例会速報 2010/06/20 慶応義塾高校
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授業研究:力の学習 鈴木健夫さんの発表
鈴木さんは最近ずっと議論になっている抗力の扱いについて焦点を当てる意図で、力学の導入から作用反作用までの授業展開を報告した。以下、鈴木さん自身のコメント。
基本的には、例年通りの展開だが、抗力については特に説明せず、力の原理(静止している物体にはたらく力は、つりあっている)から物体にはたらく力を見つけるようにすることだけに重点を置き、課題を考えさせることを重視して授業を展開している。途中に定期テストが入ったりしたが、最後に浮き磁石の問題を作用反作用を見据えながら考えさせる課題を持ってきたが、そこの課題の出し方に工夫が必要だと改めて認識した。
例会では、「はかりの目盛は何を表わしているのかを扱う必要がある」と指摘された。私の授業では、作用反作用の学習の中で、物を手に持っているときに感じているのは、物体の重力(重さ)ではないということを扱っているが、それでは不十分かもしれない。いずれにしろ、力の学習に関し効果的な学習課題の配列をもっと吟味しなければいけないと言うことが浮き彫りになった。
作用反作用(その3) 石井さんの発表
作用反作用など力の教え方の問題を論ずるシリーズの3回目。運動方程式f=maにより、力は同時に加速度を生む。力で物質が加速し、相対位置を変えるのが変形だから変形は力(作用)と同時に起こる。作用と反作用も同時であり、原因→結果のようにタイムラグを認めてはいけない。
また、石井さんは重力と電磁気力以外の全ての力はあえて「接触力」(押す力・引く力に整理できる。弾性力はこれに包含される。)と呼び、他の「○○力」という名前はなるべく使わないようにしようと主張する。
その他、擬人法の問題:「元に戻ろうとする力」など「〜しようとする力」の表現は正しくない、力の発生メカニズムに執着してはいけない、「教育的配慮」と称して嘘を教えてはいけない、など力の指導をめぐる問題点の指摘があった。
削ったダイオード 喜多さんの発表
喜多さんが2月例会で報告したダイオードは1Aのものだった。今回は3Aのものを同様に削ったり燃やしたりしたというレポートだ。燃やしたとき、1Aのものは二つに分かれてしまったが、3Aのものは分離しなかった。
ラジカセのマイク端子に削った(燃やした)ダイオードをつなぎ、PN接合の部分に光通信用のメロディーガンのLEDの光を当てるとラジカセのスピーカーからメロディーが聞こえてくる。ダイオードの光電効果である。フォトダイオードの原理だ。オシロスコープにダイオードをつないで電圧が生じることを見るよりもこの演示の方がインパクトがある。
南京結び 海後さんの発表
2月例会で田代さんが紹介してくれた南京結びで自分をつり上げることができますよという演示。上の輪の部分が定滑車、下の足をかけている部分が動滑車の役割をして、重量の三分の一の力で引けば身体を持ち上げることができる。自分で自分を引き上げることもできるし生徒に引かせてもよい。上の輪のところに滑りを良くするためにプラスチックのコーナーをはさんだのがちょっとした工夫。
缶コーヒーのおまけ 海後さんの発表
サントリーBOSS SILKY BLACKの景品「TROIKA DESK VEHICLES 大人のインテリアコレクション」ちょっとレトロなデザインのしゃれた小物だ。内部に小型ネオジム磁石が仕込まれていて、本来はクリップホルダーとして使うが、五寸釘で吊り下げて揺らすと水平に回転する。釘の揺らし方で右回りと左回りが自在に選べる。たまたま気づいた遊びだという。
ホログラム万華鏡 海後さんの発表
百均のホログラムテープや車用のレインボーフィルムを組み合わせていろいろな万華鏡を作った。透過光では見られないので上からLEDライトなどを当てて覗く。
覗きながら回転させると虹色が変化してとてもきれいだ。三角錐型のものは虹色に輝くペンタキスとなる(写真右)。
反転ごま・他 海後さんの発表
まず、09年12月例会で高橋さんが紹介してくれた「オイラーの円盤」を、海後さんは知り合いの鉄工所に頼んで作ってもらった。ずっしりと重量感がある。ホログラムシートで上面をデコレして回転させると非常に長時間回転が持続する。特に最後の高速振動は見事だ。動画はここ(47MB)。
同じような動きを見せるのがダイソーのガラスペーパーウエイト(写真右)。さらに、このペーパーウエイトは凸面を下にして水平回転させると次第に不安定になって立ち上がり、裏返って、やがて写真のような状態で落ち着く。逆立ちごまのような動きをするのだ。
そこで海後さんはいろいろなものを回転させて、逆立ちごまのように裏返るものがないか調べ、自作してみた。マグネットクリップを組み合わせたものや、ダイソーのステンレスソープ(写真右)など、高速回転させると立ち上がりやがて裏返しで安定するものはいろいろある。一般に、回転時は重心を高くした方が安定なので、重心の低い状態で高速回転させれば立ち上がるので、最終的に落ち着く向きを見定めて、わざとその裏返し状態からスタートすれば高い確率で反転ごまとなるわけだ。
韓国の電子ブロック「ネオピア」 大箭さんの発表
韓国の中学・高校生用の電気・電子回路教材として普及しているというネオピアシリーズの紹介。イボイボのある基板上にレゴブロックのようにパーツを自由に配置でき、半田やネジをを使わずに極めて簡単に配線ができる。見本として紹介されたのは「ネオスクール」と「光通信キット」。
右の写真は「光通信キット」。2枚の基板に分けて送信部と受信部を組み立てる。青または赤色LEDの光を変調して電子メロディを送信し、フォトトランジスタで受信してスピーカを鳴らす。空中送信も光ファイバー経由の送信もできる。
下は学校用の汎用キット「ネオスクール」。目覚まし時計、盗難報知器、電子鳥の声、電子サイレン、電子点滅器、水位報知器などの回路例が載っているが、抵抗、コンデンサ、トランジスタなどを自分で付け足すと相当な種類の回路が組めそうだ。写真右は電子鳥の声の回路。
黄色いブロックは基本5×3列の穴があり、各列の5つの穴は内部で電気的につながっている。ブレッドボードと同じようにパーツやジャンパー線をさし込んで配線する。ブロックが自由にレイアウトできるため、ブレッドボードより回路図に近い配線ができ、汎用性・拡張性が高いのがウリだ。国内でもかなり安価に供給できそうだということなので、期待したい。
相互誘導 小河原さんの発表
相互誘導の演示として、ビニール被覆線のコイル2つ、ウォークマン、ラジカセを使い、ウォークマンの音をラジカセから出す実験は、ご存知の方も多いだろう。これは、小河原さんの恩師である、故石川孝夫教授が発表されたものである(物理教育35-1(1987)p.48参照)。今回小河原さんは、大学生のときに見た、この思い出深い実験を発展させたことを報告してくれた。
単に相互誘導で音を出すだけではなく、相互インダクタンスMを変化させ、音の大きさを観測しようというわけである。Mは、1次コイル、2次コイルの巻き数N1, N2、断面積S、1次コイルの厚みlにより変化する。そこで、r = 4 cm, N = 10, l = 1 cmを基本とし、r = 8 cm, N
= 40, l = 10 cmと条件を変えた3種類のコイルを使って実験を行った。誘導起電力V[V]とラジカセから聞こえる楽曲の音圧レベルL[dB]は、単純な比例関係とはならないが、Mの増減によってVが増減し、音量も増減することは、3年理系の生徒にも確認できたということである。
それにしても、披露された実験に対し、l = 10 cmのコイルをテープで固定せず、その場でl = 1 cmに変えられると良いとか、基本のコイルを押しつぶすと断面積Sが小さくなるよ、といった意見がダイナミックに交換されるところは、まさに例会に参加するメリットと言える。写真右はアルミ缶スピーカー。さし込むジャックを替えれば、そのままアルミ缶マイクになる。詳しくは、次号YPCニュースの記事を参照しよう。
影絵の錯視 田代さんの発表
YouTubeには錯視の動画が数多くある。その1つに「(ダンサーは)右回りか左回りか」というのがある 。シルエットなので、見る人によってどちらにも見えてしまう。お尻のラインでも描き入れると振り上げている足が右足か左足かがはっきりすると考えた。つたない方法でラインを描きこんだ物を披露するつもりでいたら、同じ事を思いついた人がいて、すでにYouTubeに投稿してあった(右)。ごくわずかの視覚情報が立体イメージづくりを左右しているということだ。
ファイト・イッパーツ 田代さんの発表
リポビタンDのCMはCGではないが現実にはあり得ないものである。今、放映している1つ前のCMで、足場が崩壊して手元の鎖だけで助かる場面があるが、あれは、二人の体重がほぼ同じなので、鎖どめを滑車としても、鎖は「W型」になって釣り合うはずである。まして左の人の足場が残っているので、落ちた人を引き上げるのでなく懸垂をするように自分が上がってしまうはずである。おもりと紐、滑車(マグネットピン)で実験をした。
種明かしもYouTubeにあったが、今は ユーザーによって削除 となっている。
赤池立子 越さんの発表
美容理容師のカット練習用ウィッグ(人毛を使用)をバンデグラーフ起電機に乗せ帯電させると、髪の毛が逆立つ。例会当日は、湿度が高かったので、それほど派手に逆立ってはいないが・・・。これは以前、岐阜物理サークルで「黒池辰代」という名前で紹介されていた実験の追試である。
こちらは茶髪なので「赤池立子」と名付けた。カット練習用ウィッグはネットで4000円程度で入手可能。使用済のものであれば、美容学校などにお願いすれば譲ってもらえるかもしれない。
花独楽 越さんの発表
ほとんど横倒しになって回転している時、上から見ると花の模様が見えるコマ。コマの円周L1と横倒しになって円運動する時の円周L2がほぼ等しいので、同じ位置に来た時に同じ模様が上側に来るため花模様が静止しているように見えるのである。なお、水平に近くになるにしたがってL2の方が長くなるので、花の模様が逆向きにゆっくり移動して見えるようになる。動画はここ(4.7MB)。スローモーションはここ(14MB)。上野駅構内などにある「THE STUDY ROOM」で入手可。
フィルムケース2個を底面同士を貼り合わせ、表面にシールなどを貼って印をつけ、横倒しの状態で回すと同じようなコマになる。ただしこちらは1周する間に3回転するので、印が3か所に見える。作り方はこちら。動画はこちら。
HAYABUSA 加藤さんの紹介
去年8月の例会で紹介した全天周映画 HAYABUSA BACK TO THE EARTH が、DVDになった。元々が全天周映画なので、平面にするための歪み補正などが大変だったようだ。
加藤さんは全天周映画の試写会を見てから何度もプラネタリウムで見ているが、そのたびに『DVDにならないかなぁ』と思っていた。その思いが通じて(?)ついにDVD化。通信販売では売り切れだったので、制作の上坂さんの講演会に妻に行ってもらって、ようやく購入できたという。しかも、サイン入り!授業で、生徒に見せたところ、何人もの生徒が涙を流していたそうだ。是非購入して手元に置きたい作品だ。
慣性力・単振動の教材 水上さんの発表
問題演習の際に問題と同じ現象を見せると生徒の理解が進み、食いつきが良くなる。さらに、ただ演示するだけでなく事前に撮影しておいた映像を一緒に見せると、ちらの意図を正確に伝えることができる。
エレベーターの中で物体の重さ(秤の目盛り)が変化することを問う、いわゆる「慣性力の問題」に関する導入映像。二つの滑車(戸車)にかけた糸の片端におもり、他端には秤を乗せた『エレベーター』を取り付け、アトウッドの滑車のように等加速度運動させる。撮影した映像をコマ送りで静止させて600gの物体を乗せた台はかりの針が手を放した直後約650gwをさしていることを確認する。
次に単振り子の最下点における糸の張力を問う問題。ばねばかりに100gのおもりを取り付けてはかりごと単振り子のようにスイングさせる。静止時のばねばかりは100gwを示すが、振り子運動中は鉛直位置を通過するときに130gwになっていることを示す。
右はばね振り子の映像を同じ時間間隔でキャプチャーし,位置x−時刻tのグラフを描いていくパワーポイントファイルである。実動画から導入するこのファイルでばね振り子のx−tグラフが正弦曲線になることを示すと、生徒は「等速円運動の正射影」の考え方をすんなり受け入れてくれる。
ISSは真夜中に見えるか 山本の発表
「人工衛星を観察するなら宵か未明に」が定番。上空の人工衛星にはまだ日光が当たっていて、地上や空が暗くなっていると見やすいからだ。しかし、人工衛星は真夜中に見られないということはない。極端な例を挙げれば極軌道をとる衛星は極地方からなら真夜中でも見えるわけだ。要は衛星の軌道傾斜角と観測地の緯度によるのである。
国際宇宙ステーションISSは地上350〜400km、軌道傾斜角51.6°の軌道を飛ぶ。左の図(クリックで拡大)のように、夏至の頃にはISSが最も北に寄ったところでかろうじて真夜中にも日光が当たる。東京からだと観測条件は良くないが(第一梅雨時だし・・・)、北海道なら楽勝で観察できるはずだ。JAXAの「国際宇宙ステーションを見よう」のページで予報を調べ、珍しい「真夜中のISS観測」に挑戦しよう。詳しくはPPT版資料またはPDF版資料を参照のこと。
強力レーザーポインタ 小林さんの発表
夜の天体観測会で星を指し示すのに適したレーザーポインターを探していた小林さんは、ネットで50mWの高出力グリーンレーザーをみつけた。ただし、日本では1mW以上のレーザーポインターの販売は禁止されている。今のところ海外から購入し、個人で使用することはできるので通信販売で購入したそうだ。
光の視認性に関してはブルーよりグリーンレーザーポインターが圧倒的に優れている。ブルーレーザーはその色の美しさを鑑賞するには良いが天体観測には向いていない。これは人間の目の感度と関係していて、人間の目にとって最も視認し易い波長である555nmとグリーンレーザーの発する波長532nmが限りなく近い為、473nmのブルーと比べ見やすいのだ。
小林さんは購入する際、安全ゴーグルをつける必要があるのか心配したが、スクリーンに反射した光なら安全ゴーグルをつける必要が無いことがわかった。とはいえ、50mWといえばうっかり目に入れれば瞬間的に網膜を損傷する出力だから、人に向けない、光沢面に当てないなど厳重な注意が必要だ。グリーンレーザーの場合、50mWの出力があれば夜空に向けて照射すると、照射した先までの光跡がクッキリと見え、天体観測用には最適だ。ブルーの場合には200mWの出力があっても光跡を見る事は難しいそうだ。
この出力が危険であることは次のような実験で示せる。ぱんぱんに膨らませた風船にホワイトボード用の黒いペンで色をつけ、グリーンレーザーを照射する。そのインクが融け透明な穴があくがその穴をもう一度ペンで塗ることを繰り返すとだんだんゴムが堅くなってくる。100mW以上でないと割れないという情報があったが、この方法だと50mWでもたいてい2分以内に割れる。動画はここ(8.2MB)。目に入れた場合はこれにレンズによる収束が加わると考えればよい。
興味深かったのはお茶にブルーレーザーを照射する実験(写真右)。チンダル現象を起こす光跡が青からオレンジへ赤っぽい色に変化する。夕焼けの実験に似ているが、レーザーは単色光なので単なる散乱ではない。回折格子を通して一次回折光で実験しても同じだった。つまりこれは緑茶の色素による蛍光を見ているのではないか。青の光で色素分子が励起し、基底状態に帰るときにより波長の長い光を出しているのだろう。緑の葉に当ててオレンジに光るのも同様だと思われる。
Mad Science 高橋さんの発表
『Mad Science ―炎と煙と轟音の科学実験54』Theodore Gray著、高橋信夫訳 オライリー・ジャパン 2940円
発表者の高橋さんが翻訳・出版した本である。ちょっと危ないけど正統な科学実験54種を、美しく精緻な写真と詳細かつわかりやすい解説文とともに載せた楽しい本だ。題名は過激だが内容は大変まじめであり、「正統派科学書」と言って間違いない。著者Theodore
Gray氏の本業はー数学ソフトウェアMathematicaを作ったWolfram Researchの共同経営者だが、「元素コレクター」で「世界一美しい周期表」の作者でもあり、最近はiPad/iPhone
4用に「元素図鑑」というソフトも作って大ヒットさせている。高橋さんのコメントは「訳者として少々手前ミソになってしまいますが、自信を持ってお薦めします。」とのこと。
二次会 日吉駅前「とりのすけ」にて
14人が参加してカンパーイ!。狭い店内は学生の熱気がみなぎっていたが、オジサンたちも負けてはいない。学生さん相手に科学マジックを披露したりしながら盛り上がった。
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