例会速報 2023/11/19 関東学院中学高等学校・Zoomハイブリッド
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授業研究:静電気と動電気 峯岸さんの発表
教員1年目の峯岸さんは、目の前の生徒が何を知っていて、何を知らなくて、何を誤解しているのか、見当もつかなかった。そこで、先行研究から学習者が抱く典型的な誤解を調べ、それを克服するような授業を設計してみた。単元1時間目の授業は、誤解①「陽子は電子と同程度に移動できる」、誤解②「電子は負の電荷をもたなければならない絶対的な理由がある」を払拭することを試みた。授業冒頭は左図のような課題を考えさせたところ、クラスの大半が不正解!議論後、実験をしたら生徒から悲鳴のような歓声があがった。たまにはこういう経験も大事!
そのあと、「ストローは正に帯電?負に帯電?」「物体が帯電するとき、何が起きているの?」と問題提起をし、問題を解決する前に、原子1個の図を描かせたところ、ほとんどの生徒が土星モデルを描いた(右図)。それは知っているのか、と驚かされる。
まずは「物体が帯電するとき、何が起きているの?」を解決するような課題を提示した(左図)。原子構造のモデルは図示できるが、多くの生徒が「正に帯電しているのなら、+を受け取った」と考えていたことが明らかとなった。真相は「-を手放して、正に帯電した」なのだが、一般的な学校の実験室でこれを証明することはできない。生徒同士で説明し合わせて、クラス全体で納得感を高められるかが重要!
帯電の仕組みが分かったところで、「ストローは正に帯電?負に帯電?」をグループで解決させるような課題を提示した(右図)。生徒は自由な発想で実験方法を提案するが、峯岸さんはその方法をことごとく否定していく。生徒が「じゃあストローが正に帯電したのか、負に帯電したのか、判別できないじゃん!」という怒り始めたところで、Benjamin
Franklinの電気に関する提案からJ.J. Thomsonの電子発見までの科学史を紹介した。生徒は、「電気のはじまりってそんなテキトーなの?」「提案が逆だったら、陽子が-、電子が+の世界観もあったってこと?」「じゃあ、電気の種類って、タイプA、タイプBみたいな名前でもよかったの?」と授業後も生徒同士で議論し合う光景が見られた。例会参加者からは「電子は負の電荷であるという絶対的な理由はないってことを分からせることは、そんなに重要なことなのか」と指摘があった。授業者がやりたい授業と、生徒が学ぶべき内容に齟齬がないように、毎時間、検討を重ねなければならない。
静電気に関する現象を単元の2時間目、3時間目の授業で扱ったあと、帯電した塩ビ棒にネオンランプを接触させて光らせる実験を単元の4時間目に行わせ、電流や電気回路の話に移行する予定だという。今の教科書では「電流(電気回路)から静電気」という流れが一般的だが、峯岸さんは「静電気から電流(電気回路)」という展開を行った。結果は次回の例会で報告するとのこと。
この授業研究発表時に、峯岸さんは実験教材も紹介してくれた。1つ目は、静電誘導演示用の「自作金属球」。発泡スチロール球の表面に両面テープを使って、アルミホイルを丁寧に貼り付けて作成した。しかし、使用とともに表面がはがれてしまったので、補強する際はアルミテープを使った。支えている棒はタピオカストロー、台は紙コップである。自作金属球2つを用いて、金属球接触→負に帯電した塩ビ棒を近づける→金属球を離す→塩ビ棒を遠ざける、という静電誘導の実験を行い、性能を確かめてみた。塩ビ棒から遠い金属球は負に、近い金属球は正に帯電しているはず・・・箔検電器で確認してみたところ、近い金属球は帯電していたのだが、遠い金属球は帯電していなかった・・・接触面で電子の受け渡しがうまくいっていないようだ。例会参加者からは「金属球同士を接触させるのではなく、金属製の定規で橋渡しさせて、塩ビ棒を近づけたあとに定規を勢いよく払い落せばうまくいく」「自作は難しいから、大きめのキャップつきコーヒー缶の表面を削って、金属筒でやるといい」というアドバイスもあった。教材で困ったときに助けてくれるのが、YPCである。
2つ目は、電池の仕組みを考えさせるために作成した「自作コンデンサ」。愛知・三重物理サークル編著「いきいき物理わくわく実験3」に載っていた教材を参考に峯岸さんも作成してみた。お菓子が入っていた金属箱のふたと100均で購入した金属製トレイを用意し、それぞれにプラスチックコップを両面テープで貼り付けた(左図)。お菓子が入っていた金属箱のふたは、表面のラミネートされている部分は絶縁体、裏面は金属がむき出しなので導体である。金属箱のふたと金属製トレイを重ねて、それぞれ導線で電池の両極に接続し、5秒後に導線を外して、金属製トレイを箔検電器に近づけると箔が開いた!峯岸さんは「これで電池は電流を流す役割ではなく、電子を運ぶだけの役割であることを示せる!」と意気込んでいたが、例会参加者から「剥離帯電では?」との指摘。電池を接続させずに、金属箱のふたと金属製トレイをこすった後、金属製トレイを箔検電器に近づけると、箔検電器が開いた・・・。真実に気づかせてくれるのも、YPCである。
回転台 会場校の備品
峯岸さんの発表の際、会場校の関東学院からお借りしたウチダの「棒磁石回転台DP-6」が注目を集めた。帯電したポリプロピレンストローを乗せるととてもよく回転する。静電気実験にもぜひ使いたいアイテムだ。カタログの説明によると、軸受けに耐摩耗性に優れたサファイアを用いているとのこと。4個組5800円。
ユニクロのICタグ 山本の発表
ユニクロのレジは無人のセルフレジだ。しかもバーコードの読み取り機などはなく、購入希望の商品を入れた店内用の買い物かごをレジの所定位置に置くだけで、瞬時に個々の商品名と価格および合計金額がディスプレイに表示される。重なって下に隠れている商品もちゃんと認識される。センサーは出口にも設置されていて、未精算の商品を持ち出そうとするとチェックされるらしく、万引防止にも一役買っている。一体どんな仕組みなのだろう。これはいわゆるICタグに違いないと、帰宅後に購入品についていたタグを調べてみた。
タグは一見厚手の紙でできている。ユニクロのロゴやQRコードと共にサイズや価格が印刷されている。これにライトボックスで光を当て、透かしてみると下の写真のようなシルエットが浮かび上がった。
それぞれ紙を剥がして取り出すと、下図のようなシール状のICタグが現れた。右のものはシールのようにただ貼ってあるだけだったが、左のものはのり付けされた二枚の紙の間に挟み込まれており、取り出しには一苦労した。銀色の部分は合成樹脂のテープ上にプリントされたアルミのパターンで、コイルとコンデンサーを兼ねたアンテナになっており、レジの読み取り機から送信される特定周波数の電磁波に共振して電力を生み出すと共に、ICチップに書き込まれた情報を電波に乗せて送り返す送信アンテナにもなっているものと思われる。
顕微鏡で拡大してみると、それぞれの中央、アルミパターンの0.1~0.2mmのギャップ部に小さな黒い半導体のチップが接着されている。これが心臓部のICだろう。両方とも同種のチップらしく、サイズは共に0.3mm×0.4mmぐらいだ(写真のメッシュは0.1mm目盛)。ICへの入出力は左右のアンテナ2端子のみ。これで電力供給と送信を同時に行ってしまう仕組みのようだ。このタグの場合、電波を受信したら書き込まれているID番号コード(商品個別の識別番号)を返信するだけの機能だろう。あとは受信側のコンピュータで商品の登録情報を「精算済み」などとして処理するものと思われる。これが1個1個の商品につけられている。店員はポータブルの送受信機を持っていて、商品棚から目的の商品を電波で探し出すこともできる。もちろん在庫管理も自動でできるというわけだ。
このような技術をRFIDと呼ぶらしい。非常に大きなマーケットになるだろう。関連企業が提供する、RFID Room「ICタグ・RFタグの基礎知識」に詳しい情報がある。
右近さんのカオス振り子(再) 鈴木さんの発表
鈴木さんは、1995年6月例会での右近修治さんの発表ネタ「二重振り子のカオス」を再度紹介した。Webの例会アルバムに記録が残るより前の例会での発表である。少しでも初期条件が違うとまったく違う挙動をする、という、まさにカオス的なふるまいをする振り子だ。振り子の支点が2カ所あり、キャスターを分解したベアリングでほとんど摩擦なく動くように作られている。動画(movファイル:3.7MB)はここ。
鈴木さんはそのときの右近さん作の振り子を譲り受けていたのが、もうこれ以降使う場面はがなさそうとのことで、若い方に譲渡したいとの思いで今回紹介した。譲渡は例会の席で無事正立した。貴重な財産を受け継いでいくことは大事だ。
ダイソー・ロートのマグデブルグ球 天野さんの発表
天野さんは、ダイソーのロート(PETボトルの蓋と同じネジが切ってある)に2個で「マグデブルグの半球」の簡易実験器を作った。ダイソーの圧縮ポンプの口金を改造して吸引用の口金にし(左図)、同じくダイソーの吸引ポンプで球体内の空気を吸い出す(右図)。
二つのロートはしっかりとくっついて(実際には大気圧で押し付けられて)離れない(左図)。両手で力一杯左右に引いてもはずせないほどになる(右図)。ただし、2人で引き合うのは危ないので注意!
国際宇宙ステーションの観察 みんなで観察
例会の最中に国際宇宙ステーション(ISS)の通過があったので、参加者全員で校舎の前に出て空を見上げた。ISSは肉眼では明るく白い星のように見え、飛行機ぐらいの速さで音もなく動いていく。
予報は11月19日 16:52:37 10°南西→ 16:55:57 71°北西→ 16:59:19 10°北東 だった。
日没直後でまだ空は暮れきっておらず、西の空は明るくて出現直後は見つけられなかったが、ほぼ天頂にかかる頃には明るさが-4等ほどになり、薄明の空でも全員が目視することができた。その後ISSは北東方向のランドマークタワーに向かって上空を通過していった。
ランドマークタワーの上空を行くISSの動画(MP4ファイル:40.6MB)はここ。市原さん撮影の動画(GoogleDriveにリンク)はここ。
本の紹介など 益田さんの発表
益田さんが紹介してくれたのは、科教協の夏の大会の特別支援教育の分科会で広島の先生から紹介されたという2冊の本。指田和著、鈴木六郎写真による写真絵本「ヒロシマ 消えたかぞく」(ポプラ社)と、指田和著「ヒロシマ 『消えたかぞく』のあしあと」(ポプラ社)だ。前者は2020年の青少年読書感想文全国コンクール・小学校高学年の部 課題図書に指定された。書名の通り原爆の被爆被害を取り上げた写真絵本だが、被爆後の写真ではなく、あえて被爆前の平和な家族の日常をアルバムにしている。そしてこの家族が、突然みんないなくなったと戦争の悲惨さを訴える。後者は、取材時のエピソードや追加の情報を綴った手記で、これも子ども向けの筆致で綴られている。
もう一つ益田さんが見せてくれたのは、例会の前々日に国立科学博物館のミュージアムショップで購入したという木綿の手ぬぐい。2011年3月11日の「東北地方太平洋沖地震」や「熊本地震」「北海道胆振東部地震」の地震計の記録波形が印刷されている。地震の授業のネタとして使えそうだ。
4つの線形加速度センサ -自由落下の結果- 喜多さんの発表
喜多さんは、二人のYPCメンバーの協力を得て、4種類のスマホにインストールしたphyphoxで自由落下のデータを得た。その結果、「gを含む加速度」は自由落下の折、きれいに加速度0を示すグラフが得られた(左図)。それに対し、「gを含まない加速度」ではそれぞれのスマホによって異なるグラフが得られた(右図)。
そして、「gを含まない加速度」の Vendor は、それぞれの会社名が Vendor名になっていて、大元のデータは内蔵されている加速度センサの値から、各社なりのプログラムを組んで「gを含まない加速度」のデータを提供していることが分かった(下図)。簡単にいうと、「gを含まない加速度」の専用の加速度センサーは内蔵されていないということである。
本日の例会関連のスマホアプリ紹介 植田さんの発表
植田さんは、スマホで使えるアプリをいくつか紹介してくれた。生徒に勧めてみてはいかが?
「ISS Live Now」はISSの現在位置を世界地図上でリアルタイムに確認することができる。例会時、上記のISS通過の様子をこのアプリでも確認できた。
「サテライト・トラッカー」はISSの現在位置を世界地図上でリアルタイムに確認することができるのに加え、スマホのGPS、磁気センサ、ジャイロにより、スマホの向きを変えるとISSの方向がわかる。例会時は教室に戻ってからアプリを試したところ、東の地面の方を指していて、すでに地球の向こう側に行ってしまったことが確認できた。
「NFC情報」はSuica、FeliCa等のNFCタグ読み取りアプリ。RFIDに似たNFCであればスマホでスキャンできる。
「Miro:Online Whiteboard」はスマホ発表アプリ。Zoomと併用すると、オンラインホワイトボードを画面共有できる。植田さんは例会でこのツールを使って発表していた。オンラインホワイトボードアプリには他にもZoom、フリーボード等など、いくつもある。
物理VR授業の紹介 植田さんの発表
植田さんの会社「フィール・フィジックス」で提供している物理VR授業は、新しくて楽しい物理授業を模索している物理教員のための出前授業だ。VR(仮想現実)を使って従来の実験ではできない体験ができ、映像教材やタブレット教材と違い、教室全体でワイワイと実験ができる。写真はそんな授業の1シーン。最速1週間で授業できるそうだ。期末後の余った時間に最適!と植田さん。興味のある方は植田さんまでご一報を。
こちらのページの一番下に連絡先が記載されている。→フィール・フィジックス:https://feel-physics.jp
英国Aレベル試験と実験・コンデンサの充放電 山田さんの発表
山田さんは9月例会での発表に続き、英国Aレベル物理の試験と実験についてレポートしてくれた。Aレベルは大学進学に必須で、大学進学希望者はこの試験を必ず受験する。電卓と定規は必須で持ち込み可、公式集・データ集は会場で配布されるので、公式を丸暗記する必要はなく、思考過程を重視する。
物理の教育課程では実験が重視されており、電気回路関連では、抵抗率、電池の内部抵抗、コンデンサーの充放電の実験が必修である。実験に関連した問題が必ず出題される。
一例として、コンデンサーを含むRC回路についてはどんな問題が出題されるのか見てみよう。RC回路は2年次A2で学習する。選択肢式の問題や、式や文章で解答する記述式問題のほか、実験やデータ処理のスキルを問う問題も出題される。その際、データロガーやオシロスコープを使用することは前提となっている。
したがって、教える教員の側にも、データロガーやオシロスコープの扱いを指導するスキルが求められる。実験レポートを指導するスキルも必要になる。日本の高校物理では指数関数的な過渡的応答は定性的にしか扱わないが、英国Aレベルでは指数関数の数学的扱いは必須で、片対数グラフから時定数を求めるような問題も出題される。
日本の高校物理と比較して、教育課程にしっかりと実験や測定が位置づけられており、それが必ず試験に出るのである。日本では実験内容も実験器具も標準化されておらず、そもそも大学入試に実験はほとんど反映されない。さらに、日本の高校ではクラスの人数が多すぎて、実験指導を難しくしている。実験機器の充足、準備・片付け、実験レポートの評価など、教員の負担が過大になることが大問題だと山田さんは考えている。
放出品 鈴木さんの発表
鈴木さんは間もなく高校を退職する。そこで準備室にストックしてあった私物の実験器具や科学アイテムを整理しようと、会場に持参して「無料コーナー」を展開した。その多くはかつてYPCの例会や科教協のお楽しみ広場で入手したものだ。発表で紹介した「二重振り子」もその一つ。こうして次の世代へノウハウを受け継いでいく。
二次会 Zoomによるオンライン二次会
例会本体は、対面15名、遠隔7名、計22名の参加だった。帰宅後20:00から行われたリモートの二次会には7名が参加した。コロナの警戒感が緩んで、リアル二次会組とオンライン二次会組に分かれているので、オンラインの方はこのごろちょっと寂しい。
二次会の話題は世間話や職場の話題など様々だ。今回は、ワインが開栓後も酸化しないというHAGY技研の真空容器(空気が入らないという意味で物理的な意味の真空ではない)の話や、横浜の山下公園近くで来年3月まで公開されている、「ガンダムファクトリー横浜」の「動く実物大ガンダム」の話題などで盛り上がった。後者は外国人観光客に特に人気がある。
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