例会速報 2019/11/17 多摩大学附属聖ヶ丘中学・高等学校


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授業研究:全天球カメラを用いた物理?の授業 櫻井さん、安藤さんの発表
 櫻井さんと安藤さんは、11月23日に東京学芸大学附属高等学校で行われる予定の公開授業を、例会参加者に事前チェックしてもらう意味合いも兼ねて紹介した。
 授業タイトルは「全天球カメラ(360°カメラ)を用いた教材を活用する理科授業」。全天球カメラ映像は対象物のみをファインダーに収めるのではなく、周囲にあるもの全てを映し出すものであるため、「探し出す」「見つける」活動を授業に取り込める利点があることが示唆されている。今回提案した授業は、それに分析・測定の活動も取り込もうと計画されたもの。使用したカメラはリコーのTHETAである。
 

 具体的には、全天球カメラで撮影した写真から、その撮影場所を特定するという活動を行うものだ。生徒に与えられる全天球写真には地平座標(カメラ位置は高さ1m)が引かれており、この写真と撮影時刻が与えられていれば、「三角法で高さや水平距離を求める」「撮影時間と写真に写り込んだ影から方位を知る」「地理院地図を利用して距離や標高を参照する」「位置を絞り込んだ後に地図アプリを利用して場所を特定する」などの活動を展開できる。
 

 課題1は「建物1の真下からと、屋上からの写真から、写真に写っている建物2と建物1の高さを求める」というもの。上の写真は授業準備のため、理科大の神楽坂校舎(建物1)から対岸のビル(建物2)を撮影しているところ。地理院地図を使うと、基礎部分の標高の差も簡単に割り出せる。画像などから、建物1・2の高さは下の板書にあるように解析できる。
 

 課題2は、周辺三箇所から、風景にスカイツリーを写し込んだ写真を撮影して提示し、これらから撮影場所を割り出し、スカイツリーの高さを求める。アプリを使うと、全天球画像に経緯線を重ねることができるので、視点からの仰角・伏角は直ちに測定できる。
 

 授業の紹介後、例会参加者からは全天球カメラや画像処理アプリの威力に感心しながらも、「条件等の提示が不十分でわかりづらい」「これは物理だろうか」などの疑問も提示された。また、全天球カメラを用いて捉えられる物理現象のアイディアとして、虹の撮影やISSの撮影、金星などの天体の動きなどがよいのではないかとの提案もあった。これまでにないツールによる新しい教育の可能性を感じる。続報に期待したい。
 

ナゾのV字を追って 山本の発表
 太平洋沖の台風21号が吹き込む湿った風の影響で大雨が降り、千葉県や福島県に水害が起きた10月25日金曜日、通勤時間帯が大雨に見舞われ、ずぶ濡れになって出勤した。このとき気象庁の「高解像度降水ナウキャスト」の降雨レーダー画像を見ていて、千葉県北部から霞ヶ浦方面に向けて、不自然なV字があることに気がついた。ズームしてみると、ナゾのV字の先端は千葉県柏市のJR柏駅の西側にあるようだ。
 

 地図で調べてみると、そこには気象大学校があり、その敷地内に「東京レーダー」が設置されていた。関東平野を見渡している気象レーダーである。GoogleMapの3D表示で見てみると、鉄骨の櫓の上にレドームがのっているが、その高さは意外に低い。レドーム越しに霞ヶ浦方面を見てみると、柏駅前にタワーマンションが2棟そびえ立っているのが見える。レーダーよりはるかに高い。ナゾのV字は、このタワマンによるレーダーの影だったのだ。障害物によるレーダーの死角を「ブラインド」と言うらしい。調べてみると、各地にあって有名な現象らしく、いくつかのブログに解説があった。電波干渉を避けるため、他の電波施設の方角に向けて電波を発射しないように停波する「ビームカット」という運用も行われているという。
 

久しぶりに簡易真空実験 山本の発表
 YPCで20年近く前に流行し、普及につとめた「YPC簡易真空実験器」。今でも愛用しているという人もいるが、その後ダイソーの密封容器が生産中止となり、手頃な代替品がない状態が続いていた。最近の百均で入手できる材料で、この実験の再現を試みた。
 まず、真空ポンプは本年4月例会で紹介した、ダイソーの「おもしろ!注射器(YN-18-8/T232)」を使う。ノズルと対称な位置に4mmの穴を開け、ノズルの内側と開けた穴の外側をビニルテープでふさいで吸排気弁とする。これで簡易真空ポンプのできあがり。性能はかなりよく、0.05気圧ぐらいまで引ける。
 真空容器は、ガラスのジャムビンが最適だが、金属のふたにドリルで穴を開ける工作が伴う。加工しやすいプラの容器では、セリアの「ウォーターボトル400mL」、「ミニドリンクボトル200mL」あたりがよい(写真は前者)。キャンドゥの500mLボトルは似たような規格・材質だが、強度が足らず大気圧に負けてしまう。大きすぎるようだ。容器は気密かつ丈夫でなければならない。
 チューブは外径6mm、内径3mmのガソリンチューブを使う。肉厚で柔軟なので「引きばめ」という工法が使える。容器のふたにチューブの外径より1mm小さな穴をあけておき、斜めにカットしたチューブの先を、内側からペンチで引っ張って無理矢理通す。これだけで気密性が保てる。接着剤は要らない。
 

 例会では主な実験を紹介した。小さく膨らませた風船を中に入れて、真空に引くと容器いっぱいに膨らむ。「真空マシュマロ」は1/3気圧ぐらまでは風船と同じように膨張するが、泡がはじけてしまうと、逆に小さく縮んでしまう(写真左)。真空度を確かめるためには、水の中で注射器のノズルからチューブをはずして、水を吸わせてみればよい。ほとんどふたの所までいっぱいになる。0.1気圧以下になっていたことがわかる(写真右)。
 

 60℃のお湯を入れて減圧すると、減圧沸騰の実験ができる。50℃以下では真空度が足らず沸騰しない。80℃以上だと容器が変形してしまうので注意。水を捨て、濡れた容器内に線香の煙を漂わせた後、勢いよく減圧すると、断熱膨張で霧ができるのが観察できる。圧力を戻せば霧は直ちに消える。以上のように工夫次第で多様な真空実験が楽しめる。
 製作費は1セット300円程度である。改訂版「YPC簡易真空実験器の作り方と使い方」(PDFファイル316KB)はここ
 

ばねの定常波 宮崎さんの発表
 埼玉の石井さんから分けてもらったという、つるまきばねの縦波振動の演示装置の紹介。振動源のスピーカーを低周波発振器につなぎ、共振点を探す。発振器の振動数をゆっくりと変化させていくのがコツだ。基本振動が見つかれば、その3倍の振動数周辺を入念に探すと中程に節がある3倍振動モードがみつかる。節のあたりはいつも変位が0だから、指で触れることができる。基本振動の動画(movファイル3.9MB)はここ。3倍振動の動画(movファイル5.0MB)はここ
 

コンデンサの交流に対する位相のズレはπ/2 ? 市原さんの発表
 市原さんが高3の生徒実験で考察させている持ちネタの紹介。コンデンサ(4.7μF)と抵抗(100Ω)を直列につなぎ、低周波発振器で交流を加えて電流と電圧の位相差をオシロスコープで観察する。オシロスコープは電圧計なので、そのままでは電流は測定できないが、抵抗の両端の電圧を測ることで、電流を測定したことに相当する。配線は左図の通り。
 

 交流の周波数が数kHz程度までは、電流の位相が電圧の位相よりもπ/2進んでいる、という教科書通りの結果が得られる(写真左)。
 ところが、周波数を上げていくに従って位相差が減っていき、1MHz程度になると電流と電圧の位相が同期してくる(写真右)。さらに周波数を上げると、電圧の位相が電流よりも進む状態が観察できた(下段写真左)。
 

  市原さんはなぜこんなことが起きるのか、を生徒に考察させている。
 交流のベクトル図(写真右)で考えると、VとIが同期する所までは考えやすい。低周波ではコンデンサの容量リアクタンス(1/ωC)は十分大きく、ほぼコンデンサの成分だけがインピーダンスに効いてくるので、位相はπ/2 ずれる。周波数が大きくなると、1/ωCが小さくなるので、抵抗の成分だけが効く状態に近づくため位相差がなくなる。
 問題は、VがIを追い越すところである。コンデンサだけでは説明がつかず、コイルの成分(ωL)が無いと、位相が先に進むことはあり得ない。回路内にコイルの誘導リアクタンスに相当するものが存在し、内部抵抗のように、内部コイルとでも呼ぶべきものが含まれる。これが、高周波になると顔を出してくるのである。「寄生インダクタ」などと呼ばれ、現実的な回路では考慮されているものである。
 

弦の定常波がうまくいきそうでうまくいかない 長倉さんの発表
 長倉さんは、かつて教育実習のときに行った、低周波発振器を使った弦の振動実験の生徒実験を行いたかった。しかし、勤務校には低周波発振器が1つしかなく、予算的にも低周波発振器を10台買う余裕はない。なんとかしてやる方法はないかと探していたところ、埼玉の石井さんのPAM8403を使った実践を知り、演示用の教材を試しに作ってみたところ、うまくいった。参考動画はここ
 

 ただ、生徒実験用に10個作成してみると、うまくいく個体とうまくいかない個体がある。媒質が良くないのか、波源(スピーカーとの接触部分)がよくないのか、なにが原因かよくわからなかったので、長倉さんはYPC例会でアドバイスを求めた。
 例会の場では、実際に長倉さんが作ってきた装置を使って改善案を出し合った。例会参加者から次のような改善案がたちどころに提案された。
 ・媒質はゴム紐よりも水糸やタコ糸などの方が良いのではないか
 ・スピーカーに負荷(振動方向に平行な力)が加わらないように、おもりはスピーカーと反対側に滑車等を経由してつるす。
 ・波源はスピーカーに結びつけるよりも、琴柱(ことじ)を設けて引っかけるくらいがよい。
 「うまくいかない実験器具を持ってくれば、その場で改善策を教えてもらえる。うまくいってない例だったが、発表して本当によかった。」と長倉さんは振り返る。
 

レンチキュラーレンズ 竹部さんの発表
 レンチキュラーレンズとは、表面がカマボコ状になっている細いプラスチック製のレンズを多数並べたもの。立体写真や動く写真に使われているアレだ。角度を変えると見え方が変わってくる。鉛筆など細長いものをクロスに配置して、その上にレンチキュラーレンズをかぶせると・・・
 

・・・ご覧のようにレンズの軸方向に細長いものの像が霞んで見えなくなる。90度回すと霞んでいたものが見えてくる。それぞれのレンズが短焦点の円柱形レンズだから、光が軸と直角な方向に拡散してしまうのだ。すりガラスのようだが、一次元の情報だけは見えるという面白い効果がある。
 入手先はレンチ屋。各種サイズが販売されている。
 

マスキングテープ(定規) 竹部さんの発表
 マスキングテープがブームだが、物理実験にも便利な「マスキングテープ(定規)・(竹定規)」(mtカモ井加工紙)の紹介。実験室の机、床などに貼って使える。はがすのも容易で、必要に応じて長さも変えられるので便利。いろいろと使い勝手がいい商品。ヨドバシカメラの通販で¥220/個で購入。他の通販ショップでも扱っているようだ。


Made on Earth 車田里奈さんの番組紹介
 英国BBC制作の「メイド・オン・アース~地球製~」は、世界経済の姿を変えてきた、8つの製品を取り上げるシリーズ。世界中を旅して、コーヒー、紙、花、スパイス、ハンドバッグ、ウイスキー、自転車、半導体を取り上げる。
 車田さんが紹介してくれたのは、最後の「メイド・オン・アース 半導体」の回。人類の生活を短期間に劇的に変え、現代社会を支える電子技術。そのベースになる材料「半導体」はもとは「砂」から作られる。米ノースカロライナのスプルースパインで産出した高純度の石英が、ICチップになるまでの経過を追跡する。物理教師としてぜひ知っておきたい知識満載。日本語字幕付き、23分25秒。
 

放射線源が買える店『自然堂』 車田浩道さんの発表
 御徒町駅南口を出て、秋葉原方面に左側のガード下を進むとすぐに「自然堂」という店がある。店先にワゴンが出ていて、鉱石その他が山積みされており、ウィンドウには大きな原石も多数展示されている。ウランガラスや放射線源を探していたところ、店の奥に「バドガシュタイン鉱石」のコーナーを発見。お風呂に入れて、自宅でホルミシス効果(?)が得られるのだとか。玉川温泉の北投石(特別天然記念物じゃなかったっけ?)もあった。効能や信憑性はともかく、1~3μSv/hは¥60/gというように放射線量のグレードでお値段が決まっており、その場で線量計で測ってくれるので、確実な線源を入手できる。ただし、放射性鉱物は開放線源なので、細かい粉末を吸い込まないように注意して扱うこと。なお、店内は写真撮影可能とのこと。
 「自然堂」のHPはこちら→ http://shizendo.co.jp/。なお、国民生活センターの情報も参考にしてほしい。
 

月の照明 宮埼さんの発表
 宮﨑さんが奥様へのプレゼントに購入したという、「3D PRINTING MOON LIGHT」。その名の通り、月の地形データに基づき、3Dプリンターで整形した月球儀である。内部にLEDランプと充電式電池が仕込まれていてナイトランプとしても使えるオブジェ。月の立体地形が忠実に再現されているので、もちろん地学教材にもなるだろう。
 

 黄色っぽい色と、白っぽい色の二色切り替え。デザイン的に優れているのは、充電用の小さなジャックが南極部にあるだけで、表にスイッチ類が出ていないこと。ジャックの金具がタッチセンサーを兼ねてスイッチになっている。回路部の影が落ちないような工夫もされているようだ。Amazonで「月の照明」で検索すると、たくさんヒットする。サイズやお値段もさまざま。お好みでお選び下さい。
 

アメリカの公式集 宮崎さんの紹介
 宮﨑さんが紹介してくれたのは、米国Bar Charts Inc. のいわゆる「公式集」、Quick Study Academicシリーズの物理編である。どこの国にもこういうものはあるらしい。三つ折り6ページにわたってぎっしりと物理公式が詰め込んである。流体や剛体の力学も扱っていて、微積も使われているから、日本で言うと大学初年次のレベルだろうか。イメージはこちらで見ることができる。
 

APOLLO 11 越さんの紹介
 越さんは、月面着陸50周年を機に今年7月に劇場公開されたドキュメンタリー映画「APOLLO 11」を紹介した。ノーカットの月面着陸のシーン、再ドッキングのシーン、大気ものがあり、購入してみた。ディスクとプレーヤーのリージョンコードが異なると、再生できない場合があるので注意が必要だ。
 英語字幕DVDの入手先は、ここ。ブルーレイ版もある。映画について詳しくは、ここ
 

豪腕用ダイナビー 越さんの紹介
 越さんは、ドンキホーテで見つけた最新のダイナビー(パワーボール、手首を鍛える器具)を紹介した。パッケージに「剛腕用」と書いてあり、300gと質量が大きく、手ごたえ十分で回転も長続きする。税込み1780円。入手について詳しくは、ここ。ダイナビーの原理については「ダイナビーの力学・Part1」、「同・Part2」を参照のこと。
 

二次会永山駅前「瞬彩永山店」にて
 8人が参加してカンパーイ。参加者はちょっと少なめだったが、越さんが持ち込んだダイナビーを回したり、竹部さんが分けてくれたレンチキュラーレンズの見え方を試したり、飲みながらも「科学」する人々である。


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