例会速報 2024/03/20 鎌倉学園中・高等学校・Zoomハイブリッド


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授業研究:中学の電磁気学 峯岸さんの発表 
 電磁気学の単元は、時間が余ることは決してない。扱いたい題材は尽きぬほどあるし、納得してもらいたい概念がたくさんある。しかし、授業時数は有限である。さらに、中学生の発達段階に応じた授業を提供しなければならない。単元計画の段階から、取捨選択をし、限られた授業時間の中で生徒の納得感を高めなければならない。今回、峯岸さんは、泣く泣く題材を削って、下図のような単元計画をもとに、単元:電磁気学の授業を行った。
 

 教科書でも、電磁気学を教える最初は「磁界(磁場)」を導入する。しかし、単に導入しただけでは、「場」を学ぶ動機は薄く、生徒にとって「場」を考えるメリットが不明のまま終わってしまう。なので、初回の授業は、「場」を学ぶ動機付けから行った。生徒は真実を知りたがる。そして、物理を学ぶ上で「そういうものでしょ」という鵜呑みの学習方法が不向きであることを、3学期には身に付けていた。それを頼りに、峯岸さんの初回の授業の第一声は、かなり挑発的な一言からはじまった。「授業をする際にはいつも悩む。みんなに、本当に正確な物理を教えようか、それとも多少不正確でもいいから、親しみやすいように教えようか。」すると、生徒はむっとして、「本当のことを教えてください。」と言う。待ってましたとばかりに、うなずき、下図のような初回授業を開始した。
 例会参加者からは、「遠隔作用、近接作用の違いを場の動機付けにするのはいかがなものか。」「電流のそばに方位磁針を置いたときに、方位磁針が動く。磁石がそばにないのになんでだろう、と問いかけて、電流の周りには磁石っぽいもの→磁界(磁場)を作る、というところから、磁界(磁場)を導入してもいいのではないか。」とアドバイスがあった。
 

 2回目の授業は、磁石に関する基本的な現象を生徒実験で行わせ、経験を積ませた。3回目の授業は、いよいよ「電流が磁場をつくる」という驚愕の実験事実を目の当たりにする授業であった。先行研究で、「電磁石は鉄心がないと磁石にならない」「コイルにしないと、磁石にならない」という誤解があることが分かったので、まさかと思いながら授業前にアンケートしてみた。するとびっくり!「電磁石は鉄心がないと磁石にならない」と思っている生徒が約30%、「コイルにしないと磁石にならない」と思っている生徒が約半数いることが分かった。初歩的なことを確認させることが、重要だと痛感した。
 驚いたのは、実験後に「なんで電流が磁場をつくるんですか?」と電流と磁場に因果関係を求めようとした生徒が各クラス少なくない人数いたことであった。この段階では、峯岸さんは「まさに、衝撃の実験事実だよね。不思議だよね。」と答えることしかできなかった。この質問の返し方が非常に悩ましい・・・ また、電流まわりに同心円状の磁場ができるのではなく、らせん状の磁場ができると実験結果に記入した班に対して、適切な声掛けができなかった。らせん状ではない、ということも調べさせるような実験をさせるべきであったと反省している。
 

 「磁場中の電流が力を受ける」現象に対しても、生徒は「なんで磁場中の電流がこの向きに力を受けるんですか?」と因果関係を求める質問が多数寄せられた。峯岸さんはまたも「衝撃の実験事実だよね。不思議だよね。」と答えることしかできなかった。しかし、生徒は構わず因果関係を求める(右下図、理由付け1,2)。どちらも、あまり好ましくない考え方だが、教師側が心の底から否定するほどのことでもない。理由付け1,2が不適切である、ということを生徒自身に気づかせるような題材を用意するべきであったと峯岸さんは振り返る。
 例会では時間の都合上、ここで授業研究発表は終わった。峯岸さんが授業のために自作した実験器具の紹介があとの一般発表で行われた。
 

超伝導の実験 市江さんの発表
 今回は会場が鎌倉学園だったので、ホスト校の市江さんは、2021年12月例会2022年3月例会で報告したYBCO超伝導体の浮遊実験をその場で実演してくれた。リアル例会ならではの醍醐味である。焼成の仕方等は前回、前々回と同様で再現性もほぼ100%でとても良い超伝導体(直径3㎝、浮遊時間30秒ほど)を作ることができ、例会参加者からも絶賛の声が上がっていた。
 

 前回からの進展としては、再現性が確保できたので、事前に科学部の生徒に手伝ってもらって仮焼成まで行い、一般希望生徒向けの課外授業として、直径1㎝程の超伝導体を一人一つずつ作ってもらった。試料を少量にすると浮きやすくなり、より浮遊時間を稼げると思ったが、薄くなる分室温にもどるのも早く、ほんの数秒しかもたなかった。試料をプレスするときに時計皿状に成型し、くぼみに少し液体窒素をのせておくと時間稼ぎになるとのアドバイスもあった。実験が終わった超伝導体はよく乾燥させ、ジャム瓶などの密閉容器に入れて保存しておくと10年以上変わらずに浮かすことができる。
 

岐阜の村田さんのジャイロ二輪車 鈴木さんの発表
 鈴木さんは専任退職にともなって、過去に科教協全国大会やYPCで入手した教材を整理しているが、これもその一つ。2004年8月のYPC例会で鈴木さん自身が紹介している。岐阜物理サークルの村田憲治さんの自作教材を2004年の科教協北海道大会のお楽しみ広場で入手したものだ。ジャイロ効果で、コマが回っていないときはすぐ倒れる二輪車が、コマを回すと見事に倒れずに進んでいく。例会当日は、このあとじゃんけん大会の勝者が持ち帰った。
 

体感するレンツの法則 峯岸さんの発表
 峯岸さんの授業研究発表は時間の関係で途中で終わってしまったが、「二度と持ってこれないからどうしても発表したい」と、峯岸さんがおもむろに出したのは、片道120回巻き、合計3360回巻きの自作の大型コイル、総重量12kgw!石崎喜治先生が著した『感じて理解する 視覚に障害のある生徒への教育実践 中学・高校物理の学びに役立つ実験集』を参考にした。直径1.0mmホルマル線(2UEW 1.0)は、ボビン巻きで信越電線株式会社から25kgを6万円で購入した。ネオジム磁石は、φ40mm×20mmのネオジム磁石(ND0186)2個をMAGFINE CORPORATIONから6,046円×2個で購入した。磁石を入れるための筒は、実験室に転がっていたアクリルパイプφ46mmを、外の木枠は技術室の端材を使った。
 

 大型コイルの端には端子を付けており、豆電球を接続しなかったらもちろん手ごたえはない。しかし、豆電球を接続すると、ネオジム磁石を入れたり、抜いたりしたときに、手ごたえを感じることができる!その手ごたえは、生徒曰く、はちみつに棒を入れる時と似ているらしい。これで、レンツの法則を身をもって体感できると、はしゃいでいた峯岸さん。しかし、例会参加者からは「もっと手ごたえの強いコイルを知っている。もう一回作るでしょ?」と辛らつなアドバイス・・・ どうすればもっと手ごたえの強いコイルを作れるのか、レシピを教えてほしい、と峯岸さんは嘆いている。トライ&エラーが許されないほど、制作に時間がかかる(実働一箇月)大型コイル。各校ひとつ、作ってみてはいかがだろうか。動画(movファイル:2.1MB)はここ
 

水素の爆発 海後さんの発表
 海後さんが紹介したのは、簡単な装置ながら手で持って豪快に爆発させることができる安全な水素爆発実験のアイデア。実験容器は10年前にコンビニで見つけた丈夫な缶ビールのアルミボトルを使用(ペットボトルでは危険!)。ボトルの最下部に5mmの穴をドリルで開け、ふたにしたコルク栓は、ボトルネックにしっかりした紐で繋いで飛ばないようにしてある。5mmの穴から、水素ボンベ(ナリカから購入)の水素を約0.5秒だけ注入して(写真左)、ボトルを手で持ったままライターで着火すると、予想以上の音量で爆発してコルクがはずれる。海後さんはこの装置で10回以上爆発させているが、このアルミボトルはとても丈夫で破裂する気配はないという。ボトルを持つ手で爆発の衝撃を感じると同時に、ボトルが発熱するのも感じられる。
 ただし、水素と酸素の割合が2:1の「爆鳴気」になるとこのサイズでは危険なので、純粋酸素は入れず、あくまで缶内の「空気」で燃焼させる。
 

万華鏡 海後さんの発表
 普通の万華鏡は、長方形の表面鏡を3枚三角形に組み合わせて平面的な像を見るが、細長い台形の鏡を3枚組み合わせた「テーパードミラー型万華鏡」では球形(多面体)の光り輝く天体のような美しい像を見ることができる。「まだ試作品なので、より奇麗な像を見ることが出来るように工夫したい」と海後さんは張り切っている。
 

巻玉火薬を爪で爆発させる 海後さんの発表
 海後さんは2010年2月例会でFUN SNAPSというイギリスの玩具を紹介した(写真)。火薬物質がコーティングされた石英の粒を薄くて丈夫な紙で包んであり、それを指でつまんで強くひねるとかんしゃく玉のような爆発が発生するけれども、指は何ともないというものだ。この玩具は今でも手に入る。
 

 海後さんは、同様のことが昔懐かしい巻玉鉄砲(ピストル)の巻玉でも出来るらしいことをネットで知り、面白いと思い試してみた。ネットで購入したもの(写真下)は最近になって海外で製作されたコピー品のようだったが1000円以上したという。ネット情報では火薬部分を、爪ではさんで素早くしごくと爆発するとのことだったが、ベースの紙のシートがちぎれてしまいうまくいかない。
 

 そこで、セロテープを巻玉のシートの両面に貼りちぎれないように保護して、爪で強くしごいたところうまく爆発した。意外なことに、セロテープで火薬部分を押さえたことで爆発力が大きくなった気がするとのこと。例会会場では金槌で叩いてならす方法で演示した。
 

UFO? 海後さんの発表
 海後さんは最近、オカルト好きな人たちとの付き合いが多くなったせいか、不思議な現象をいくつか体験しているという。例えばこの雲は、上空の強い気流の流れに逆らうように発生する、地形の影響を受けた雲(つるし雲・笠雲・レンズ雲)だと一般的には説明されるが、雲の下面がふわっとしていて、気流を受けているようには見えないと海後さんは言う。
 「雲の内部に空飛ぶ円盤のような物体が隠れているようにも見えますね。オカルト界では擬態するUFO=クラウドシップと呼んでいるそうです。昔からたくさんの雲を見上げてきましたが、初めて見る形状で不思議です。」海後さんはそう語るが、例会参加者からは当然懐疑的な意見が出る。
 「UFO」はあくまで「未確認飛行物体」なのだから合理的な説明がつくまでは「UFO」なのである。そんなものはあり得ないと頭ごなしにきめつけるのもまた科学的ではない。既存の科学で合理的に説明しようとする努力は必要だろう。
 「他の不思議現象体験についても、また機会があれば意見を聞かせてもらいたい。」と海後さんは語った。


高輝度光源 喜多さんの発表
 ナリカの高輝度型光源装置L-2(D20-1507)(左図)で副虹の光路を観察したという報告である。 光源装置のサイズは(110mm✕112mm✕52mm)、高輝度線形LEDを使用しており非常に明るい。喜多さんは、この装置でアクリル円柱(Φ50✕20mm)に一条の光を当てることで副虹の光路を観察した(右図)。写真右下に主虹が、左側に淡く副虹が現れている。アクリル円柱は、かなり前にハンズで購入したもので、光路がわかるように片面は800番のやすりで擦り傷をつけてある。ナリカからも円形レンズ(D20-1618)(アクリル製Φ50✕20mm 底面にホワイトシート付)という製品が販売されている。
 

 下左図で、手前から一条の光がアクリル円柱に入射し、屈折⇒反射⇒反射⇒屈折して図の左方向に進むのが副虹を作る光路である。白い紙をくさび型にしたものを光路上に置くと虹が観やすい。右図では赤の破線で光路を示した。なお、右下に伸びる光条が主虹を作る。
 

線香の灰 山本の発表
 山本の自宅の仏壇にある香炉は直径約9cm。一般的な長さ14cmの線香(写真は日本香堂の「特撰 淡墨の桜」)を立てて使っているが、時々燃え落ちる灰が香炉の縁から外にこぼれることがある。写真でも香炉中央に立てた線香の灰が縁に届いている(矢印)。風もない閉め切った部屋で静かに燻る線香の灰がどうしてこんなに遠くに届くのか不思議に思っていた。故田中角栄邸の火災の話もあったので、探究してみることにした。早送りの動画で観察すると、まっすぐに立てた線香の灰はなかなか折れずに比較的長持ちする。しかし45mmに達することはない。300倍速のタイムラプス動画(movファイル:163MB)はここ
 

 次に、中央に鉛直に立てた線香の灰が折れて落下する瞬間を毎秒240コマでハイスピード撮影して観察した。下の4コマの写真はその動画からキャプチャした。ハイスピードで観察すると、20mmぐらいになった灰が根元からポキリと折れて落下していく様子がよくわかる。そして、折れた瞬間に回転がついている。毎秒240コマのハイスピード映像(movファイル:17MB)はここ
 

 香炉の灰の上に先に着地するのは線香の先端だった部分だが、回転の勢いで、着地した先端を支点として他端が外側に倒れ込む。こうして灰の根元側が反転して香炉の縁に届いてしまうのである。場合によっては灰が折れずにもっと長くなり、香炉の外にこぼれ落ちることもあるわけだ。灰になっているとはいえ、高温側が外にこぼれるので危ないかもしれない。
 そんなわけで、山本宅では線香を立てるときは、香炉の中心ではなく縁に近い側に、中心に向かって傾けるように立てることにした。こうすると、灰が短いうちに折れて、しかも香炉の中心部に落下するので外にこぼれることはなくなる。(はじめのタイムラプス動画を参照されたい。)
 

食塩の結晶 山本の発表
 寿司折りについてきた醤油パックの余りを職場の冷蔵庫に入れたまま10年近く忘れて放置していた。袋の外から触ると、未開封にもかかわらず内容量が少なくなり、硬い手触りのある固体がある。水分がゆっくりと蒸発したらしく、食塩の結晶が育ったのである。とりだしてみると醤油のおりを含んで琥珀色になっているがまさに90度の面角をもつ食塩の立方晶で、劈開も確認できた。
 同様の経験を以前の職場でもしたことがあって、2001年5月の例会で報告している。このときは六角形の結晶が得られたが、立方体の体心を通る対角軸にそって結晶を見ていたのだろう。さらにこの時は冷凍庫での結晶育成も行って、塩化ナトリウム・二水塩の結晶(単斜晶系)を得ている。身近な材料で手軽に行える実験で、食塩のいろいろな姿に触れることができる。
 会場では参考資料として、村上正祥「食塩の結晶形態について」日本海水学会誌第40巻第1号(1986)の抜粋を配布した。
 

地球の水 天野さんの発表
 地球の水は海水も含めて14億km^3で、淡水はそのうちわずか3.5%にすぎない。天野さんは、それらのの体積は球にたとえると半径がどのぐらいになるのか計算してみた。結果は海水を含めても700km弱と出た。本州がちょっとはみ出すぐらいの大きさにしかならないことがわかった。
 

 折も折、日曜劇場「さよならマエストロ」を見ていた天野さんは、「サントリー天然水」のCMにこの話題が取り上げられているのに気がついた。だいたいオーダーは合っているようだ。芦田愛菜出演・サントリー天然水CM「地球との会話」篇(60秒)はここ
 

波の反射のパワポ 水上さんの発表
 教科書の『自由端における反射では反射波の変位の向きは入射波と変わらない。固定端における反射では反射波は入射波と変位の向きが反転している。』ことはウェーブマシンで確認できるし、生徒も納得しやすい。しかしこれに続いて、何の説明もなしに『(反射波の作図方法として)自由端の場合には入射波を延長し、自由端を軸にして折り返す。固定端の場合には入射波を延長し、上下反転させたのち、固定端を軸にして折り返す。』と書かれている。
 水上さんはこの部分の橋渡しをするためにこのパワポを作った。

 展開は次の通り。
(1)上の映像を観察してルール(自由端反射では変位が変わらず、固定端反射では変位の正負が逆転)を探る。
(2)探ったルール通りに作図を行う→しかしこれでは作図が煩雑すぎる。
(3)『教科書のルール(入射波を延長して・・・)を用いて描くのが一般的』を伝える。
 

弾性力の導入時に 水上さんの発表
 左図は水上さんのフックの法則のばねの弾性力に関する授業プリントである。
 水上さんは、図Bおよび図Cで、ばねの弾性力は必ずばねの両端に現れることを実感させるために下の2つの映像を収録して説明に使用している。

 『ばねの両端に台車を取り付け、ばねを伸ばしてから手をはなす』
 台車はどちらもばねに引かれて動く。

 太いばねを2台の台車で押して縮めてから手をはなす』
 台車はどちらもばねに押されて動く。

二次会 鎌倉駅前「養老乃瀧」にて 
 12名が参加してカンパーイ!例会本体には対面で26名、オンラインで9名の参加があった。今回は学校会場だったので液体窒素の実験など、実験室ならではの実験ができて盛り上がった。やはり学校会場はうれしい。次回も筑波大附属が立候補してくれているが、5月以降の会場は決まっていない。ぜひ学校会場の提供をお願いしたい。


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