例会速報 2021/04/18 Zoomによるオンラインミーティング


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授業研究:授業開き みんなの発表
 市原さんの授業開き報告は「中1の最初から実験!」。市原さんは今年から初めて中学生の授業を担当することになった。どういう授業開きがいいかを考えたが、やはり触ってナンボだろう、そして、生徒が個々に実験できるほうがいいだろうと思い、ゴムの長さを測ることにした。班で協力するのではなく個別の実験にしたのは、コロナも理由のひとつ。
 2018年の物理チャレンジの実験課題に「輪ゴムを引く力と伸びの関係を調べてみよう」というものがあった。これなら時間もかからず、個人で可能である。しかも、おもりを増やしていくときと減らしていくときで、ヒステリシスが見られるので、「おや?」と思う種まきもできる。その「不思議だな」「なぜだろな」が科学の芽なんだよ、という朝永振一郎の言葉もあわせて紹介できる。そして、物理チャレンジの実験レポート1505通の中から選ばれた、優秀レポート8つのうちの1つが、同い年の中学一年生のものであることも紹介し、同世代でもいろんなことにチャレンジできるんだよ、と結んだ。
 

 鈴木さんからは、最初の時間の授業プリントが披露された。ここ数年の、持ち上がりの学年を除いたクラスでの授業開きに使っている。以前はスプーン曲げなどもしていたが、最近はやめた。
 まず授業のやり方やマナーなどを話した後、授業を「聞く」姿勢について話題にする。「きく」という言葉には、3つの漢字がある。「聞く」「聴く」「訊く」。「聞く」は耳できくので、通過するだけで頭に入っていなくても「聞」いていることになる。「聴く」という字には心が入っているので、心(頭)できいて中身を理解しようとしていると言える。「訊く」は尋ねるという意味。授業をきくのは、「訊く」つもりで聞いてほしい。質問大歓迎。授業中でも質問していい。・・・とまとめる。出典は『理科教室』2017年12月号松本徳重さんの「基本の”き”いっぽいっぽ№1」である。
 後半は信号機のクイズ。信号機の色の順番を問い、今後の授業のやり方の練習も兼ねて、挙手をして分布を取る。意外に違う答えが多いことに生徒は驚く。そして正解は単なる説明になってしまうが、そこには理由があることを話します。ものごとには表面的な事実だけでなくその奥にある理由や根拠まで考えるように、とまとめる。この出典ははるか昔の科教協でのどなたかの紹介だという。
 

 今井さんは授業の初めに、レディッシュ著「科学をどう教えるか」のp.74掲載されている図(下左)を用いて、あらゆる方法で物理を理解していくという話をする。問題集などには図で答える問題は少ないので、どうしても数式の計算ができる=物理ができると考えてしまう生徒が多くなってしまう。
 そこで、今年の2月例会で発表した運動のイラスト(静止・加速・等速・減速をイラストで表現しよう!)を4単位物理の授業開きに使った。物理基礎で学習した知識を活用してイラストで表現(Output)できるか、という課題である。生徒は、丸や四角などの物体、人、乗り物をかく場合が多かった。物理で学んだことを違う分野でも使えるというメッセージは生徒たちにも好評だったようだ。ちなみに、参考までに、同僚の体育の先生に書いていただいた加速している様子(右下の図)では、地面から受ける力が、前方向きになるように意識して描いたとのことだった。まさに運動方程式ma=Fをイラストに落とし込んでいると言える。
 

 画像はないが舩田さんからも「授業開き2021」の報告があった。担当している物理基礎のクラスの中に物理で大学受験を希望する人がいることが予測される。舩田さんはそれを意識した授業開きを実施した。まず以下の授業計画を伝えた。
1.今の教科書を全て終了させる。
2.前から順に授業をする。
3.トピック、発展などは要請があれば解説する。
 さらに学校からの要請で授業開始時刻に号令をかけさせる、開始後忘れ物を取りに行かせない(ないまま授業を受けよ。)ことを伝え、さらに開始が遅れたら遅れた分終了を遅らす、と伝え、最初の授業を開始した。


 平松さんは、喜多さんから引き継いで今年で3年目になる、大学の「理科教育法」の初回講義で行ったアンケートの結果を報告した。別の方と2開講で合わせて15名にアンケートを実施した。前半は文科省の「科学技術に関する意識調査」(2001年)の中にあった設問を一部改変したもの、後半は前任者から引き継いだもの。今年度は正答率が少し良かった印象だった。アンケート結果(PDFファイル73.6KB)はここ
 発表後に、各設問の妥当性についての質問がいくつか寄せられた。今後に生かしていきたいと平松さんは述べている。
 

 尾形さんからは、中一の理科1で変数を意識させる授業開きの報告。これから実験を行いながら授業を進めていく上で「この実験では、何と何の関係性を調べているのか」を意識していくことが重要だと考えた。そのために、例を用いて変数とはどういうものなのか。値とは。について感覚をやしなってもらい、その後、図形のスライドを用いて、改めて変数を発見、その変数間の関係性を見出すトレーニングを行った。ポイントはオープンエンドなこと。特に決まった解答はなく、表現の仕方もいろいろあっていいんだよ。ということを意識した。なお、この授業内容はイギリスのCASEという授業カリキュラムを参考に作られているとのこと。
 尾形さんの授業スライド(PDFファイル309KB)はここ。授業用プリント(PDFファイル115KB)はここ
 

 山本の授業開きは毎年これ。2019年4月例会でも紹介した、Powers of TenCosmic Eyeである。教職課程で授業開きのやり方を指導するときに紹介している。Powers of Tenの方は約1/3の学生が知っている。「大学で見た」という学生もいるから、他の先生も使っているらしい。それほどに定番である。イームズ夫妻による1977年の作品だが、CGのない時代のものとは思えない出来映えだ。Cosmic Eyeはその現代版として、あとから補助的に見せる。
 

 米田さんからは、「授業開きを2パターン考えているんだけど、どちらがいいと思いますか?」という例会参加者へのアンケート依頼があり、その場で対応した。
 「近代日本の150年」と「星までの距離を測る」の二択だったが、後者の支持者が多かった。手作り感のあるオリオン座の3D立体模型が好評だった。
 米田さんからは、後日「授業開きを考え直すいいきっかけをいただきました。手作り感満載のオリオン座の作り方や協力いただいたアンケート結果も含めて以下にまとめました。」との報告があった。
 米田さん制作の報告ページはここ→https://sites.google.com/view/oyone20210418/

シジミチョウの輝き 永田さんの発表
 モルフォチョウで知られている構造色。色素でなく複雑な構造からの光の回折・干渉の結果、特徴的な色を示す。シジミチョウの翅も鮮やかな色を発する。永田さんは「自宅にある電子顕微鏡」でその様子を調べた。
 左の図はヤマトシジミとムラサキツバメの翅の輝きの接写による比較である。その鱗粉をSEMで高倍率で撮影した結果が右図だ。どちらの鱗粉も膜面に小さな穴が開いていることが分かった。
 

 そこで、永田さんはこう考えた。小さな穴が多くあるとそれに太陽光が当たったとき、その穴特有の波長の光だけが散乱する。その説明図を下左の図に示す。この散乱は穴の大きさに依存する。ヤマトシジミとムラサキツバメは穴の大きさが異なるため、散乱される波長(色)も異なる。穴が小さいほど短波長の光が散乱されるのではないか。永田さんの説明スライドを右の図に示す。
 ちなみに、上のSEM像には規則正しく並ぶ横方向の筋(リッジ)も見られる。このリッジの間隔は1.5μmぐらいで、CDのトラック間隔に近いが、CD表面に見られる虹色のような輝きはこの鱗粉では見られない。青い色が選択的に現れる機構の説明が必要というわけだ。生物界の構造色は奥が深い。
 

ホイップクリーム作りでソフトマター物理入門 夏目さんの発表
 20世紀以降、物理学は科学としての価値に加えて、人間が精密に操作できる高機能材料の開発という面で社会に大きな貢献をしてきたが、常に中心にあったのは金属や半導体、誘電体、などのかたい物質(ハードマター)だった。一方、高分子、液晶、両親媒性分子、コロイドなどのやわらかな物質(ソフトマター)についても人間によって開発されて応用されるようになってきたが、その主役は化学、生物学だった。その状況のなかで、ド・ジェンヌ(1991年ノーベル物理学賞受賞)がソフトマターを物理として理解する試みに挑戦して、一躍、物理の対象となった。
 というわけで、夏目さんは物理の教育面でもソフトマターを取り入れてほしいと思っている。今回は、ソフトマター物理の入門として、ホイップクリーム作りをとりあげた。
 生クリームを泡立ててホイップクリームにする際に、攪拌(かくはん)をどの程度するのがよいか? ホイップクリームは滑らかな感触を保ちながらも、角(ツノ)のように立ち上がった部分が保たれるあたりが食べごろだ。この瞬間がもっとも旨い。ところがその最適な点は、攪拌をし過ぎると失われ、ベトッとした脂肪の塊に化してしまう。このあたりを実験しながらソフトマター物理として考察する。

 容器は氷で冷やす方がかたまりやすくてラクである。生クリーム(乳脂肪30%以上のもの)に砂糖を7%程度加えたものを攪拌器でかき混ぜていく。上の図のように攪拌20分程度で攪拌器にタラッと絡みつく感触になる。そして、下左のように24分位から全体がかたまりはじめて攪拌器が重く感じられるようになる。このあたりからが食べごろだ。
 ところが、さらに攪拌していくと表面にザラツキが生まれてくる。バター粒化が起こるのだ。そして、右図のように、攪拌33分では全体がすっかりバターになってしまいベトベトになる。
 

 左下の図には、それぞれの攪拌時間にできた状態を並べた。
 一体、攪拌で何が起こっているだろう?夏目さんは右下のような模式図で説明してくれた。牛乳は脂肪球が水の中に分散している「コロイド」と呼ばれる状態である。疎水性の脂肪球と脂肪球が水のなかでくっつかないのは、脂肪球の外側にあるカゼインと言う親水性(水をひきつける性質)を持つ蛋白質のおかげだ。いわゆる「保護コロイド」の状態である。
 牛乳からさらに水を抜いたものが生クリームである。それでも脂肪が一様に水に混じっているように見えるのは右図左側のように、カゼイン(赤いヒモ)が協力して脂肪球(緑の球)同士の接近を防いでいるからだ。このカゼインのつながりをカゼインゲルと言う。かき混ぜるということはカゼインゲルのつながりを壊すことだ。脂肪球と脂肪球は直接接触する部分が増えて、脂肪球はどんどんつながってくる。この時、図中央のように、攪拌が空気を取り込んでいると、うまく脂肪球がつながりながらも全体が孔を持った立体構造になって空気の泡(黄色の球)ができる。全体の体積が1.8倍程度に増し、密度が小さくなる。これがフワッとして膨らみつつ角(ツノ)が立った「ホイップクリーム状態」だ。
 ところがさらに攪拌すると、図の右側のようにカゼインのつながりも完全に無くなって、脂肪球がどんどん密にくっついてしまう。脂肪球自体が壊れていると見るべきだろう。空気も追い出されて、もはや全体の滑らかさもなくなる。体積は減り、密度の大きな単なる脂肪の塊となってしまうのだ。これがバター粒である。これをきれいに練ったものが製品としての「バター」というわけだ。
 夏目さんの発表スライド(PDFファイル3.3MB)はここ
 

テキシコー 市原さんの番組紹介
 Eテレで昨年度から放送されている、教育番組「テキシコー」の紹介。プログラミング「的思考」を学ぶところから、「テキシコー」という名付けになっている。「考えるカラス」や「ピタゴラスイッチ」と同じ系譜の、ユーフラテス&佐藤雅彦さんが制作に関わっている。
 「あたまの中で動かしてみよ」のコーナーがなかなか面白い。市原さんは、#7の「シャーレの中の牛乳」が良い作りをしているのでオススメだという。ネタバレにはなるが、テレビ番組でしっかりと失敗しているのは良いと思うとのこと。
 市原さんの小学生の長男が気に入ってリピートして見ているそうだが、中高生でも面白く感じるだろう。
番組HPはこちら→https://www.nhk.or.jp/school/sougou/texico/

DAISOのお得グッズと実験につかえるグッズ 天野さんの発表
 天野さんからは、百円ショップダイソーで見つけたグッズの紹介があった。
 こちらは、「ハズキルーペ風」の老眼鏡。メガネの上からかけられるので、ちょっと手元で細かい作業をするときなどに便利。これで110円。

 プラスチックストロー廃止運動に伴い、マイストローがブームになる中、ダイソーに登場したのが洗って再利用できる「アルミストロー」である。手頃な太さでいろいろな工作材料に使えそうだ。1本110円。同じダイソーのタピオカストロー(こちらはプラスチック製)の内径とぴったり合うので、タピオカストローをジョイントにして継ぎ足すことができる(写真右)。天野さんは、ネオジム磁石を落とすとゆっくり落ちる実験に使ってみた。吹き矢の実験にも使えそうだとの声もあった。
 

「うなり」について 森谷さんの発表
 うなりは、振動数がわずかに異なる2つの振動数の音が干渉するときに生じる、「ウワーン、ウワーン」と周期的に繰り返す現象で、2つの音源の振動数をf1、f2とするとうなりの周期は|f1-f2| と表される。この説明は2個の音叉などについては正しいが、多くの振動数が倍音として含まれている通常の楽器の音ではどうなっているか、との疑問が湧く。合奏で不都合なうなりはどのような状況で生じるのだろう?また、調律(音程合わせ)にうなりを応用するのが困難なのはどのような場合だろうか?森谷さんは、純音を組み合わせたいくつかの音の波形と聞こえ方を音声作成ソフトウェアで検討した。
 B3は、基音を131Hz(f1)とし7個の倍音からなる複合音と133Hz(f2)の純音を同時に鳴らした場合で、|f1-f2| =2Hzの振幅変化(うなり)があるが振幅変化は純音同士に比べて小さい。B4は、同様な組み合わせだが倍音の強度を-10~-70dBと小さくした場合で|f1-f2| =2Hzの振幅変化(うなり)がはっきりと生じる。
 

 B6は、基音の131Hz(f1)を含まずその倍音7個からなる複合音(強度を小さくしている)と133Hz(f2)の純音を同時に鳴らした場合で、波形は複雑さがあるが2Hzの振幅変化(うなり)が明確に聞き取れる。実際には存在しない振動数 f1に対応して |f1-f2|の周期のうなりが生じているという点で注目される。


 B7は、基音を131Hz(f1)と133Hz(f2)としそれぞれ7個の倍音からなる2個の複合音を同時に鳴らした場合で、波形の振幅変化は複雑であるが、耳で聞くと1Hzのうなりがある。
 楽器の音の多くが複合音であるから、楽器によっては基音を元にした |f1-f2|のうなりが聞き取りにくいかあるいはB7のように異なった周期となることが予想される。
 詳細は森谷さんのWebページへ: https://tmoritani.com/Tohei'sPhysicsClass/c11/11-15_Beat2.html


レンチキュラーレンズ 阿部さんの発表
 かまぼこ形の細いレンズを多数平行に並べたレンチキュラーレンズで、裸眼立体画像や動画風写真を自作することができる。阿部さんはクラスの生徒達に配るアルバムDVDのジャケットに使った。使用したのはフリーソフト「Stirper」である。荒いレンズを使用すると細かい写真は潰れてしまうので大きな写真を用いた方がうまくいくとのこと。素材のレンチキュラーレンズは、2019年11月例会で竹部さんも紹介してくれた「レンチ屋」https://lentiya.com/などで手に入る。
 

二次会Zoomによるオンライン二次会
 例会本体には32名、20時からの二次会には10名が集まった。遠隔で飲食を共にしながら、科学談義が続く。例会での永田さんのシジミチョウのSEM画像には話題が集中し、フラウンホーファー回折の可能性や、リッジ・クロスリブ構造による回折格子のはたらきなどが議論された。まだ結論は出ていない。今後の研究に期待したい。
 越さんからは、ご自慢のドローンで撮影した映像の紹介もあった。毎度おなじみの白内障手術や内視鏡検査の話題もひとしきり。二次会の話題は本当に自由で、まるでドローンのようにあちこち飛び回る。



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