例会速報 2023/10/15 県立大船高等学校・Zoomハイブリッド


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授業研究:圧力と浮力峯岸さんの発表 
 圧力に関する素朴概念「圧力は上にある物体の量によって決まる」は、根深い。この素朴概念は、初学者である中高生、さらには物理を得意とする大学生、大学院生も持っていることが先行研究で明らかとなった。峯岸さんは生徒に、「圧力は上にある物体の量で決まる」という考え方ではなく、『「流体の中で流体の塊が静止している」ことから圧力が分かる』という考え方を習得してほしく、授業を行った。
 初回の授業は、圧力の定義を教える前に、空気から受ける力を実感させるために、まずは吸盤が受ける力を考えさせた。生徒は「空気から受ける力なんてあるの?」「天井から受ける力ってどっち向き?」など、活発に議論をしていた(左図)。正解は④なのだが、どのようにして生徒に④であることを納得させるか。もちろん正解を教えるだけでは納得しない。納得のさせ方は、教員の腕の見せどころ!
 次に峯岸さんは、面積に注目させたかったので、APEJの第16回基本実験講習会の森さんの教材を参考に「セロハンテープ付きトランプ」を作成した(右図)。セロハンテープを取っ手としている。トランプのサイズはそのままのサイズ、半分のサイズ、そのまた半分のサイズの3種類である。机にトランプをぺたぺたさせて遊ばせ、手ごたえを感じさせる。その実感をもとに、圧力の定義を導入した。
 

 圧力の単元の中盤は、「10m水柱実験」や「水深と水中の圧力の関係実験器」(左図)を題材に、大気圧や水の中の圧力について実感させた。ここで峯岸さんは、「水圧」という言葉は「大気圧分を足すのか」「水面の圧力からの増加分なのか」社会的合意に達していないことに気付いた(右図)。峯岸さんは、授業では水圧というあいまいな言葉は用いず、徹底して「水の中の圧力」(=大気圧+水による圧力)という言葉を用いた。例会参加者からは「水圧で大気圧を考慮するかしないかは、文脈で判断する」「でも、言葉に気をつかうことはいいこと」「水による圧力、はまだ誤解をうむから、水だけによる圧力とか水の重さ由来の圧力の方がよい」などさまざまなコメントがあった。
 

 圧力の単元の終盤は、単元目標『「流体の中で流体の塊が静止している」ことから圧力が分かる』という概念習得に向けた授業を行った。【課題1】は「圧力は上にある物体の量によって決まる」という素朴概念を刺激する課題である(左図)。予想、グループ討論後に、水は流れずに静止しているという事実から、水の塊が受ける力を図示し、水平方向の力のつりあいより、圧力も同じという解説を行った(右図)。生徒は、「なんか気持ち悪い」「言っていることはあっているけど、感覚と違う」と口々に言った。素朴概念と正しい概念が葛藤している様子を見ることができた。
 

 続いて、【課題2】【課題3】とピア・インストラクションで展開していくと、だんだんと納得してくれる生徒が増えてきた(左図、右図)。【課題2】に関しても、解説の仕方は教員の腕の見せどころである。とくに【課題3】に関しては、生徒の発言が面白いのでぜひやってみてほしい。発表後半の浮力の授業実践に関しても、例会参加者からさまざまな助言があり、授業案を大幅に改善することができたと峯岸さんは語った。明日の授業に深みが欲しい、それを実現してくれるのがYPCである。
 

100円ショップで圧力の教材 峯岸さんの発表
 上の授業研究発表時に、峯岸さんは圧力に関する実験教材も紹介してくれた。圧力は目に見えないが、教材を用いることで視覚的、聴覚的に体感できる。まずは、大気圧の大きさを実感できる「ラップ割り実験」。愛知・三重物理サークル編著「いきいき物理わくわく実験3」に載っていた教材を参考に私も作成してみた。100円ショップで220円で売っていた「ペチャンコポンプ」と、売っている中で一番大きい漏斗(直径15cm)、サランラップは旭化成のサランラップ(ポリ塩化ビニリデン)を使用し、輪ゴム10本でじょうごの口にラップを固定した。ポンプを押し引きすると、じょうごの中の空気が抜かれ大気圧によってラップが破れた。生徒が耳で大気圧の大きさを実感することができる。しかし、使用した漏斗が大きかったのか、授業をした5クラス目の実験で漏斗に亀裂が入った。

 次に、状態方程式PV=nRTを定性的に実感できる教材。1つ目はペットボトルの中に空気で膨らませた水風船を入れ、100円ショップで売っていた「加圧式霧吹き(ペットボトル用)」をペットボトルの口に取り付けた(左写真)。ポンプを押し引きすると、中の風船が縮んでいった。生徒は、体積一定で空気の量が増えると圧力が増えることを目で確かめることができる。
 2つ目は、APEJの第16回基本実験講習会の森さんの教材を参考に、峯岸さん自身が作成した教材である。シリンジ(60mL用)の中に、梱包用の発泡スチロールの切れ端を入れ、ピストンを取り付けた(右写真)。シリンジの穴をふさぎながらピストンを押すと、中の発泡スチロールの切れ端がしぼんでいく。生徒は、空気の量が一定で、体積が減ると圧力が増えることを目で確かめることができる。
 

アマゾンの共鳴音さ 鈴木さんの発表
 鈴木さんは今年度から某大学で高校物理復習講座を教えている。そこでは学生実験はできないので、演示実験を多く行っている。ところがその教材は今の勤務校の備品を持っていくわけには行かないし、大学には高校物理の実験道具はほとんどない。自作の教材やナリカのガレージセールで入手したようなものは問題ないが、それ以外は、安価なものを探して入手するようにしている。
 音の教材である共鳴音さは、一つ1万円程度で、共鳴させるためには2つ必要だが、高価だ。そこでAmazonで探したところ、2個セットで3,000円を切るものがあったので、購入してみた。(写真)


 開封してみたところ、うなり用の金具までついていて、箱もしっかりしているし、お買い得だと思った。解説書は中国語のみ。ところが、音さの軸が共鳴箱の穴に入らない!径がまるで違うのである。仕方がないので、音さの足の部分の直径をノギスではかりそれに合わせて勤務校のドリル(ボール盤)で穴を大きくした。今の学校に勤務していなかったら対応できなかった。自宅に工房があるのが理想だ!
 さらに、パソコンの発信器(「発音(はつね)」)による音でうなりを定量的に示そうと思ってやってみたが、440Hzで激しい(振動数の大きい)うなりが発生する。箱には大きく「440Hz」と表示されているのに振動数を測ってみたら428 Hzだった。二つの音さはうなりが出ずに共鳴するので、二つの音さでの共鳴を演示するのには問題がない。
 鈴木さんは、「安価な教具はこういうものだ、という割り切りが必要だと痛感した。」と語った。
 

百均の自由研究 宮﨑さんの発表
 青森の野呂さんがSNSなどでときどき紹介しているテンセグリティ。イチから作るのは大変だな思っていると、岐阜物理の村田憲治さんのFacebookでセリアで組み立てキットを売っている、購入したキットを組み立てたという記事を見た(8/18)。宮﨑さんはさっそく、地元のセリアで3つ購入、10月の大船例会に合わせて組み立ててみた。思いのほか簡単だった。
 一見、宙に浮いているように見えるこの構造物。やはり、間近に見ても不思議。実験室に一台は置いておきたいグッズだ。さて、聞き慣れない言葉「テンセグリティ(tensegrity)」。ケネス・スネルソンという芸術家のふしぎなオブジェを見た建築家のバックミンスター・フラーが発案したtensionと integrityとを合成した造語だそうだ。integrityの訳は「整合性」か「保全」あたりだろうか。Wikipediaにある「総合」よりはましだろう。
 セリアで購入したこの組み立てキットだが、自由研究というシリーズの一商品だったようだ。他にもいろいろ出ていたが、季節商品のようで今は消えている。また来年の夏休みに期待しよう。


25cmの振り子 山本の発表
 単振り子の周期の式は、T=2π√(L/g) である。g=9.8m/s^2、L=0.25mを代入すると、T=1.0sとなる。「25cmの振り子は1秒で振れる」というよく知られた事実だ。ばね振り子の周期は、T=2π√(m/k) だが、鉛直ばね振り子の場合、つり合いの式 kd=mg を考慮すると前式は、T=2π√(d/g) と変形できる。つまり「つり合ったとき25cm伸びるばね振り子は1秒で振れる」ことになる。高校物理の演習問題でよく見かけるパターンだ。おもりのないときのばねの下端を、単振り子の支点に合わせ、単振り子と同じ長さ伸びるようにおもりを調整すると、両者の周期が等しくなることが確認できる。


 次に、長い「パーティストロー」の一端をビスと接着剤で封じて、水に浮かべたときにちょうど25cm沈むように中のおもりを調整した浮き振り子を作る。浮き振り子の周期は、T=2π√(m/ρSg) だが、これもつり合いの条件 ρSdg=mg を考慮すると、T=2π√(d/g)と同じ形になる。つまり「浮かべたときに25cm沈んでいる浮き振り子は1秒で振れる」のである。浮き振り子は減衰が激しく2周期ぐらいしか観察できないが、単振り子やばね振り子とタイミングを合わせて揺らすと周期が等しいことが実感できる。発表資料(PDFファイル200KB)はここ
 

トラックエッチドメンブレン 山本の発表
 2022年9月例会での夏目さんが発表した実験の追試を行った。この夏の物理学会でお会いした夏目さんから素材の「トラックエッチドメンブレン」を分けていただいた。Track-Etched Membrane は、サイクロトロンで加速した重粒子線をポリカーボネイトなどの薄膜membraneに照射し、粒子軌跡trackに沿ってポリマーの結合が切れた部位をアルカリ水溶液で腐食etchして作る超微細構造フィルターである。微生物を濾しとったりするのに使用する。膜厚25μm、穴の径は0.2μmとのことだ。穴は膜に垂直にランダムに貫通している。詳しくは、エアブラウン社「ここがすごいit4ipのトラックエッチング技術」などを参照のこと。


 例会では、赤と青のレーザー光を同じ角度で照射して比較した。膜に対して斜めにレーザービームを当てるとビームの下側に円環が現れる。入射角が大きくなると円環の直径も大きくなる。直径は波長にはよらないようだが、円環の幅は波長が長くなると広がるらしい。
 

 円環の直径は入射角にはかなり敏感に反応する。左は入射角小、右は入射角大。膜面に垂直に(入射角0)レーザー光を当てるときには円環は生じない。この現象は波動光学の範囲で説明が可能だそうだ。詳しくは2022年9月例会での夏目さんの発表を参照のこと。
 

アトウッドの実験の追試 宮田さんの発表
 高校力学では応用問題として滑車の両側におもりを吊したアトウッドの装置のおもりの加速度を求める問題がよく用いられる。宮田さんは、実際に、この装置で重力加速度が測定できないかと考えた。生徒実験で科学史を追体験するのだ。
 ネットで検索すると南原律子氏の「アトウッド実験の教育的意義」(物理教育1993年41巻4号)という研究報告が見つかり、この報告書にアトウッドの実験の歴史、方法、意義、などすべてが報告されていた。南原氏は実験のおもりとして硬貨とフィルムケースを用いていたが、フィルムケースが入手しにいので、宮田さんは手軽に入手できる釣りのおもりで追試をした。結果は、重力加速度9.8 m/s2を求めることは難しい。だいたい9.4m/s2程度。アトウッドの実験は、「おもりと滑車と時計という簡単な装置で重力加速度が求まる」ことを示すことに教育的意義があるという南原氏の指摘通りの結論になった。


 なお、宮田さんの追加の実験では、
・演示実験の場合は、黒板で落差1m程度、摩擦の少ない滑車を用いればストップウオッチの計測で重力加速度9.4m/s2程度を求めることができる。
・実験卓での生徒実験では落差は50cm程度。ナリカ社のビースピを用いると誤差を減らすことができる。
ということが分かった。
 

 宮田さんはさらに、滑車の慣性モーメントや、始動時の加速度の立ち上がり特性などにも考察を進めた。この追試を通じて株式会社ナリカの渡辺大樹さん、中島航己さんにはビースピをお貸しいただいたり、実験装置GO DIRECTで滑車の動き出しのデータをいただいたり大変お世話になった。詳しくは宮田さんのメモ(PDFファイル945KB)をご覧いただきたい。 

物理チャレンジ実験課題 右近さんの発表
 右近さんは、「物理チャレンジ2023年・第2チャレンジ」として出題された実験課題1を紹介してくれた。テーマは剛体の回転運動と角運動量の保存である。
 並進運動における運動量保存の法則に対応するものとして,回転運動には角運動量保存の法則がある。惑星の運動における面積速度一定の法則(ケプラーの第2法則)や、フィギュアスケートで手を広げてスピンしているスケーターが腕を縮めると回転が速くなるのはその例である。


 本課題では物体の固定軸の回りの回転運動について調べる。物体の並進運動において、質量は物体の動かしにくさや止めにくさ(慣性)を表わす量だが、物体の回転運動についても、回転させにくさや止めにくさを表わす量があり、これを慣性モーメントと呼んでいる。モーターが回転すると起電力が発生することを利用してこの慣性モーメントを求めることができる。また、角運動量が保存されることを実験的に確かめる。
 回転中に糸を引いて2つのおもりを広げている棒を取り除くと(左図)、おもりが回転中心付近に集まってスピンアップする(右図)。
 

 ストレージオシロの画面で角速度が増えた様子や、減衰の角加速度が変化した様子が読み取れる。
 詳しくは右近さんの例会発表資料(PDFファイル1.2MB)を参照してほしい。

永久機関じゃないおもちゃ 上橋さんの発表
 上橋さんはYoutubeなどで「永久機関」として紹介されているおもちゃがAliExpressで販売されていたので購入してみた(動画はここ)。お値段は1400円ぐらい。どのように制御されているのか、ワクワクしながら分解してみたところ、モーターが1つ入っているだけで(写真右)、モーター軸に取り付けられたリング状のゴムで鉄球を引きずり落として勢いをつけ、1回転させる仕組みだった。もちろん、永久機関ではなかったが、こんな簡単な仕組みで面白いおもちゃを作れることにビックリ!


 数日後、パワーが弱くなって、上部トレイに入らず落ちてしまうことが多くなってきた。このおもちゃはUSB(5V)で駆動しているのだが(写真左)、DC-DCコンバータ(写真右)で5.3Vにしたところ、パワーアップして再度入るようになった。ひょっとするとモーターの定格電圧以上の電圧をかけている可能性はあるというが、ただちに「魔改造」をほどこしてしまう上橋さんに脱帽した。
 

熱平衡・生徒の予想 喜多さんの発表
 喜多さんが現在講師をしている慶應高校は男子校、1学年18クラス、物理は2年生で3単位全員必修である。熱の分野の授業時数は大体6時間くらいである。喜多さんは熱の最初の授業で以下の6つの質問をした。

 熱に関するアンケート:
 1. アイスクリームを保冷するためのドライアイスを知っているか。  はい いいえ
 2.ドライアイスの温度は何度くらいか。    ℃
 3.ドライアイスに触ったことがあるか。     はい  いいえ
 4.冷蔵庫の冷凍庫にアイスクリームを入れて保管したことがあるか。  ある  ない
 5.冷凍庫の温度は大体何度か?      ℃
 6.冷凍庫にいれてあった氷を取り出して温度を測ると何度か?    ℃

 2回目の授業で5と6を質問した意図について話をした後、以下の問いをした。
 Q:室温の水100gに、熱いお湯( 90℃ )に入れておいた鉄100gを入れた。それぞれの温度はどのように変化するだろうか、予想のグラフを描いてみよう。(下図)


 プリントに予想のグラフを描き、もう1枚グラフだけのものを配り、それに予想したグラフを描いてもらい、提出させた。そのグラフの形は余りにも多岐にわたり、左図のようにとりまとめた。

 熱平衡の温度が高いほうになると予想(①、②、③)、ほぼ中間の温度になると予想(④、⑤、⑥)、
低い方になると予想(⑦、⑧、⑨)の3グループと、熱平衡にならず交差すると予想(➉)グループである。

 昨年と今年で総計152人の上位4位は、③:28% ⑦:11% ⑧:10% ➉:9% で、この総計は58%になる。
また、温度差が大きいほど傾きが大きいと描いた(①、④、⑦)は、43%、直線的に変化すると描いた(②、⑤、⑧)は、20% であった。

Androidスマホの方ご協力を 喜多さんの発表
 喜多さんはphyphoxの2種類の加速度測定モード、「加速度センサー」と「線型加速」について引き続き追求している。以下の図はAndroidスマホ(違う機種)で電車の同じ一区間を測定しものである。それぞれの図の下側は【線形加速】のもので、以前六月の例会で報告したグラフと異なるものとなった。六月の例会のものは、linear_acceleration Vendorは Googleだった。
 次の図の場合、linear_acceleration Vendorは Samsung Electronicsである。Androidスマホでは右図のようにセンサーの名前とVendor名も合わせてエクスポートされる。


 下は同じ区間を別のAndroidスマホで測定したもの。こちらの、linear_acceleration Vendorは qualcommである。同じ区間で測定してもスマホによってこんなにも変わってくる。この違いはどこから来るのだろう。これが喜多さんが目下研究しているテーマだ。
 そこで、喜多さんからのお願いである。Androidスマホをお持ちの方は、【新しい実験の追加】(+マークをタップ)で有効なセンサーとしてgを含む【加速度センサー】と、gを含まない【線形加速】のセンサーの二つを選んでオリジナルメニューとして登録し、どこかの電車の一区間の記録を取って、そのデータを Excel fileでエクスポートして、喜多さん(宛先:kitamako(atto)fd.catv.ne.jp )宛にお送り頂きたい。
注:iPhoneスマホは、【Metadata Device】のシートが作成されないので、お願いしない次第である。
 

YouTubeより2点 宮﨑さんの番組紹介
 9月に東北大で行われた物理学会2023年年会の総合講演は以下の2本であった。
1)「物理教育におけるジェンダーギャップ」 新田英雄(東京学芸大学理科教員高度支援センター )
2)「分からなくてもいいアウトリーチ」 ヨビノリたくみ(YouTuber)
 後半の講演は題目も演者も物理学会で?と思ったが、参加者の評判が非常によい。宮﨑さんは学会に参加していなくて、残念だなと思っていると、この講演がYouTubeに公開された。これが実に面白い。
『わからくてもいいアウトリーチ@日本物理学会、ヨビノリたくみ』
https://youtu.be/je6tk_LDHOM?si=Oh24no9peLKVqFwY&t=6
日本物理学会でしか伝わらないフリップネタ
https://youtu.be/B3V_xmTJmz0?si=hO_NA8YoUFiluVQv

 前半の新田先生の総合講演はYouTubeには公開されてはいないようだが、日本物理教育学会の「物理教育レクチャーシリーズ」の新田先生の別テーマでの講演が公開されている。
https://youtu.be/3cdbyCWXVYI?si=6euzgx3NLbKOAQ2f
 物理教育研究の現状がわかりやすく解説されているので、見逃した人は是非視聴すべきである。このシリーズは、以降、小河原さん、右近さん、土佐さんと、物理の教師なら皆さんご存じの方の講演が続いており、順次公開される。ぜひご視聴を!


「14歳からの宇宙物理学」 市原さんの書籍紹介
 市原さんが書店で見かけてふと気になり、手に取った1冊。
  武田紘樹著「14歳からの宇宙物理学」角川書店
 見開き構成で話が閉じており、カラーで読みやすい。「説明が丁寧」とか「とてもわかりやすい」というわけではないが、パッと見てわかる程度には簡潔にまとめられており、大枠を捉えるのにはよい。専門分野の人が見ると、解説や厳密性が足りないと感じるかもしれない。だが、一番よいと思うところは、難しいことを難しいまま伝えているところだ。数式も登場するが、特にその式を解説するわけでは無い。「難しくてわからないけど、なんかカッコいい!」と思わせるのには最適だろう。
 上で宮﨑さんが紹介しているYouTubeでヨビノリたくみ氏が述べているとおり、「わからなくてもよいアウトリーチ」の実践だと思う。難しいことをわかるようになりたいな、と思わせる、14歳に夢を追いかける原動力を与える、そういう意味で良い本だと思う。

Rokid Air(ARグラス) 益田さんの発表
 現在はRokid Maxとして販売しているARグラスの1世代前の眼鏡型モニター。眼の前に、自分専用の大画面モニターが見える。フレームにスピーカーも搭載されている。左右の眼にそれぞれモニターが投影されるため、ピントが合うまでは映像が2重に見えるので慣れが必要だが、映像も明るいので動画の視聴や、文書作成などの作業も可能。ただし手元は見にくいので、キーボード操作はタッチタイピングが必要になる。
 USBタイプCでの映像出力および電源の共有となる。益田さんのChromebookではうまく映らなかったのでデバイスを選ぶかも知れないが、職場のPC、iPad miniでは良好に映ったそうだ。
 ちょっと派手なサングラスのようなフォルムなので、大きな端末を開きにくい電車や飛行機などの移動の最中の動画視聴、作業に最適…かもしれない。近未来感のあるデバイスだ。


4年ぶりの龍勢祭 越さんの発表
 コロナ禍の影響で、中止や限定公開であった秩父龍勢祭りが、4年振りに一般公開となった。龍勢祭では、長さ約15mの竹ロケットを次々に打ち上げる(写真左)。ロケットは最高高度300m程で、様々な仕掛け(煙花火、昼花火)を放ち(写真中央)、パラシュートを開いて本体はゆっくりと里山に落下する。朝から15分毎に1日で27発打ち上げられた。発車前に各流派の代表による、朗々とした口上が述べられる。龍勢祭りは地元の椋(むく)神社の祭りであり、今年は8万人以上の来場者で賑わった。東京新聞の記事はここ
 打ち上げの成功率は7割くらいで、中には全く飛ばずに櫓(発射台)で仕掛けまで発火してしまうものもある(写真右)。万一に備えて、消防団や救急車が待機している。


 秩父に散在する30程の流派に分かれ、それぞれで受け継がれてきた方法により1年掛かりで竹ロケットを製作する。松の木の切り出し、火薬作り、仕掛けなど全て手作りだ。写真左は松の木をくり抜いて作るロケットエンジンの断面で、黒い部分が黒色火薬、左半分の上部に水平に張られた紐は導火線で、仕掛けやパラシュートへ繋がる。写真右は、ロケットエンジン部分の半円筒形の松をしっかりと固定する竹製のタガ(箍)。隣接する龍勢会館(有料)では、製造方法、ロケットに搭載したカメラの映像などを見る事ができる。
 

 余談だが、当日、越さんは熊谷駅から秩父鉄道のSL(写真左)に乗り、会場へ向かった。SLの車内販売で「SLC58くんでGO!」(写真右)を購入した。このおもちゃは客車を後方に引いて、SLから引き離す事によって糸が引かれてゼンマイが巻かれる。その後SLがゆっくりと後進し、客車と連結すると高速で前進する。この2段階の動きをする仕組みを考えてみると面白い。このおもちゃは、大井川鉄道(トーマスその他)や各地のSL車内でも販売されている。SLのおもちゃの動画(movファイル2.8MB)はここ
 

KEK一般公開 越さんの発表
 越さんは、9/23に開催された筑波の高エネルギー研究所(KEK)の一般公開の見学をしてきた。メインの円周約3kmの電子陽電子シンクロトロン「トリスタン」は、放射光を利用した様々な研究が現在でも行われている。また、磁場により電子を蛇行させ、強力な放射光を発生させる新施設を建造予定であるという。詳しくはここを参照。これは「アト秒」(10のマイナス18乗秒)レベルのごく短い時間ごとに放射光を連続的に発生させられる実験施設だ。「アト秒パルス」は今年のノーベル物理学賞受賞で注目された。詳しくはここ
 化学反応はナノ秒レベルの時間で起こるというが、この研究により原子、分子同士が近づき、電子のやり取りをする際、アト秒レベルの放射光によってその様子を詳細に調べることができるという。その場で解説してくれた研究員の方の言葉によると「化学反応が起こる時、電子がゾワゾワする様子を知ることができる」ということだ。
 越さんは「久し振りにKEK一般公開に行ってみたが、最先端の物理学の研究に触れる事が出来、大変興味深かった。」と感想を語った。

無線HDMI送信機・受信機 天野さんの発表
 天野さんは、アマゾンで「ワイヤレスHDMIエクステンダー」を購入してみた。PCからのHDMI映像信号を無線でプロジェクターやディスプレイに飛ばすアクセサリーである。30m以内なら長いケーブルを引き回す必要がなく、プロジェクターの近くにPCを持っていかなくてすむ。送信側と受信側の2つのパーツに分かれており、それぞれPCのHDMI出力端子とUSB端子、プロジェクターのHDMI入力端子とUSB端子(ない場合は外部電源)を結ぶようにつなぐ。同じマシンに戻るような妙な接続だが、USBは給電のみに使われており、ケーブルがアンテナの役割も兼ねているらしい。HDMI端子からの給電では電力が不足するためだろう。面白い構造だ。WiFi環境は不要。天野さんによると画質等は問題ないそうだ。下の画像は天野さんが購入したサイトからお借りした。類似の製品もいくつか出回っている。


「小学校と大学で未知に挑む力はこうして育つ」 古谷さんの書籍紹介
 教育評論家の尾木直樹氏が、「今までに出会った中での一番素晴らしい教師」として紹介(某TV局の番組の中で)した今泉氏が自らの過去の実践に触れ、ある高校生の手紙を紹介している。「(前略)私が授業を見学して一番印象に残ったのは、『間違い』に対しての今泉先生の対応の仕方でした。『破れる』という字を『こわれる』と読んだことに、『破壊』とすかさず黒板に書いて、『この言葉からもわかるように「破」には「こわれる」という意味も含まれる。文の内容からもこの字を「こわれる」と読んだあなたはすごい。』とおっしゃいました。このやりとりをみて、うまく表現できないのですが・・・(後略)」
 一方の住吉廣行氏は大学の学長としてユニーク、かつ創造的な実践を紹介している。「地域と連携した松本大学の教育実践」-課題解決型教育-(8章)「帰納的教育手法の開発」-研究と教育、その類似性-(9章)で大学本来の研究の機関としてのあり方が。また、ひとりの学生がふとした気づきをきっかけに能動的に、たくましく成長していく姿が記述されている。読み手として、特に学生に対して応援をしたい気持ちに駆られてしまっていた。 
 古谷さんは「多忙な中でもぜひ一読したい書籍だと思います。」と薦めている。


「理科教室」の紹介 鈴木さんの雑誌紹介
 鈴木さんは毎回の例会に『理科教室』の最新号を持参して販促を行っているが、2023年10月号の特集は、「高校理科の新教科書を検討する」である。物理に関しては山本が執筆している。他の記事も含めて、ぜひ購入して読んでもらいたい。

二次会 Zoomによるオンライン二次会 
 例会本体は、対面15名、遠隔10名、計25名の参加だった。帰宅後20:00から行われたリモートの二次会には8名が参加した。
 今回の例会ではこれまでになく発表者が多かったため、ゆっくり説明を聞けなかった発表も少なくなく、二次会の場で改めて詳しい説明をしてもらったりした。宮田さんのアトウッドの実験では、より慣性モーメントの小さな滑車を求めて、なつかしい「ミニ四駆」のガイドローラーも検討したそうだ。鈴木さんからは、ナリカ(当時、中村理科工業)の「サインウエーブ定規」をなつかしむ話題も。写真右は宮田さん所有のサインウエーブ定規で30年間現役で活躍中とのこと。


前の月の例会例会アルバム目次次の月の例会


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