例会速報 2008/10/19 慶応義塾高校


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授業研究:2年生物理前期のまとめ 小沢さんの発表
 小沢さんの2年生物理T前期の授業実践報告。写真のような2つのレールの左上端から、ビー玉を同時に静かに離すと、下のレールに落ちるときにちょうど衝突することを示し、その理由をストロボ写真(物理実験図鑑の拡大コピー)で説明する。続いて練習問題として、水平初速度1m/sの水平投射の軌跡のグラフを描かせる。黒板には原寸大で示す。実は、このレールは左上端からビー玉を離したときにちょうど水平初速度1m/sになるように作ってあり、計算結果と実際の現象がぴったりと一致することを黒板で示すことができる。
 

 100円ショップで買ったゼンマイで動く牛のおもちゃで綱引きをさせる。このままだと勝負がつかないが、「どうすれば片方の牛を勝たせることができるか?」と問う。滑り止めを敷く、荷物を載せるなどの意見が出てくる。それらを演示しながら、すでに学んでいるF=μNの式との対応を説明する。
 例会では教具の工夫の他、発問の前提として、生徒が何を理解していなければならないかについて議論した。とくに、「はかりに載せた容器中の水に、糸につるしたおもりを入れると、はかりの値はどうなるか。」の発問のあり方について活発な意見交換がなされた。

CD虹の見せ方 鈴木さんの発表
 鈴木さんはこれまで演示ですませてきたことを生徒一人一人にやらせるよう心がけている。生徒の活動を入れると、授業の節目にいい流れを作れるし理解も進む。
 一例として、各自の目で円形のCD虹を見せる工夫がこれ。YPCでも、過去にアクリルパイプを使った教具を工作したことがあったが、特別な補助具なしで見ようというのだ。まず、CDを生徒数分集める。CDーRは色が付いているのでよくない。雑誌の付録のCD−ROMや、パソコン教室の古いアプリケーションCD−ROMなどを集めて使う。光源はできれば白色LEDを人数分そろえる。1個100円の白色LEDライトで十分だ。白色LEDの方が虹の青色がよく見えてきれいだが、ミニライトのようなものでもよい。
 CDを机に置き、光源を目の横に添え、そのまま顔をCDの真上に持ってくる。光源を添えた方の目だけになるように片目をつぶり、顔(目)の位置を前後左右上下に動かし、完全な円形の虹が見える位置を探す。放射状の虹ではなく、完全な円形に見えるはずだと何度も強調して、それが見えるまで目の位置を動かすことを指示するのがポイントだ。ただこれだけのことだが、円形の虹は明るく迫力があり、歓声が上がる。
 

音の定常波の演示 水上さんの発表
 水上さんはお得意の黒板実験で音の定常波を定量的に演示する。波長λ=20pの音波を反射壁に入射させて,生じる定常波の振幅をマイクの位置をずらしながらオシロスコープで観察する。授業で確認する点は、(1)何Hzにすればλ=20cm?(2)マイクは圧力の変化を検知するので節で圧力変化が極大、腹で極小となる、(3)壁は固定端なので節、(4)節と節・腹と腹の間隔はいずれもλ/2=10cm。
 

 次に気柱共鳴の実験。マイクを白い棒の先に取り付けて、共鳴している管内の腹(圧力変化が極小になる)の位置を探る。次に「腹から腹はλ/2」を利用して内部に生じている定常波の様子を推測する。白棒と下の黒い棒は一緒に動き、黒棒の先端が管内のマイクの位置を示す。下は開管での実験の様子。左が腹の位置、右が節の位置を示す(写真は水上さん提供)

 管の右端にふたをすると閉管になる。閉端は節で、そこからλ/2ごとに圧力変化が最大になる。管内の節と腹が手に取るようにわかる(写真は水上さん提供)。詳細はYPCニュースをご覧いただきたい。  

ピンポンキャノンの速度測定 市江さんの発表
 2006年11月の例会で初めて紹介されて以来人気のピンポンキャノン(真空バズーカ)実験の速度測定を例会で試みた。2008年8月例会のピンポンキャノンのEX-F1によるハイスピード映像解析では、等加速度運動とみなした単純計算により、パイプの先端を飛び出す瞬間のピンポン球の速度を約500m/sと見積もった。これはYPCニュース226号の小河原さんの理論的な終端速度の約280 m/sよりもかなり大きな値である。そこで不鮮明ではあるが、改めて画像を解析してみると、前半の1/1200秒×7コマで約1m、後半の7コマで残りの約2mを進んでいたので、前半を等加速、後半を等速運動として見積り直すと、終端速度はおよそ340m/sとなった。また、例会の場で小河原さんから、気温30℃では無限に長いパイプで、終端速度の理論値が約300m/sになるとの報告を受けた。実際、解析に用いた映像は8月に撮影されたものである。
 

 ともあれ、実測値に勝るものはないと言うことで、会場校のイージーセンスで測定をすることとなった・・・が、測定は失敗に終わり、あえなく時間切れで断念・・・残念! あとで気付いたことだが、失敗の原因は、ピンポン玉の速さに対して、2つの光ゲートセンサーの間隔が狭すぎたのではないかと推察される。今後の再実験が待たれる。

 測定は失敗に終わったものの、ピンポンキャノンの威力をはじめて見た参加者も多く、その凄まじさに驚嘆していた。演示効果抜群の実験ではあるが、安全面から生徒への演示や生徒自身による実験はかなり躊躇されるべきである。この実験では後方に暴発する危険性もあるので、管の軸線上には前方だけでなく、後方であっても人がいてはいけない。また、安全めがねの着用や耳を塞がせるなど、細心の配慮が必要である。特に爆音による耳への負担は甘く見てはいけない。ましてや空気漏れを確かめるために管に耳を近づけるなどということは絶対にさせてはならない。危険な実験だという認識に立つべきである。実験時の動画はここ 

SpaceSpinKomaその後 石井さんの発表
 2008年5月の例会で喜多さんが紹介した永久コマの発展実験。SSKはコイルが<鉄心縦型>なのに対して、この装置は<空芯横型>だ。2個のコイルの、1次側は細線多数回巻(金色、0.1mmφ,1420T)でダイナモ的にはたらき、2次側は太線少数回巻(青色、1mmφ,120T)でモーター的にはたらく。コイルの間で磁石ごまを回すと、1次コイルで発電した電流がトランジスターで電流増幅されて2次コイルに流れ、これが磁石ごまを加速して、更に1次コイルのはたらきを強める。
 こまが十分に回った時点で、装置の電源を切ってしまうと、1次コイルに(並列に)つないだLEDだけが点灯する(動画はここ)。両コイルは互いに強調し合うよう(ポジティヴ・フィードバック的)にはたらいているので、こまは加速的に回転していくが、片方のコイルを逆向きにすると、反対(ネガティヴ・フィードッバック的)にはたらいて、こまは止まってしまう。コイルの距離は近い方が効果的だそうだ。
 

 あとは種々の磁石を回転させて遊びながら、電磁場のイメージを広げていく。糸につるした棒磁石(上右)、磁石を埋め込んだドングリごま(下左)など。コインをネオジム磁石ではさんだもの(下右)は回転するうちに重心が上がってくるのがわかる。逆立ちごまやゆで玉子回しでも見られる現象だ。
 なお、磁石ごま(ローター)は装置から力を得て回り続けているが、力を<場>から受けるのではなく、<もの>としての本体(ステイター)から受けるとすると、その反作用で、本体はこまから力を受けて回るのではないか、という発想に達する。例会では実演できなかったが、装置全体を入れたプラ容器を水に浮かせこまを回すと、ステイターはこまとは逆向きに回りだす。


HoverQ 越さんの発表
 タカラトミーのQシリーズ、赤外線リモコンの超小型ホバークラフト「HOVER Q」が発売された。質量9.7g、推進力約1gw、超小型モーター1個とリチウムイオンバッテリーにより、40分間の充電で約5分間走行可能。ラダー(方向舵)はエアロソアラなどと同じ、コイルとネオジム磁石により動く。動画はここ
 

 スカートが1.5cmほどの厚さに膨らみ走行する姿は可愛らしいが、最高出力にするとスカートと床の間に一部隙間が出来、空気が漏れ、また他の一部が接地し摩擦力を受けるので、その場で回転してしまう。出力を上げなければ、スカートを多少引きずりながら、ほぼ等速で動く。フルスロットルで等加速度直線運動をさせたいところだが、上手くいかない。本物のホバークラフトと違いデコボコな路面や水上を走らせず、平らな床や机上で走らせるだけなら、スカートは厚みが無い方が走行安定性が良い。この点、ホバークラフトV2は加速性能が良い。
 

QFO 越さんの発表
 UFO型のヘリ、「flying saucer」は電波によるリモコンであったが、タカラトミーのQシリーズ「QFO」は赤外線リモコンで、質量9.4g、推進力約13gwと小型軽量高出力。プロペラは下部、モーター、バッテリー、受信部などが上部にあり、重心は上部にあるが、プロペラ、本体とも、高速回転するため、ジャイロ効果により回転軸が保たれ、安定してホバリング、上昇、下降ができる。他の赤外線リモコン小型ヘリコプターとは、一味違う運動性能でUFOのイメージに近い飛びっぷりである。動画はここ
 越さんは、只今EX−F1 によるスローモーション映像により運動を解析中。因みに9月に発売されたEX−FH20もお買い得。
 

缶つぶし 車田さんの発表
 車田さんの勤務校には工業科かがある。圧縮試験機という機械で缶コーヒーの容器を縦につぶしてみた。使う缶はタルク缶という1枚のスチール板をプレス加工した種類のもの。圧縮試験機でゆっくりとつぶしていくと必ず底の部分からつぶれていく。全体に均等に力がかかると底面は正六角形になる。つぶれていく様子を観察すると、「キリンカンチューハイ氷結」のダイヤカットのように折り重なりきれいにつぶれる。一つの缶を最後までつぶすのに約30分ほどかかるそうだ。
 

 上蓋と底を取り側面を切り開こうしたがたが、非常に硬く折り重なっているため、まだ広げることに成功していない。圧縮試験機は引っ張りもできるので今後の課題だという。右の写真はつぶれはじめの六角形が現れる過程の拡大。缶をセットするとき、加重をかける中心が少しずれると底面に正五角形が現れたりもする。 

韓国の科学の祭典から 車田さんの発表
 車田さんは今年の夏休みに韓国の科学の祭典に参加した。そのときに、向かいのブースで日本の科学の祭典ではおなじみの「鎌倉学園のくるくるモーター」を韓国の高校生が出展していた。鎌倉学園のものはアルミ箔を1本だけフィルムケースに縦断させていたが、韓国の高校生のものはアルミ箔2本を十字にかけていた。優れた実験はこうしてたちまち国際化するのだ。
 

沖縄土産 小河原さんの発表
 夏休み、小河原さんが家族で沖縄旅行へ行った際、手に入れた品を紹介してくれた。まずは、おなじみの牛乳パック。左が日吉のローソンで入手したもの、右が沖縄で製造・販売されているものだが違いがわかるだろうか。
 実は、沖縄には米国の影響が随所に残っている。だから、牛乳も1リットルや500 mlではなく、946 ml(1/4ガロン)、473 ml(1/8ガロン)なのだ。米国では1、1/2、1/4ガロンが主流らしく、1/8ガロン牛乳が売られているのは、沖縄だけかもしれない。日吉のローソンの500 mlパックと比較してみると…。箱の大きさは同じで、容量だけが違っていた。
 

 これも沖縄らしいアイテム。指ハブは有名だが、箸入れとして箸とセットで販売されていたとのこと。たまたま入った、名護のあたりの定食屋さんで見つけたそうだが、1組しかなかったとのことで、じゃんけん争奪戦は行われなかった。残念。

地球温暖化論の正しい楽しみ方 山本の発表
 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の勧告に代表される「地球温暖化二酸化炭素犯人説」はノーベル平和賞を受賞したアル・ゴア氏の著書・映画「不都合な真実」で一躍ブームとなった。元々が国際政治的な駆け引きが背景にあり、国が推進している「政策」だから、ブームは当然とも言える。
 ただ、「科学的なものの見方・考え方」を教えたいわれわれ理科教員としては、テレビや新聞の報道をそのまま真に受けて受け売りするのではなく、できるだけニュートラルなスタンスで両論に耳を傾け、科学的要素だけを抽出して生徒に伝えるのが正しいと思う。できればディベートなどを企画して、生徒自身に考えさせたい。少なくとも一時的に地球が温暖化していることは事実としても、その二酸化炭素主因説はどこまで科学的なのか、また人的努力が正しい方向で行われているのか、をである。もちろん結果において資源節約や環境保護は人類にとってよいことなのだが。
 例会では、ブームに便乗して反対キャンペーンで売り上げを伸ばしている3冊の本を参考として紹介した。悪書と切り捨てずに、目を通してから批評するのが正しい科学の姿勢だ。

(左)伊藤公紀・渡辺正著「地球温暖化論のウソとワナ」(KKベストセラーズ)1600円(税別)。広い範囲の情報を集めているのでデータは参考になるが、主張の根拠が弱い。記事のトーンが週刊誌的なのが品位を下げている。結局何もわからないと言っているようだ。
(中)赤祖父俊一著「正しく知る地球温暖化」(誠文堂新光社)1400円(税別)。前・アラスカ大学国際北極圏研究センター所長の著者はオーロラ研究の権威として名高い。北極圏に関する多くの観測の歴史を十分把握している分、重みのある発言になっている。結局自然変動にあらがおうと金を使うのは無駄で徒労なので、むしろ足元の防災対策に資金を投ずるべきだと述べている。
(右)丸山茂徳著「地球温暖化論に騙されるな!」(講談社)1400円(税別)。地質学者である著者の物理・化学的知識の乏しさが机上の空論をよびインパクトを弱めている。気候変動の主因は太陽活動など他の要因が大きいとし、むしろ地球は今後寒冷化に向かうと主張する。折しも、太陽の無黒点期が異常に長引いて100年ぶりの活動低下となっているので、短期的にはそうなる可能性はあると思う。

本の紹介 鈴木さんの紹介
 (左)YPCメンバーの高橋信夫さんが翻訳陣の一人として執筆した本が出版された。「懐疑論者の事典 上・下」ロバート・T・キャロル著楽工社刊各3500円+税。宮崎哲弥氏推薦の言葉「スピリチュアル、占い、陰謀論、心理セラピー、代替医療……。「それ」を信じる前に本書を手に取って調べて欲しい」 。ニセ科学や非科学・非合理に対して知っておくべきことを網羅した事典である。
 (右)玉田泰太郎氏の晩年の講演をまとめた本が出版された。「理科の授業づくり入門−−玉田泰太郎の研究・実践の成果に学ぶ」『理科の授業づくり入門』編集委員会編著日本標準刊4800円+税。大部の本だが、理科の授業を考える上で必読の書となるだろう。
 

LED工作 竹内さんの発表
 電通大で開かれている子ども工作教室で製作させた教材、LEDレベルメーター。ブレッドボードを使用したが、右のものは小学生には難しかったようだ。左は易しく改良を加えたもの。

二次会 日吉駅前浜銀通り「小青蓮日吉店」にて
 12名が参加してカンパーイ。YPC例会の後いつも利用していた「龍行酒家」の店名がこの10月から変わった。健康中華庵「青蓮」チェーンの仲間入りをしたのだ。店構えは変わらず、店員さんもおなじみのメンバーだが、料理内容や味付けが一部変わったようだ。YPCが愛飲する紹興酒「女児紅」はいつも通りおいてあった。


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