協定については、動画「3分でわかる!パリ協定」、「20分でわかる!パリ協定」、岩波ジュニア新書「地球温暖化は解決できるのか」小西雅子著、などを参照されたい。パリ協定後、再生可能エネルギーが目に見える形で広まってきている。
 昨年12月にNHKで放送された「脱炭素革命の衝撃」では、2017年COP23、ドイツのボン会議の様子が取り上げられていた。世界中で頻発する異常気象、環境ビジネスへの投資、中国の脱炭素への方針変換、これらが原動力となって一気にエネルギーシフトが進んでいく。そういった状況の中で、高効率石炭火力の輸出、融資に熱心な日本は、非難の的となり、世界から取り残された状態にある。
 

 一方、2017年7月例会 で紹介した「人類の未来」(写真下左)の中で、物理学者フリーマン・ダイソン氏は、地球は複雑なシステムであるとして、現在の気候変動モデルに対して懐疑的な立場をとっている。大気中の炭素削減に多額の資金を使うより、現在の被災地域の再建に回すべきだと。何れにしろ、早急且つ包括的な対応が必要である。
 関連して、社会の変革期にあたる現在、参考になるドキュメンタリー映画として越さんは次の3本を薦める。(写真下右)。左から「第4の革命」(2010年ドイツ)、「Tommorow」(2017年フランス)、「日本と再生」 (2017年日本)で、いずれもDVDが販売されている。
 

二次会永山駅前「瞬彩」にて
 16名が参加して「カンパーイ!」。ホスト校の鈴木さんはニュージーランド修学旅行の引率から帰国したばかり。例会ではその報告もあったが、なにぶんお忙しい中での例会開催で大変だっただろう。ところで、この例会はYPC発足30周年目の記念すべき例会だった。YPCが誕生したのは1988年3月9日である。その第1回例会以来、毎月の例会は回を重ね、本日の例会で360回目となった。1回だけお休みにしたのは、7年前の東日本大震災のときだった。今回は、年度末で皆忙しいということもあり、次回4月15日の慶応例会の後に、「YPC発足30周年記念パーティ」をやろうということに、この二次会の席で決まった。どうぞお楽しみに。



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