例会速報 2023/12/10 株式会社ナリカ・Zoomハイブリッド


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授業研究:回転運動が持つエネルギー櫻井さんの発表 
 櫻井さんは、本年度の力学的エネルギーに関する授業において、回転運動が持つエネルギーを導入したことについて、授業研究の場で報告し、共有した。
 

 櫻井さんは従来より、生徒が物理の学習を経て、身近な自然現象を科学的に説明できるようになることを重視して授業作りをしている。コロナ禍の2021年11月例会では「お茶が冷めていく過程も説明できないで、熱的現象の学習をやった気になれるか?」というモチベーションで指数関数的減衰に関する生徒実験授業の提案を行った。今回櫻井さんは「回転したり転がったりする物体が持つ運動エネルギーを正しく表現できないままに、力学的エネルギーを理解したつもりにさせてよいか?」と考え、回転運動が持つエネルギーについて考える機会を持たせたいと考えた。
 

 一方で、それを定量的に扱うためには、高校物理を基点にすると新たに学ばなければいけないことが多すぎる。それを踏まえ櫻井さんは、回転運動が持つエネルギーを定性的に考察できるようになるところが、高校物理における「ちょうどよい落としどころ」なのではないかと考え、力学的エネルギーに関する生徒実験を十分に行った後に採りあげ、演示や問いかけを行った。下図はそのためのスタンダードな生徒実験と、3Dプリンタで自作した振り子の糸を切るためのカッターホルダー。
 

 ただ、そのことに着目させるための実験教材があまりに少なく、現象をもとに授業を作りづらいのが現状である。今年度の授業では、「回転運動がエネルギーを保持する」「物体が転がり落ちるとき、位置エネルギーの一部がその物体が回転するエネルギーに変換され、摩擦なく滑走したときより遅くなる」という現象に多少言及するくらいのことしかできなかった。発表後に出席者から「回転運動のエネルギーを含めることで転がり落ちる物体の速度を精度良く予測・分析することができる」というアドバイスがあった。大学の基礎物理学実験においてよく扱われるテーマである。櫻井さんはいま、この実験を、高校生向けにリファインできないかどうかを探っている最中である。
 

私立校で紹介した実験 舩田さんの発表
 舩田さんは勤務先の学校で紹介した実験器具を見せてくれた。
 一つ目はガイガーミュラーカウンターキット(写真左)で自分で組み立てたもの。福島の原発事故時には東側、西側、北側から現地近くまで行きマップを作った。時の校長に「船橋まで福島の放射性物質が飛んできて被曝している学校があるとと聞くが本校は大丈夫か」と問われ、装置を見せながら「福島の事故前と事故後観測で得られている数値にほとんど差はありません。心配いりません。」と答えたとのこと。
 二つ目は3色LED装置(写真右)、光の加法混色を見せる装置である。大きな回折格子シートも使い混色前の色に分光する様子も観察する。中村修二さんらが青色LEDでノーベル賞を受賞した2014年に千葉県総合教育センター児童生徒教職員科学作品展に出品し千葉県知事賞を受賞した。
 

 三つ目は、おなじみのリング落とし装置。近年ダルマ落としを見かけなくなったためダルマに代えて取り入れている。失敗して落下せずキャッチされるリングキャッチャーも科学の祭典等で紹介している。今のところリング落とし成功率は90パーセント以上。
 

ビー玉スターリングエンジン 喜多さんの発表
 コロナ禍の中、2020年にスターリングエンジン工作会を開いた喜多さんは、ビー玉スターリングエンジンの原理をわかりやすく説明する工夫をしている。2022年10月例会に続く喜多さんの続報。
 ビー玉スターリングエンジンを稼働させる前に、試験管と注射器のみを左図のようにして試験管下部を熱すると中の空気が熱せられてピストンが上がることを示す。次にランプから離れて、「試験管下部を下げるとピストンはどうなる、そのままか、下がるか?」と問う。ビー玉が熱気を冷却部に押しだして、中の空気が冷やされ、ピストンは下がる。
 

 下図は、同様のことを演示するために作った装置。試験管の中央に穴を開けて、そこに注射器をつないだ。ミニカーは演示効果を高めるためのもの。
 

楕円体マグネット 加藤俊博さんの発表
 もう20年近く前になるが、2004年3月例会で加藤さん自身が紹介してくれたことのある、回転楕円体をしたフェライト磁石。摩擦の少ない平面上で転がすと、長軸が「東西」を指して止まる。実はこの磁石は楕円体の短軸方向に磁化されているのである。本来の用途はよくわからない。現在でもAliExpressのサイトなどで手に入るようだ。
 

iPhoneケース 加藤俊博さんの発表
 加藤さんが10年ぐらい前に型落ちやバッテリーの劣化などを理由に無料で200個ほど譲り受けたというiPhone8用ケース。裏はミラーになっていて照明用LEDもついており、メイク直しや自撮りに使えるというキャッチフレーズが箱に書いてある。分解してみるとLED用のバッテリーが内蔵されていて、LEDのアレイがとりつけてあるだけのシンプルな構造。中国製で販売元は富士商。
 

開かずの秘密箱 加藤俊博さんの発表
 加藤さんが某パズルパークでおよそ30年前に買い求めた「秘密箱」。マニュアルもなく、開け方がわからないまま、30年間所持していたという。会場で回覧するうち、山本がなにげなく体心を通る対角軸方向にちょっと引いたところすんなり開いてしまった。中には木のブロックがいっぱいにつまっていた。これが正しい開け方なのかは疑問が残るが、30年ぶりに中を見ることはできた。
 

レーザー消失点・その後 海後さんの発表
 2年前のナリカ例会で「レーザーポインターを夜空に向けて照射すると、途中でプツリと途切れたように見えるのはなぜなのか?」について発表した海後さんは、その後、近所の大きな倉庫の壁に2kmの距離(壁の正面距離をグーグルマップで計測)から20cm幅の平行なレーザー光線を近所迷惑にならないよう早朝に投射実験をした。(平行精度は20mで±5㎜以下に調整した)実験結果は、壁に当たったレーザー光の光が確認できて、その光点に2本のレーザー光線がピッタリ収束しているのも確認できた。
 しかし、平行の誤差を考慮すると、目視によるレーザー光線の消失点距離が20cm幅=2kmとは断言できない。これ以上の検証実験は設備の無い素人には難しいという報告だった。
 ちなみに、市原さん情報によると、プラネタリウムのメガスターで有名な大平さんが20km先までレーザーが届くことを実験しているという。
詳しくはこちら→https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1311/13/news097.html
 

スーパー竹とんぼ 海後さんの発表
 海後さんは12月3日に埼玉県の大宮で開催された国際竹とんぼ協会主催の「全国竹とんぼ競技大会」に参加した。純竹部門と象嵌部門があり、純竹部門70人中滞空時間で24位、距離で19位で、今年にスーパー竹とんぼを始めた初心者にしては、好成績をあげたとのこと。例会でスーパー竹とんぼを知っているか質問したところ「スーパーマーケットで売っている竹とんぼ?」というボケ回答が出るほど知られてないようだったが、秋岡芳夫氏がスーパー竹とんぼを考案してから40年以上にもなり、全国大会も39回を数えているそうだ。
 海後さんが大会で飛ばした竹とんぼは上手く飛ばせれば高度10m、距離25m程度飛ぶという。例会の会場内で実際に飛ばしたところ、その飛行性能に歓声が上がった。動画(movファイル:3.3MB)はここ
 スーパー竹とんぼの飛行性能を高める物理はとても複雑で、まだまだ工夫の余地がたくさんあって面白い。海後さんは、継続して作りながら、地元でも竹トンボの大会を開催したいと意気込みを語った。
 

導電糸クリスマスツリー 加藤智子さんの発表
 加藤さんは、12月ということで、クリスマスにちなんで『理科教育ニュース』2022年12月8日号「電気を通す糸で作る 光るクリスマスツリー」の実験を紹介してくれた。金属が編み込まれた糸「導電糸」で回路を作り、LEDを光らせる。フェルトのツリーには導電糸でLED2個を縫い付けている。
 

 ウサギの人形の裏には電池を入れて、導電糸でスナップにつないでいる(左図)。ツリーとウサギのスナップをつけると、LEDが光る。導電糸(右図)は秋葉原の千石電商で購入した。手芸に電子工作を組み込めるので、いろいろと応用が考えられそうだ。
 


 
 詳しい作り方は、2024年1月に発行される『理科総合大百科2024』(左図)に収録される。

起電盆フランクリンモーター 越さんの発表
 姫路の上橋さんが製作した「起電盆静電気モーター」(写真左)は回転軸の固定の仕方など、摩擦の影響を極力少なくしてあり、非常に完成度が高い。
 越さんはこれをヒントに、以前2002年7月例会で紹介した「電気アニメ」を改良・小型化し、起電盆のアルミホイルを大きくして、「起電盆電気アニメ」(写真右)を作った。動画を見るとわかるが、ローターの内側にはヤモリの絵が描いてあって、簡単なアニメーション(ゾートロープ)になっている。なお、使用している赤い不導体板はダイソーの塩ビ製の下敷きで、中央に発泡スチロールのつまみを貼り付けてある。以前ダイソーの下敷きはポリプロピレン製であったが、最近ではコストダウンの為か塩ビ製で(廃棄の問題はあるが)、静電気の実験にはうってつけである。動画(movファイル:7.4MB)はここ
 

ワイヤレスLED 越さんの発表
 2019年10月例会で天野さんが紹介したワイヤレスLEDについて、越さんから改めて紹介があった。給電ユニットのコイルが作る交流磁場による電磁誘導で、線がつながっていないのに豆粒ほどのLEDが光る。受信側はフェライトコアに巻いた小さなコイルになっていて、給電コイルの内部では明るく光るが、外側に外れると光らない。コイル内でも横倒しになると光らない。磁力線が受けられなくなるからだ。
 給電ユニットは秋月電子などで入手できる。LEDも各色販売されている。
 

気柱共鳴 山田さんの発表
 山田さんはプローブマイクを使った気柱共鳴の実験を生徒実験に取り入れていた。気柱共鳴管の中の見えない腹・節を正確に検知して音の定常波を可視化する教材だ。プローブマイクは生徒に扱わせるので、耐久性のあるちゃんとした製品を用いた(右図)。マイクアンプとセットになっている。マイクは音圧を検知するので、節の場所で音が大きくなる。オシロスコープにマイク出力をつないで、その振幅で節・腹の位置を判断する。音源には正確な振動数で正弦波を発信できるファンクションジェネレータを使う。
 

 山田さんは、波動の単元では例えば左図のような複数の実験を系統的に体験させる生徒実験が望ましいと考えている。そして、地震の際の高層ビルの長周期地震動などの身近な現象を、直感的に理解できることが、教養教育の物理においては重要だと提案した。
 

 山田さんは例会の場で実際の実験器具を設置して、実際の実験の様子を見せてくれた。左の写真の奥がオシロスコープ、その手前に気柱共鳴管が横たえてあり、左側からプローブマイクをゆっくりと差し入れていく。一番手前はマイク用のアンプである。右の写真は右端に設置したスピーカー。
 

LOL図 右近さんの発表
 高校物理、大学入門物理でエネルギーをどう教えるかについての関心が高まっている。系の選択やエネルギーの移動、変換といった基本的な概念をどのように学ばせたら良いのかについては様々な取り組みがある。それらの中でも、ニューヨークの高校で物理を教えている先生、Kelly O'Sheaさんが報告しているLOL図が注目される。右近さんはその概要について紹介してくれた。
 「エネルギー保存の法則」は「系」と「モデル」を確定しない限り概念的に理解させることはできない。LOL図とは、下図のように現象の前後のエネルギーバーチャート(縦横の軸をLの文字に見立てている)と系の境界を表す○(これをOの文字に見立てる)を並べたものである。
 下図のループコースターの例だと、台車・ばね・地球を系と考えるときは、はじめのばねのエネルギーが、宙返りしているときは運動エネルギーと重力による位置エネルギーとに分配され、系内のエネルギーは保存している。
 

 同じ現象を台車と地球だけを系と考え、ばねを環境とみるときは、LOL図は左下の図のようになり、ばねから「仕事」の形でエネルギーが流入していることになる。系内にははじめはエネルギーがなかったが、流入した仕事の分だけ運動エネルギーと重力による位置エネルギーが増えたとみる。
 このように、LOL図は選択している系、系の最初の状態、後の状態に着目させる記入フォームを提供する。これにより、仕事が系外からのエネルギーの流入であることを視覚化すると共に、多様表現として「エネルギーバーチャート」の利点を直接継承している。系選択の違いによりLOL図が異なることを認識させることもできる。
 

 LOL図はLOLL、LOLOLL 等、複数のスナップショットに拡張することもできる(下図)。なお、エネルギーバーチャートの棒の長さは、本来初めと終わりで各エネルギーおよび仕事(正負あり)の長さの合計が等しいことを表現しているが、生徒はこの点をなかなか意識してくれないという。そこで、Kelly O'Sheaさんは、バーをブロックに分けて記入するようにし、ブロックの個数に意味があることを認識させ、さらに必要ない箇所に× をつけることで考慮したことを示すことにしたという。
 詳細は右近さんの発表資料(PDFファイル:2.0MB)を参照のこと。
 

二次会 てけてけ秋葉原店にて 
 13名が参加してカンパーイ!例会本体は、対面34名、遠隔3名、計37名の参加だった。コロナ以来久々の公認対面二次会は、18:30よりナリカ近くの居酒屋て行われた。以前は12月のナリカ例会とその後の大忘年会がセットだったが、コロナ禍で久しく自粛していたものだ。参加人数はまだ少ないが、ようやく以前のスタイルが戻ってきた。再開の日を待ち焦がれていた人は多い。
 一方、例会本体のZoom併用は、遠隔地からの参加者に期待して今後も可能な限り続けていこうと思う。


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