例会速報 2023/01/15 川崎市宮前市民館・Zoomハイブリッド


前の月の例会例会アルバム目次次の月の例会


YPCホームページへ天神のページへ他のサークル・団体等へのリンク次回例会のご案内


授業研究:物理基礎の「運動」小沢さんの発表 
 小沢さんは物理基礎の「運動」の授業で、加速度を学ぶ場面にどのように導くかを報告した。加速度を学ぶことで理解が深まる現象に自由落下があるが、その自由落下に生徒が興味をもつように教材を工夫している。
 お弁当用のおかずを入れるアルミカップの落下を題材に、重さと落下に要する時間の関係を予想させる。ピサの斜塔の話を知っているとその知識が邪魔をして、「重さによらず同じ」と答えがちである。空気抵抗を考える生徒も、形が同じだから空気抵抗の影響も同じで「重さによらず同じ」と答える。しかし、実際にやってみると「重い方がはやく落ちる。」
 

 次に、アルミカップを小さく丸めて小球にしてから落下させる。今度は「重さによらず同じ」になる。このように、あえて自由落下ではない運動を先に提示することで、自由落下のフシギさを際立たせている。
 自由落下のストロボ写真からx-t、v-tの関係を表やグラフで表す作業をさせて、加速度を導入する。記録タイマーを用いた生徒実験も行って、斜面を下る運動や自由落下では加速度が一定であることを確かめさせる。センサーを使わずに、記録タイマーの測定結果から「位置→速度→加速度」と順に求めていくプロセスを大切にしている。


 加速度という概念を頭ごなしに与えるのではなく、加速度という量が必要だという必然性を感じさせながら導入するという、小沢さんらしい展開だ。自由落下と、斜面を下る運動の共通性にも気づかせる。


 続いて、「地下鉄のスピードメーターの記録」からv-tグラフを描いて、そのグラフから駅間距離を求めて、地図から読み取れる距離と一致することを確かめさせて、v-tグラフから移動距離が求められることを学習する。その知識を使って、等加速度直線運動の式を学び、おなじみの「反応時間測定器」の製作の実習をする。


ヘロンの蒸気機関 三宅さんの発表 
 「ヘロンの蒸気機関(アイオロスの球)」は、今から2000年以上も前にヘロンが考案したとされる。三宅さんは空き缶を使用したヘロンの蒸気機関をつくってみた。左はヘロンのものと同様にL字型のノズルのあるタイプ。ノズルはアルミ管を用い、エポキシ系の接着剤で固定した。また、ノズルを使用しない方法でも製作した。穴をあけ、穴の方向を一方へ曲げることで回転するようにした。


 回転部分に使用するものはいろいろ試したが、スイベル(釣り道具のよりもどし)を使うとスムーズに回る。キーホルダーに使われる回転する金具でも試してみたが、抵抗が大きいため回らなかった。YouTubeの動画でスムーズに回っているものがあったので、それを目標として作ったが、材料などの情報が書かれていなかった。愛知物理サークルの実践では球状の磁石を2つくっつけて回していた。
 今回使用したスイベルは「ストロングスナップボールベアリング」というスイベルで、大きさは3号:2個300円程度である。
三宅さん制作のYouTube動画:https://www.youtube.com/watch?v=zXL2nQ5FTYU
スイベルの入手先:https://www.amazon.co.jp/dp/B000BSAVSW
 

テキストDATAを音声にする 天野さんの発表 
 天野さんは秋月電子の「時刻音声発音キット」を使ってみた。もともとはデジタル時計の時刻を読み上げるためのモジュールだが、PCなどからテキストデータを送ると数字やローマ字文を読み上げてくれる。アンプも搭載しているので、スピーカーを直接駆動できる(右図)。
 

 本格的なPCなら音声読み上げ機能は標準で装備されているわけだが、Arduino UNOなどのマイコン(左図)でもUSBポートを通じてこのモジュールにコマンドを送ることで発声させることができる。しゃべる道具やおもちゃが比較的簡単に作れるということだ。天野さんは視覚障害者向けの教材開発を模索する中でこのモジュールの存在を知ったという。

水波のハイスピード撮影動画 益田さんの発表 
 益田さんは、水波投影器の波面の様子を20倍速ハイスピード、高ISOで撮影した。水波投影機はナリカの製品を使用。光源は進行波の様子を撮影するために装置の光源は使用せず、LEDライトを使った。使用したカメラはSONYのコンパクトデジカメRX100V(購入当時15万円ほど)。ハイスピード撮影なので、再生動画はスローモーションになる。二波源の干渉の様子は波が発生し、重なって節線ができていく過程がよく分かる。
 

 下左は同様の二波源同位相の干渉を波長を変えて撮影。右の写真は単スリットの回折の様子。波が回折して円形に広がっていく様子が分かる。例会では紹介されなかったが益田さんは屈折の様子も撮影している。(2022年10月例会の二次会の項を参照のこと)
 このカメラでは画角が小さくならずに最高で時間40倍のスローモーション動画の撮影ができる。最新の機種でも同様のハイスピード撮影できるものがある。高価なカメラではあるが、暗所での撮影も含めて利用価値はありそうだ。
 益田さん提供の動画が以下のリンク先フォルダに格納されている。ご自由にお使いくださいとのこと。
https://drive.google.com/drive/folders/1sZabDPmd2u90IiLNcM7LTWfm52pZf6qW?usp=share_link


無重力実験講座 西村さんの発表 
 西村さんは勤務校でSSHの特別授業として行なっている「無重力実験」について報告した。「10年後の宇宙生活を豊かに」というテーマで、大学や企業(東京学芸大Explayground等)、宇宙関連団体の支援を受けながら、大学生と高校生が連携しながら探究しているのだという。プロジェクトは「無重力探究ラボTGμ」と呼ばれている。
 

 実験はダンボールなどでカプセルを作り、その中に無重力でのふるまいを調べたい実験器具を入れ、校舎3階から地面まで自由落下する約1秒間、カプセル内が微小重力状態になることを利用している。実験の様子は、同じくカプセル内に入れたスマホのカメラで撮影している。近く、日大の落下塔施設を借りて実験を行う計画である。
 例会では実際に実験の様子を動画で見せてくれた。西村さんは、「この自由落下による無重力(微小重力)実験を、私たちと一緒にやりませんか?実験のアイディアも募集します。」と参加者に呼びかけていた。探究活動や科学系部活の活動として、生徒と共に取り組んでみてはいかがだろうか?


「音の学習」考 古谷さんの発表 
 古谷さんは、2011年8月例会で小学校の「音」の授業について報告した。その後しばらく「音の学習」は小学校の指導内容から消え、内容そのままでそっくり中学校に移行していた。現行の学習指導要領では復活し、3年生に「音」の単元がある。発達段階に照らしていつから「音の学習」を始めるべきなのかについての揺れがあり、更に内容としての適切性についての検討の余地は十分にある。小学校での「音」学習の特色は次の2点。
 ①3年生を教科担任制のもとで指導する場合、担任が指導する場合がある(一長一短)。
 ②指導内容や方法を他の教科との関連性を意識する傾向が、中学校や高校よりも格段に強い(当然ではあるが)。
 YPC例会では「物理基礎」を中心にいくつかの報告があった。最近では2022年6月例会の小沢さんの報告が記憶に新しい。古谷さんはさらに、古い文献を遡り、真船和夫著「理科教授論」(明治図書出版1962)に、PSSCと比較しながら、旧ソビエトの中等教育物理教科書の紹介をみつけた(写真右)。この教科書では「音」を単独の指導項目としている。
 さて、本題である。古谷さんは小学校での「音」指導原理を次のように提案する。
 1)「音」は小学校から楽しく、豊かな感性を生かして学ぶべき、という立場は堅持。
 2)「音」は空気の揺れ(振動)といった事実に率直にふれた内容を単元の構成とする(光との相似性は意識せず)。
 3)今の時代の生活空間での「音」との出会いの事実や生活経験を知ること等を検討して授業に反映させる必要がある。
 4)導入は子どもが「音」を意識する場面から始めるべき。現行教科書のようにいきなり「作ってみよう」から始まるのは疑問。
 ・教師の「たたく」「こする」「回す」「吹く」等々の演示で音の確認をして意識を高めることが最初に必要と古谷さんは考えている。
 

自作教具を紹介 舩田さんの発表 
 舩田さんは今年度久しぶりに物理の非常勤講師をしている。光の分野、次いで放射線の分野に入ったので自作教材「3色LED装置」で光の合成と分解を示し、パーツを購入して組み立てただけの「自作?」GMカウンターで放射線の計測単位の話をした。改良した「3色LED装置」で県知事賞を受賞した話をしたら「すごい」という反応があったという。

二次会 Zoomによるオンライン二次会 
 例会参加者は対面11名、遠隔19名、計30名だった。慎重を期して二次会は帰宅後の20時からZoomのオンラインで行われ、15名の参加があった。
 冒頭紹介された、市原さん親子の共同制作によるウッドパズルのコースターは参加者を驚嘆させた。レーザーカッターで切れ目を入れてある板材からパーツを取り外して根気よく組み立てていく。接着剤は一切不要だという。手前のハンドルを回すと、歯車とカム機構がはたらいて、階段で持ち上げられた鉄球がコースを一周して戻ってくる。組み立てにはさぞ時間がかかったことだろう。
 詳しい情報はこちら→ つくるんです・ウッドパズルシリーズ 


 青森の野呂さんからは、メーリングリストでも問題提起のあった「単極モーター」についての投げかけがあった。いわゆる「ファラデー・モーター」は古くからあるのだが、乾電池と磁石で作るこの装置を「単極モーターUnipolar Motor」と呼ぶ名前の由来は何なのか、誰がいつ頃命名したのかである。


 成見さんは例会当日に行われた大学入学共通テスト「物理」の試験を実際に受けてきて、その速報をしてくれた。なんと、小沢さんが当日の授業研究で紹介していたアルミカップを落下させる実験がズバリ出題されている。これには小沢さん自身も驚いていた。


前の月の例会例会アルバム目次次の月の例会


YPCホームページへ天神のページへ他のサークル・団体等へのリンク次回例会のご案内