例会速報 2011/01/16 三浦学苑高校
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授業研究:「剛体の重心」の研究授業から 平野さんの発表
平野さんは相模大野高校の「研究発表会」での物理Ⅰの授業を、当日撮影してもらったDVDを上映しながら発表した。
「剛体にはたらく力のつりあい」の分野では、計算で「剛体の重心」の座標を求めることができるようになっても、その点がどのような性質をもつ点なのかをイメージできる生徒は少ない。特に、重心が剛体の内部に存在しない場合はなおさらである。そこで本時の授業の展開方法は、「重心」とはどのような点なのかを理解し,重心について説明することができるようになることを目標として考えられた。加えて、生徒が自ら考え、その内容を自ら積極的に発信できるようになるための、新しい形のティームティーチング形態を提案した実践となっている。詳しくは、YPCニュースに掲載した資料(「バトル演習(剛体の重心)」など)を参照していただきたい。当日は、2クラス分の生徒を6人1班に編成し、発表・板書・記録などの班内の役割分担を、プレゼンテーションの直前に抽選で決めるという、生徒も教員もつねに緊張感が途絶えることのない45分となった。
課題は60°に折れ曲がった針金の重心を求めることだ(写真上右)。計算結果を検証する実験を各班が工夫して発表する。写真下左は発表時の記録映像から。写真下右は平野さんのお手本?。
ふわふわグライダー 海後さんの発表
工作教室用に考えたアルソミトラ型シードグライダーの紹介。グライダーの試作中にたまたまテレビで見た、トンボの羽の波型形状を模した微風でも回る風力発電の研究をヒントにした。ホームセンターで購入したロールに巻いてある業務用の波型発泡ポリエチレンシートを使用するのがポイントだ。はっきりとした波型とゆるやかなアール形状が強度を生み、安定してゆっくりと滑空する。
可変ピッチプロペラ模型 海後さんの発表
海後さんはさらに、この波型形状の羽の揚力を検証するために、同じ素材でプロペラを試作してみた。ほんのわずかな風でもよく回転する。面白いのは、全く同じ形状のプロペラを棒の両端に対向して回転自在に取りつけて、風を受けるように動かすと、プロペラが風圧で波型に沿ってねじれるため棒軸に対して往復とも同じ方向に回転することだ。動画(4.8MB)はここ。波型の浅い同型のプロペラではほとんど回転しなかった。
朝日3Dメガネ 海後さんの発表
昨年末、朝日新聞が3D特集記事用のクロマデプス3Dメガネを購読者に配付した。YPCでも話題になり、海後さんは販売店から残部を入手して研究した。フレネル型のマイクロプリズムの分散の方向が右目と左目とで逆になっている。これによる両眼の色のずれを脳が視差として認識し立体視できる。これを「分光視差」というそうだ。この3Dメガネの場合は暗い色をバックにした場合赤色系が前面に、青色系が奥に凹んでみえる。左右のフィルムを逆にすると凹凸感が逆になる。立体視のしやすさには個人差があるようだ。分光視差については中原機械設計事務所のサイトにわかりやすい解説がある。
例会では3Dに見えるものをいろいろと探してきて、参加者の皆で観察しその原理の解明に取り組んだ。すぐにレーザーポインタを持ち出して屈折角や分散をチェックするところがYPC魂だ。ちなみに、ChromaDepth-3Dに関してはYPCでは1997年に話題になっており、ニュース集Vol.9のp.203に4月例会での平野さんの解説記事がある。Webの速報では1997年11月例会と1998年1月例会で喜多さんが報告している。
なお、海後さんは、この3Dメガネのフィルムを百均メガネのフレームに貼り直して、他人に怪しまれないように配慮しながら街中を歩いて3D素材探しをしている。お勧めは、コンビニ、おもちゃ屋、街の夜景などだそうだ。赤やピンクの立体物がさらに飛び出して見えるのは見ものだとのこと。ぜひお試しあれ。
テレビ石の顕微鏡観察 海後さんの発表
海後さんは1月例会で発表した人工猫目石を利用して、テレビ石の繊維構造の観察方法を見つけた。繊維結晶の側面に強い光を当てて正面から顕微鏡で観察すると、線維構造がシルエットになってはっきりと観察できる。透明度が高い部分は暗く、不純物が入っている線維は側面からの光を乱反射して、白く光って見える。例会ではこの人工猫目石が原価の600円(ポーチ付きは1,000円)で希望者に販売された。
DSO Nano V2 山本の発表
中国のSEEED STUDIO社が開発したiPhoneサイズのポケッタブル・デジタルストレージオシロスコープ、DSO Nano V2が注目を集めている。入力信号は1現象のみ、サンプリング周波数は1MHz、水平感度は1μs~10s/div、垂直感度は10mV~10V/div。その名のとおり波形をmicroSDカードに保存でき、USBケーブルを介してPCに接続もできる。右は入力端子に小型スピーカーをつなぎ、「あー」という声の波形を記録してPCに取り込んだもの。時間差(周期)ΔTや電位差V1-V2なども画面上で容易に測定できる。国内販売価格は通販などで9千円~1万円程度。生徒実験用としてぜひそろえたいアイテムだ。残念ながら日本語の情報はまだ乏しい。YPCニュースNo.274に掲載の記事はここ。
音波の導入 水上さんの発表
水上さんは以下のことを通して「物体の振動が媒質に伝わり疎密波となって伝わっていくのが音波である」ことを実感させている。
(1)何でもスピーカー
0.5㎜φのエナメル線を30回巻いたコイルにオーディオアンプからの音声電流を流す。コイルを磁石とともに何かに押しつけるとローレンツ力によるコイルの振動が伝わってスピーカーになる。授業では「つかみ」に使っている。(金属ゴミ箱を鳴らして「音はどこから出ているのだろう?」と問いかけ,種明かし(原理の説明)をする)写真ではホワイトボードを鳴らしている。
(2)スピーカーの振動(高速映像)
60Hzの純音を出しているスピーカーを毎秒600コマで高速度撮影した。コーン紙がボコボコ振動するのが良く分かる。「この振動が空気中を伝わって耳に届く」と説明する。
(3)スピーカーの原理を説明した映像を見せる。(「理科ねっとわーく」→「素材検索」コーナー→「スピーカーの原理」で検索してダウンロード)
(4)(写真にはないが)発声中の喉に指を当てさせ,振動していることを確認させる。
ドップラー効果の導入 水上さんの発表
同じく水上さんの授業から。ドップラー効果の単元では以下の手順で解説を進める。
(1)救急車のドップラー効果の映像を見せる。(「理科ねっとわーく」→キーワード「ドップラー効果 救急車」で検索)
(2) タコ糸に付けたブザーを生徒の頭上で振りまわし,ドップラー効果を体験させる。
(3)水波の波源を動かし,毎秒300コマで高速度撮影した動画を、書き込み式スクリーン(例会ではホワイトボード)に投影して公式を導く。
①(写真左)コマ送りで波源の周期(15/300秒)を測定し,振動数20Hzを確認する。(写真右)書き込み式スクリーンに運動中の波源が作る波面を解析する。
②進行方向の1点に注目し,波面が通過する周期(13/300秒)を測定し,観測振動数が300/13≒23Hzになることを確認する。
③一つの波面に注目し,「波源が動いても波の速さVは変わらない」(写真中の書き込みに注目)ことを示してから,これを前提に公式を導く。
5MHz超音波発振器 水野さんの発表
水野さんはナリカ例会で40kHz超音波発信器と受信器(科教協兵庫大会で名古屋EHCの船橋さんから購入したもの)を紹介したが、その日、秋葉原の千石電商で購入したものは5MHz超音波発信機。振動板の上にある樹脂の上に水滴を垂らすと、水滴は跳ね上がり蒸発していく。動画(10MB)はここ。販売元は(株)シロイアソシエイツ(TEL0422-45-1642)で2,800円
超音波リニアモーター 水野さんの発表
超音波リニアモーターは弾性体の駆動子に圧電セラミックを接合して超音波振動(26kHz)による固有振動を共振させ、その振動による変位を直接推力に変換し前進するものだ。販売元は上記と同じ(株)シロイアソシエイツで2,300円。なお、千石ではHEX BUG nanoも780円で売っていた。高島屋などのデパートでは900円以上する。
光センサーロボット 水野さんの発表
「光センサー落ちないロボ」は光センサーを利用して、机などの端まで来ると方向転換して決して机から落ちない。しかし、発表当日の机が黒色だったので、光の反射が弱く、光センサーがそこに物体がないと判断し、バックし続けてしまった。したがってこのロボを走らせるときは、机は白色など反射率がいい机にするとよいようだ。今の時期、受験生には縁起がよいロボでもある。
「光センサーよけロボ」は前方に障害物があると光センサーが反応してバックし方向転換するロボ。どちらも(株)イーケイジャパンが販売元で2,000円。
宇宙ネタのDECOチョコ 車田さんの発表
車田さんが科学イベント等で入手したDECOチョコ。一番右側は、国立天文台でいただいた国際天文年のDECOチョコだそうだ。DECOチョコについての詳細はチロルチョコレート株式会社のDECOチョコHPを参照されたい。ただし、バレンタインシーズンは非常に混み合う。
Ustreamの活用 佐々木さんの発表
佐々木さんが勤務するアルファ企画は2011年1月9日(日)~10日(月)理科カリキュラムを考える会 第12回全国大会で、2日間にわたるプログラムのUstreamでのライブ配信を担当した。業務用カメラ3台の映像を2画面表示したり、切り替えたりしながら、TV中継さながらの態勢で臨んだ。また、Twitterによる意見・質問も受け付け、ライブ映像とともに投影した。
理科カリキュラムを考える会にとっても初の試みで、事務局も当初は「視聴者数は10名にもならないのでは?」と考えていたが、常時30名~40名、ピークでは130名、延べ3000名以上と、予想をはるかに上回る視聴者数だった。当日会場へ来られなかった兵庫県や新潟県の先生方からは、「非常にありがたい試み」とのお声もいただいた。
配信は講演や討論がメインだが、休憩時間中にはポスターセッションや企業ブースも紹介。メイン会場内で昼食をとりながら視聴でき、出展企業にとっては視聴者へのPRの場ともなった。
当日のUstreamでは、「坂本龍一の韓国コンサート」や「任天堂のDSイベント」などが配信がされていたが、「理科カリキュラムを考える会」の配信は、それらに次いでトップページに紹介されていた。手軽さが注目され、個人利用が多いUstreamだが、営業的に本格的に取り組んでいる業者は数社しかなく、分野も音楽や企業イベントが中心だ。教育系イベントでも有効活用していきたい仕組みである。なおアルファ企画では、3月に2件の教育イベントに対応予定。
モバイルSEM 佐々木さんの紹介
新日本電工株式会社が今年発売予定の製品。JSTによる先端計測分析技術・機器開発事業として開発。子供たちに、自然の神秘とそれを探るための科学技術の面白さを同時に体感してもらうために開発された、教育用走査電子顕微鏡である。
・小学生でも簡単に操作できる
・小学生でも持ち運びできる
・野外に持ち出してその場で観察できる
・教室で実験しながらディスプレイやプロジェクタに投影できる
という手軽さをコンセプトとし倍率1000倍に対応している。
小さいことと、試料の絶縁処理はイオン液の塗布でOKということが野外での使用を可能にしている。開発は最終段階にきているようで、価格は2百万円を切るべくがんばっているとのこと。 佐々木さんはいずれデモ機を借りて、例会に持ち込みたいと考えているとのこと。期待しよう。
一升ビンの浮沈子 越さんの発表
越さんは、千葉の大村さんに教えてもらった「一升瓶の浮沈子」を紹介した。タレビンなどで作った浮沈子の浮力を中の水の量で調節し、ぎりぎり水面に浮かぶようにしておく。水をいっぱい入れた一升瓶にこの浮沈子を入れ、掌の親指近くの母指球筋のあたりで口を強く押すと、水圧が高まり浮沈子が沈んでいく。ある程度沈むと手を離してもそのままスーッと沈んでいく事がある。
これは、フリーダイビングで40m程度まで潜ると、じっとしていてもそのまま沈んでいくのと同じで、深く沈むにつれて中の空気が圧縮され浮力が小さくなるからである。この状態をフリーダイビングでは「フリーフォール」という。
一旦 瓶の底まで沈むと、浮沈子は上下の圧力差で底に沈んだままになる。さて、この状態から浮かせるにはどうしたらいいか?種明かしはしないが動画(31MB)をよく観察してほしい。
蛇足ながら実験に使用した一升瓶は2010年8月例会で紹介された「はやぶさ帰還祝い酒」の空き瓶だ。
本の紹介 山本の紹介
(左)川口淳一郎著「はやぶさ、そうまでして君は」宝島社¥1200。小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトマネージャーを務めた宇宙研の川口教授が自ら綴ったはやぶさ計画の秘話。はやぶさファン必読!
(右)神沼克伊著「みんなが知りたい南極・北極の疑問50」ソフトバンククリエイティブ¥952。2度の越冬を含め15回南極観測隊に加わった南極観測の第一人者である著者の最新刊。オールカラーで簡潔な説明がうれしい。
藤原忠雄著「自伝風・びじゅある物理」海鳴社¥2000。物理教具・実験器具の発明で数々の賞を受賞し、製品として世に送り出してきた岩手県の熱血教師藤原さんの爆笑・激痛の体験的実践物理授業論・教育論。子供時代からの原体験を鮮明に記憶していて、自伝風に綴っているのが極めてユニークで藤原さんらしい。
二次会 衣笠駅前「お太幸 衣笠店」にて
10人が参加してカンパーイ!初参加の人でも気楽に参加できる恒例の二次会。これを楽しみに例会に来る人も少なくない。越さんや、車田さんの演技指導も交えながら酒が進む。隣の席のお客が興味深そうにに横目で見ていた。
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