例会速報 2010/07/11 電気通信大学


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施設見学:大型3Dディスプレイ 成見哲先生による施設紹介
 例会に先立って、今回の例会の会場を提供してくださった電気通信大学情報理工学部の施設の一部を見せていただいた。例会会場の2階にある教室の壁には大型ディスプレイ8枚で構成した3D表示装置がある。偏光メガネをかけて見ると巨大な立体画像が浮かび上がる。写真はGoogleMapの鳥瞰図を3D表示させているところ。


 国立天文台が提供するフリーの天文シミュレーションソフト「Mitaka」による3D表示。実際にはあり得ない立体感だが、各天体に奥行きが感じられる。

分子動力学シミュレーション用数値アクセラレータ 成見哲先生の研究紹介
 研究紹介をしていただいた。プレゼンのタイトルは「分子動力学シミュレーション用数値アクセラレータとその高校物理教育への応用の可能性」である。
 気体の分子運動は、ミクロにはニュートンの運動方程式・力積などで記述できるものの、全体としての振る舞いを直感的に捕らえるのは難しい。コンピュータシミュレーションの技術を使うと、それを目の前で体感できるので、気体の温度・体積・圧力などの量を理解する手助けになると考えられる。
 

 とはいえ、おびただしい数の粒子の振る舞いを逐一力学的に計算すれば膨大な計算量になる。これを高速にこなすのが「数値アクセラレータ」だ。ゲーム機の普及により、PLAYSTATION3やGPUなどのPCレベルでも利用可能な高性能アクセラレータが安価に手にはいるようになった。さらに、慶応大学泰岡研究室がフリーで提供しているlinuxライクな言語KNOPPIX for CUDAを用いればNVIDIA社製GPU対応ドライバ内蔵なのでDVDからのブートで高速物理シミュレーションの世界を体験することができる。成見先生もその研究にかかわってきた。
 下の写真はサンプルプログラムのシーンから。NaClの結晶が融解を始めた様子(写真左)と、沸点を超えて一度気体になったNaClが冷却して再び結晶化しつつある様子(写真右)。

 下左の写真は銀河衝突のデモ。KNOPPIX for CUDA およびこれらのデモプログラムは泰岡研のWebページから手に入れることができる。
 写真右はアルゴン気体のシミュレーション。分子の運動の様子が直観的に把握でき、PV状態図も同時に表示されるので理解しやすい。こちらのプログラムについては別途電通大の成見先生(narumi@cs.uec.ac.jp←アットマークを半角に)まで問い合わせてほしいとのこと。

授業研究:3年生物理U電気分野の入口 小沢さんの発表
 小沢さんは3年生の物理Uの電気分野の導入部分について、授業プリントや生徒の回答例を示しながら報告してくれた。黒板上での演示実験を中心に紹介する。

 まず、乾電池と豆電球を用いた回路中に、電位を見い出すことを扱う。3つ直列にした豆電球に写真のような配線を加えたとき、それぞれ光るか光らないかと問う。一見パズル的だが「導線中は等電位」という原則を用いて、電位ごとに色塗りすれば、豆電球の両端に電位差があるので、すべて光ることが予想できる。同じ原則で、迷路のような回路でも解ける。(Rを流れる電流を問う。「物理学の基礎[3]電磁気学」培風館より。)
 

 乾電池の内部抵抗を測定する実験は、負荷として滑り抵抗器を用いることが多いが、ここでは豆電球を並列に増やしていく。「豆電球の並列つなぎは電圧が一定」という考えとの矛盾を引き出す。それを説明する仮説として内部抵抗を導入する。

 その際、AC100V電源で「模擬乾電池」を用いて説明する。小沢さんの前にある「?」マークの紙包みを経由してAC電源に電球を並列接続していくと個数が増えるにつれ次第に暗くなっていく(写真左)。種明かしはコードの途中に直列に入れたセメント抵抗である(写真右)。

 最後にキルヒホッフの法則の演習として、乾電池を含む写真のような回路を扱い、黒板上でテスターで実測して確認する。

電気力線の演示 小沢さんの発表
 以前、鈴木健夫さんが紹介した、ダイソーの「フタ付発泡容器」のフタの部分だけを使う方法を追試した。電極となる画鋲を置き、サラダ油を少量入れ、模型のジオラマ制作用のシーナリーパウダーをふりかける。帯電させた塩ビ棒や空き缶を画鋲につけると、パウダーが電気力線を描く。
 

 写真左が正負等量点電荷の場合、写真右が負のみの点電荷の場合である。今回用意していなかったが、実験をする前に金属棒をTの字にしたもので、パウダーが一様になるように、ならすとよいそうである。この手順は、沈んだパウダーを混ぜるだけではなく、油の帯電を除去するために重要、と参加者からコメントがあった。基本的な実験でも、例会で行うと授業に役立つ新たな知識が得られる。新しい実験、珍しい実験でなくても発表することは有意義だ。

吸盤はなぜ壁に付くのか 平野さんの発表
 「吸盤が壁に付くのは,つねに大気が吸盤を壁に押しつけているからである。」という内容の記事が科学雑誌Newton8月号に載った。もちろん,吸盤と壁との間に摩擦がなければ、吸盤は鉛直面に静止できない。すなわち、どんなに気圧が大きくても壁との摩擦係数が0ならば、吸盤は滑り落ちてしまう。このことを例会で紹介した後,編修部に問い合わせたところ,「ご指摘はもっともだと思います。ここでは説明が難しくならないように,意図的に摩擦のことは言及しませんでした。あくまでこのページの主役は大気圧ですので,説明が煩雑になると,かえって読者の理解を妨げると判断したからです。一般読者の感覚からすると,例えば「紙を壁に手で押しつければ,紙は壁から落ちない」という説明で十分ではないかと考えました。」という回答が返ってきた。

台車をおもりをつけた糸で引く 水上さんの発表
 水平な台に置いた台車にばねばかりを取り付けて,これに糸を結び,滑車を介して他端に質量100gのおもりをつるすとばねばかりは100gを示す(写真左)が,手をはなすと台車は動きだし,ばねばかりは約92gを示す(写真右)。運動方程式の応用問題で,糸の張力が運動時は静止時より小さくなることを示すのに利用する予定の普通速映像である。
 

斜面上の台車のばね振り子 水上さんの発表
 斜面上の台車をばね振り子にするとき,斜面の傾きθを変えても周期Tは一定であることを示す普通速映像である。Quicktimeの映像は「→」キーでコマ送りができるので,台車が1往復するコマ数を数えて周期を決定する。どのθでも29コマ送ると台車は1往復する。普通速の場合1秒30コマなので,周期T=29/30秒というわけだ。
 授業進行:台車に働く力の合力は傾きθによらずF=−kx(復元力)→周期T=2π√m/k は変わらない→映像で検証→つまり,ばね振り子の周期は鉛直・水平・斜め方向いずれの場合もT=2π√m/kである。
 例会では,水平方向(θ=0),鉛直方向(θ=90°)の振動も欲しいという意見が出た。水上さんはばねを変えて再撮影に挑戦するとのことだ。
 

ソガメ折り 高杉さんの発表
 高杉さんは2009年9月例会で自身が紹介した十亀(ソガメ)折りを応用・改良して立体周期表を作った。一周が山谷合わせて18折りになるようにし、円筒にするときに一段ずらして貼り合わせると螺旋状のソガメ折りができる。たたむと写真左のようにコンパクトになり、上下に引っ張ると写真右のように伸びて円筒になる。
 

 それぞれのひだに元素記号を書き込んでいく。Heの次がLi、Neの次がNaというように、「周期」の意味がはっきりわかる立体周期表ができあがる。
 一方、右は車田さんが飛び入りで披露した折り紙のDNA模型。これもひねると平たくたたむことができる。

続LED電球分解 渡辺さんの発表
 前回東芝のLED電球(写真右)の中身を確認したが、その後さらに何種類か市場に登場している。渡辺さんはお店に売っていた最近のLED電球を何種類か購入し、引き続き分解を試みた。今回紹介されたのは以下の通り。
種類:大手メーカー(東芝、パナソニック、シャープ)、その他(日立、アイリスオオヤマ、C-MAX)
 

 LED電球は、中をあけてみるとそれぞれメーカー独自の方式を取っている。LEDの使用する数や単体の明るさ、点灯電圧など各社工夫が見られて非常に面白い。また、放熱の工夫もさまざまなのも注目点。ちなみに、電球に取り付けられているLED基盤は、東芝、パナソニックが比較的高めの40V程度で点灯、シャープなどは16〜17V程度。 

 LEDの数や配列は各社各様である。いずれも白色LEDが放熱を兼ねた基板上にじかに実装されている。白色LEDは青色〜紫外系の光で蛍光体を励起して連続スペクトルに近い発光を作り出している。

 基盤をはずした場合、低い電圧のものは、手回し発電機で点灯させることも可能(動画はここ)。しかし高い電圧は、006P乾電池を直列で使用するなどの工夫が必要になる。

 なお、LED電球の分解は、あくまでも自己責任で。東芝以外は、カバー部分がガラスのため、少しハードルが高いので分解の際は注意が必要だ。

ムチ 車田さんの発表
 YPCではこのところ「ムチ」が秘かなブーム。車田さんは名古屋の科教協のお楽しみ広場で購入したという手製のムチ(製作者不詳)を披露してくれた。衝撃波音が非常によく鳴る。動画はここ

力の作図 市原さんの発表
 力学の授業で、力をおよぼし合う複数の物体にはたらく力を矢印で図示するとき、どんな描き方が適切だろうか。市原さんから問題提起があり、例会の席で各自の取り組みが披露された。
 写真左上のように描くとそれぞれの矢印がどちらの物体にはたらく力なのかがわかりにくい。上段右二つのように、注目する物体(黄色で表示)で分けて、別々に図を描くのはこれを解決するひとつの方法だ。
 下段中央のように作用点をわずかにずらして、それぞれの物体への帰属を明確にする方法もあるが、下段左のように鉛直方向の力を描き込むと重なってしまい見にくくなる。この場合、はたらき先の物体ごとに色分けして示すのも一方法だ。
 ともかく、力はそれがどの物体に作用しているのかの「はたらき先」が重要であるから、それが明確に意識して示されるような描き方をすべきである。

5000円の電子キット 竹内さんの発表
 秋葉原の千石電商で約5000円で購入したという電子キット。パーツが実装されているチップを、基板上にはめ込んでいくだけ。接点はスナップ式になっていて重ねてはめれば接続される。パーツの回路図記号が印刷されているので回路図との対応がつけやすく、回路図通りのイメージで組み立てることができる。写真はAMラジオの回路。

100円バランストンボ 竹内さんの発表
 百均で購入したというバランストンボ。竹製だが装飾が施されていてずいぶん派手なデザインだ。

手作りYPCクッキー 成見さんのサービス
 成見さん(成見哲先生の奥様)は今日の例会のために、手作りYPCロゴ入りクッキーを焼いて来てくれた。あたたかい心配りに一同感謝!

二次会 調布駅前天神通「海南記」にて
 11人が参加してカンパーイ!。いつもの中華料理屋で成見先生を囲んで。はやぶさの帰還の話、夏休みの計画などで盛り上がる。年齢層が広いのがYPCの力だと思う。


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