例会速報 2024/02/11 横浜市技能文化会館・Zoomハイブリッド
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授業研究:電磁気学(後半) 阿部さんの発表
阿部さんの勤務校、千葉高校は学校の特色として「重厚な教養主義」をかかげている。「教養」とは何か。最近「教養」がテーマの本が目につくが、その多くは「常識」や「知識」の方がタイトルに相応しいと阿部さんは感じている。教科書に書かれている原理や説明もそのままでは「知識」であるような気がする。阿部さんは、「理論」「実験」「観察」を通して自然現象を理解するのが自然科学という学問だが、知識が自然科学の本質ではないと考えている。
「物理は計算でもないし、実験でもない、まして受験でもない。物理は物理であると思う。」と阿部さんは語る。「そして、そのために我々教員が必要なんだと思う。」と。
さて、阿部さんは先月に続き、電磁気学の授業の展開例を報告してくれた。今回はその後半編。実験を中心に紹介する。
電流が作る磁場の観察にはナリカのマグチップ(磁界観察用短鉄線)を使用している(写真左)。小中学校では鉄粉による磁場の観察を行っていない生徒が多い。教科書に写真は載っているが実際には実験していないようだ。
右は平行電流がおよぼし合う力を演示する装置。細長く切ったアルミフォイルを二枚向かい合わせてゆるく固定し、短時間直流の大電流を流す。電源は短絡に強いカーバッテリーを使う。
電流が磁場から受ける力はやはりローレンツ力を示したい。左は比電荷測定装置による演示。右は水流モーター。硫酸銅水溶液をシャーレに入れ、シャーレの下にドーナツ状のフェライト磁石を置く。中央と外周の電極間に直流電流を通じるとイオンが受けるローレンツ力で水溶液が回転する。水溶液の動きが見やすいようにチョークの粉を浮かべる。例会参加者からは、ジュースでも回るとか、浮かべる粉はコショウがいいとか、七味唐辛子がいいとかいろいろアドバイスがあった。みんなそれぞれ工夫しているようだ。
デジタルオシロスコープで、磁石をコイルの中に落下させる実験を演示する。生徒には動画を解析させる。右図は、阿部さんのオリジナルキャラ「コイル猫」と「コンデンサー猫」。交流でのリアクタンスの説明を親しみやすくするために用いている。
阿部さんが実験に使用しているケーブル。杉原さんの「パスカル電線(S-Cable)」と同じ原理だが、LANケーブルとLAN中継コネクタを用いている。普通のLANケーブルの両端をさしこむと、各線が1つずつ隣にズレて接続され8回巻きと同等になる。電流の効果が8倍になるわけだ。
RLC回路(写真左)やゲルマニウムラジオ(写真右)も自作の実験装置を班の数あるいは生徒数分作って全員に体験させる方針だ。実験にかける情熱がすごい。
例会後阿部さんは「今回の研究授業は自分の授業を見直す良い機会となりました。自分はまだまだ物理をわかってないし、上手に表現できてないと感じました。これからも学ぶべきことが多いです。」と語っていた。
不思議な回路 喜多さんの発表
喜多さんが見せてくれたのは、100Vの交流電源から白熱電球2個とスイッチ2個が赤い線で全部直列につながっているように見える回路(写真左)。赤い線は普通の単線ビニルコードである。左図では、スイッチは両方ともoff
で点灯していない。右図では、スイッチは両方とも on で電球は両方とも点灯している。
「?」と思われるのは、右下の図。左側のスイッチSは on 、右側のスイッチSは off である。このとき右側電球は消えるが、左側の電球が点いている。逆に、左側のスイッチがoff
で、右側のスイッチが on のときは、右側の電球だけが点く。
「不思議」には、それなりの「からくり」がある。考えてみよう。
ヒント その1:直流電源ではこの「不思議」は成立しない。
ヒント その2:右下の図の、左上の電球は上記の回路とは別に直接交流100Vにつないである。同じ電球だが右側の電球より明るい。
ヒント その3:透明なアクリル板に取りつけ、裏側が見えるようにしてある。
ヒント その4:ダイオード
答を早く知りたい方はネット検索を。ゆっくりでいいという方は次回の例会報告をお待ちいただきたい。
喜多さんがこの回路について、初めて知ったのは1999年8月に中国桂林で開かれた物理教育国際会議の折、羅先生から紹介されたときである。帰国してから同僚の小河原さんに話をしたところ、このからくりを解き明かしてくれた。
自然科学に親しむ会の紹介 吉田さんの発表
「自然科学に親しむ会 Science Propagation Consortium」(以下SPC)は、東大名誉教授だった霜田光一先生や元慶応大工学部の渡辺彰先生(いずれも故人)が発起人となり、賛同企業の退職者らで構成した任意の教育団体である。設立は平成10年、現会長は佐武昇氏。例会では副会長の吉田さんが概要を紹介してくれた。
SPCは現在は東久留米市を拠点に、子どもたちに物理の面白さを伝え興味を持ってもらえるよう、物理の実験とそれに係る工作をする物理実験教室を出前授業の形で開催している。児童5~6人に指導員が一人ついて個別指導をする。青少年のための科学の祭典全国大会、同神奈川大会にも出展してきた。材料費はワンコインを目指している。
写真は「三原色混合器」。霜田光一先生の考案。赤・緑・青のLEDを使用し、丸い穴のある遮光板で三原色の混合割合を自由に調整できる。混合した色を写すスクリーンにピンポン玉を使用したバージョンもある。LEDの配置と遮光板の大きさが本器のポイント。
下は「発電機」。電磁誘導に関する基本的な実験をした後に子どもたちが作る。工作はコイル巻き(銅線0.16φ巻数400回)からはじめる。回転子はネオジム磁石(13φ)。ハンドルを回転するとコイルの中の磁石が回転し、電磁誘導でLEDがともる。コストを下げるために構造と材料の選定に工夫した。他に「偏光板万華鏡」も披露された。
SPCの活動における目下の悩みはコロナ禍の影響で理科教室の開催件数が減ったことと、メンバーの高齢化。若手の加入を歓迎している。
例会での配付資料「自然科学に親しむ会の実験工作集(抜粋)」(PDFファイル:846KB)はここ。
「のぼりおり集」の紹介 宮﨑さんの発表
岐阜の中学校に勤務する辻浩二さん(編集の代表)らが「のぼりおり集」(左図)なるものを今年1月に出した。「のぼりおり」とは、ざっくりいうと学習理論のひとつ。「認識ののぼりおり表」とは、科学的な授業案の構成法のひとつである。
B4版の一枚の紙に一つの概念(例えば、ものの重さ)の数時間分の授業の論理構成を記述する。これにより全体像が見渡せ、他の人と授業プランの議論が容易になる。仮説実験授業の構築の際にも関係している認識理論であるという。しかしYPCではあまり聞かないので、宮﨑さんはPPTを作って例会で解説をしてくれた。詳しくは川勝博著
「川勝先生の初等中等教育の理科教育講義・第2巻」 (海鳴社)などを参照のこと。例会では他にも複数の参考書の紹介があった(右図)。
辻さんの「のぼりおり集」には、のぼりおりについて二章にわたり解説され、実践記録の章に続き、小中の学習内容の54枚ののぼりおり表が掲載されている。理科全般にわたる、のぼりおりによる認識の構築法は、教材構成時の大いなる助けとなると思う。
宮﨑さんはYPCニュース本体においおい解説を載せるつもりだという。今回宮﨑さんは10部まとめて購入したが、例会のその場で売り切れ、自分の分の一冊も若手に譲った。さらに複数の希望があり、第二回共同購入を予定しているとのこと。希望者は、直接宮﨑さんまで連絡してほしい。
英語対訳で読む「理科入門」 市原さんの書籍紹介
市原さんが、ふと「英語に触れてないからなぁ」と自分の勉強用に手に取った一冊。これを読むことで英語の力がつくかどうかは不明だが、平易な構文で書かれており、難しい単語には全て訳が添えられているので読みやすい。中学2〜3年生くらいからでも読めるのではないだろうか。市原さんは実際に勤務校で授業プリントに引用したり、定期テストに出してみたりした(右図)。最近は教科書にも、用語に英語が添えられるようになってきたので、その延長として扱ってもいいものなのかもしれないと思っている。
人工雪は溶けない?! 市原さんの発表
2月5日に関東で降った大雪(関東の平野部では数センチの積雪でも「大雪」と呼ぶ)に関して、
【「雪をライターで炙っても溶けないから関東地方の大雪は人工降雪」という怪情報が拡散されようとしている】
というX(旧Twitter)の情報が話題になっていた。
その人は「ライターのエネルギーに比べて雪の熱容量がめちゃめちゃでかく、その雪を溶かす日光のエネルギーはもっととんでもねえという話です。」と言っていたので、市原さんは具体的な数値を確認してみた。
まずライターの発熱量だが、高火力のトーチバーナーが2kWほど、コンパクトなポケットサイズのトーチだと0.9kWという情報が出てきた(右図)。一方で太陽定数は1.37
kW/m2 程度なので、1平方メートルあたり1.37kWで溶かしていることになる。トーチバーナーで1平方メートルをあぶるのと大差ない。もちろん、写真程度のチャッカマンレベルでは、さらに値が小さそうな気はする。
次に、氷の融解熱を考えてみよう。333.6 J/g である。これは、水の比熱4.2J/gKで考えてみると、0度の水を80度にするのに必要なエネルギーを与えて、ようやく氷が溶けることを意味する。つまり、ライター程度で炙ったのなら15分くらい炙り続けてようやく溶けるのであって、太陽がそれよりも広範囲を溶かしているのは、単純に時間をかけているから、と言えよう。
ちなみに、調べていく中で市原さんは、「三八豪雪」というものがあったことを知った。昭和38年に日本海側の広範囲に起こった豪雪で、自衛隊が『火炎放射器』で雪を溶かそうとして断念した、という話があったらしい。 https://newsdig.tbs.co.jp/articles/bsn/881106?page=3 に写真が載っている。さすがに60年以上前のことなので、例会出席者には当時のことを覚えている人はいなかったが、現代では雪を炎で溶かそう、というニュースは聞かない。科学リテラシーが向上している証拠だろう。量的な見積もりをする習慣を身につけたいものである。
Desmosシミュレーション(固有振動・干渉) 櫻井さんの発表
櫻井さんは、先月の例会で市原さんが「尺取り虫のような動きをみせる合成波」の発表時に利用していたグラフ電卓サイト「Desmos」に感銘を受け、自分も授業で使用したことについてレポートした。
同様のサービスとして、櫻井さんはこれまでGeogebraを使っていた。例えば波の時間変化を視覚化するためにアニメーションをすることがあるが、かなりカクついてまともに見られないことが多かった。自宅の大きなデスクトップPCと職場のノートPCでその度合いがかなり変わるため、どうやら使用しているPCのスペックに依るところが大きいようだ。その点、Desmosは複雑な関数のアニメーションでもきれいに動く。これは、生徒に見せるために使う物理教員としては、最も重要なポイントである。
また、Desmos3Dでは3次元のグラフも作ることができ、さらにアニメーションできる。円の方程式と波の方程式を合成すれば、円形に広がる波を表すことも簡単。2つ重ね合わせれば干渉縞も見られる。干渉が独立性・重ね合わせによって現れるシンプルな現象であることを説明するのに最適である。実際の動きは下記リンクからご覧いただける。
●閉管の固有振動(7回反射まで重ね合わせ) https://www.desmos.com/calculator/gak6qfnhjz
●開管の固有振動(7回反射まで重ね合わせ) https://www.desmos.com/calculator/shonohqlad
●干渉縞(Desmos3D) https://www.desmos.com/3d/757a4c1673
二次会 関内駅前「ハマ酒場」にて
9名が参加してカンパーイ!今回の会場「横浜市技能文化会館」は18人定員の狭い部屋しかとれなかったため例会は定員いっぱい(途中交替がありのべ19名参加)だったが、オンラインでの参加が13人いたため、例会は計32名と盛会だった。会場は関内駅や伊勢佐木長者町駅のすぐ近くで大変交通の便がよいところだった。
学校会場の提供がまだコロナ禍以前ほどにはないため、このような公共施設の開拓をし、Zoomを併用しながら模索を続けている。実験を考えるとやはり学校会場が望ましいのだが・・・
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