例会速報 2022/10/16 関東学院中高・Zoomハイブリッド


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授業研究:放課後講習・物理共通テスト対策講座長倉さんの発表 
 今年度から神奈川県外の公立進学校に着任した長倉さん。受験指導が盛んな学校で、平日放課後に行われる共通テスト対策講座(60分×5回)の案を持ってきてくれた。
 普段の授業では進度の関係で、定量的な生徒実験は全く行えておらず、ほとんどの生徒は高校3年間で物理の実験を経験してきていない。そこで、共通テストで出題される「実験・考察問題や思考問題」の考え方を身につけることを目標に、「センサーを使った実験」「測定値の処理」「仮説・検証の活動」を取り入れた内容にした。
 

 初回は、選択肢問題を解く際のテクニックを紹介しながら、2022年7月例会で鈴木さんが紹介していた、phyphoxを使った重力加速度の測定を行う。「空気中で落下させる向きによって加速度の様子が違うのはなぜか」「空気抵抗を受ける物体のa-tグラフから、v-tグラフを考えよ」などの問いをたて、考察してもらう。
 例会参加者からは、初回授業では、「講座に参加してよかった」と生徒にお得感を感じてもらうことを意識している、という声や、 この内容でも良いが、第2回で扱っている連結物体のF-tグラフでも良いという意見もあった。
 

 第2回では物理基礎の力学の復習と題して、力学の演示実験を一通り行うことにした。斜面を登る台車のv-tグラフ・ピコピコハンマーで叩いたときの台車のv-tグラフ、PhETを使った斜面から飛び出す物体の力学的エネルギーについて考える課題を出した。 おなじ現象を運動方程式や運動量、力学的エネルギーの視点からまとめて説明しようと考えていたが、「運動量とエネルギーについて混乱を招くからやめた方が良い」「時間を考えなくて良いのがエネルギーの利点だから、この課題でエネルギーに言及する必要はない」との意見があった。 また、1時間で詰め込みすぎではないか、仕事とエネルギーだけで1時間取っても良いのではないかという意見もあった。
 

 以降はまだ詳細は固まっていないが、「第3回:単振動」「第4回:レンズ(幾何光学)」「第5回:光の干渉(波動光学)」と進む予定だそうだ。
 長倉さんは、phyphoxを使った単振動の実験光のチュートリアル回折格子の簡単な実験 など、YPCで仕入れた[短時間で効果的]な実験を軸に進めることを考えている。
 発表を終えて例会参加者からは、「良い取り組みだと思うが、せっかくならもう少し内容を絞って、丁寧に進めてもいいのではないか」、「共通テスト頻出のレンズなどは、普段の授業では十分に演習に時間を取れないので、こうした時間をとりたくなる気持ちもわかる、モーメントなども取り入れてはどうか」、「目的が[実験を体験する]なのであれば、手広くやるのもありだとは思うが、配付している演習問題の解説が結局できないのではないか」、単元での授業研究ではないだけに、色々な分野を横断した意見を聞くことができた。
 授業研究を終えて、長倉さんからは「受験指導は今までやってこなかったが、解くためにどういう力が必要かなど考えることで、違った視点から教材を見ることができるようになった。いただいた意見を反映させて、ぜひ実践結果も報告したい。」との振り返りがあった。
 なお、長倉さんの授業プリントはYPCニュースに掲載される予定である。詳しく知りたい方は、ぜひニュース会員にもなっていただきたい。
 

スターリングエンジンを動かす前に 喜多さんの発表 
 喜多さんは、毎年ビー玉スターリングエンジンを授業で演示して説明してきたが、試験管の上部が低熱源であることを実感させることが難しいと感じていた。その点を少しでも解消したいと思い、ビー玉の入った試験管だけを取り出した演示器で、稼働させる前に簡単な演示をすることにした。
 手で注射器を鉛直に持ち、もう一方の手で試験管の上部を持つ。そして、ビー玉を下部に上部に動かしても注射器のピストンが動かないことを確認する。その後、試験管の下部を熱して、内部の空気を膨張させてピストンを上昇させる(左図)。
 ここで質問する。「ビー玉を下部に移動させるとピストンは動くか、動かないか?」動かないと答える者あり、下がると答える者あり。その後ビー玉を下部に移動させ、ピストンが下がることを確認(右図)、次にビー玉を上部に移動させ、ピストンが上がることを確認。なぜピストンが動くかを考えさせる中で、試験管の上部の方が低熱源であることを理解させる。
 

 それをもっと単純化させた演示器が下の装置である。試験管の真ん中辺りにルーターのガラス用ビットで1mm程度の穴を開け、そこにプラスチック注射器のノズルを切り取って接着し、シリコンチューブで注射器とつないだ。
 

 接続部分の拡大写真を下に示した。細部にこだわりが感じられる。
 

 スターリングエンジン本体にも細かな改良が施されていた。下の図は、試験管とガラス製注射器を実際に組み立てるときに、ピストンの押す部分を簡単に取り付けられるようにしたクリップである。二つ折の厚紙をヒンジにしている。いろいろな形のクリップがあるが右図のものが現時点で最適だそうだ。
 

スターリングエンジンカーの改良 櫻井さんの発表 
 櫻井さんは、8月例会で発表したスターリングエンジンカーの改良バージョンを紹介した。前バージョンは、3Dプリンターの造形可能サイズ150mm×150mmを前提に各パーツを設計していたが、一般的なφ17mmのビー玉と、それが入る試験管でつくるビー玉スターリングエンジンの土台を作るには、150mmまでのサイズのパーツでは手狭になることがわかった。そこで、最近は200mm×200mmのヒートベッドを持つ3Dプリンターが一般的になってきたことから、一部のパーツをその範囲で大きく設計し直して製作した。うまくいかなかったらデータを書き換えてすぐに造形し、新しいパーツで作り直すことができるのは、プロトタイピングに向く3Dプリンターの最も得意とするところだ。今回の改良で、台車の長さと試験管支えの高さを自由に調節できるようになった。櫻井さんは次は加熱部の高さを調整できるように改良することを考えている。
 

3Dプリンター製運動量カー 櫻井さんの発表 
 櫻井さんは運動量カー(上面が斜面になっている台車)を3Dプリンターで製作し、例会で実演してくれた。力学台車の上に斜面を載せて運動量の実験を行うと、どうしても台車自体が重いことがネックになってしまう。3Dプリンターを使い、PLA(ポリ乳酸/一般的な3Dプリンターのフィラメント材)で作られた運動量カーは、幅380mmの大きさで、ストッパーを含む全重量が160g。直径30mm、質量110gのステンレスボールを使うと、手軽に、はっきりとわかる運動量保存則の実験が可能だ。台車とするためのタイヤ・シャフト・ベアリングはタミヤのミニ四駆用のものを使用している。 櫻井さんは、この実験をPlickersというソフトを利用し、ピアインストラクションの形式で生徒に実施している。Plickersは、生徒側が端末などを持っていなくとも、クリッカーを用いるときと同じことができるサービスである。
 最初の問いとその演示実験。金属球は斜面を滑走後離脱する。動画(movファイル3.8MB)はここ
 

 2番目の問いでは斜面の下端にストッパーをとりつける。金属球は滑走後斜面と合体する。動画(movファイル1.2MB)はここ
 

 3番目の問いでは斜面が後退しないように壁に押し付けておく。金属球はストッパーにより斜面と合体する。動画(movファイル2.9MB)はここ
 Plickersというアプリの利用も例会では大きな反響があった。ついでではもったいないので、その紹介はあらためて時間をとり、資料を整えて発表してもらうことになった。
 

問題演習の授業を作る 宮﨑さんの発表 
 YPC例会ではこれまであまり取り上げられてこなかった問題演習の授業づくりの実践報告が宮﨑さんからあった。以下、宮﨑さん自身のコメントで。

 問題練習は自分でするものという考えが私にはある。だから授業が苦手である。出来れば避けたい。YPCMLで話題になったので4,5年前の実践を発表した。
 苦手なので2013年の小林昭文氏の講演の内容をまねて授業を作った。ただし,小林氏も講演の時に強調していたが,このタイプの授業の成否は,学習集団をいかにマネージメントするかにかかっている。
 

 5年前に物理の授業内容をだいたいパワポ化したが,大変だった。ただコロナ禍の今,多くの教師が授業内容をパワポ化しているだろう。皆さんの成果のパワポを共有し合い,よりよいものとすることも意義あるのではないかと思う。
 

 演習教材の内容も含めた、宮﨑さん自身による詳しい解説記事がYPCニュースに収録されるので、そちらもご覧頂きたい。
 

水平投げ出し運動から円運動へ 夏目さんの発表 
 力学では「水平に投げ出した運動は放物線を描いて落下していく」とされている。左下の図に概略を示す。でも、これは地面が平らでどこまでも続いていることを仮定している。物体は常にはじめに投げ出された方向に対して垂直(鉛直)下向きに重力を受けていると考えている。しかしながら、地球が丸いことを考えると、これは成り立たない。落下していても地面に達しないことがある。その条件を調べると、自動的に地球のまわりを回る円運動が導かれることを示す。
 これは多くの物理(力学)参考書にも書かれているが、ここでは、右下の図のように、海辺の灯台から見た水平線までの距離Lの計算と考え合わせてみる。海面から高さ10mの位置から見た水平線までの距離Lは計算して見ると11km程度である。これは地球の半径に比べて灯台の高さがあまりに(6ケタから7ケタも)小さいためである。そこで、このクイズを逆に考えると、水平に投げたものが投げた位置の高さhから落下して地面に達する時間tの間にその水平距離Lだけ進んでいれば「地面に達しない」ことになる。地球の丸みの影響である。
 

 この場合でも、物体は「落下」し続けているが、物体に働く力は丸みを作っている円の中心から働いている「地球からの引力」である。つまり円運動となっている。「落下」している物体が地面に激突しない条件として、左下の図のように水平方向の速さの臨界値として秒速8kmが得られる。
 中心に向かう力を向心力という。臨界値として求めた「回転」の速さと向心力の関係なども右下の図のように、自然に出てくる。ここで、重力に対して「釣り合う力」として「遠心力」(慣性力)を導入することの是非、注意点は多くの場で議論されているテーマであるが、ここでは触れない。
 夏目さんは「落下運動し続けているがゆえに、その地球を周回する円運動につながることを、地球の丸みの影響として示して力学の理解を深める教育の参考にしてもらうことが目的」だと述べている。
 

RoWrite 古谷さんの発表 
 古谷さんは普段、メモ代わりの紙切れに思いついたことを書き留め、時々内容別にノートに書き直しをしている。あるとき、JUSTSYSTEMSのJust MyShopに型落ちの「RoWrite」が販売されているのを見つけ、現行の商品「RoWrite 2」の半値程度であったため、購入してみた。
 スマホやタブレットに専用アプリをインストールしてBluetoothで連携する。手書きのメモを紙でそのまま保存も可、なおかつスマホやタブレットに即デジタル保存も可、というツールだ。つまり、アナログ、デジタル両立型メモ帳とでも言うべきアイテムである。
 古谷さんは、「日常生活の中で、保存性や他のモノや人との関係性を高めていけそうなツールを利用していくことは、「ICT教育」を理解していくことのベースになるのではないか?」と思っている。
 

二次会 Zoomによるオンライン二次会 
 例会参加者は対面12名、遠隔9名、計21名だった。慎重を期して二次会は帰宅後の20時からZoomのオンラインで行われ、13名の参加があった。二次会では各自ドリンク持参で気楽に語り合う。
 例会本体で時間切れのため発表を見送った、益田さんの「水波投影のハイスピード動画」を見せてもらった。大変高画質で撮れている。後日の例会で正式に発表があるだろう。請うご期待。市原さんの息子さんが、静岡県富士宮市の「奇石博物館」でゲットしてきた「宝物」を大切そうに見せてくれた。同館にはジュエリーストーンを採集できる施設がある。
 上橋さんからは、科学教育研究協議会岡山・冬の研究会“科学と恐竜を学ぶ「お楽しみ広場」in 岡山理大”の紹介があった。中止になった夏の大会のリベンジとも言える企画だ。二次会参加者は来年1/8(日)の「お楽しみ広場」に出展することで合意した。大会の詳細はここ
 11/20(日)の関東甲信越ブロック神奈川大会(Zoom開催)の案内も行われた。YPCメンバーが主催しているイベントだ。
 


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