例会速報 2015/04/19 多摩大学附属聖ヶ丘中学・高等学校


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授業研究:授業開き みんなの発表
 4月の例会は例年、みんなの授業開きのネタを紹介し合う。
 成見さんの年度最初の物理基礎の授業は、物理とはどのようなことを学習するのかなど話をした後、物理は日常の中の多くの場面に活かされていて面白いものだよ、と自作おもちゃをいくつか紹介した。
 
 

 その中の一つ「すっとびボール」が飛ぶ秘密を紹介するにあたり、大きなバランスボール、中くらいのボール、小さなボールの3段でダイナミックに演示した。生徒達の間で流行っているアニメ「暗殺教室」のキャラクターのボールを用いたこともあり、非常にもりあがった。その後は、宮崎さん提供の動画や資料を用いて速度の授業に入った。
 

 宮崎さんは、今年の物理基礎の授業開きを実験付きでたっぷり紹介してくれた。島津理化のモーションセンサーを使って、生徒の歩行のxーtグラフを予想させ、周りの人と比較して違っていたら何故かを話し合う。そののち、実際に実験して確認する。実験の結果のxーtグラフを予想を描いたグラフに赤で記入させる。次に、この歩行実験のvーtグラフを予想させる。ここは時間をかけて、『分からなければ周りの人と相談して予想して』と促す。生徒は4パターンほどのグラフのどれかを描く。時間をとったのちにvーtグラフを表示して、確認する。このグラフも予想したグラフに赤で記入させる。
 

 どちらも予想と結果との違いがあるか、あるなら何がどう違うか、違いは何故あったかなどを書かせる。『何故ギザギザになるのか』、『グラフがマイナスになる部分があるのは何故か』など、生徒から疑問が出る。ここで、2009年のベルリン世界陸上でボルトが走った100m決勝の映像を見せ、ボルトの走りのvーxグラフを見せる。vーxグラフは見事にギザギザになっており、何故なのか生徒に問いかける。今年は一クラスで『歩幅だ』と呟いた生徒がいた。『これから君たちの疑問を授業で一緒に勉強していこう』と宣言して授業を終える。
 

 水野さんは、高1「物理基礎」の授業開き報告。物理学とは何を研究対象にしているか、ということから話を始め、自然界の極大(宇宙)から極小(素粒子)まで扱っていることを話した。そして極小の世界である素粒子の研究の成果が、極大の世界である宇宙開闢の研究を発展させ、逆に宇宙研究の成果が素粒子論に生かされる、「極小は極大に通じる」ことを強調し、最後にビデオ「Powers of Ten」をみせた。ビデオ後半で、ヒトの細胞の中へ入っていくあたりで、生徒の中には「きもい」と言う生徒もいたが、目は画面に釘付け状態。やはり、このビデオは授業開きには有効な教材の一つだ。
 

 市江さんの授業開きは盛りだくさんだ。以下の3つの生徒実験をまとめて高3の授業で行った。どれも電気の学習で、認知の拠り所となる大切な実験である。予備知識は一切必要なく、全員が同じ土俵で考えられるため、どの生徒も非常に熱心に取り組んでくれる。これらの実験を生徒自身にやらせることで、その後の生徒の興味や理解が一段と深まる。
〔実験1〕ストローを用いた電気の種類を確認する実験
 ストローを紙袋から取り出すと、ストローと紙袋はそれぞれ正と負に帯電するが、そのことを伝えずに、それらの間にはたらく引力と斥力のようすから、電気は最低2種類あることを生徒自身に発見させる。
 

〔実験2〕田中さんの静電気メーター(YPC2013年08月例会)を用いた電荷保存の実験
 実験1では、2種類の電気の正負の区別はできない。それを一目で確認ができるのが、田中氏の静電気メーターの強みである。これを2つ用意し、片方に紙袋つきストローを固定し引き抜くと、それぞれの正負が一目で確認できる。再度、ストローを元の紙袋にもどすと、電気的に中性になることから、電荷保存を容易に確認することができる。
〔実験3〕アルミ缶と塩化ビニルパイプ、アクリルパイプを用いた静電誘導の導入実験(例会では口頭説明のみ)
 横たえたアルミ缶に、負に帯電した塩化ビニルパイプと正に帯電したアクリルパイプをそれぞれ近づけると、どちらの場合も引力が生じる。この意外な現象をきっかけにすると、生徒は静電誘導についてよく考えてくれる。
 

等電位線の実験 山本の発表
 導体紙を用いた「等電位線の実験」は高校の物理では教科書にも載っている定番実験だ。電圧計としてデジタルテスターを用いれば、「普通の黒い紙」でもOK。これなら家庭でも実験できる。
 使える紙の見分け方はその昔YPCニュースの記事「等電位線の実験の導体紙」で紹介したことがあるが、永岡書店の「スタディプレイ用アクションペン」は残念ながらもう手に入らないので、とりあえず黒い紙を買ってきて、テスターをあててみる他はない。10cmぐらい離してテスターリードをあてて抵抗が数百kΩ以下なら合格だ。安い黒画用紙や、黒模造紙がむしろ成績がよい。身近なところではダイソーの黒画用紙(写真左)が使える。10枚108円だ。写真のダイソーの黒画用紙は表裏で抵抗値が違う。抵抗の小さい方を上にして用いるとよい。
 電極は画用紙に直径3mmの穴をあけて、3mmのビス・ナットで直接はさむ。しっかり締めて密着をよくするのがコツだ。電源は乾電池(3~6V)で十分だ。もちろん電源装置でもよい。配線は右の写真のとおり。黒い紙に手をつかないようにして電圧が等しい点をたどっていく。
 

 導電性塗料を使って導体紙に電極や導体球を描くと発展的な実験ができる。矢口インキ製造株式会社の「テクノペン」が好成績だった。秋月電子で入手できる。純銀ペーストのため5gで2980円と高めだが、「AgICペン」など他の製品ではうまくいかなかった。
 右の写真はテクノペンで平行平板電極を描いて、「一様な電界」を模擬した測定をしているところ。
 

 ダイソーの黒画用紙による測定の実例を示す。等電位線は見やすいようにポスカの白でなぞり、電気力線は鉛筆で描いてある。左は正負等量の点電荷がつくる電界(電源電圧3V、等電位線は0.5Vごと)。中央の写真は平行平板電極の作る電界(一様な電界、電源電圧6V、等電位線は1Vごと)。右は導電塗料で中央に導体球、両端に平行平板電極を描いたもの(電源電圧6V、等電位線は0.5Vごと)。それぞれ、中央を通る水平線に沿った電位のグラフを下に添えてある。等電位線を地図の等高線に見立てると理解しやすいだろう。
 なお、導体紙は有限の広さなので、外縁の電流は紙の縁に沿って流れることになるから、電気力線は紙の縁に平行であり、等電位線はこれに直交することになる。
 

 左の写真は正方形の導体紙の四隅に電極をとりつけ、正負互い違いに6Vの電圧を加えた例。「電気四重極」のモデルだ。このポテンシャル面はいわゆる「馬の鞍型」になるが、立体的にイメージできるだろうか。余裕のある生徒には発展学習として課してみてもよいだろう。

霧箱 鈴木さんと宮崎さんの発表
 埼玉の石井登志夫さんがよせなべ物理サークルの1月31日の第350回例会で発表した実験の紹介。(後に、NHK「物理基礎」でも紹介されているのを知ったそうだ。)
 ダイソーで108円で売られているディスプレイボックス(*1)を使い、その上部に貼り付けたスポンジテープにエタノールをしみこませ、ドライアイスで底面を冷やすだけで自然放射線を見ることができる。放射線をすばやく見せたいときは、5mmほどの高さになるように直径1mmのホルマル線をらせん状に巻いたものを底面の中心に貼り、直径8mm程度のセラミックになった放射線源(*2)を乗せると、放射線がちょうど見やすくなる。
*1:コレクションボックスミニキューブA-073。ケースは上面80mm×80mm、高さ64mm、底面は黒なので、放射線の観察に適している。
*2:この放射線源の入手については、鈴木健夫さん(sutaypcアットマークw3.dion.ne.jp)に連絡を。
 

 ただこれだけで工作もほとんどいらず、安価で見やすい霧箱が実現する。これなら、生徒2人に1つくらいの霧箱が用意できる。照明は、同じくダイソーで108円の、9個のLEDが組み込まれているライトが最適。ライトを一人1個配布し、横2方向から水平に照らして上からのぞきこむように観察する。
 鈴木さん、宮崎さんは材料を多数用意してくれたので、例会では全員が観察できた。右の写真では中央の線源から左に放射されたα線の飛跡が写っている。
 

 下は授業で使った説明用のパワーポイントから。霧箱の説明がわかりやすい。
 

エンドレス・ニュートンビーズ 海後さんの発表
  海後さんは2013年10月例会で紹介してくれたニュートンビーズをさらに楽しいゲームにしてみた。チェーンを階段状に落としていくのだが、チェーンを受ける人は受け皿を持ち上げながら、ぶれないように次の人の受け皿を見ながら落としていくのがコツだが、実際にやるとなかなか難しくて、かなり練習が必要だ。例会ではず紙皿を利用したが、ステンレスのサラダボウルとか深めのザルとかが良いかもしれない。難しいだけにできた時の達成感は大きくて盛り上がるだろう。動画(movファイル6.0MB)はここ
 

でかリングキャッチャー 海後さんの発表
 リングキャッチャーの原理を説明するミニ版の演示装置(写真左)は見事に成功(動画(movファイル1.1MB))。次に、2014年9月の例会で惜しくも失敗した長いリングキャッチャーのリングを大きくして、落下中にリングが反転する現象を見やすくしたものに挑戦。さてデカ版の結果は?→動画(movファイル1.5MB)はここ。リングをプラスチックではなく金属にするとうまくいくのでは、という意見をもらったので再チャレンジするとのこと。
 

網戸の光芒 海後さんの発表
 冬の昼下がりに網戸越しに外を眺めていた海後さんは、黒色の網戸の網に2本の光芒が見えることに気づいて何故なのか疑問に思い観察してみた。光源となる太陽の上下左右に2本づつ光芒が伸びていて、光源から離れた方向でそれぞれの2本の光芒は交差していた。例会ではマグライトで上から照らして実演して推察意見を聞いたところ、モアレや回折などの意見が出たが、実はそうではない。答えは、網の構造を拡大してみるとわかる(写真右)。皆さんも考えてみてはいかが?
 

シンギングボウル 越さんの発表
 ボウルの外側の縁に木の棒を軽く押し付けながら擦ると定常波が生じ、一定の高さの音が出る。チベット地方の法具で瞑想するときなどに鳴らすものだという。写真は小型のもので2000円だが、ネットで見ると大きさや材質(金銀銅鉄など)により価格は様々。
 グラスハープ(2006年3月例会)や中国の魚洗(2004年7月例会)などと同様に音の授業で使える。動画(movファイル3.6MB)はここ

ドローン(Alien-X6) 越さんの発表
 今話題のドローンの中で、小型(約60g)で安価(ネットで9800円程度)なもので、専用のコントローラーで操縦する。2メガピクセルのカメラ付で動画、静止画撮影可だが、記憶メディアはマイクロSDカードで、リアルタイムで画像を見ることはできない。90分の充電で8分程度飛行、操作可能距離は50m程度だが、無風状態であれば比較的安定して飛行し、宙返りもワンタッチで可能だ。USBにより充電するが、専用のコネクタが小さいので、つなぎ替えし難い。越さんは、水平投射の実験の撮影などに使えないか検討中。「搭載カメラから見ると自由落下、静止した観測者から見ると水平投射」が示せると面白いのではないか。動画(movファイル5.9MB)はここ
 

科学教室の報告 成見さんの発表
 成見さんは、春休みに千葉県で子供科学教室を開催した。大きなバランスボール、中くらいのボール、小さなボールを用いてすっとびボールの演示を行い、簡易すっとびボールの工作。次に前回YPCで発表した「ふしぎBOX」を紹介し、くるくるボールおもちゃ工作。そして、フォグマシーンを使用して光を学習した後で、偏光板紙コップ万華鏡の工作。1時間半で3つの工作をしました。参加者は4歳から小6まで19人。楽しいひとときだったそうだ。
 

小学校学習指導要領実施状況調査 山本の発表
 平成25年2月~3月に小学校911校、約11万人の児童を対象に行われた小学校学習指導要領実施状況調査の教科別分析と改善点が今年2月に発表された。そのうち6年生を対象とした理科の問題の1つが下の問題だ。小学校学習指導要領解説理科編に「手回し発電機や蓄電器を用いて,発光ダイオードと豆電球の点灯時間を比較する」という例が初めて示されたことを受けて、その教材の効果を確認する意図だろう。さて、あなたは右の(2)の問題では解答群の何番を選択するだろう。
 報告書に示された正答はなんと4で、1と2は誤答とされている。確かに、LEDの順方向電圧降下を考えれば、LEDの方はコンデンサーの電気量を使い切らないで停止するのだが、小学生にそこまでの理解を求めるものでもないだろう。きっと作問者は「同じ時間の間に」という言葉を入れ忘れたか、「電気量」と「電力」を混同しているのだ。1,2もはっきり誤答となるように封じてほしかった。大事な調査なのに作りが甘くて残念である。
 詳しくは国立教育政策研究所のサイトにある報告書 http://www.nier.go.jp/kaihatsu/shido_h24/04.pdf で問題・正答・分析の全文を読むことができる。
 なお、細かいことだが、小学校学習指導要領解説では「コンデンサ」という表記なっていたのが、この問題では「コンデンサー」だ。高校は以前から「コンデンサー」なので文科省内で不統一だったのだが、気づいて直したということだろうか。
 

二次会 永山駅前「瞬彩」にて
 13名が参加してカンパーイ!新年度がスタートした。職場が変わって新しい人生を歩み始めた人もいる。古株のメンバーが次々と定年を迎えているが、老いてますます盛ん。一方、若い人たちが続々と参入してくれているのが心強い。YPCはいつも活気に満ちている。例会も、二次会も!

 お店の前で面白い広告人形が踊っていた。送風機から送られる風で立ち上がり、不規則にゆれる。その有様がユーモラスで人目をひく。動画(movファイル1.6MB)はここ
 アトランタオリンピックの開会式に登場して、一躍有名になったらしい。関連情報はこちら。→http://sign.jp/8c60214b


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