例会速報 2008/12/21 ナリカ


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授業研究:落下運動の授業DVD 水上さんの発表
 H19年度に『神奈川県優秀授業実践教員』の表彰を受けた水上さんの授業は県のビデオライブラリーに収録されている。今回は『自由落下』の授業(45分)を見せてもらった。県総合教育センターのスタッフにより撮影・編集されたものだ。
 主な流れは,斜面を転がる球が等加速度直線運動であることを手拍子で確認→斜面が直立すれば自由落下→公式を導出→公式から落下距離y=4.9p,19.6p,44.1pのときの時速υ〔km/h〕を求めて,ビースピの測定値とほぼ一致することを確認(ここまでの詳細は2008年7月例会アルバムにも掲載)→自作の例題を解く。授業案,および授業プリントは次号YPCニュースをご覧いただきたい。
 

SPPの広報 岩堀さんの発表
 JSTに出向中の岩堀さんから、サイエンスパートナーシッププロジェクト(SPP)についての紹介と、応募方法についての説明があった。

リング磁石の実験 飯島さんの発表
 飯島さんは理科教育メーリングリストで一時話題になっていたリング磁石を使った「空中浮遊」の実験を見せてくれた。下左の装置はNS両面着磁のフェライト磁石をアクリル筒の両端に互いにNSが向き合うように固定してある。この筒の中にスチールの地球儀(中は中空)を入れるとちょうど中央付近で静止する。指でつついても球はもとの位置に戻り安定している。
 下右の装置ではアクリル筒のまわりにフェライト磁石を3個N極を上にして配置してある。同じ両面着磁のフェライト磁石を筒の中にS極を下にして入れると宙に浮いて静止する。同極どうし反発して浮いているのではない。本来なら引き合うはずの向きである。
 

 大きなフェライトリング磁石に筒をつけ、穴の中にすっぽり入るぐらいのフェライト磁石(両面着磁)を入れると同じように宙に浮く。赤い面はN極だから同じ向きで引き合いそうなものだが、落ちない。それどころか、この装置全体を上下逆さにしても、小さな磁石は宙づりになって落ちない。ここが安定点なのだ。

 最初の実験のスチール地球儀の代わりに画鋲を入れてみる。やはり中間点で静止する(下左)。下右の実験はストローに通した3枚のワッシャをリング磁石の近くに置いたもの。ワッシャが自然にばらけて宙に浮く。

 なぜこのような現象が起こるのか例会の席でも盛んに議論された。左の図は磁力線の性質から説明を試みた一説。浮いている球や小磁石は磁力線を集めるので磁力線が絞られる。磁力線どうしは反発するからこれらの物体がより開いた方に移動すると復元力がはたらくというわけだ。穴のサイズより小さい強磁性体で起こる現象だ。リング磁石の中央の穴を通過している磁力線も一役買っていそうだ。さて真相はいかに?

ソフト音源の紹介 北村さんの発表
 音の実験用の音源として(もちろん楽器としても)使えるコンピュータソフトいろいろの紹介があった。まずは北村さん自身の作品でもある「作音(つくね)」。基本音から16倍音+任意倍音の合成と波形表示ができる(下左)。JSTの「理科ねっとわーく」一般公開サイトからダウンロードできる。
 下右は往年のシンセサイザーminimoogをシミュレートしたArtria社のminimoogV。正弦波、矩形波、鋸波、三角波、ホワイトノイズを音源にADSRのエンベロープが作れる。体験版は無料で、一定時間後に雑音が入るが実験用には十分な機能だ。
 

 下左はNative Instruments社のB4Uはハモンドオルガンを忠実に再現したシミュレーション音源。画面のスライダーを操作して基本音〜8倍音、0.5、1.5倍音の重ね合わせができる。画面はB4 IIのサウンドの微調整用インターフェースで、かなりマニアックな設定が可能。
 下右のAKOUSTIK PIANO <アコースティック・ピアノ>も同じくNative Instruments社の製品。名機と言われる世界のピアノ4台の音をサンプリングして再現し、ホールなどの演奏環境もエフェクトで選べる。

 これらの音源ソフトはいずれもMIDIキーボードをつなげば実際に演奏ができる。パソコン+わずかな投資で歴史的な名機のサウンドが手にはいるのだ。音の演示実験用なら写真のようなミニキーボードで十分だろう。

どこが回転の中心? 田代さんの発表
 台の下の磁石を動かすとスヌーピーがくるくると回転するおもちゃ。YPC06年10月例会同11月例会で紹介された「ネコ回るシステム」や、岐阜サークルが紹介した「くるくるキューピー」(第260回サークル例会)、「玉ごろん」、「ピグリンの回転舞踏会」などと同じしくみだ。
 田代さんは、それに関連して小学生だったころ(50年ぐらい前)読んだ本に載っていた内容を思い出した。ヨーヨーのひもをこの写真より大きい角度で引くと、ヨーヨーからひもがほどけるようにヨーヨーが回転し右へ進む。しかし、この角度より小さくしてひもを引くとひもがヨーヨーに巻き付くように回転して引いている方に寄ってくる。
 ネコ回るシステムなどとこのヨーヨーとの共通点は?どちらも物体の中心ではなく、床との接点が回転の中心になり、摩擦力を含めて一対の偶力が作用しているのである。
 

静電気で蛍光灯が光る 田代さんの発表
  08年の12月は雨が多く、静電気の実験が大変だった。静電気で蛍光灯をつけたいのだが乾燥した日が少なくあまりパッとしない。サランラップをテーブルに広げ、それを布でこする。テーブルからラップを完全に引き剥がして蛍光灯をつける(近づける)と、蛍光灯は点くがありまはっきりしない。
 そこで、テーブルからラップを引き剥がす前にラップより少し小さいアルミホイルをラップに乗せてからラップを引き剥がし、アルミに蛍光灯をつけるとはっきりと点く。ラップだけだと蛍光灯を近づけた場所の電荷しか放電しないが、アルミホイルを使えばラップ全体に匹敵する電荷を集電できる。起電盆と同じ原理だ。

サイフォンのコップ 倉田さんの発表
 ダイソーで入手できるらせん状のストローがついたプラスチックのコップ。上を向いているストローの先を温めて軟らかくし、下向きに曲げ、先が底の位置に来るようにする。これだけの加工で「教訓コップ」ができあがる。ストローの最高点までは水を入れても漏らないが・・・
 

それ以上に水を注ぐと・・・ストローがサイフォンとなってコップの中の水が全部流れ出てしまう。過ぎたるは及ばざるがごとし、欲張ってはいけないという教訓である。さて、水が流れ落ちているときに、このコップにラップをかぶせると、やがて水漏れが止まる。ラップが凹面を作っていることでわかるように、内部の空気が水柱の高さに相当する圧力差だけ大気圧より減圧されているのだ。逆さコップの実験にも通じる示唆的な実験だ。

力の分解 徳永さんの発表
 2007年12月に発表した力の分解演示装置。2008年の理科教育を考える集いの際に参加者に工作をしてもらった材料の残りが販売された。材料はネットで注文したものもあるが少量ならハンズで購入できる。金属の棒を直角に曲げるのだけが少し大変だが比較的簡単に作れる。

小型ペルチェ霧箱 渡辺さんの発表
 株式会社ナリカ(旧中村理科工業株式会社)の新製品B10-7760「小型ペルチェ霧箱SML-01」の紹介。ペルチェモジュールを利用して、小型ですばやく放射線観察ができる霧箱だ。ペルチェ素子を利用したことにより、普通の氷を用意して、底面を冷やすだけで冷却部分をすばやく作ることが可能になった。観察槽が小さいため少し見にくい面はあるが、ドライアイスなしでできるため実験準備はとても楽になっている。
 

パプリスティック 渡辺さんの発表
 これもナリカの新製品。植物から摘出した成分(オーガニッククエン酸化合物)を利用した5色の炎のろうそく。燃焼時にススや有害物を発生することなく、カラフルな炎を出すことに成功した。炎色反応の演示に使える。6本組 300円。
 

Day&Nightはがき 中村さんのお土産
 中村さんが海外出張の際に手に入れた立体葉書を参加者にプレゼントしてくれた。World by Day and Night 3D Postcard(mbmSystems社)は見る角度を変えると世界地図が昼夜入れ替わる。いずれも人工衛星から観測したデータを元にしたCG画像である。
 

 同社のEarth from Outer Space 3D Postcardは地球のイメージが立体視できる。The Sun 3D Postcardは紫外線でとらえた太陽表面と見事なプロミネンスが立体的に見える。いずれもきわめて美しい。その他、同社の天体シリーズ3D葉書はここ

理科教育ニュース 加藤さんの発表
 少年写真新聞社の加藤さんから、小中学校ではおなじみの、「理科教育ニュース」の紹介や、上野の国立科学博物館で1/12まで開かれている特別展「菌類のふしぎ展」についての案内があった。

定常波のできる様子 益田さんの発表
 教員の教材工作会で作成した水上さん考案の教具を高速撮影カメラEX-F1で撮影したもの。ゴムひもの長さの3分の1のところを軽く支え、短い方をはじく。スローモーションで見ると最初の波が反射し、3倍振動ができていく様子がよくわかる。弦楽器のハーモニクスやフラジオフレットと呼ばれる奏法の原理だ。

テルミンPremium 越さんの発表
 2005年5月例会でも話題になったテルミンだが、学研の大人の科学シリーズから「テルミンPremium」が発売された。以前発売された「大人の科学マガジン」の「テルミン」は音量の調節ができなかったが、こちらは音程と音量の両方を調節できるので、より本物に近い。曲の演奏をするにはそれなりの練習が必要だが、昔の怪奇映画の効果音なら、すぐにできる。定価9975円(税込)。楽器として売られているテルミンが数万円することを考えればお買い得。
 

EX-F1その後 越さんの発表
 越さんは、カシオのハイスピードカメラEX−F1で撮影した動画集を発表した。モンキーハンティング、ダルマ落としなどをスローモーションで見ると効果的である。また、ウェーブマシンや水面波なども、波の伝播速度が比較的速いので、300fps(1秒間に300コマ、通常の速さの10分の1)のスローモーションで見るとちょうどよい。その他にも、新幹線から見た景色、ビリヤードなど、物理実験に限らず動きの速いものなら、何でも面白い。
 写真はプランツボールをコップの水に落とす実験。水面より上に一部分だけ見える。底に沈んでいるのは普通の赤いビー玉。当然のことではあるが、スローで見ても水に入った部分から消えていくように見えるので、不思議である。
 なお、室内でのハイスピード映像の撮影には、小型のスポットライトなどの照明を用いると良い。物理関係では、力学、波動分野中心に、まだまだ使い道はありそうである。


錯視キューブ、ペーパーキューブパズルなど 加藤俊さんの発表
 加藤さんはペーパークラフトでできるおもしろグッズを例会参加者にプレゼント。
 錯視キューブ(下左)はボイドキューブ(穴あきルービックキューブ)をモデルにして作ったもの。凹となるように組立し、片目でみると立体キューブが現れたようにみえる。
 ペーパーキューブパズル(下右)は6枚の直角に曲げられた紙片を組み立てると見事な立体ができる。紙でなくて金属板で作っても成立するが、非常に難しいパズルとなる。
 消える小人は3片板の内2片を入れ替えると小人の数が14人から13人と小人が一人消える。なぜか?


 

子供の科学号外 山本の書籍紹介
 誠文堂新光社の「子供の科学」からノーベル賞特集として別冊の「号外」が出た。同誌のの号外は大変珍しく、それ自体がプレミアものであるが、今回受賞した日本人4人の業績や受賞理由がわかりやすくかみ砕いて書かれているほか、授業ネタに使えそうなノーベル賞関係の話題が豊富に収録されておりおすすめ。定価525円(税込)。

二次会 御徒町駅前「おかってや」にて
 22名が参加してカンパーイ。最近は不況下で暗い話題が多いが、今年の科学界はノーベル賞4人同時受賞やISSへの「きぼう」モジュール設置成功、「かぐや」による月探査の成果など、日本の科学業績がハイライトを浴びるシーンが多かったように思う。新学習指導要領で理科の時間・内容が回復することもあり、これからの理科教育に若干希望の光が射してきた感がある。来年が教育にとって明るい年でありますように。


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