例会速報 2024/09/23 鎌倉学園中・高等学校・Zoomハイブリッド


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授業研究:3Dプリンター製力学台車を使って 櫻井さんの発表 
 櫻井さんは、現在の力学台車の代替として使える、3Dプリンターを使って製作する台車を開発中である。かつて民生用の3Dプリンターが初めて登場した頃は、出力に極めて長い時間がかかり、メンテナンスも頻繁に必要であったことから、あまり実用的ではないと判断されて流行らなかった。
 

 一方、ここ数年で3Dプリンターにおける「よくある問題点」をできるだけ解消したような製品が中国や米国から安価に販売されるようになってきて、ようやく実用的になってきた。3Dプリンターを使えば、探しても見つからなかった樹脂パーツを出力したり、誰かが設計した教材を自分のプリンタで出力して利用したりできる。特に後者については、多くの人が利用していることで生まれるメリットなので、ぜひ多くの物理の先生に3Dプリンターを使ってほしいと櫻井さんは考えている。
 

 今までは、実験で必要な部品などを作ることが多かったが、今回櫻井さんは力学台車の代替となる「3Dプリンター製力学台車(開発中)」を製作して持参した(左図)。ボディを3Dプリンターで作り、ベアリングは市販の安価な品をamazonで購入、シャフトとタイヤはミニ四駆のものを流用している。1台の製作費用は1000円〜1500円程度。力学台車の上と下を分離できるようなつくりになっており、上の部分を差し替えることでさまざまな実験に対応できるつくりになっている(右図)。
 

 櫻井さんは今後、①市販の力学台車で行う実験を、製作した安価な力学台車で行えるようにしたい、②様々な実験に対応できるように多彩な上部アタッチメントの製作を行いたい、③各種マイコンやセンサを搭載し、5000円前後でスマートカートを製作できるようにしたい……と考えている。
 授業研究の会場では「三輪にしないと直進せず、曲がってしまう」「重いものを載せるとタイヤの変形によるロスが発生する」等の、力学台車として機能させるために改善を要する点に関しての指摘があった。櫻井さんはこの点も改善し、より精度のよい実験ができるように開発を進めていくつもりだと張り切っている。期待したい。
 

micro:bitの紹介 天野さんの発表
 micro:bitは2015年に英国放送協会BBCが開発し、英国の11歳と12歳の小学生に無料配布した情報教育用シングルボードコンピュータである。技術的仕様が公開されており、教育用として推奨され、わが国の文科省のサイトでも紹介されている。表示器として25個の赤色LED、制御用の2個のボタンのほか、マイク、光センサー、加速度センサー、磁気センサーを搭載している。入出力用には、+3V電源、GNDポートのほかに、3つののI/Oリング、20ピンのエッジコネクターが装備されている。プログラミングはBluetoothやUSBで結んだPC上で、MS-MakeCode for micro:bit(スクラッチ風の子供向け開発環境)などで行う。お値段は日本円で2860円ぐらい
 

 まだ購入して5日ほどしか経っていないという天野さんは、試しに自由落下時間を測定する実験器具(左図)をつくってみた。シャフトと銅線を触れあわせて指でつまんでぶら下げる。指をはなすと時間計測が始まり、床に落ちたショックで止まるようにプログラムした。測定結果は電光掲示板風に流れる数字で表示される。ミリ秒オーダーまで表示されると言うが、精度は不明。とにかく簡単だという。
 

WiFi顕微鏡を使って観察の効果を 古谷さんの発表
 古谷さんが先頃購入した「Wi-Fi Digital Microscope」。購入の動機は最近気になっている頭皮の状態を拡大して見たいということだったそうだ。それなりの機能が有りそうで価格が4000円強と手頃なことで購入に踏み切ったという。古谷さんが特に気に入った点はケーブルレスで扱えることだったが、実際にマニュアルにそってWi-Fi設定を試みたもののアプリとのマッチングが不成立だった。しかし、有線(USBのC端子)でPCと繋いで使用したところ、驚くほど微細なものが明るく(LED内蔵)鮮明に見えることが分かった。
 

 他のサークルの例会でも本機を紹介し、1mm未満のサハラ砂漠の砂の観察を行った。結果、石英の粒が丸みを帯びていることもモニター(40インチ程度)上で明瞭に観察できた(左図)。右図は10円玉に刻印されている平等院鳳凰堂の屋根部分。本機は例えばグループ又は個人で微細なものを観察するなど、教育的なアイテムとしての利用価値も高そうだ。
 

電磁誘導は実験から 市江さんの発表
 中高一貫校で教えている市江さんは、中高の物理分野で難易度MAXの電磁誘導をどうやって伝えればよいか日々悩んでいる。説明や問題演習から入るより、実験から何がわかるかを手掛かりに授業を組み立てた方が生徒の食いつきがよい。まず、説明は一切せずにデモ用の大きな検流計にコイルをつなぎ、強めの棒磁石をコイルに抜き差しして、検流計の針の振れのタイミングと向きを観察する(左図)。
 N極、S極の抜き差し4パターンについて結果を丁寧に板書し(右図はそのうちの2パターン)、磁石のN、Sから磁界の向きを、磁石の動く向きから磁界の変化を、針の振れの向きから電流の向きを解析する。それらの結果からレンツの法則の規則性に気づかせるようにしている。その際、「磁界の変化」を明示的に点線矢印で表すと、この向きがコイルに流れる誘導電流がつくる磁界の向きと常に逆になっていることがわかる(右図の右側の板書)。例会では、磁界の変化の図示の方法として、短い矢印を磁界の矢印に付け加えた方が適切であるという指摘があった。
 

 レンツの法則の規則性を確認したあとに、ブンブンゴマを用いた発電(2018年1月例会)を生徒実験で行う。「ダイソー」の「アルミ自在ワイヤー」で作ったコイルに赤と緑のLEDを極性を逆に並列につなぎ(左図)、その上で磁石のブンブンゴマを回す(右図)。万一に備えて保護めがねを着用させている。このときLEDが最も明るくなるときの磁石の向きについて生徒に予想させると、残念ながらコイルを貫く磁界が最も強くなる瞬間と答える生徒がかなりいる。電磁誘導の学習では、磁界そのものの向き・値と磁界の変化の向き・値とを明確に区別することが理解の要になる。
 

 非常に素早いLEDの点滅のようすをハイスピードカメラで撮影した映像(左図)をもとに、LEDが最も明るいのは、コイルを貫く磁界が最も弱い瞬間であることを実験事実として確認できる。意識的に磁界の変化に注目させることがとても大切である。詳しくは2018年1月例会「誘導電流と磁石の向き」を参照のこと。
 動画(movファイル2.5MB)はここ


 手回し発電機でコンデンサーを充電すると、充電時と放電時で電流の向きは逆になるのに、ハンドルの回転方向が変わらない結果が得られる。一見奇妙に思える現象だが、電磁誘導、フレミングの左手の法則、右ねじの法則を駆使すれば、矛盾なく説明することができる。高校の授業では、3つの法則の締めくくりとして、この現象を扱う。ハンドルで動くモーター(発電機)の中のコイルの回転運動を頻出問題であるレール上を並進する導体棒の運動に置き換えて考えるとわかりやすい。右図の右側の板書の抵抗RをコンデンサーCに置き換えて外力で導体棒を右に動かすとき(充電時)の誘導電流の向きと、手をはなしたあとの放電時の電流の向きは逆向きになっても、導体棒の運動の向きに変わりがないことが確かめられる。単なる問題演習より、実験で確認できる興味深い現象を学んだことを使って考察することで、生徒のより深い学びにつながる。動画(movファイル11MB)はここ
 

共鳴箱の消音 喜多さんの発表
 喜多さんはいろいろ資料を整理している中で、岐阜物理サークルから送られてきた「のらねこ学会」の Pin Point物理シリーズ4『気柱共鳴・・強制振動の視点から見た共鳴と消音・・』が7冊手元にあることに気づいた。この冊子は、サークルニュースの中から、共鳴に関する記事をまとめたものである。本来は2005年頃の例会で配布すべきものだった。20年弱過ぎているが、まだ知らない会員もいると思い、今回再び紹介することにした。
 現象は共鳴音さをたたき、開口端に長さ20cmの試験管を入れるだけで、共鳴音がほぼ消えることである。初めて体験すると思わず「???」である。左の写真の一番手前は長さ42cmの紙筒で、これも入れることによって消音する。石川幸一さんの詳細な解説・分析は時間をかけて読みたいと考えている。この本全体の中で特に気になっている記述は『「定常波 = 共鳴 = 大きな音」という理解はいったん白紙にもどすべきだと思います。』という一文だ。
 動画(movファイル4.0MB)はここ
 

きまぐれモーター 曽谷さんの発表
 自然科学に親しむ会の曽谷さんは「青少年のための科学の祭典・2019全国大会」に出品した「きまぐれモーター」を披露した。これは霜田光一先生が 2017年頃に色々な (主に三極) 直流モーターを工作された過程で「整流子が無くても回る直流モーターができた」として教えてもらったものだという。霜田先生が試作されたものは左の写真、これをもとに曽谷さんが科学の祭典に出展したものが右の写真である。これを来場者に工作させた。
 

 回転子はネオジム磁石2個でピアノ線の軸をはさんでいて、軸受けの磁石に吊られている。ちょっと傾けて、コイルを通る導線の輪に軸が触れるとコイルの磁場に反応して磁石が回転する。整流子がなく、どの位置で導線に触れるかで気まぐれに回転方向が決まるので「きまぐれモーター」というわけだ。右のグラフは動作時の回転子の向きをホール素子で検出し(赤い線)、電池の両端の電圧(青い線)と共に示したもの。電圧がスパイク状に立ち上がっているのは自己誘導によるサージ電圧、それぞれの左側のやや右下がりになっている部分が、コイルに電流が流れている部分だと解釈できる。動画(movファイル1.9MB)はここ
 

藤沢市科学少年団の富士山立体模型 山本の紹介
 藤沢市科学少年団は小4~中3の約80名で構成され、月1回科学教育活動を行っている。毎年8月には2泊3日で夏季活動に出かける。今年は富士五湖方面だった。それに先立つ7月活動では、毎年夏季活動訪問先の立体地形模型を製作するのが恒例となっている。型紙は団長の石井幹夫さんが毎年「地理院地図」をもとに自作している。今年は副団長の鹿児嶋英克さんの発案で、「富士火山地質図(第2版)」をかぶせた。型紙を印刷した粘着シートを、厚さ1mmのスチレンペーパーに貼り付け、デザインカッターで切り抜いて順に接着していく。30層あまりを積み上げる根気のいる作業だ。
 立体模型にすると、時代ごとの溶岩流の流路がよく分かる。北西部には千年あまり昔の貞観大噴火で剗の海(せのうみ)を埋め、精進湖と西湖に分けた青木ヶ原溶岩流が広がっている。溶岩は水のように低いところをたどって流れること、北西~南東の割れ目に沿って噴火口が並んでいること、富士山自体も北西~南東方向に長いことなどが一目でわかる。
 地図上には夏季活動の宿舎や見学ポイントが青丸で描いてあり、団員は各自が製作した立体地形模型を現地に持参して実際の地形と見比べる。
 

ガーナのこと 伊藤さんの発表
 伊藤さんは2年間JICA海外協力隊としてガーナに派遣されていて、この夏帰国した。現地で理科教育の支援をしていた時の様子を報告した。
 伊藤さんはケープコーストサイエンスリソースセンターに配属された。そこは中学校とは独立した施設で、中学生に対して理科の実験・観察授業をすることに特化している。週に20コマの理科の授業が行われ、約11校から参加がある。生徒は学校からそのリソースセンターまで徒歩で通ってくる。
 伊藤さんは着任するとすぐ、まず理科室の整備を行った。薬品や器具が散乱していたので実験準備室に道具を戻し片付けた。そして最低限黒板前の机に物を置かないようにした。これは最近ではフロントゼロとも言われている。実験道具や薬品を片付けることによって危険を減らすことの大切さは伝えることができた。
 センターではさまざまな取り組みを行った。中学生対象の理科実験の授業のほか、同僚との教材研究も行っていた。例えば通電チェッカー、YPC簡易真空実験器太陽系の惑星モデルを作ったこともあった。これらの道具は教員の研修会や授業の中で活用された。ガーナの生徒や教員は真空実験はこれまで体験したことがなかったそうで、興味津々で実験器を操作していた。
 

 さらに日本とのオンライン交流会を実施した。日本の高校生とガーナの中学生がリアルタイムで英語で会話した。ガーナと日本の文化をそれぞれ紹介しあった。また、所属先でプロジェクターが欲しいという意見があったが、プロジェクターよりも安価に手に入るテレビで代用が効くことがこのオンライン交流会でわかった。テレビはオンライン交流会のみならず、通常の授業の中でも、蚊のライフサイクルを見せる場面などで活用された。
 

本の紹介 宮﨑さんの書籍紹介
 久しぶりに神保町の書店街を歩いた宮﨑さん。すずらん通りの角の三省堂本店はまだまだ建て替え工事中、Uターンして書泉グランデへ。物理関連のコーナーがだいぶ小さくなったような気がする。宮﨑さんはここで何点か購入したが、そのうちの一点が例会で紹介された。
 山本海行著「霧箱で見える放射線と原子より小さい世界」仮説社 2023年3月27日初版発行 2800円(税別)。筆者は静岡の高校の教員で東日本大震災をきっかけとして、この本を執筆したとのこと。開いてすぐに気がつくのが、写真が鮮明で豊富、かつわかりやすい解説、付録の文献一覧も読んでためになる解説文つき。霧箱の作り方も詳しく載っている(名古屋の林さんの方式だと思う)。宮﨑さんおすすめの一冊である。
 

モンゴル支援のご相談 宮﨑さんの情報提供
 宮﨑さんの教員時代の同僚が退職後、海外協力隊員としてモンゴルのウランバートルで活動している。モンゴルの座学中心の理科教育をなんとかしたいという友人がいるそうで、何か支援してもらえないかという依頼が宮﨑さんの所に来た。彼の友人マギーさんは日本の名古屋の大学を出て、モンゴルの日本企業の現地法人に勤務しているとのこと。すでに、YPCの「例会速報ページ」や「YPC別館・天神のページ」は教えたそうだが、何か協力できる方は宮﨑さんまでまで連絡をいただきたい。
 なお、マギーさんはたまたま日本に来る機会があり、9月21日(土)に愛知物理サークルの人たちと交流会を持った。以下でその様子を知ることができる。
・愛知の奥村さんがアップしている動画 https://www.youtube.com/watch?v=zC4dJgvq5Ig
・マギーさんがアップしている動画 https://www.facebook.com/share/p/r2pmiXbKjsK3G8L3/

二次会 鎌倉駅前「養老乃瀧」にて 
 9名が参加してカンパーイ!例会本体には対面で18名、遠隔で6名の参加があった。 本日も充実した内容の例会だった。本日は鎌倉学園に会場を提供していただいた。学校が会場だと道具がそろっていて、実験などもやりやすい。時間的な制約もゆるいので発表に集中できる。YPCはコロナ以降、例会会場の確保に苦労しているので、学校にお勤めの方は、会場提供にぜひご協力を!


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