例会速報 2017/11/19 学芸大学附属国際中等教育学校


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授業研究:静電気 北岡さんの発表
 北岡さんは、中等教育学校での5年生(高校2年生に相当)の「SS物理基礎」で行った電気分野の導入の授業について報告してくれた。以下、北岡さん自身のレポートを掲載する。

 前時にストローや箔検電器を用いて静電気に関する基礎的な現象を観察し,授業の最後に静電振り子の現象を観察した。そしてこの現象の解明を総括的評価課題とした。
 本時は仮説と検証計画について話し合い,深める時間とした。生徒は前日までに仮説と検証計画について自分の考えを書いたものを提出している。本時は,①グループで意見交換,②実験申請書の記入,③サインまわり,という流れで行った。最初のグループは,事前に生徒に提出させたものをもとに,異なる考えを持った生徒同士で意見交換ができるように指定している。①では他の生徒と意見交換をすることで,自分一人では気が付かなかったことを知り,いろいろな視点からこの現象のメカニズムについて考える。②では①を終えて,もう一度自分の考えを整理してみる時間とした。③では,最初のグループ以外の生徒3人からサインをもらうことを目標とした。聞く方は,その仮説と検証計画の妥当性・実現性を検討し,十分実験するに値すると思ったらサインをするように指示した。
 

 これらの活動を通して,生徒はいろいろな視点から静電気について考えることができた。課題としては,例会でも意見をいただいたように,探究させていくためには,どのような事前知識が必要であるかということである。またこの課題が本当に適切であったかどうかについても,改善の余地がある。また他の人からご意見いただき,授業を改善していきたい。


てんびん 田代さんの発表
 田代さんは、3年生になって突然高校を受験を目指す生徒、家庭の事情で高齢になってから定時制高校を目指す人を対象に塾を開いた。そこでの天びんを使った方程式の説明。
 1円玉は1gの分銅になる。Wクリップを2つ組んで自然数となる質量とした。2つ1組でχとする。かみ合わせるとちょうどX型となるのでここでは「Xクリップ」と呼ぶことにする。 写真左では、Xクリップ3個と1円3個がXクリップ1個と1円9個とつり合っているので、3χ+3=χ+9 である。この方程式を解いてχを求めたい。


 天びんの両方から同じ数のXクリップを取り除いたり、同じ数の1円玉を取り除いても天びんはつり合いを保つ。最後は両方を2で割ると χ=3 が求まる。この過程をそのつど式に表現すれば、右上の写真のような方程式の解法となる。「移項」などという機械的操作をやみくもに暗記するのでなく、その意味を具体的に示すことで、腑に落ちる説明となる。


 お話変わって、小学校の「てこ」の勉強は、仕事をさせててこは便利だなという授業が望ましいが、なぜか「天秤」で説明する。左の写真のようにすると、天秤は水平になってつりあうが、つりあえば常に水平になるのだろうか。
 支点を天秤の真ん中にし、重心と支点を一致させると任意の傾きで静止する(写真右)。これが本当につりあった状態であって、水平になるのは支点が重心より少し上になるように天秤を作っているからである。
 例会参加者からは、「おもりの数+腕の長さが左右で等しいからつりあっている。」と誤った仮説を立て、おもりや腕の長さを変えて実験する中でこの仮説を修正していき、「かけ算」に気付かせるという授業の提案もあった。


人工虹とフォグマシン 越さんの発表
 10月例会で宮崎さんが発表した人工虹の実験がとても見事だったので、越さんは更にフォグマシンを用いて追試した。連続使用はできないが、教室内で実験を行う上では、一番小型のフォグマシン(ADJVF400、サウンドハウス,、 5000円程度)で十分である(写真左)。
 はじめに、霧を噴射した状態で回折格子(レインボーシート)を用い、グリーンレーザーの回折光を観察した。チンダル現象により途中の光線がはっきり見られる(写真右)。


 次に人工虹の実験(写真中右)では、アクリル球ではなく、直径8cmの人工水晶球(写真左中央、石英ガラス球、ネットで1500円程度で入手可。屈折率は約1.5)を用いた。隣の4cmのガラス球でも、半球をミラースプレー(写真中左、ネットで1500円程度)で鏡面にしておくと、部屋を薄暗くしただけでも、見事な虹が見られる。
 周囲に噴霧した状態だと、チンダル現象により反射光が円錐形に広がっていく様子を立体的に観察することができる。光源側からガラス球の方を移動しながら観察すると、虹円錐の内側は明るく、外側は暗い様子もわかり、その境界に虹が観察される(写真右)。


 直径8cmのガラス球だと、そのままでも(半球を鏡面にしなくても)反射光による虹が観察でき、左の写真のようにほとんどの光が球の後ろに透過して焦点を結ぶ様子も観察できる。
 レーザーポインターを使えば、屈折光、反射光の経路を確認することができる。右の写真で、ガラス球内で一回反射した後、後方のスクリーンに向かうかすかな光が、虹を作る光である。実験に当たっては、レーザー光が思わぬ方向に反射・屈折していく(しかもその方が強度が強い)ので目に入れないように十分注意すること。
 フォグマシン、フラスコによる虹については、YPCの2004年5月例会でも話題になっている。


  一方、左の写真の虹スクリーンで見られる虹の場合には、フォグマシンを用いても反射光が円錐形に広がっていく様子を観察することはできない。これは、個々の微小なビーズの反射光はそれぞれ円錐形に広がっていくが、大きな一つの円錐を形成するわけではないからだ。観測者は、そのうちちょうど観測者の瞳に入る光の来る方向に虹を認めるのだ。
 目と虹スクリーンの間に光源をおくと、丸い虹が手前に浮かんでいるように見えるが、これは、右目と左目で異なるビーズからの光を受け取っていて一種の「視差」を生じているためである。YPCの右近さんが「3D立体虹」と名付けた現象である。交互に片目で観察すると、それぞれずれた位置に虹が見られる。
 関連記事はこちら。http://www2.hamajima.co.jp/~tenjin/labo/niji002.pdf

水入り孔あきコップのつりあげ 夏目さんの発表
 コップに水を入れ、厚紙などでふたをして逆さにしても水がこぼれない、という「逆さコップ」の実験はポピュラーだが、夏目さんが見せてくれたのは、それをさらにひっくり返した、いわば「逆さ『逆さコップ』」の実験。PVAスポンジボードを押しつけるようにしてコップの口をふさいだら、吸盤でその中心を持ち上げる。水入りコップはみごとにつり上げられる。子どもがやってもうまくいく。


 次は「やや上級技」。コップの底に8mmの孔を開け、同じようにふたのボードをそっと引き上げる。孔から水が流れ落ちるが、内部空間の減圧状態がうまく維持されて宙づり状態を保つことができる。例会では、右のように、孔から泡が立ち上っては、滴がしたたり落ちる状態を交互に繰り返す現象も見られた。大気圧との間で微妙なバランスが保たれている。
 以上の実験は、RikaTan2018年2月号で紹介される予定だ。


コイン選別器(2017/11版) 喜多さんの発表
 喜多さんが前回例会で発表した装置は、全てダイソーで購入できるもので作成した。コインの通過する通路として、厚さ2mmの定規を使用した。ダイソーで現在売られている定規の多くは、厚さ3mmで、これを使用するとコインからの距離が遠くなるので、制動効果は弱くなる。
 今回、喜多さんはその定規の模様が気になって、厚さ2mmの透明なアクリル板で作成した。幅40mm、長さ200mmのものを2枚、そしてスペーサーとして、厚さ2mm、幅5mmのアクリル板を準備し、アクリル接着剤で接着した。
 段ボールの組み立て式投射台も新開発だ。硬貨投入口の高さは、36cm。硬貨が飛び出してくる出口の高さは30cm。紙コップの高さは8cmである。そして、出口の真下からの水平距離は一つ目が5cm、二つ目と三つ目が4cm、四つ目が5cmである。
 使用したネオジム磁石は一つ100円のものを二つ、そして二つ100円のものを一つである。これはあくまでも一つの例で、傾きの角度、硬貨が通過する距離、磁石の位置など色々と条件が変われば、受け取りの紙コップの位置も変わる。動画(movファイル15MB)はここ
 写真右はこれまでの開発の足跡。一番奥は、ダイソーの定規2枚、その前の二つが試行錯誤したもの、一番手前が、現時点でのアクリル板2枚構成のものである。


ハイジのブランコ 成見さんの発表
 成見さんは、夏合宿の平野さんの牛乳パックの電気ブランコをアレンジして、ハイジのブランコを作った。生徒には大きなスクリーンで大写しにして見せたところ、また見たいとその後も言われ、好評だそうだ。最初にブランコが揺れ出す向きから磁力の向きを当てさせるため、磁石を隠している芝生の台は取り外し可能になっている。可愛いデザインに成見さんのセンスが光る。動画(movファイル21MB)はここ


消しゴムハンコ 成見さんの発表
 成見さんは消しゴムハンコ職人となりつつある。オリジナルデザインの消しゴムハンコが仲間内でも大変好評で、オーダーメイドにも応じている。左は神谷さんの依頼による自分の似顔絵。(本人は確かに三木のり平に雰囲気が似ている(^^;))

 さらに成見さんは、ハンコ図案を無料でおわけできないかしらと、ふと冷蔵庫を見たら…マグネットのお宝を発見した。よく郵便受けに勝手に投函してあるPRマグネットに、消しゴムハンコでスタンプしたシートを貼るだけでオリジナルマグネットシートのできあがり(写真右)。「ご自宅に余っていたら、捨てずにぜひお譲りください^_^」とのこと。

「電磁誘導」の新発見 宮崎さんの発表
 9月に筑波大学がプレス発表した、小泉裕康准教授の『ファラデーの電磁誘導とローレンツ力はなぜ同じ起電力を与えるのか』 の紹介。磁場中の抵抗を含むコの字形導線上で金属棒を動かすと起電力が生じ、電流が流れる。高校物理ではおなじみの問題だが、この現象の解釈には、ファラデーの電磁誘導によるものとローレンツ力によるものの2通りがあり、教科書でも紹介されている。
 宮崎さんは生徒の時から教師を退職した今に至るまでこれを不思議に思っていた。これらの現象は全く異なる事象のように見えるのだが、何のことわりもなく、「どちらでも解けますよ。」というのには抵抗を感じていたそうだ。筑波大の発表はその疑問に答えるものだとは思うが、このままでは高校の授業では使えない。「どなたか高校レベルで教えてください。」とは宮崎さんの声。


宇宙飛行士模擬訓練 越さんの発表
 越さんの学校の地学部で、宇宙飛行士模擬訓練をテーマ文化祭の発表を行った。筑波宇宙センターでの模擬訓練や、「宇宙飛行士入門」(小学館 渡辺勝巳監修)という本を参考にした(写真右)。
 ①宇宙基本クイズ、②音声伝達訓練、③反転図形訓練、④ホワイトジグソー、⑤惑星探査ローバー操縦訓練、⑥最終面接、の6つの体験を来場者にしてもらう。


 それぞれの概要は以下の通り。①展示内容に関係した4択クイズ。②発信者は紙に書かれた図形(写真左)を音声情報だけで受信者に伝える。受信者は、その情報を元に別の紙に、再現する。③箱の内側の側面にとりつけた鏡に映った手元(反転して見える)を見ながら、決められた文字や図形を描く。④24ピースのホワイトジグソーパズル(写真右)を制限時間3分以内で完成させる。


 ⑤スマホで操作できるカメラ付きミニタンク「i-SPY mini」(ネットで5000円程度)を惑星探査ローバーに見立て、火星表面を模したジオラマのコースをスマホの画面の乗車視点だけで操縦し、ゴールを目指す(下の写真)。動画(movファイル14MB)はここ。⑥最終面接では、右手におもちゃのウソ発見器(ショッキングライアーゲーム、ネットで2000円程度)を付け、「宇宙飛行士になる覚悟はあるか?」などと質問される。返事の際、動揺し、発汗すると、手にちょっとした電撃ショックが与えられ、不合格となる。いずれも忍耐強さや正確さ、冷静さが必要で、パーフェクトにこなすことは難しい。体験者には天文関係のポストカードが配られた。文化祭当日は、来場者が途切れることなく、体験を楽しんだ。


地理の教科書の変な記述 市原さんの発表
 市原さんは2014年の8月例会で 「マグマがプレートの摩擦熱で発生する」という誤解がある、という話題を紹介してくれたが、今度は地理Aの検定教科書にもそれが載っている、という話題がTwitter上にあがっていたのを見た(写真)。
 確かに過去にはそのような説もあったが、現在の火山学ではマグマの成因、特に日本のような沈み込み帯にあるマグマの成因の主要因として考えられているのは、水が豊富に存在することによる融点の低下のようである。仮に摩擦によって温度が上昇したとしても、高温になった部分の流動性が上がるので摩擦力自体が小さくなってしまう。プレートの沈み込み帯におけるマグマの生産量に見合うエネルギーを摩擦だけで生み出すのは困難と考えられているようである。
 マグマの成因については、このページ↓が詳しい。http://www.nhk.or.jp/sonae/column/20120811.html
 とはいえ、ネット上の記事を鵜呑みにするのではなく、批判的な視点を併せ持ちたい。


龍勢祭 越さんの発表
 越さんは10月8日に行われた、秩父龍勢祭り見学の報告をした。龍勢会館では竹ロケット製作についての詳しい展示があり、竹ロケット搭載カメラの映像も流されている。写真左は火薬が詰められた部分(メインエンジン)、写真右は竹の先頭部の仕掛けの部分。例会では、来年のYPC30周年を記念して、竹ロケット打上げの奉納をしようか、という話題も出た。


二次会 大泉学園駅前「山内農場」にて
 13名が参加してカンパーイ。本日の会場での例会は初めてだったが、なかなか交通の便もよく、いろいろ目を肥やすことができた。二次会は例会参加者の半数以上が参加して、駅前の居酒屋で、いつものようになごやかに行われた。

二次会編:球のペーパークラフト 阿部さんの発表
 例会本体の発表には間に合わなかったが、駆けつけてくれた阿部さんは、例会の席で手作りのペーパークラフトを紹介してくれた。色紙から切り取ったS字状の螺旋を描いたテープのような型紙を、出ているツメを互い違いにかみ合わせるようにして組み立てていくと右のような球体ができあがる。つまり、S字状螺旋は球の展開図になっていたのだ。そういえばリンゴの皮を途中で切れないように剥いていくとこんな形になる。阿部さん自身が、PCでデザインして、レーザーカッターでカット線をいれたのだそうだ。レーザーカッターは個人でも手が届くぐらい安くなっているとのこと。


 大小組み合わせたら雪だるまみたいになった。阿部さんはさらに、自動調光式のRGBフルカラーLEDを内部に仕込んで、光のオブジェにした。球体の色がゆっくりと変わっていくのが幻想的。クリスマスのアクセサリーにもってこい。こうなるともはやアートの域だ。透過光で、噛み合わせたツメの様子がよくわかる。接着剤や粘着テープは一切使っていない。二次会参加者は、それぞれ型紙を分けてもらってお土産にした。阿部さん、ありがとう。阿部さん本人から、以下のコメントをいただいた。

 リンゴの皮むきを最初と最後の1周を除いて皮幅を一定になるように計算しました。ただ、インターネットで「りんご」「展開図」などで調べると結果がたくさん出てくるようにリンゴの皮むき計算そのものが私が世界初で行ったものではないようです。実際に計算もその中のいくつかのウェブサイトを参考にしながら計算しました。YPCで頒布したものは間違いなく私が計算してデザインしたものです。レーザー加工機は学校にあったものを使用しました。Podea01という機種です。昨年購入しましたが10万円ほどしました。



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