例会速報 2024/01/14 横浜市大倉山記念館・Zoomハイブリッド
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横浜市大倉山記念館 例会会場紹介
今回の例会会場は横浜市大倉山記念館。実業家大倉邦彦が1932年に横浜市郊外の太尾山(現・大倉山)に設立した大倉精神文化研究所の本館だった建物である。当時を忍ばせる格調高い洋館は、市民に開放されており、映画のロケなどにもよく使われる。
エントランスは、2階にあたり、例会会場の3階第4集会室へはこの階段を上る。集会室の黒板もなかなかレトロだ。こんな格調高い会場は初めてである。
授業研究1:電磁気学(前半) 阿部さんの発表
阿部さんは高校3年生の授業をレポートした。2年生の物理基礎は必修のためどちらかというと定性的な物理を、3年生の物理は選択のため定量的な部分も理論と実験のバランスにより一層こだわって授業を進めているという。
電場の導入時には、愛知岐阜物理サークルの「いきいき物理わくわく実験」にある人間電圧計の実験を取り入れている。感電に気をつけながら、片手の二本指を電圧を加えた水の中に入れて電位差を実感するというものだ。
導体紙で等電位線を描く実験も、点電荷バージョンと、一様な電場のバージョンの両方を行う。その上でコンデンサーへと進む。右の写真は自作のコンデンサー実験器。これをクラスの人数分作って個別に実験させるという。
今回の研究授業でも話題になったのは、理論をしっかりやることも大切だが、モデルや実験を楽しむことも大事だということだ。数式は色々と語ってくれるが、ただ式を導出するだけでなく、数式が持っている意味やイメージをつかむことが肝心だ。モデルと現実の違い(どんな点でモデルが正しいと考えることができるのか)が実験をすることで見えてくる。生徒にはさまざまな経験を通していろいろな角度から自然現象を覗き、各々の表現をしてくれると嬉しいと阿部さんは思っている。
授業研究2:XR機器を用いた探究型学習 植田さんの発表
植田さんはMR技術を使った物理教材について発表した。
例会参加者も「VRは知っているし、ARは聞いたことがあるけれども、MRとは?」という人がほとんど。最近はXRという言葉もあるそうだが、聞いたことがある人はほとんどいないだろう。VR(Virtual
Reality)「仮想現実」、AR(Augmented Reality)「拡張現実」に対し、MR(Mixed Reality)「複合現実」は一言で言うとVRの外が見えるバージョンのことだ。さらにXR(Extended
Reality/Cross Reality)は現実の物理空間と仮想空間を融合させて、実際には存在しないものを現実世界にあるかのように知覚できるようにする技術である。
当日会場ではMRゴーグル(38万円超!)を実際に全員装着して体験した。参加者全員が各自、前の人から後ろの人に回して体験するという感じで進行した。
体験したのは「3Dグラフィティ」というMRアプリ。空間に色のついた曲線を描くことができる。MRゴーグルを装着した人には実際にはない「操作盤」が見え(写真左)、それにタッチするように指を動かして操作ができる。同様に指先を筆のように使って、空間に任意の色で3Dの曲線を描くことができ、首を振ると視界が移ると共に描いた曲線も移動し、まるでそこに本当に曲線が「ある」かのようだ。これに「手応え」や「触覚」が加わったら、現実と同化してしまいそうだ。
植田さんは、このMR技術を使った教材として、Lifeliqe(空間映像図鑑)、Galaxy Explorer(銀河系の空間映像・写真左)、Holoeyes(手術対象の空間映像・写真右)というアプリを紹介してくれた。さらに、理数分野における教材として、Prisms(数学教材)とzSpace(理科教材)の紹介もあった。
例会ではその後、ローレンツ力の教材についてディスカッションした。一様な磁場の磁力線が手を伸ばして直線電流の磁場を引き込んでいき、引き込まれた直線電流の磁場が反対側からはじき出される、そういう動きが非常に直感的に理解できるような教材が作れるはずだと植田さんは主張した。その他に力のベクトル、静電気、音、気体分子運動、運動の分解などが参加者の間で話題になった。
植田さんが経営する会社「フィールフィジックス」ではMR技術に7年前から取り組んでいる。植田さんは、2030年までにMR技術がすべての学校で体験できる日が来ると考え、そのとき、物理を直感的に理解できる教材を提供できるよう頑張っている。「応援頂けると大変光栄です。今後も機会があれば同じような体験を提供したいと思います。」と植田さんは語った。
自作?帯電正負判定機 峯岸さんの発表
峯岸さんは11月例会の授業研究で発表した際、「自作金属球」を用いた静電誘導の実験を行った。「箔検電器で金属球が帯電することは示せても、正負のどちらに帯電しているかは示せない」と嘆いていたところ、同じ学校に勤めている吉澤先生がこの回路を譲ってくださった。峯岸さんが作ったわけではないので、正確には「吉澤先生作帯電正負判定機」だが、その仕組みに感動して今回発表に至った。
回路図は右図の通り。アルミホイルの部分に、+に帯電した物体を近づけると、アルミホイル内の電子が引き寄せられる。つまり、アルミホイルに一番近いNPNトランジスタのベース側に微小電流が流れる。すると、エミッタ側からより多くの電流が出力される。これを合計3回行う回路なので「三段ダーリントン接続」と呼ばれている。3つ目のNPNトランジスタから出力された電流は大電流となるので、LEDが光り、ブザーが鳴る。
+に帯電した物体を遠ざけたときは、何も起こらない。逆に、-に帯電した物体を遠ざけたときは、LEDが光り、ブザーを鳴らす。-に帯電した物体を近づけたときは、何も起こらない。このようにして、正負のどちらに帯電しているかを判断することができる優れもの!原理がむき出しなので、生徒の納得度も高い。帯電した物体はゆっくり近づけたり、遠ざけたりすることがコツ!使用したトランジスタはSC1815-Yだが、現在販売していない。代替品を模索中・・・
60W電球・蛍光灯・LED電球 喜多さんの発表
喜多さんは、明るさが白熱電球60W相当の電球、蛍光灯電球、LED電球を並べ、消費電力が分かるように電流計をつないで電流値を見せられるようにした。左から、54Wの白熱電球、12Wの蛍光灯電球(昼光色)、7.3WのLED電球(昼光色)である。3つとも点けて、まあ大体同じ明るさだねと確認して、それぞれの電流値を予想させる展開にして使いおうと考えている。
白熱電球と蛍光灯電球は1Aのレンジで、それぞれ0.54A、0.12Aを示した。それぞれ公称値通りの消費電力だ。ただし、後者はこの値に落ち着くまでに少し時間がかかった。LED電球は100mAのレンジで72mAを示した。これも概ね公称値通りである。
準備室にあったありあわせの銅線と端子を使用したとのことで、銅線やスイッチの接点が露出していて、例会参加者から改善を求めるアドバイスもあった。なお、先頃の報道では真ん中の蛍光灯電球は2025年に製造中止になるとのこと。
うがい薬で酸化還元 天野さんの発表
天野さんが化学基礎の授業で演示した実験。ヨード系のうがい薬を水に加えてウーロン茶程度の濃さにした液に、ビタミンC(還元剤)を含むアメ(HI-C)を加えると、ヨウ素がヨウ化物イオンI-となって色が消える。消えたらすぐにその上澄みを別の容器に取り分ける。
上で取り分けた透明な液に、オキシドール(過酸化水素水溶液・酸化剤)を加えて1~2分放置すると、茶色い色が戻ってくる。ヨウ素分子が復活したのだ。なお、この反応では三ヨウ化物イオンI3-も平衡に絡んでいて、それほど単純ではないらしいが、身近な材料で示せる酸化還元実験だ。
ブラジルナッツ効果 海後さんの発表
ブラジルナッツ効果とは、ミックスナッツ缶を開けると、たいていブラジルナッツが一番上に現れている、という現象のこと。2000年4月例会で右近さんが「サイズセグリゲーション六角ナット効果」として同じ内容で発表している。
海後さんは、大きめのペットボトル内に4cmの石の玉(110g)と、同じく4cmのピンポン球(2.5g)を入れて(どうやって入れたのかは内緒とのこと)実験を見やすくした。
ボトルを立てた状態で縦の振動を与えると砂より重い石の玉だけが浮き上がる。これを粉粒体偏析効果とも言うそうだ。
一方、ボトルを横にして水平方向の振動を与えると砂より軽いピンポン球だけが浮き上がる。液状化現象と同様だ。
縦の振動で重い石の玉がなぜ浮くのかは難しい問題なので、容器の形状などを工夫して再実験するという。また、参加者から「玉の重心が偏心していた場合に振動を与えるとどうなるか?」との興味深い意見もあったので実験してみるとのこと。
追い風より速い風力車 海後さんの発表
「追い風の力のみを車輪に伝えて、風下方向に追い風よりも最高で2.8倍の速度で走ることができる風力車」が海外で3年前に話題になった。モーターなどの動力はなく、大きなプロペラの回転が車輪に直結して連動するシンプルな構造だ。航空力学の専門家が発明したものとして実車を走らせている動画などが公開されていて、物理学者が力学的にあり得ないと噛みついた挙句に、1万ドルを賭けた勝負を仕掛けて負けたという話だった。負けた原因は、プロペラの役割りに対する思い込みと、一般的な物理の力学で扱わない分野の力学を知らなかった事によるのだそうだ。
今回海後さんは忙しかったため模型作りが完成していない形での発表になったが、ぜひ続報を期待したい。
写真展の話など 益田さんの紹介
益田さんは実家のある鎌倉で開かれている写真展を紹介してくれた。「佐助カフェ」併設のギャラリーで1/7~21の間開かれている「希望のウクライナ 戦火のウクライナ <2人のテレビマンが見た2つの現実>」である。鎌倉在住の2人の元NHKディレクターが平和時のウクライナと戦時のウクライナをそれぞれの視点で撮影した。後者を担当した新田義貴氏は、「原子の力を解放せよ~戦争に翻弄された核物理学者たち」(集英社新書)という本も出版している(共著)。
無重力実験・その2 西村さんの発表
西村さんは勤務校の生徒と行っている無重力実験についての続報を報告してくれた。
生徒が提案した毛細管現象に関する実験が、JAXAが主催する「アジアントライゼロG2023」の物理実験のテーマとして採択され、2月中旬に国際宇宙ステーション内で実際に実験が行われることになった。落下による無重力実験と、国際宇宙ステーションで実験結果にどのような違いが表れるのか、楽しみである。
右の写真は日大の研究室の落下塔設備で行った予備実験の様子。落下中に水平管の中で気泡が丸くなっていくる様子がわかる。
また、生徒たちは校内で落下実験を行う際、空気抵抗をできるだけ小さくするために、新たな実験装置の開発にも取り組んでいる。カプセルを二重構造にすることで、外側のカプセルが空気抵抗を肩代わりしてくれるため、実験装置が入っている内側のカプセルはほぼ重力加速度で落下できて、質の高い無重力環境を作り出せるという。
開発した装置を校舎の三階から落下させて行った実験の様子。カプセルは地面に激突するが(写真左)先端部分の緩衝材が衝撃をやわらげる仕組み。カプセル内には映像撮影用と加速度測定用のスマホが格納されているが無事だった。右は無重力のカプセル内で色水がキャピラリーを上昇していく様子。
西村さんは、開発したカプセルを使った無重力実験のアイディアや、一緒に探究する仲間を求めている。興味があれば、ぜひ連絡してみて欲しい。
移動する?定常波 市原さんの発表
そもそも、移動したら定常波ではないのだが・・・。市原さんはこんな考察を試みた。
互いに逆向きに進む進行波が重なり合って定常波ができる条件は、同じ速度で進み、波長と振幅が等しい波同士が重なり合うときである。大抵は、同じ媒質で重なり合う波を考えるので、波の速度は等しいだろう。すると、同じ振動数の波源があれば波長を揃えるのは容易だ。しかし、振幅をそろえることは難しい。振幅の異なる、波長(と振動数、速さ)の等しい波が重なったら、どうなるだろう。
百聞は一見にしかず。下のURLの動画を見てほしい。Webシミュレーション「desmos」を使用。シャクトリムシのような動きに見える合成波ができる。
https://www.desmos.com/calculator/hxot12rlv7?lang=ja
単純にこの動きがユーモラスだったので紹介しただけだが、一応式での合成もしておくと2つの波の振幅差に応じて移動して見える項が登場する(右図)。
会場やその後のML上で、このWebシミュレーション「desmos」の動きが軽いことが話題になった。YPCでは2023年3月例会で一瞬登場したが、APEJ(物理教育研究会)では2018年や2022年に、今和泉さんが授業での実践事例を紹介している。こちらも参考にされたい。
2012年8月福島警戒区域外圏車載放射線測定 車田さんの紹介
車田さんは、2012年の夏コミで「車載動画・福島第一原発警戒区域外周一回り」というDVDを購入した。南相馬市北限、広野町を南限とする当時の立ち入り禁止区域の外周で、放射線測定器を2台をフロントに固定して測定する様子を記録した車載動画だ。DVDの作成日は2012/07/27となっていた。
購入当時は、車田さんの母親の実家が福島県田村町ということもあり、現地の心情も鑑みお蔵入りとなっていたが、荷物整理で出てきたので廃棄前に発表したという。車載の放射線測定器の種類は不明だが、山間部など線量の高いところでは音が途切れず鳴り続けていて、危険を感じるほどだ。
マイスナーの四面体 車田さんの発表
車田さんが2000年3月例会で発表した「ルーローの四面体」(写真左)は、ルーローの三角形同様に定幅図形だと思っていた。その後、定幅ではないことがわかり(2002年1月例会)、定幅にすることが課題となってから約20年も時間がたっていた。いろいろと調べたところ、昨年発行の書籍「数学デッサンギャラリー」(瑞慶山佳香著・技術評論社刊)にルーローの四面体が載っていたという(写真右)。
掲載内容では、スイスの数学者エルンスト・マイスナー(1883-1939)とドイツの数学者フリードリヒ・ゲオルグ・シリングはルーローの四面体の辺を削った部分を円弧の回転面で置き換えることにより、定幅図形ができることを示し、この形がマイスナーの四面体と呼ばれていると記述されている。車田さんは、今後、マイスナーの四面体を数学的に示した文献を探し、作ってみたいと語った。
最近試しに使っているサービスの紹介 櫻井さんの発表
櫻井さんは、最近気になって試用しているwebサービス2つを紹介してくれた。
1つは、オンラインホワイトボード「FigJam」である。近年、生徒参加型の授業をつくるためのツールとしてよく利用されている、GoogleのJamboardは今年12月31日で終了する予定だ。Googleは代替のツールとしてFigJam、Lucidspark、Miroの3つを挙げている。この3つのうち、教育向け無料プランがあり、かつ公立教育機関の教員でなくともそれが利用可能なのはFigJamのみだった。
機能はJamboardより豊富で、ボードの参加者は図形描画や付箋の文字入力だけでなく、残らない文章でのチャットを行ったり、各種スタンプやプラグインを挿入することができる。プラグインの中には、Chromebookから撮影した写真を即座にボード上にオブジェクトとして表示するものもあり、ノートの一部や手書きの図を撮影してボード上に貼り付けることも可能だ。また、他の人の意見(付箋)に「いいね!」スタンプをつけ、それを集計することもできる。
仕事の上で目的を同じくするチームが利用する上ではよいかもしれないが、授業においては多彩な機能があだとなる場合もある。(機能が多いということは、イタズラの方法も多いということだ!)
もう1つは、ATLASSIAN社のJiraである。かつて櫻井さんは極めて面倒くさがりで忘れっぽい人間であり、予定やToDo管理が全くできなかったそうだ。教員になってやっと、GoogleカレンダーとRemember the milkの助けにより自己管理が辛うじてできるようになった。様々なツールを渡り歩いて、昨年までToDo管理にToDoistを利用していた。
一方で、複数人で行うプロジェクト管理などの方法に悩むことがあり、今年からToDo管理を、「チケット」によるプロジェクト管理ができるJiraに移行した。極めて機能が幅広く、まだ使いこなせていないが、よい事例が作り出せたらまた報告したいとのことだ。
「教員も働き方改革」と言われて久しいが、教員は一人ひとりが「自分の授業」というプロジェクトのリーダーのようなものだから、その業務整理や改善も自分でやらないといけない。そういったことがどれだけ苦手であっても、である。
テオ・ヤンセン展 越さんの紹介
越さんは2024年1月まで千葉県立美術館で開催されていた「テオ・ヤンセン」展をレポートしてくれた。
中庭ではストランドビーストのデモンストレーションが行われ、間近で動く様子を見る事ができた。通常、海岸付近の強風(8~10m/s)の下で動くもので、中庭のデモでは細いロープを本体上部に取り付け、水平方向に引いて動かしていた。動画はここ。
水平に引く代わりに緩い傾斜面でも歩行する。12脚の足のうち常に左右3つずつ計6個が接地した状態で歩行するが、間近で観察すると、一見複雑そうな構造が良くわかり、自作可能だと思われた。ただし、同程度の大きさで滑らかに歩みを進めるためには、様々なノウハウがありそうだった。
素材はオランダでは一般的に配線カバーとして使用されていたプラスチックチューブで、日本で水道管として用いられている塩ビ管より肉薄で軽く、加工もし易そうな物だった。
室内の展示内容も豊富で、様々なタイプのビーストを間近で観察することができた。円運動を歩行の足の動きに変換するリンク「テオヤンセン機構」(「ビースト機構」)についてはここ。また学研のHPも参考になる。
二次会 大倉山駅前「お銚子もん」にて
12名が参加してカンパーイ!ここも初めてのお店だが創作料理が美味。前回のナリカ例会から、リアル二次会を解禁したのでかつて恒例だったこの乾杯シーンが戻ってきた。とはいえ、コロナ感染者は日を追って増加しており、第10波のピークへと向かいつつある。油断は禁物だ。
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